テラ転生者掲示板へようこそ!   作:テキサス仮面

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いつも感想誤字報告ありがとうございます。
今回は外伝です。本編よりおおよそ半年後?の出来事となります。
「配N【初心者】目が覚めたら知らない天井part3【質問】391~」の435スレ目でID:hfEVA7nxニキが「仕事がてら推しの詩人に会いにヴィクトリアにいる」という発言の回収です。スレッド更新はしばらくお待ちください。
9章ネタバレおよび原作改変が多く含まれます。ご注意ください。


外伝
◆暴風眺望◆


ヒロック郡 某所

 

街に住まう貴族や有識者が集まるパーティー。

様々な話題で沸き立つが、どこか危うい熱を秘めている。

彼らはターラー人、もしくはその賛同者。かつてドラコの王が導いた民であり、自分たちの血に流れるものを誇りに思い、不当な扱いをするヴィクトリアに不満を募らせ、ターラー人が認められる新しい時代を渇望している。

 

そのなかである詩人に語り掛ける初老のキャプリニーがいた。彼はこの場に集まった人間と同様熱く自身の思想を語るがその内容はどこか当たり障りないようで、言葉が途切れることを除けば、ここでは埋もれてしまうような人物である。しかし、その場に居合わせた観察眼の鋭い詩人は、この隠居したと語る老人には何か引っかかるものがあると感じ取っていた。だが、どうも言葉に表せない。少々資産を持ち、ターラーの文化に魅せられた文化人…ということは嘘ではないはずなのだが。

 

「余所者が暴力を振るい、歴史も尊厳も、奪っていく。この大地に限らず、悠久から繰り返されることだが、これほど悲しいことは、ないだろう」

 

彼の語る言葉は途切れ途切れながらもこの現地に根差した響きで紡がれる。

周囲の者は彼が何代も前からこの地で暮らす少々のどを患った貴族の末裔か何かと勘違いするほどに彼の存在は自然であり、それが詩人にとってより一層違和感を際立たせる。まるでこの地で産まれ育ったかのような自然な口調。その癖に纏っている雰囲気には異質なものが混じり、矛盾が渦巻いているように感じ取れる。まるでこの街のようではないだろうか。詩人が不可解な感覚に首を傾げている間にも彼の話は続く。ターラーの歩んだ歴史、かつて起こった悲劇、それを嘆く人々の嘆き、詩人の書いた歴史小説を詩のような語り口で要約して見せる。しかし話が進むにつれて徐々にその表情は険しくなっていく。

しまいには彼は声を荒らげて怒り出したではないか。

 

「何故我々がこのような扱いを受けなければならないのか?! 何故我々はここまで貶められなくてはならないのか!! 我々の歴史が穢されるのならば、いっそ滅んでしまえ!!! 」

 

その言葉を最後に彼は沈黙する。

だがそれに反して周囲はより一層、まるでこの会場そのものが燃え上がったかのように騒がしくなるではないか。

誰しもが彼の熱弁に賛同し、大きく声を荒げる。

 

誰もが新しい時代を求めている。

誰もが新しき世界を夢見ている。

誰もが新たな秩序を望んでいる。

 

そんな狂熱に詩人は内心辟易し、群衆に紛れてそっとその場を抜け出した。

創作のインスピレーションになればと、しぶしぶ貴族の誘いに乗って顔を出したがやはり慣れぬことをすべきではなかったと自身の軽率な選択を悔やむばかり。あの男は一体何者なのか。背後の老人はまるでリターニアの大きな舞台の主演のように鳴りやまない拍手喝采に包まれていた。その正体、気になるところではあるが、今は一刻も早く家に帰りたい気分である。誘ってきた男爵の面目もあるので帰るに帰れず、窒息感を呑み下すようにビールを呷った。

 

会場の盛り上げ役となったキャプリニーの関心はもうこのパーティーにはない。

ターラー人の文化そのものへの興味は嘘ではないし、虐げられる彼らへの援助も行いたい気持ちは本心からくるものだ。しかし、彼の目的はそれらとは異なっていた。今宵のパーティーの目玉たる人物、ただの貴族でもなければ知識人でもない。この国の未来を憂える革命家たちである。彼らの目指す先は、旧体制の打倒。ヴィクトリアの統治による抑圧された生活からの解放。それらを謳う者達が集まるはずだった。だが、約一時間前にこの会場に現れるはずだった重要人物の部下とその手勢が去ったということ、軍がここへ向かっていることを潜伏させていた部下が傍受した。

キャプリニーは周囲に気づかれない程度にほんのりと笑みを浮かべる。

 

「(日本語)ダブリンの炎が、この偽りの都市を、引き裂く、か。ようやく、帰れそうだ」

 

この会場の誰も聞き取れない言語でつぶやいたその一言は突然の喧騒にかき消された。

会場に突如として現れた軍は会場にいた人間を瞬く間に制圧し、混乱の中逃げ惑う人々を捕らえては次々に縛り上げていく。誰もが我先に、先ほどまで熱く理想を語り合っていた同志を押し退け脱出を試みるが、全て無意味に終わる。その様子を眺めながらキャプリニーは静かに席を立ち、ゆっくりと窓から離れた。その足取りは確かなもので迷いはない。

 

「俗物が、蝟集する前に、各個撃破せよ。こちらは、この場を、やり過ごす。フィリップ、構えなさい」

 

懐から取り出したクルビア製の小型無線で指示を出し、会場に紛れていた1人の部下を招く。

その直後、ガシャン!と窓を破って何かがパーティー会場に転がり込んだ。

 

「妄執に取りつかれ♪亡霊が灰燼から這い出した♪」

 

音と熱が会場に弾ける前、鐘の音とともにキャプリニーは歌を口遊んだ。

 

 

――――――――

 

 

 

―――――

 

 

 

――

 

 

散らばるガラス片、焼け焦げたカーペット。うめき声と怒声。鼻をつく鉄と何かが焼ける臭い。

足早に兵士たちは撤退し、煙が晴れたパーティ会場は咄嗟に盾を構えたループスの背後以外は無残な有様しか残っていない。生き残った人々は苦痛に喘ぎながら惨劇の場から逃れようと出口へと殺到した。

 

…それに気が付いたものはごく少数だった。

 

一人のヴイーヴルはぼんやりと窓の外を見つめていた。ふと、戦いの音すべてが消え去ったかのように、不気味な静寂が夜闇に満ちる。

そんな闇と灰の中から姿もなく姿を謎の軍隊が姿を現す。

一際目を引くのは先頭の術師。その静止した世界の中を駆け抜けるかのように到来した膨大なエネルギーの奔流によって周囲はすべて燃えることなく灰燼へ姿を変えた。

 

詩人は何が起こったのか、理解できていない。酒が入り若干酩酊した頭では、ただ地面に倒れこんだ彼を守るようにして立つキャプリニーがいるということしかわからない。あたりが灰まみれだということも、いつのまにか屋敷の外にいることに気がつくにも時間がかかった。

 

「『何を落胆することがあろうか。大家は大地を焼き尽くしたが、一人の魂が、両天秤のもう一方にあるのを見たのだ』ふむ、灰燼に散る前に読むことができて幸いだ」

 

キャプリニーが手に持ったぼろぼろの紙が風に吹かれただけで崩れていく。それはついさっきまで詩人の手にあったインクが乾いていない書きかけの詩だったのも。

 

「……貴方は、いったい?」

 

かろうじて絞り出した言葉。

目の前にいる老人は確かにここにいるはずなのに、そこにいないような、そんな不気味さがそこにはあった。だが老人は答えない。代わりに、彼は口を開いた。彼の瞳は燃えるように紅く、そしてその奥には闇がある。それを見た詩人はきっと噂に聞くかつて隣国の高塔の頂上に掲げられた、夜の帳の中から国を見下ろす光はこのような感じだったのだろうとぼんやりと思ったのだった。

 

「『それはいとも容易く折れる枝♪長き生と死に疲れ果て♪執念深くその歌を歌う♪夏の間も♪冬の間も♪』」

 

異国の古いアーツを放ちながら、それに重ねるよう歌を紡ぐ。

 

「『オークの老樹の木の下で♪青煙が枝まで上がる♪燃え滓の上で♪三日月の先に炎が灯る♪』」

 

