「視線が怖い」「立ち姿に隙がない」「緊張する」「なんか殺気がある」「近寄りたくない」「怖い」「ビームでてない?」「竹藪焼けた」「火薬の匂いがする」「いろんな匂いが混じってて変」「ヤニ臭い」
ここ日本に来て本当に、本当に久しぶりの感覚にクククと笑いが込み上げてきた。
私、ジャック・バンコランはイギリス情報局秘密情報部所属のエージェントだ。
はっきり言うが、私はモテる。
異性にも同性にもそれはもうわかりやすい好意をもたれるのが当たり前だ。しかし彼女達ウマ娘には好かれたり好意を持たれた事が一度もない。
それは何故か
彼女達は五感が優れており、とても繊細で機敏でデリケートだからだ。
普段から命の危険がある仕事についている以上周囲に対する警戒を緩める事ができず、知らずに彼女達へストレスをかけてしまっているらしい。
特にこの平和な国日本ではそんな私のあまりに異質な空気感に加え、この『眼力』がより一層彼女達へのストレスと恐怖を助長しているのだろう。
「しかし…平和な国だ」
ぼそりと呟き、未来あるウマ娘達を遠くに見ながら若干手持ち無沙汰になったバンコランはついいつもの癖で葉巻を加え火をつけようとする。
しかしここは学校で未成年のアスリート達が大勢いる事を思い出し慌ててぐしゃりと握りつぶす。
チッと舌打ちを一つしてから喫煙所を探そうにも学園内の地理は分からない。
ウマ娘たちに聞こうにも近寄ると彼女達は耳を絞り尾を立てて警戒されてしまい話もできずどうしたものかとため息を吐く。
「どうかされましたか?」
突然かけられた声に驚き懐の銃に手をかける。
いくら気を抜いていたからといってこうも容易く自分のパーソナルスペースに入ってきた相手に警戒をしないわけにもいかず、振り向き様に『眼力』で射抜いてしまった。
『眼力』によって射抜かれたその女性は一瞬びくりと体を震わせる。
ああやってしまったとバンコランは自分の失態を悔いた。この穏やかな日本でまた女性につき纏われるのかと思うと気が滅入る。
せっかく日々の疲れを癒せると思ったのだが
「失礼レディ、突然声をかけられ驚いてしまいまし、て…」
何かが変だ
「あ!いえいえ!こちらこそ突然後ろから失礼しました。見かけない方がいらっしゃったので来賓の方かと思いつい声をかけてしまいました」
こちらを見る女性は一見何も変わった様子を見せない。ただの見学に来た人を相手にする様に対応してくる事が信じられず意識して先程より強く『眼力』を使用した。
「学園内は広いですし、もし良ければご案内しましょうか?」
ニコニコと笑いながらそんな事を話しはじめ最早ビームに近い威力の筈の『眼力』はそのまま彼女を通り抜け奥にいたウマ娘達が感じ取り、急に辺りを見渡しこちらを見ると一斉に逃げる様に走り去っていく。
目をぱちぱちさせ呆然とする私を怪訝そうに見ながら自己紹介がまだでしたねと言って話し始める。
「私、ここトレセン学園でトレーナーをしております。桐生院葵と申します」