テラ転生者掲示板へようこそ!   作:テキサス仮面

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※ヤークトアルケーのプロファイルにボイスを追加しました。
300連してもリー先生が来なかったので契約証のお世話になりました。リィン姉ちゃんは凸しました。
今回は一周年企画のほのぼの番外編です。総合戦略#2で6層ボス撃破したり貯蓄マラソンしたりすべての戦術分隊でボス撃破したりしてたら遅くなりました。本当はイッチのハーレムほのