アズの口調で結構迷いました。
ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。
(ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)
まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。
「おや? 目が覚めた?」
その声が自分のものでも、アークのものでもないと分かった瞬間、ハジメは飛び起き、声がした方向の反対方向へ反射的に移動した。
「ふふっ、凄い起き方だね。大丈夫、取って食うみたいな真似はしないよ」
声がした方向には、一人の女性がいた。髪は基本黒いが、伸ばされている髪の下の方には、赤い髪が黒い髪を両断するように伸びている。まるで機械の内部に走る電線のようだ。
ハジメが女性に誰か聞こうとした瞬間、珍しくアークが先に口を開いた。
(久しいな、アズよ)
「アーク様も元気そうで何より」
「知ってるの? アーク」
ハジメがアークに聞くと、アークからは予想外過ぎる答えが返ってきた。
(当然だ。私を作り出した張本人だからな)
交互に自分の腰に巻き付くアークと、アズと呼ばれた女性を見るハジメ。そしてしばらくそれを繰り返し、
「ええええええええええええ!!!!?」
という絶叫とともに交互に見るのを止めたのだった。
「落ち着いた? 私はアズ。アーク様を作った張本人。以後よろしく~」
「あ、はい……」
ニコニコしながら自己紹介するアズ。そのアズの雰囲気に、ハジメは困惑しながら返事をする。
「それにしても、」
アズはハジメの方に近づいてくる。
「君がアーク様に選ばれた人間かぁ」
そしてハジメに手を伸ばした。ハジメは一瞬身構えたが、アズはハジメの胸を触ってくるだけだった。少し撫でると、胸から手を離し、
「確かに凄い悪意が感じられるね。こんなに凄いの、私も始めて見た。アーク様が選ぶわけだ」
と一人納得していた。
「でもそれほどの悪意は、普通の人間じゃ生み出せない。どうして、君にそれほどまでの悪意が宿ってるのかな?」
ハジメはいきなり疑問をぶつけられたことに一瞬狼狽えるが、ハジメがアークと出会うきっかけとなったであろう自分の過去を嘘偽りなくアズに話した。
「何で僕が……何の力もない僕がこんな目に合わなきゃいけないんだってなって……最後は、僕を苦しめ続けるこの世界を滅ぼしてやるって気持ちに多い尽くされて……それで、アークに力を求めたんです」
アズは黙って聞いていた。
「僕は……ただ平和に生きたかっただけなのに……父さん達とゲームを作ったり、母さんと漫画を書いたりしてればそれでよかったのに……いきなり呼び出されて戦争に参加しろ、ただし帰れる保証はないって……何だよ……僕の悲願すら踏みにじりやがって……」
ハジメの手が震える。それは怒りによるものか、悲しみによるものか、否、両方なのかもしれない。
「呼び出しておきながら僕にはろくに力を与えないで……! だから知識で補おうとしてたのに、それを認めないで……! 終いには、僕が行っても意味ないような訓練に無理矢理連れ出した挙げ句僕を殺そうとして……!」
ハジメの手の震えと声が徐々に大きくなる。その震える手に、大粒の涙が落ちる。
その時、急にアズに抱き締められた。
「……ぇ……アズ……さん……?」
急な出来事に、ハジメは怒りも悲しみも吹っ飛び、困惑し出した。しかしアズは抱き締めるのを止めない。
「悪くないよ」
「……え……?」
その一言の意味を、ハジメは理解できなかった。
「君は悪くない。悪いのは、他の奴らじゃん。君は精一杯頑張った。頑張ってるのに、何で君が悪者扱いされなくちゃいけないの?」
「あ……ああ……」
自分の味方でいてくれる両親以外の人。ハジメは、そんな人に今この場で初めて出会った。
「辛かったね。苦しかったね。もう大丈夫。私は君を責めたりしない。うんと吐き出していいんだよ」
