チェルノボーグ事変にアビサルハンターぶち込んだら楽そうと思ったドクターは多いと思います。思いますよね?
1月5日/p.m.01:30/雲天/チェルノボーグ
乾燥した空気が肌を撫で、不快な冷気をもたらす。チェルノボーグの空は灰色に濁り、太陽の姿は見えない。
今にも降雪が始まりそうな重い空、その下でヴィクトリアの栄光の象徴である蒸気騎士、それのまがい物が大剣を振るう。対峙する狩人、「ガーデンオブアイズ」は獲物である鎌に似た杭で重い一撃を受け止めた。金属同士がぶつかり合う音が響き、火花が散る。常人であれば受け止めるどころではない攻撃。まがい物とはいえその質は本物の蒸気騎士とさして変わりがない、甲冑の中身にしか違いがないのだ。ヴィクトリアを侮蔑する技術の塊は、眼下で抵抗する狩人に向かいさらなる一撃を加えようと刃を振り上げたが、次の瞬間に彼は反撃に転じていた。振り下ろされた刃を飛び退いて避けた狩人はそのまま空中に飛び上がると、その勢いのまままがい物の頭上から落下し、着地と同時に杭を突き立てようと仕掛け武器を変形させる。鎌に似たリーチから縮まり杭の形に収まったそれを、誇りを持たぬ甲冑に突き立てた。だが、まがい物は杭の攻撃を予測していたのか、咄嵯に大剣で杭を防ぎ金属音が再び響く。さすがにその甲冑の中身は本物のヴィクトリア蒸気騎士のような誇り高き精神も戦闘能力も持ち合わせていない、旨い話に乗せられたクルビア傭兵でしかない。しかし、場数が違う。この大地で目を覚ましてから日の浅い、己の肉体の真価を引き出せていない狩人の行動を読むことなど容易い。攻撃を防いだまがい物は即座横薙ぎの一閃を放つ。狩人はよろめきながらもそれをバックステップにて回避。そして再びまがい物に襲い掛かる。
…事態は膠着状態。だが狩人が優位に立っているわけではない。まがい物の攻撃を防ぐ度に狩人の身体には傷が増えていく。それでも狩人は諦めず、必死の形相で攻撃を繰り返す。だが、そんな無謀な戦い方をしていては長くは持たないだろう。既に狩人の全身には裂傷や打撲による負傷が目立っていた。
「助けに行かなくてもいいのかしら?」
退屈そうに獲物を振るう「スペクター」は「ウルピアヌス」へ問いかける。
「この程度で苦戦していては話にならん」
スペクターは彼の言葉を聞いて呆れたようにため息をつく。彼女らに群がるように攻撃を仕掛けてくる敵は龍門にいたレユニオンとは比べ物にならないほど強力であったが、深淵から来たる脅威と戦い続けてきた「アビサルハンター」にとっては取るに足らない存在だ。自分たちが経験してきた戦いに比べれば児戯に等しいこの戦い、いや、もはや戦いなどとも呼べぬかもしれない。軽くステップを踏み、凶悪な回転鋸を軽く一振り。それだけで敵は血飛沫を上げながら倒れ伏していく。あっけなさ過ぎて戦場のど真ん中だというのに、女狩人は欠伸を隠すことすらしない。決定打を出せずにいるもう一人の狩人とはまるで違う、これこそが「アビサルハンター」だ。
「ウルサス人はバレエが得意って聞いてたから期待したのに。ダツの獲物のほうがまだましそうじゃない。なんであんな混ざりもののリーベリの言うことなんて聞いたのよ」
ウルピアヌスは不満をあらわにするスペクターに答えず、ただ黙々と敵を屠っていく。スペクターはウルピアヌスの様子を見て肩をすくめると、次の瞬間には姿を消し、別の場所に現れて狂気じみた戦い方で敵の首を切り落としていった。
イベリアの傲慢が生み出した雑種のリーベリの一片、「羽蛇」と呼ばれるそれがウルピアヌスに接触してきたのが今から二年前。そのリーベリの紹介によりロドスを訪れ、同じくアビサルハンターであるスカジとメンシス……いまは「ガーデンオブアイズ」と呼ばれる仲間と再会することとなった。しかしメンシスには想定外の事態が起きていた。深海教会関連の施設の残骸にて保護された彼は、記憶やアビサルハンターとしての技量、その全てを失っていた。その体には源石を無理やり埋め込まれており、奴らの実験の被験者であったことは明らか。おおよそアビサルハンターの源石への耐久性を調べる実験の影響で記憶を失ったのだろう。……そう考えたかった。
あれがシーボーンでなければ。
メンシスの、かつての仲間としての自我は失われ、表面上はただの鉱石病に罹患したエーギル人のようだった。しかし、彼の身体の奥底からは、あの忌まわしき深海の気配を感じる。奴らの実験によって人格を上書きされてしまったのか?あるいは奴らの力に呑まれてしまったのか? いずれにせよ、「これ」はもはや自分の知るメンシスではないとウルピアヌスは即座に確信した。ならばせめてもの手向けとして葬ってやるべきだろう。しかし、それをスカジが止めたのだ。
『彼が何に変わってしまったのかはわからない。でも、一度話を聞いてみてほしい』と。
……結局、スカジの説得に応じたウルピアヌスはメンシスとの対話を試みると、思いがけない言葉を返されたのだ。
「海の声?ああ、あの戦術ネットワーク的なとこから飛んでくるアドミラリティ・コード?無視してる。掲示板でも情報量多いのに音なんか聞いてられませんよ~……え?なんか俺っち変なこと言いました?」
