「そこで私は後輩達に『コーナーを曲がる時はコーナー(こうな)ってはダメだ』と教えてあげまして」
「成程成程、そうすると足がフッと(foot)前に出しやすくなると」
「フハッええ、そうです」
「「はっはっはっはっ」」
「あの『皇帝』シンボリルドルフがまさかダジャレ好きで、しかもパタリロと気が合うとは…」
部屋の一角でダジャレを言い合いながら和気藹々とする2人を見て信じられないと言った様子でバンコランは眉間を抑えため息をつくとエアグルーヴも苦虫を潰した様な顔をし、ご迷惑をおかけしますと深々と謝罪をする。
「会長は普段から生徒達の模範となる様努めその上メディアの対応にも追われまして、その反動なのか、少し、気が緩むとその」
しどろもどろに言葉を選びながら話そうとするエアグルーヴにバンコランは大丈夫だ慣れてると肩を叩き、同じ様立ち位置にいる彼女に同情した。
しかしそろそろいい時間ですのでと言ってツカツカとバンコランは2人に近づき帰るぞとパタリロの首を掴むがずるりと人型の皮が捲れギョッとし、手にある皮とパタリロを交互に見るがわっはっはと会話が弾み続ける。
掴んでは捲れ、掴んでは捲れ、そうこうしているうちに部屋には捲れた皮が山積みになり「くそぉっ!!」と叫び地団駄を踏むバンコランの事は全く気にせずパタリロはガッハッハとシンボリルドルフとの会話を楽しみ続ける。
「いやいやこんなにも気の合う素晴らしい方がこの学園にいて僕はとても幸運だ。貴方に会えただけでも日本に来た甲斐がありましたな」
「いえいえ私こそ殿下に出会えた今日という日がとても幸運です…所で殿下。殿下は視察で学園に来られたのでしたよね?もし時間に余裕があればですがコースで練習している娘達を見学されていきませんか?」
是非とも彼女たちの走りを見てより一層興味を深めていただければと促し、ええ勿論とパタリロも言われるがままに部屋を後にしシンボリルドルフと共にコースへと向かっていく。
コース場に着くと大勢のウマ娘達が凄いスピードで競い合い、ジョギングをし、瓦割りをし、ダンプタイヤを引き、将棋を指す。
なかなかカオスな世界だなと練習?風景を見ているとコースの向こうから1人のウマ娘が此方に気づきカイチョー!と叫んでいる。なんだろうと見やるとシンボリルドルフと同じく白いメッシュの入った髪を靡かせ凄まじい速さでやってくるとその勢いのまま僕を轢きドシンとシンボリルドルフに飛びつく。
「カイチョー!カイチョー!今日は来れないって言ってたのに来てくれたんだね!僕嬉しいよ!ねね!一緒に走ろうよ!」
そう言って尻尾を振りまわしぴょんぴょんとジャンプをしガッガッガッと僕など目に入らないのか踏み続ける。
「でねでね!走り終わったら一緒にはちみー飲んでさ!」
ガッガッ
「テイオー、一旦落ち着きなさい。テイオー」
「それでねそれでね!まだ仕事残ってるだろうし僕が手伝ってあげるよ!」
ガッガッガッ
「それからそれからー」
「いい加減にしろーー!!!!!!」
「うわあ!なんだよ!びっくりしたなあ!」
突如として現れたウマ娘に踏みつけられ傷だらけの足跡塗れな身体を引き起こしテイオーと呼ばれたウマ娘に食ってかかる。
先ずはぶつかった事に対しての謝罪の要求をするが、年下の僕に命令されるのが癪に触ったのか謝罪をするどころかそこにいた方が悪いとまで言ってくる始末にムカっ腹が立つが一応学生な上に選手である以上手を出しづらく行き場のない怒りが行き場を探す。
そうしているとルドルフは額を抑えトウカイテイオーの頭をバシンと叩く。