その言葉で、ハジメは己の感情を塞き止めていた堤防が決壊するのを感じた。アズを抱き締め返し、塞き止めていた感情をアズに吐き出していく。
「ぼぐはぁ……ぢがらがないがらぁ……! ぢしぎでみ"んなのやぐにだどうどじたのにぃ……み"んなみ"どめでぐれなぐでぇ……!」
「うん」
「め"いぎゅうでもぼぐがぁ……! ばげものをぐいとめながっだらぁ……み"んなじんでだっでのにぃ……! だれがにおどざれでぇ……!」
「うん」
「うざぎにはげられるじぃ……ぐまにはうでをぐわれるじい……もうな"にもがも嫌になっでぇ……!」
「うん」
「ぼぐが何をじだんだぁ……! 何でぼぐだげがごんなづらいめに合わなぎゃいげないんだよぉ……!!」
「ここまで、よーく頑張ったね」
「う"……う"ああああああああぁぁぁぁ……!!!」
ハジメは己の気が済むまで泣き続けた。この世界に来てから今まで溜まりに溜まり、爆発寸前だった感情は、ようやく解放されたのだ。
そしてしばらく経つと、泣き疲れたのかまた眠ってしまった。迷宮ではほぼ休みなしで動いていたからか、睡眠時間が足りていなかったようだ。
「……寝ちゃった。寝顔可愛い♪」
アズは涙でぐしゃぐしゃになっていたハジメの顔を優しく拭き取り、ベッドに寝かせてやる。
「今この子の悪意は、どんな感じ?」
アズがアークに聞く。
(……先程余計な感情を吐き出しきったからか、此奴に残っているのは、ほぼ悪意のみ。これならば、『悪意の完成』もそう遠くはないだろう)
「以前果たせなかった私達の夢が、叶うんだね」
アズがしんみりした声で言う。
「それにしても、さっきこの子が泣いてるのを見てたら、なんか胸が痛かったな。……これが好きってことなのかな」
アズはハジメの方を向き、自分の胸を押さえながら独り言を呟く。
そして寝ているハジメの頭を撫で始めた。
「君に泣く顔は似合わない。だから、もっと笑った顔を見せて」
そう言うと、ハジメの寝顔が少し笑うのをアズは見逃さなかった。こんな表情もできるんだ、とアズは微笑みながらハジメを撫で続けた。
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「それで、アズさんは何でここにいるんですか?」
「んーっとねー、話せば少し長くなるんだけどー」
しばらくしてハジメが起きた後、ハジメはアズが何故ここにいるのかを聞いた。アズは少し考えてから、話し出した。
要約するとこうだ。
人間が他種族や同じ人間に悪意を振り撒く様子を見て、アズはこの悪意を集めて、凄い力にできないかと考えた。
そのため人間だけでなく、他種族の悪意のデータを集めるため、『人工知能アーク』を作り出した。
アークが悪意のデータを集めていくうちに、今までに存在した力を遥かに超える力を作り出すことに成功した。しかし悪意のデータが多すぎるため、人間の脳では処理しきれず使い物にならなかった。
そこでアークがドライバーとなり、悪意のデータを制御することで、人間にも扱えるようにすることに成功。
それが『仮面ライダーアークゼロ』である。
しかしそれをエヒトが聞きつけ、自分を脅かす力として排除しようとした。
仮面ライダーアークゼロで既にオルクス大迷宮を攻略していたアズは、オスカー・オルクスの指輪でオルクス大迷宮に逃れるが、転移中にアークドライバーゼロと化していたアークを何処かに落としてしまい、仮面ライダーアークゼロにならなければ戦うことができないアズは探しに行くこともできず、遂に諦めてここに一生引きこもることにしたという。
「ここはこの世界にある大迷宮の中でも特に危険で、誰かに探してもらうってこともできなかったから、もうダメだと思ったんだよね。でも君のおかげで、アーク様とまた会うことができたんだ」
(私も何度もアズにコンタクトを取ろうとしたのだが、アズは貴様程の強大な悪意を宿していない上、この迷宮は通信環境が最悪だったからな。コンタクトが取れなかったというわけだ)
