イャン's ライフ! 作:一般通過鳥竜種
一週間が経った。
その間の俺はというと、身体を鍛える為の羽ばたきに加え、巣のそばを走り回ったりしていた。
地味だが確実に将来への布石となる行動だ。サボる訳にはいかない。というかこの身体になったからか、身体を動かすのが楽しい。強くなった自分を想像して動くのが楽しい。元インドア派とは思えない思考である。
それに産まれてすぐに身体を鍛える生き物なんていない。これは必ず実を結んでくれるはずだ。今から成長した時が楽しみだ。
巣の近くを走り回っている時に、ふと面白い物をいくつか見付けたりもした。
まずは毒テングダケにマヒダケにネムリ草の状態異常セット。それぞれ結構な量が一塊になって生えている場所があった。
ハンターには必須と言ってもいいような消耗品だが採取された跡も見られないし、やはりここは狩り場の外なのだろう。安心材料が1つ増えた。
何故そのアイテムだと分かったのかだが、色もあるが実際に食ってその効果を確認したからだ。
今の俺は赤ん坊とはいえ一応は竜。少し齧ってみるぐらいなら大丈夫だろうと軽くいってみた結果、身体が痺れたり眠くなったりした。残当。
だがこれは何も考えずに『いったれ!』とやってみた訳ではない。状態異常への耐性をつける為である。
モンスター達は毒などの状態異常になると耐性が付き、もう一度その状態異常にするにはその前よりも多く蓄積させなければならない。
この特性を活かして赤ん坊の頃から耐性をつければ状態異常など効かなくなるんじゃね? という期待もあり、今後継続して食っていく所存である。
……毒テングダケに関しては少し気分が悪くなった程度なので、おそらくそうだろうという確定ではない推測なのだが。生まれつき毒は他のより耐性が強いのか?
そして雷光虫や光蟲といった便利アイテムの素材となる虫達。
こいつらは罠や閃光玉、更に武器の素材に使われるほどの有用性がある。何匹か持っておいて搦め手に用いるのがいいだろう。これも元人間のアドバンテージよな!
……ママン達に食われないようにしなきゃならんが。
そんな訳で、特に苦もなくむしろ楽しんで鍛えられている。嬉しい誤算ってやつだ。
虫食にも多少は慣れた。あまり見ない様にして食えばまあ、なんとか。人間は適応する生き物なんやなって…………今はモンスターだが。
あと、パパンにも会った。ママンの為のエサを運んで帰ってきて、俺が産まれている事に気付いたらママンと同じく顔を擦り寄せてきた。ママンよりも更にデカくてビビったが、親愛の情を感じた。
多少センチメンタルな気分にもなったが俺にはどうしようもないと割り切った。ウジウジしてどうにかなるならいくらでもウジウジしてやるがな。
パパンは巣の周囲の見回り、エサの確保、家族とのスキンシップ、睡眠の4つの行動をローテーションを組んで行っているようだ。いやぁ、ご苦労様です。子持ちの親はどの世界・どの生き物でも大変だ。
そんなこんなで産まれたてより少しだけ身体が大きくなったかな? とか思っている頃。
──実際、この世界の生き物ってどれぐらいの期間で成長するんだろうか。ギィギとかスクアギルとかはハンターに噛み付いたら即時何倍もの大きさに成長するが、あれは獲物の少ない寒冷地だからこその体質とかどっかで聞いたような気もする。なら温暖地の生き物なら普通に年単位? それとも数ヶ月? 竜とその他の生物とでの差は? 謎である。
閑話休題。
ママンに変化が訪れた。いつも座っている巣から退き、自分の座っていた場所を見つめ始めたのだ。
最初は意味が分からなかったが、俺も一緒に巣を覗き込んで思い出した。自分を鍛えるのに夢中ですっかり忘れていたが、俺にはまだ見ぬ弟妹達が居たのだった。そんな弟妹の卵の内の1つがふるふると震えているのだ。
俺が孵化してから一週間。少し間は空いたが、またこの世に新たな命が生まれようとしている!
頑張れと俺も応援しつつしばらく、2人……いや2頭か。が見守る中ついに殻にヒビが入り、そして欠片が落ちた。その隙間から顔を覗かせる嘴。よし、もう少しだ!
思わず手助けしたくなるがここは野生。それは駄目だとグッと堪えて見守っていると、顔全体が現れ、そして更にしばし待つと卵からそのママン同様のピンクのボディが完全に這い出てきた。
ママンはよくやったと俺の時のように顔を擦り寄せ、雛クックもピーピーと鳴いてスキンシップをとっている。
おお……。感動のシーンだ……。
産まれてから現代日本のマンションで育ち、成人してからも狭いマンションに独り暮らしの俺は、目の前でのこんな生命の誕生を見たことがない。いやぁ凄いもんだな……。
凄い凄いと一人小学生並みの感想を浮かべて興奮していると、ママンが俺の方にも視線を送ってきた。
そうか、この雛クックは俺の弟妹どちらかであり、そして俺も家族の一員なんだから当然俺もスキンシップをとった方がいいよな。ええとどうしよう。とりあえず俺も頬擦りしておこう。
おっかなびっくりきゅいきゅい鳴きながら顔を寄せると向こうも返してくれた。おおう……!
こんな可愛い様を見せられてはお兄ちゃんとして頑張らざるをえない(?)。これからは弟妹達を守れるようにならないとな! ますます鍛練に身が入るってもんよ!
ん……? 待てよ? 前世の記憶から勝手に思い込んでたけど、俺ってお兄ちゃん、つまりオスだよな……?
だがクックの性別の確認の仕方なんて全く分かるはずもない。
いやいや、異世界人外転生でもこっちはいっぱいいっぱいなのに、その上更にTSなんて属性まで追加はマジで勘弁してほしいぞ!
焦りと困惑から硬直して冷や汗が出てくる。俺の急な様子の変貌にママン達が首を傾げるが、済まんが今はそれ所じゃないんだ。
いや、魂がオスなら俺はオスだ、そう、そうなんだ……! 俺はオスだ……誰が何と言おうとオスなんだ……!
こうして感動やら興奮やら困惑やら、ごちゃ混ぜでよく分からん気持ちのまましばらく過ごす羽目になった。
いやほんと幼体期の長さってどうしたらいいんですかね……。