周囲の熱は散り、冬の寒さが灰まみれの地面を満たしていく。ガランガランと鐘が鳴り響き、そのたび灰は氷へと姿を変える。見たことがない光景に、詩人の喉は震えるばかりで言葉が出ない。まるでこの空間だけが惨状から切り離されたかのように、その声と歌の世界に引き込まれてしまう。

しかしそれも長く続かない。

街頭まで灰になった暗闇からヴィクトリア軍人とは全く異なる仮面の者たち、ダブリンの兵士が姿を現したのだ。

 

「なんだこの冷気は…貴様!?いったいどうやって生き延びた!?」

 

「……おぉ、これはすまない。邪魔を、してしまったようだね。それでは私たちは、失礼するよ」

 

キャプリニーは歌をやめると、そそくさとその場を去ろうとするがそれを兵士が許すはずもなく、一人がボウガンを構える。一歩でも動けばすぐに打てるよう引き金に手をかけた。

 

「待て! 」

 

「そう言われても、困ってしまうな。私には、君たちに構っている暇など、無いのだが……」

 

キャプリニーは小さくため息を吐く。彼は兵士を刺激しないよう静かにゆっくりとその腕を持ち上げる。その緩慢な動作が終わるまでに数秒の時間を要した。

 

「我々がお前たちを逃すと思っているのか? 」

 

「いいや、思っていない。だからこそ、こうしているんだ」

 

「なに? 」

 

兵士は手を挙げたままのキャプリニーの言葉の意味がわからず眉をひそめた。しかし次の瞬間、兵士の身体に激痛が走る。

 

「ぐぁあああっ!! 」

 

痛みの根源に目を向ければ、自身の脇腹に深々とナイフが突き刺さっていた。なぜ、どうして? そんな疑問を抱くより早く、兵士は自身の血で濡れた床に倒れる。その兵士が薄れゆく意識の中最後に見たものは、自身と同じく濡れた地面に伏した仲間の姿だった。

 

 

「終わりましたよ、先生。」

 

闇夜から溶けるように姿を現したのは、先ほどまで姿を晦ませていたキャプリニーの部下の一人。それはまるで乱雑になった本棚の整理が終わったかのように平然とした態度で赤く染まったナイフを拭う。

 

「ああ、ありがとう」

 

「いえ、これが俺の仕事ですから」

 

「君は相変わらず、謙虚な子だ」

 

まるでお使いを達成した子供を褒めるようにやさしい声でキャプリニーは部下の男を労った。その言葉を聞いた部下は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべるがすぐに顔を伏せる。どうにも感情表現の下手な若者らしい。そんな部下の様子を見てキャプリニーは再び笑みをこぼした。

 

…いったい何を見せられているんだ?助かったという安堵を超えた恐怖に詩人は思わず率直な言葉を漏らしそうになったが、慌てて口をつぐむ。

この場の主であるキャプリニーの視線が詩人に向けられていたからだ。

 

「では、彼を安全で、信用できる場所へ、…そうだ、ロドスの事務所が、あったね。そこへつれていって、欲しい」

 

キャプリニーの指示に部下は静かに頭を下げ、そのまま彼は詩人を連れて灰に覆われた街中を走り出す。小さくなる後ろ姿を見送りながらキャプリニーはため息交じりに小さく呟いた。誰も聞き取れない言語で彼はただつぶやいた。

 

「(日本語)この街には、墓の下から這い出た亡霊がいる。恐ろしいねぇ、怖いねぇ」

 

お気に入りの詩集を片手に取り出し、初老のキャプリニーは再度ため息を吐く。ひどくわざとらしく、意図的に人に聞かせるように、だ。

 

「そう思わないかい、君?」

 

「…いや、何を言ったのか全然わからなかったんだが」

 

灰にまみれた路地、そこから姿を現したのは先ほど彼らを攻撃しようとした兵士によく似た奇妙な仮面をつけた男、ダブリンの幹部であり、「放火魔」と呼ばれる人物だ。しかしキャプリニーはそれに驚くこともなく、いつものように穏やかな口調で語りかける。その様子に「放火魔」は訝しむ。

その瞳の奥にあるのは嘲笑だ。まるで目の前にいるのが自分よりも格下の存在だと言わんばかりに、キャプリニーは口角を歪ませる。

 