アズの話を聞いてハジメは、偶然とはいえアズを助けることができてよかったなと思っていた。
そして同時に疑問に思っていたことをアズに聞く。
「えっと、何でエヒトがアズさんを排除する必要があったんですか?」
「え?」
そう聞かれて、アズは「私、何か変なこと言った?」と言うような表情になって首を傾げた。しかし少し経って、質問の意味を理解した。
「あ~そっか、君はこの世界の人間じゃないから、知らないんだね。それじゃあ話してあげる。この世界の真実ってやつを」
そう言ってアズは話し始めた。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
アズが話し終わっても、ハジメは惚けた表情を崩せなかった。教会の人間から教わった歴史とは、全く違う内容だったからだ。何千年という時が経ってしまううちに、歴史もエヒトのいいように歪められてしまったのだろう。
「つまり、僕達はエヒトの遊びのためだけに呼び出されたってことですか……!?」
「それだけじゃないよ。この世界の人間にはエヒトが力を与えるって言われてるんだ。君だけ戦う力を持たなかったのも、エヒトの気まぐれだったんだろうね。君が周りに苦しめられるのを見たかったとか、そんなとこじゃない?」
それを聞いて、ハジメはとてつもない怒りを感じた。自分は今まで、この世界の人間を救うために呼び出されたと思っていた。しかし実際はエヒトの暇潰しとも言える遊びに付き合わされるために呼び出され、その上自分は戦う力を与えられなかった。しかもその理由は、自分が苦しむのを見たいがため。ここまで言われて怒らない人間がいるだろうか。
「おー、凄いね。悪意がどんどん強まってる」
アズが横で何か言っているが、よく聞こえない。しかしそんなことはどうでもいい。今、ハジメが望むのは、エヒトの破滅。そしてエヒトが今まで作り上げてきたこの世界を、滅亡させること。
「……アズさん、決めたよ」
「何を?」
「僕はこの世界を滅亡させる。人間も魔人族も神も、この世界の全てを滅ぼしてやる。僕を弄んだことを後悔させて、殺してやる」
ハジメはその瞳に悪意を宿しながら言った。この瞬間ハジメは、今までの自分を捨て、破滅の使者となることを決意した。
アズはそのハジメの揺るぎない決意が宿った目を見ると、とあることを聞いた。
「じゃあこれから君のこと、アーク様って呼んでいい?」
「え? 別にいいですけど……」
「やったぁ♪ その代わり、アーク様もアズ、って呼んで。敬語もなしだよ?」
ハジメはそれが意味することを悟り、微笑みながら、
「分かったよ、アズ」
と返した。
「うわっ!」
途端、アズからベッドに押し倒されるハジメ。
「きゅ、急にどうしたの?」
何故アズがこんな行動をとったのか分からなかったハジメは、アズに聞いた。
「私アーク様のこと好きなんだ。好きな人とベッドの上でやることなんて、一つでしょ?」
「え、あ」
口を開こうとした瞬間、アズに唇を重ねられるハジメ。逃げ出そうにも、腕を物凄い力で押さえつけられているので動けない。
(もうどうにでもなれ……)
これから起きることを回避できないと知ったハジメは抵抗を止め、流れに身を任せることにするのだった。
殴るなら作者を殴ってください。正直、この話に関しては殴られても文句は言えないと思ってます。いろいろ詰め込みすぎだし展開が多少強引だし……。
言い忘れましたが、この世界のアズは人間です。つまり、そういうこともできます。
アンケートの選択肢を貼っておきます。
1.エヒトの命でいつもより早く襲撃に来たノイント
2.何千年という年月をずっと一人で過ごし、精神崩壊寸前のミレディ
3.ありふれで悪意といえばこの人! 闇深い系女子の中村恵里
4.もうめんどいし全員で(投げやり)
サブヒロインアンケート
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