今回はイッチことロックと共にレユニオン穏健派の龍門の医療拠点にたどり着いたヴァレリアちゃん目線です。
Q.ヴァレリアちゃんって?
A.ペテルヘイム高等学校の生徒。ソニアに助けてもらったことがある"イジメを受けた学生"。
史上最高額の配当金を手にした感染者が暴徒に襲われ死亡したと――――
遠く離れた地で起きた事件を淡々と告げるラジオをぼんやりと聞き流す。
ヴィクトリア語はあまり得意ではないが、単語ぐらいは拾うことができる。
聞き飽きた皇帝を讃えるプロパガンダではなく、異国で起きたばかりの新しい情報が流れてくるのはとても不思議に感じた。
私の住んでいた街、チェルノボーグはウルサスの中でも一際近代的な街だったが、新しい国外の情報をスイッチひとつで気軽に聞くことなんで出来なかった。それどころかウルサスの中でそんなことができるのは皇帝か軍の上層部ぐらいだろう。凍原に住むウルサスの半数ぐらいの人はラジオを見る機会すらないかもしれない。
そんな最先端の技術と情報の塊が私の膝の上に収まっている。冗談みたいな話だ。しかもこれは此処では比較的珍しいものではなく、検査に連れていかれたロックを待っている間の暇つぶしになればと、ちょっと歩き方が変なアイアンハイドさんが渡してくれたクルビア製の小さなラジオ。
スイッチ一つで半永久的に動くポケットサイズの外装に詰まっている途方もない技術に眩暈を覚え、ゆっくりと音量を下げた。
ロック。
そう、突然現れ私を助けてくれたあの少年。
ちょっと前に引き摺られるようにして(一悶着あった後、本当に引き摺られていった)鉱石病の検査に連れていかれたばかりだ。
独り言が多くて、いるだけで賑やか。
記憶喪失だというのに、罵声も吐かないで自分自身は後回しにして他人を助けにいく。
そしてなにより、彼の笑顔がとても印象的だった。あんな風に笑う人もいるんだなって思ったくらいには。
右目に源石が突き刺さってるのに。
いじめられることには慣れているけど、あの時私を取り囲んだ貴族の少年たちはなんかこう、同じ人間とは思えない獣のような何かのようで、純粋な恐怖を感じたのはあの時が初めてだった。
レユニオンによってペテルヘイム高校に監禁された時、同じく閉じ込められた貴族達の間で暴力事件が起きていると噂だけ聞いたことはあったけど、実際巻き込まれるまでどこか遠い国の出来事だと思っていた。
あれは私がお気に入りのリボンを取りに戻ったせい。
庶民生徒達の方では、不満とストレスだけで暴動が起きるような空気はなかったし、迂闊だった。
初めはソニアがまた助けてくれたのかと思ったけど、彼の右目が視界に飛び込んでくるなり頭が真っ白になった。(いや、あれを初めて見たら誰だって驚くだろうし、私だって悪気はなかったし…)
その後のことは正直よく覚えていない。私が叫ぶなり、プツンと糸が切れたように彼が倒れて、騒ぎを確認しにきたレユニオンによって彼が助けられたぐらいしか思い出せない。
目を覚ましたロックにいろんなことを聞かれたり聞いてもらったり、もらったウルサスフリエーブの酸味に顔を顰めて悪戦苦闘しながら食べきろうとする彼を応援したり。
迷子になった彼を探してレユニオンのリーダーに出くわして死にかけたり、天災に巻き込まれたり。
逃げ延びた先で勝手に動き回る彼と一緒に同じく逃げ延びた人たちを助けたり、レユニオンと龍門の近衛局との衝突に巻き込まれたり、あまりにも忙し過ぎて逆に今椅子に座ってぼーっと待っていることに違和感があった。
感染者とサルカズに救われ、テロリストと外部組織と龍門の治安部隊がただの少女を奪い合い、私たちの日常を壊したテロリストの一派の医療拠点で匿われている。
チェルノボーグが崩壊して数日、本当にいろんなことがあったが、いまだに現実感が湧かない。遠い外国や荒野の出来事のようで、どうしたらいいのか、どうすればいいのかどうしたいのか、全く頭が回らない。
生き延びたことを喜べばいいの?
理不尽な事態に怒ればいいの?
日常を失ったことを悲しめばいいの?
愉快なロックとの会話を楽しめばいいの?