「やあ、こんにちは。ご機嫌はいかがかな」

 

「……」

 

「おぉ、これはすまない。無視をされるのも、久しいものだから、つい驚いてしまった。」

 

「放火魔」は返事をする代わりに無言を貫く。この手の語り口をしてくる人間はたいていろくな奴じゃない。一応協力関係にある同じダブリン幹部の1人のよく回る口を思い出しながら「放火魔」は警戒を強めた。キャプリニーはそれを気にすることなく、まるで世間話をしているかのように気軽に声をかけた。しかしその内容はとてもじゃないが、気軽に受け取れるものではない。

 

「君たちダブリンは、ターラーのために戦っていない。そうだろ?」

 

なぜそれを、口に出かけた言葉を寸前で飲み込む。わざわざ情報をこちらからくれてやることもない。こちらは単に「リーダー」の炎を見に来ただけで、爆破の準備も何もしていない。見たとこあのキャプリニーは高度な氷結系アーツの使い手。どんな仕組みかは不明だが、あの「炎」から完全に身を守ることができるレベルだ。炎を放っても簡単に燃えそうにもないものを相手にするのは楽しくないし、ほかのやつら…「劇薬学者」か「囚人」にでも任せておけばいいだろうと「放火魔」は冷静に分析する。

 

「ただの売り文句の一つ、か。クルビアでの商品の宣伝なら、訴訟案件だよ、これは。私も、肩身の狭い思いをしていた、少数民族の血を、引いてるからねぇ。君たちが、大半のレユニオンのように、迫害されてきた、同胞の為、立ち上がったのなら、警告だけで済ませてあげようと、思ってたのに。悲しい、なぁ」

 

言葉とは裏腹に、悲しそうなそぶりを見せることなく、キャプリニーはゆっくり鐘を取り出し、軽く振った。カランと乾いた音が響き渡り、辺り一面が凍り付き始める。足元からは霜柱が立ち始め、空気中の水分すらも凍結し、白く染まる。しかし「放火魔」を狙ったアーツが届くことはない。わずかに「屈折」し、目標を剃れて冷気は四散した。キャプリニーは驚いた表情を浮かべるが、すぐに落ち着きを取り戻す。むしろ先ほどまでよりもうれしそうに見える。

 

「そのマスクはアーツを屈折させるものかなるほどなるほどそれはそれはなんとも術師には相性が悪いね」

 

アーツが届かなかったことに対し、新しいおもちゃを見つけた子供のような明るい声色で感想を述べだした老人。しかも先ほどまでとは打って変わり早口だ。「放火魔」はもしや自分たちの親類ではないのかと思いつつ、判断は冷静だ。この男は生かしておけない。早いところ始末したほうがいいだろう。増援を呼ぶべく「放火魔」は通信機を取り出す…が、その手は妙な塊を掴んだ。

 

それは通信機と同じ大きさでよく似たシルエットをしているが、内部から黒い結晶のようなものが突き破っていた。

 

「!?」

 

「放火魔」は本能的に「通信機」だったものを投げ捨てる。独特な黒い光沢、それはまさしく源石結晶だ。

(内部の源石部品の暴走?一体急にどうした?)

幸いにも小さな源石クラスターを形成した「通信機」に触れた手は傷ついておらず、感染は免れたようだ。理由はわからないがとにかく危険だと感覚が警鐘を鳴らす。「放火魔」は即座にその場を離れようと動くも、すでに手遅れだ。

 

「でもその仮面に源石使ってるよね?」

 

内側から引き裂かれるように仮面が割れる。その隙間から見えたのは「放火魔」の素顔ではなく黒い結晶。瞬く間に小さな源石クラスターが割れ目から咲き誇り、仮面の表層を覆うように結晶が生え始めた。もちろん仮面の内側も例外ではない。内側に形成された源石結晶は容赦なく「放火魔」の顔面を傷つけ、悲鳴すら許さない想像を絶する痛みを与える。「放火魔」は錯乱しながら強引に仮面を引きはがそうとするが、すでに源石は皮膚に根を下ろしていて容易には外せない。バリバリと皮膚がはがれ、仮面の隙間から血が溢れる様は、まるで顔を自力ではいでいるようにも見えた。

 