あまりに突然な事に目を白黒させながら瞳に涙を浮かばせトウカイテイオーはルドルフを見やるが厳しい眼で「いい加減にしろ」と怒りを含んだ声色で押さえつけた。
「大変失礼しましたパタリロ殿下、この子はトウカイテイオー。将来有望な娘なのですがいかんせんまだ幼くマナーがなっておらず…本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げ隣にいるトウカイテイオーの頭も下げさせ謝罪をする。
ルドルフに頭を叩かれ、その上知らない年下に頭を下げるのは不満なのか唇を尖らせながらすみませんでしたーと形としては謝罪をするトウカイテイオー。
腹の虫は治らないがルドルフに頭を下げられれば退くしかなく、はっはっはと笑いながら「僕はそのお子ちゃまと違い大人なのでもう気にしていませんよ」と言った所、トウカイテイオーは僕の発言にカチンと来たのかそれともルドルフと親しく話すのが気に食わないのか次第に苛立ち、カイチョー早く一緒に走ろうよと引っ張りルドルフもすまないとトウカイテイオーの手を外そうとするが、ヤダヤダと幼児のように頭を振りこんな子の相手もういーじゃん!と先程のルドルフの謝罪を無碍にする始末で頭を抱える。
「大体キミはなんなのさ!カイチョーに馴れ馴れしくしてさ!カイチョーと仲良くしていいのは僕より、その…そう!僕より足の速い子だけなんだから近寄っちゃダメ!!」
ほら早くとトウカイテイオーは力任せに引っ張りルドルフはたたらを踏み小さくため息を吐く。
注意を、いや怒声混じりの叱責をこれから浴びせるといった様子でトウカイテイオーを見据えるが1人の人間が言い放った言葉は彼女の叱責を引っ込める。
「ほう?ならば試してみるか?君達お得意のレースで僕と勝負しようじゃないか」
トウカイテイオーは勝利を確信していた。売り言葉に買い言葉であったが人がウマ娘に勝てるはずもなく、その上走りで勝負するなど火を見るよりも明らかな事だ。なのにこの人間はまるで負ける要素がないと言った余裕を醸し出している事が頭の隅に一抹の不安を覚える。
「君が僕に負けたら誠心誠意先程までの無礼を謝ってもらおうか」
「…負けるわけないじゃん」
ガシャリとゲートが開くとこれまでで一番最高のスタートを切れたと確信した。怒りによる集中力のお陰なのが不本意だが隣のゲートに収まるただの人を置き去りにし、レコードタイムを叩き出せる。
そう思った瞬間風が真横を抜け、自分の目の前には黄色い軍服の様なものを着た人がかすかに映り、一瞬でハロン棒を走り抜けトウカイテイオーの耳には「カサカサカサ」と聞き慣れない音だけが聞こえた。
それはあまりに異様な光景だった
手は振らず横に広げ風の影響を考えず、まるで足が増えた様に見える走り、芝を蹴り上げずに滑る様にカサカサと音を立て砂埃と共に凄まじい速度で走る人。
一つ目のハロン棒を抜け二つ、三つとおよそ60km/hで走るウマ娘を、トウカイテイオーを遥か後方へと置き去りにし悠々と1800mを走り切ってしまった。
「わーはっはっはっ!!人を舐めてかかるからそうなるんだ!僕に勝とうなんて100年早いぞ!!」
大声で笑いながらふんぞり返るパタリロに呼吸の乱れはなく、どこから出したのか紅茶とケーキスタンドを取り出しリラックスすらしている。
シンボリルドルフを始めギャラリー達からはどよめきが広がりコース場を包み、大差をつけてのゴールとなったトウカイテイオーは肩で息をし信じられないと言った表情でその場にペタリと座り込んでしまう。
「……あれは、マリネラの?何故ここに…」
校舎の一室からパタリロの姿を見た人影は暫く呆然としハッと頭を振りかぶりカツカツと部屋の暗がりに足を進めていった。