これが、こんなものがシーボーンなのか?ウルピアヌスにはにわかにも信じられなかった。奴らの声は聞こえているというのに、自発的に選択をし、その上で正気を保っている。それは奴らが望んだ進化の形なのだろうか?「ガーデンオブアイズ」と名乗るそれと会合し数年、未だ何もわからない。脊髄液を液体源石と入れ替えられ、人格が不安定になったローレンティーナと似て非なる状態、源石がもたらす特異な現象、ウルピアヌスが陸で生活し始めてから得た知識では説明しきれない事象。だが、彼はこれを寧ろ好機と捉えたのだ。
……シーボーンから何か得られると思った仲間は皆消えていった。それをウルピアヌスが一番理解している。それでも、この変異した器と明らかに起源が異なる人格を有するそれを放すわけにはいかなかった。それに、なにより「ガーデンオブアイズ」はアーツを、源石を使うことができたのだ。
突如戦場に鳴り響く爆発音。同時に煙の中から飛び出してくる影。
「さすがにゼロ距離で当たれば効くよな?効いて!」
ガーデンオブアイズの手に握られていたのは源石火薬を用いたハンドキャノン。蒸気騎士相手に防戦一方だった彼は、反転攻勢に出たのだ。サンクタが用いるような銃ではなく、ただアーツを反応させ単発を打ち出すだけの原始的な仕組みのもの。弾速を上げることも射撃精度をよくすること、ましてや大型兵器などを粉砕することなどできはしない、小型化したただの大砲でしかない。しかし、源石の力を得た今の彼にとっては十分すぎるほどの武器だ。狙い通り、至近距離からの思いがけない衝撃を受けた甲冑は体勢を崩し、狩人はすかさず追撃の杭を頭頂部へと突き刺した。装甲を貫き、その勢いのまま暴力的に地面へ縫い付ける。頭部を完全に破壊された甲冑は動かなくなり、未熟な狩人は勝ち誇ったように叫んだのだった。
源石、陸の民の原罪、それをエネルギーとしたアーツ。海と交わることがなかったそれを、あの新しい形のシーボーンは不完全な形ではあるものの、その手で扱って見せた。高濃度の液体源石によって鉱石病に感染したローレンティーナでさえアーツ一つ扱うことができないというのに。
アビサルハンターが原始的な冷兵器を狩りに用いるのは、深海から来たる侵略者に技術に対する関心と理解を与えないため、自分たちの手に負えない存在へ進化するのを防ぐためである。しかしこのシーボーンは自主的に学び、成長を遂げているではないか!ところが、このシーボーンが現れてから恐魚が急激な進化を遂げることは起きていない。いまだ奇声を上げることもままならない原始的な怪物のまま。アビサルハンターたちが狩ってきた海の怪物とは何かが違う、芸術を文化を音楽を理解する「共存」できる存在。それに対し同じアビサルハンターであるグレイディーアは問答無用で拒絶、排除しようとした。ガーデンオブアイズが連れてきた極東のエーギルも処理しようとロドス艦内で暴れ回ったのは記憶に新しい。それを止めるためにウルピアヌスたちは動いた。
シーボーンや彼に連れられやってきたあの極東のエーギル人が、完全にアビサルハンターたちに受け入れられることはないだろう。だが、アビサルハンター、そして海には今までとは異なる選択肢があるのかもしれない。グレイディーアは拒絶するが、ウルピアヌスは「少なくとも、奴が聞き取ることができる「声」とやらの情報は恐魚等の神とやらの実態の手がかりになるやもしれない」として、彼らを生かし、管理することとなり今に至る。
その選択がどのような結末を迎えるのか、それは誰も知りえない。この「チェルノボーグ事変にアビサルハンターを投下する」、という盤面を作り出した「羽蛇」にでさえも、だ。
ウルピアヌスは出撃前にあのリーベリの発言を思い出す。
『戦いはどれだけ準備をしたかで決まるんだ。戦闘が始まってしまったら羅針盤回してお祈りするしか無い』
羅針盤を回すという無知は兎も角、どんな手段を使ったのか不明だがウルサス皇帝に私兵を出させ、炎国を黙らせた用意周到な羽蛇がこの程度の戦力相手だけを想定しているはずがない。
『結末が破滅しかない古き時代の幻想を追い求める近衛兵なんて、逆徒という単語以外でなんと言い表せばいいと思う?』
スゥー……フゥー……
雲に覆われている空がさらに陰りを見せたように感じる。黒い煙、いや、影のようなそれが生気を吸い取る寒さとともに地面に広がっていく。海と同じく、このテラにおいて脅威となっている未知の存在、その力の断片。
「なんだこのありさまは?」
あまりの失態と想定以上の敵戦力を目の当たりにし、怒りとわずかながら動揺が含まれた声がウルサスの意思の体現である近衛兵、「皇帝の利刃」のマスクから零れ落ちる。
「よろこべ、ローレンティーナ。お前好みのダンスパートナーがやってきたぞ」
そう言ってウルピアヌスは赤く濡れた武器を一振りし、血を払ったのだった。
要約
狩人ニキ=シーボーン
ファフナーやアルペジオみたいに人間と未知の存在がお互い理解しあって共存の道を歩むタイプの作品の影響が大きいです。共存…いいよね…。まあ自分がシーボーンに転生するようなことがあれば恐魚を深海棲艦に進化させますが。
一周年記念企画をやるとしたら何がいいですか?
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オリオペorスレ住人募集
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ほのぼの番外編
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それより本編