「ごめんねぇ効きが悪いから加減ができないやぁ。僕はヨハン君みたいに器用じゃないから上手くできなかったよ」

 

足元で灰燼と血が混じる惨状を目撃しながらも、キャプリニーの声は相変わらず穏やかなまま鐘を鳴らし続けている。

 

「君たちの目的とか正直どうでもいいんだけど上が重箱の隅をつつくようでかなわないし僕もちょーっっっと問題抱えてたからそれ黙らせる代わりに渋々見に来ただけなんだけど本当とどうでもよかったんだ。でもさ思ってたよりターラーの文化って面白いじゃないかそれが保守に回しすぎてボロボロなうえにびっくりするぐらい料理がまずい国に磨り潰されていく様は恐ろしく気分が悪い神経が苛立つ。どっちが滅びたほうがいいかなんで一目瞭然じゃないかな君たちがそのことを理解している真っ当な組織だったら見逃してあげても構わなかったというのにこれだったらかつての大国を渇仰するガリア守旧派のほうがよっぽどましとしか言いようがない僕なんか直截からはほぼ遠い懊悩ばかりの一般的先民だけどこればかりは断言するよ」

 

堰を切ったよう言葉を吐くキャプリニー。だが「放火魔」は耳を傾けている余裕はなかった。顔中が痛い。痛みでもはや思考すらままならない。

 

「僕が氷結系アーツの使い手だと思った?別にあれはそんなアーツじゃないんだよ熱を音に音を熱に変換し続けると温度が下がるんだぁそれをアーツですごーい勢いで繰り返して結果的に凍っちゃうだけの簡単な仕組みだよ真似してみるかい?ああ初心者は管楽器のほうがいいねあっちのほうが安定して冷やせるし僕みたいにアーツユニットに鐘とか鈴みたいなものを用いると大変だよ慣れてない人はアーツ制御の詠唱を唱えなければ使用者ないしは周囲の人間差別なく降りかかるからねぇまあリターニア人なら大したことないし僕だって習得にそんなにかからなかったよまあ停滞しきった外国の術師を名乗る専断偏頗な何かには少々難しいかもしれないけれどもそれに関しては生まれた国が悪かったんだと来世にでも期待してくれたまえ」

 

滔々と長広舌を振るいながら鐘を一振りすると、悲鳴すら許さない酷痛にのたうち回っていた「放火魔」の動きが止まる。

 

裂ける音。

折れる音。

砕ける音。

 

様々な音が鐘の音と交じりながら、体の内側から急成長した源石により引き裂かれ血肉が地面に飛び散った。源石の花は咲く、ヴィクトリアの空を覆う暗雲よりも黒い花が咲き誇る。それは美しくもあり悪夢の光景だった。現代アーツの原理を捻じ曲げる古い巫術と彼の天性のアーツによって生み出された、人の身では抗うこともできない、「急速な源石の活性化」。

 

「ああ、自己紹介が、まだだったね。私はアグヌス・マクシミリアン。「黒羊」の方が、有名かな?」

 

キャプリニーは「放火魔」だったものに軽く会釈すると振り返りもせず歩き出す。

黒羊、その呼び名の所以、それは一度歌えば彼の周囲は源石結晶で黒く染まることに起因する。

 

「ほかの子たちも、うまくやってると、いいなぁ」

 

 

――――――――

 

 

 

―――――

 

 

 

――

 

 

黒煙が立ち込め、空は曇り、大地は燃えている。雷鳴のように鳴り響く砲声、降りしきる豪雨、崩れる人々の生活の証。街を覆う黒雲は「戦争」という名の天災を連れてきたようだ。街のいたるところで源石クラスターが大輪を咲かし、活性源石粉塵が花粉のように空気を満たす。ダブリンの兵士と駐屯兵が攻撃を交え、ヒロック郡の市民の嘆きが届くことはない。

 

マンドラゴラは憤慨していた。呼び出した幹部は現れず、通信は途絶えたまま。想像以上に街の制圧は思うように進まず、市民の抵抗が続いていた。

彼女は怒りに任せアーツで周囲を破壊する。そのたびに地面は割れ、建物は吹き飛び、瓦礫が散乱していく。視界は赤に染まり、耳は轟音に支配される。だが気分は一向に晴れず、腸が煮えくり返っていた。それを止めようとする者は一人もいない。誰しもがこの状況に焦りと怒りを感じていたからだ。

