「皆さん初めまして、この度マリネラ王国よりここトレセン学園トレーナーとして勤める事となりましたパタリロ・ド・マリネールと申します。以後お見知り置きを」
そう話し始めた少年はあまりにも幼かった。
背丈だけの問題ではなく純粋に歳が若すぎる事に集まった全員の目を引いた。
ウマ娘のトレーナーになるには厳しい試験があり、ましてや中央所属となればそれ以上の試験がある。そこに年齢制限はなくいつでも誰でもなれると聞くがほんの10歳前後の子供と言い切れる人間が壇上に立ち話し始めた者だから会場の騒めきは一向に収まらなかった。
懐疑、不安、唖然。そんな感情があちらこちらから漏れ続ける。そんな状況にも関わらず年不相応な自信あふれる手慣れた喋り方で少年は言葉を紡ぐ。
「皆さんの気持ちはよくわかります。子供が何を言っているのだと。そう思っていらっしゃるでしょう。ですが考えて欲しい、天下のトレセン学園がこの様な子供の暴挙を許すものか。答えは否。私は皆様の為にトレーナーとして、今ここにいます」
堂々と、そして雄弁に語る少年からは自分達のトップに立つシンボリルドルフ以上のカリスマを感じざるおえず、ざわざわと粗雑な音が奏でられていた会場は徐々に音を静める。
「今現在学園の内情を秋川理事長よりお伺いしたところ、人材の不足が問題となっています。ここトレセン学園は2000人弱の夢の原石が日々研鑽を積み、互いが切磋琢磨し、『勝利』を目指している事もお伺いしました。私は、皆さんの『勝利』の為の手助けをほんの少しだけでもさせていただければと思い馳せ参じました。」
右に左にと首を動かし全体を見回した後パタリロは壇上から後ろに控える外見が全て同じの男性達を紹介し始める。
「皆様も気になっているでしょうが後ろに居る彼等は私が設立した特殊先鋭部隊『タマネギ』です。こう見えても知識は勿論、体力に精神力、家柄も全て一線を画しあなたたちウマ娘にも負けない事を私が保証します」
そう言って紹介される男性たちは足並みを揃え、一糸乱れぬ動きでパタリロを挟むように並び始めた。彼等は皆同じ顔、同じ服装で同じ背丈をしており様相が伺えない。
しかし、人がウマ娘勝てる訳が無いと一般常識として浸透しているこの世界で壇上の少年の大言壮語な発言に一部の生徒は鼻を鳴らす。知識は勿論、体力に精神力、家柄、膂力全てがウマ娘に負けないと説明されるが眉唾物である。
やがて少年に自己紹介をしろと促されると全員一糸乱れぬ動きで始めるがこれもまた全員の度肝を抜いた。
「タマネギ1号ですお見知り置きを」
「同じく2号です」
「3号です」
「4号です」
「5号です」
「6号です」
「9号です」
「44号です」
「中山の直線は短いゾ号です」
「淀の坂号です」
「大欅の向こう号です」
「偽りの直線フォルスストレート号です」
「今年もあなたの夢、そして私の夢が走ります号です」
『よろしくお願いします』
ざわっ
静まった会場はまた困惑の渦へと放り込まれた。至る所から聞こえる「えっ!?」や「は?」といった声が入り乱れる中、何事もなかったかの様に全員再び定位置へと戻り誰が誰だかわからなくなる。
時は遡り
「殿下ー?殿下どこですかー?」
「居たか?」「いやこっちには」「引き出しの中は見たか?」「冷蔵庫の中もいないぞー」
マリネラでは昨日から行方が分からなくなっているパタリロをタマネギ達が宮殿をバタバタと探していた。ここ数週間パタリロを放置しウマ娘達に首ったけだったがそろそろ業務をせねばと仕事と埃が溜まった宮殿を片付けているとパタリロが居ないことに気づいた。
「最近殿下をほったらかしにしすぎたから家出でもしたかな?」
「いやそれなら私達がここに居ることがおかしな話だ」
「いつもの殿下なら昏倒させて縛り上げて島流しならぬ海落としをしていてもおかしくない」
なにやら物騒な言葉が宮殿に響く中、昔からパタリロに仕えている1号から6号までのタマネギ達は多少の焦りはあるが独自の情報網を駆使してパタリロの動向を探っていた。ニュースや各地に散らばるタマネギ達からは何の連絡もなく、大きな事件もない。なら何故殿下は姿をくらましたか。それが古参タマネギ達である彼らをあせられる要因であった。
そう時間も経たない内にパタリロは何事も無かったようにマリネラに帰ってくるや否や宮殿にいるタマネギ達を大広間へと集めはじめ、専用のお立ち台で話し始める。
「あー、あー…昨日から何も言わずに姿を消してすまなかった。少し急ぎの仕事が出来たのでそちらに動いていたんだが手が足りない状況になった為お前らの手を借りることにした。今からその選出をするがよく聴いてほしい」とやけに優しく諭すような言い分はタマネギ達に不安を募らせるばかりだ。