お気に入りだったリボンは酷く汚れ、片方は千切れてしまった。
裏側は天災から逃げる際に頭を斬って、血で黒く染まっている。
もう着けられないなぁと、どうでも良いことをぼんやり考え逃避していると、エラフィアの女性が飲み物を勧めてきた。(確かさっき逃げ回るロックを確保した人だ)
彼女の深い哀しみを宿した瞳に気圧されながらも、一礼してから差し出されたコップに口につける。
淡い炭酸に乗って独特な香料と甘さが口に広がった。この混雑する気持ちと思考も一緒に飲み下せたらどんなによかっただろう?
感染者に非感染者
サルカズに龍門人
レユニオンにスラムの人々
痛みと薬
苦しみと安堵
此処にはたくさんのものが混在している。
鉱石病に感染者。
今までは単に恐ろしいものとしか思ってなかった。でもこの数日感染者のロックやミーシャと一緒に過ごしたけど、私たち健常者との違いなんて感じられなかった。
ただ苦しい病を患ってしまっただけの人間。
サルカズだってそう。
私たちを助けてくれたアイアンハイドさんもサルカズだし、サルカズ傭兵さん達も話に聞いていたような野蛮な人間じゃなかった。(突然私やロックを撫で回す変な人もいたけど)
視界の端で忙しそうに歩き回って施設のアーツユニットの調整や説明に勤しんでるアイアンハイドさん(あのほぼリターニア語な片言炎国語が伝わっているのならすごい)を見ながら溜息を漏らす。
感染者もサルカズも、私はいったいなんで恐いと思っていたんだろう?
人数と腕っぷしの暴力でいじめてくる健常者のほうがよっぽど怖いじゃないか。
たしかに鉱石病は恐ろしい。
不治の病で罹ってしまうと基本的に人として扱われなくなる。
でもそれ以前に、感染者も人間だ。
人間として扱わない人たちのせいで酷い目に遭うから抵抗して恐れられる。
単に健常者の私たちが悪者扱いしてるだけじゃ無いのか?
じゃあなんで悪者扱いしているの?自分達とは違う劣った存在だから、悪い存在だからとレッテルを貼ることで安心したいから?
鉱石病は治らないから怖いの?それだったらまだ完治させることのできない他の病気だってあるじゃない。感染者は教養が無くても強力なアーツが使えるようになるから怖いの?むしろ羨ましいような…?いやいやそうじゃない。
ぐちゃぐちゃになった思考で、脱線と混乱が止まらない。
後で同じくチェルノボーグから逃げてきたロザリンやゾーヤに話を聞いてもらおうかなぁ(ゾーヤがレユニオンを追跡してこの秘密の拠点を探し出したのだとロザリンが言っていた。警察官の娘って凄いなぁ)
途方もない疑問に押しつぶされていると、先ほど私に飲み物をくれたエラフィアの女性が私のリボンを直そうかと提案してくれたが、なんとなく気が進まないのでやんわりと断った。
「あら、そうなのね」
残念そうに呟いて、女性は静かに微笑みながらベンチから立ち上がった。
すると少し離れたところにいたウルサス人の男性が何事かを彼女に耳打ちする。
話の内容は全く聞き取れなかったが、なぜだろう?胸がザワザワする。
ああ、きっと何かが始まる。
漠然と悪い予兆を感じ取ってしまった。
「今はいろんなことに戸惑ってると思うけど、「貴女自身がどうしたいか」、それだけは見失わないでね」
不安が顔に出ていたのか、彼女は私の手をそっと握りながら言葉を残して立ち去ろうとする。
名前も知らないエラフィアの女性のその小さい背中から目を離すことができない。
気がつけば私は彼女に名前を尋ねていた。
彼女はゆっくりと振り向き、Mercuryとロゴの入ったオレンジのジャンパーをはためかせる。
「私はアリーナ。ただの感染者よ」
そう言って彼女は、哀しみに満ちた瞳の奥で力強い光を輝かせた。
龍門のレユニオン穏健派拠点に向かう間の会話。
ヴァレリア 前から聞きたかったんだけど…一体誰と話してるの?
ロック 話すって…まって、いつから俺独り言言い出してた…?
ヴァレリア 天災に巻き込まれた後からかな…ねぇ、大丈夫?
ロック 全然大丈夫じゃないっ…!
ヴァレリア 顔真っ赤だよ!?発作!?誰か来てください‼︎
ロック 作じゃ無いから!大丈夫じゃ無いけど大丈夫だから‼︎
呼ばないで!特にメッフィー君!やめてタスケテー!!
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