 

そんな中、鐘の音が突然鳴り響く。

 

轟音すら押しのけて響き渡る金属音に、何事かと彼女がそちらに視線を向けると、 そこには見慣れない一団がいた。全身を黒いローブで覆った集団が鐘を鳴らしながら行進するその光景にマンドラゴラは思わず目を奪われる。なぜなら彼らの動きは洗練されており、まるで一つの芸術作品のように美しく、そしてどこか不気味でもあったからだ。先頭にいるリーダーらしき人物が、手に持った鐘を振るう。すると不思議なことに、先ほどまで聞こえていた爆音の波が止み、雨音が掻き消え、住人や兵士の戸惑いの声のみが取り残された。

 

「亡霊が民を焼き、焦った軍が、街に砲撃の雨を降らせ、この惨状を生んだ。我々は、ヒロック郡で起きた、事象の一部始終を見た、痛みに苦しむ、住人の嘆きを聞いた。これは他国の問題とはいえ、見過ごすことなど、できるものか。争いという名の、天災を。私は、私たちは、おのれの職務を、全うする」

 

「私は、リターニア天災観測所所長、「黒羊」アグヌス・マクシミリアン。私たちは、リターニア天災観測所の「子羊」。私は、私たちは、ここで起きたことを、すでにリターニアへ、包み隠さずすべて伝えた。やがて他国も、知ることとなるだろう。もちろん、ヴィクトリア全土にもだ」

 

「亡霊「ダブリン」よ、刃を置け。ヴィクトリア軍よ、民を救え。」

 

街中に響き渡る彼の言葉が終わると同時に、先ほどまで騒いでいた市民たちが一斉に黙り込む。誰もが息を飲み、ただ目の前の男が語る物語を聞いていたのだ。

 

なんだこれは?あいつらは一体なんだ?

続いて駐屯軍が違法な源石武器を用いてこの事態を「天災」として処理しようとしたことを糾弾しているが、マンドラゴラにはどうでもよかった。通信塔はこちらが完全に掌握しているはずだ。…まさか、

 

「街中のスピーカーを直接操ってる…!?」

 

不可能でないにしろ、難易度や手間に対して恐ろしく効率が悪い強引な手段を取ってきたことにあまり頭が良いとは言えないマンドラゴラですら絶句する。

そんな脳筋とも呼べる突飛な手段によって自分達が慎重に積み上げてきた火種が陰から機を窺っていた隣国にそっくりそのまま奪われ、亡霊の実態が流布される。計画を根幹から破壊され、マンドラゴラは血が出ることもお構いなしにきつく爪を噛む。せっかくここまでこぎつけたというのに、あの男のせいですべてが台無しになった。あぁ許せない、憎らしい、恨めしい、呪ってやりたい。あの男の首をへし折るまでは気が済まない!! だが、こんな状態で出ていけば相手の思う壺だとアネモニーが宥め、悪態を吐きながら悪霊達は墓場へ戻っていく。状況が飲み込めていないダブリンの兵士たちは、使い捨てられたことも知らずに呆然と立ち尽くしていた。

 

リターニアという想像もしていなかった存在からの救援に、すっかり汚れてしまった旗を抱えたジェーンは安堵するが、共に負傷者の手当てをおこなっていた熟練のサンクタは眉間に皺を寄せていた。

 

「そうくるかい…」

 

「え?」

 

ようやく戦争という嵐が去ろうとしているのにOutcastの顔色は暗い。

 

「あいつらは仲裁という形でヴィクトリアに楔を打ち込んだのさ」

 

「楔によって生まれたヒビは人の間に溝を作り、何かの拍子に国の地盤ごと割れてしまう」

 

「ヴィクトリアをパイのように切り分けたい勢力はいくらでもいるだろう」

 

「リターニアは、ガリアになりたいのかねぇ?」




・幹部六人消息不明
・民衆の支持横取り ←New
・ダブリンの情報(暴力行為)拡散 ←New

マンドラゴラ「」
アネモニー「これはひどい」

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  • オリオペorスレ住人募集
  • イッチのイラスト
  • ほのぼの番外編
  • それより本編
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