「先に言っておくがコレは『強制』ではない。もっと言えば人と接する事となるので投げださず、理不尽に耐え、長期的な仕事になる可能性がある事を念頭に入れて聴いてほしい。今ここで決めてほしい事だ時間が惜しいのでここまでで向いてないなと思うものは通常の業務に戻ってかまわない。」
怪しい
普段の殿下の言動、行動からはありえないほどの予防線を張る言い出しだ。いつもであればこちらの事を何も聞かずふんじばって無理やり連れ出し、かぐや姫も裸足で逃げ出す程度の事を要求するのは当たり前な殿下がコレほどまでに逃げ道を作るだろうが。あまりにも怪しすぎる。古参だけでもなく他のタマネギ達も感じている事だ。
そんな言葉を言うものだから新人や中堅の玉ねぎ達は失礼しますと1人、また1人とその場を離れていくそんな中、1人のタマネギが質問いいでしょうかと震える声で挙手をした。
確かこないだこないだ入った「中山の直線は短いゾ号」だったか。そんな新人も新人だがこの緊張感の中1人声を上げ質問をするかなりの胆力に周りは感嘆の声が上げる。
「ああ、いいぞお前は確か…『中山の直線は短いゾ号』か。……適任か?」
何かボソリと言ったが聞き取れずそのまま『中山の直線は短いゾ号』は続ける。
「強制ではなく、長期的で、人と接するというのはどういう任務なのでしょうか。もしこの場を離れたらもうその任務には参加できず詳細も知る事ができないのでしょうか」
もっともな話だ。全てが不透明な任務は不安にならないほうがおかしい。その上新人ならば殿下に気に入られる為に無茶をしてでも気に入られるほうがいいのではと言う葛藤もあるだろう。だがこの新人はリスクを確認する事で進退を決めると言う安全策を殿下に取ったのだ。凄まじい胆力に古参の我々は冷や汗が流れ、背筋が伸びる。
「…確かにそうだ、内容も言わずここで帰りたいものは帰ってもいいと言ったのは少し卑怯だったな。だが申し訳ない、極秘に近い任務だ。『壁に耳あり障子に目あり』任務先で安定した後、情報を他のタマネギ達に公表する事とする。」
極秘任務と発された瞬間古参である1から6号の我々は姿勢を正し任務の参加を希望した。エトランジュ皇太后の頃より仕えた我々が殿下の側を離れるのはありえない話だ。どんな過酷な任務でも殿下の為に動かずして何が前衛部隊か敬礼を崩さずに声を揃え「殿下についてゆきます」と声高く任務への賛を表明した。
「1号、2号、3号、4号、5号、6号……わかった。しかし長期の任務だ、もしお前達が良ければ家族も連れて行っても構わん。」
「いえ、大丈夫です。妻子にはいつもの事だと伝えます故お気になさらず。」
「私もです。ですが危険の少ない任務ならばそれもいいかもしれませんね。」
そう口々に笑いも交えながら古参勢は確かな絆を示し合わせる。
「さて、残ったのは1から6号までで残りは…6人か。かなり残ったな。ん?おい44号はどうした?」
「ああ彼は非番で」
「呼んでこい」
「だからぁ!!!僕はぁ!!!非番でぇ!!!」
「ええい!だまれ!44号!お前はダメだ!強制だ!」
「無茶苦茶じゃないですか!さっきの言葉嘘ですか!?『強制』ではないって!!ハッキリ言っていたじゃないですか!!!」
「今年は雪降るかな」
「どうでしょうね」
「話を聞いてください!!!!!」
簀巻きにされて尚も暴れる44号に僕はそっと耳打ちをする
「霊障関係もあるらしくお前がいれば安心なんだ。少し強引だが手伝ってくれないか?」
そういうと観念したのかはぁとため息をひとつして、わかりました同行しますと大人しくなった。
「9号お前はいいのか?アリランがいるだろう。」
「はい、私も微力ですが殿下の任務を手伝わさせてください。あの子は強い子ですが1人は流石にと思っていましたが先程殿下が家族を連れて行っていいとの事なのであれば私もと」
「そうか、助かる。」
そうして残ったのは8人を除いて残りはまさかの新人の5名となった。タマネギ部隊に入るだけの能力は備わっているが新人は新人。いきなりの長期任務に耐えられるか怪しいものだが最後までここに残った胆力の持ち主達だ面構えが違う。…なんか呼吸荒いというか目が血走ってないか?
合計13名のタマネギ達を引き連れ部屋を移し任務の内容を殿下は告げる。
その任務の内容を聞いた新人5名は狂喜乱舞し殿下を「神」とまで崇める始末だったので全員でタコ殴りし縛り上げ私達は日本へと向かうのであった。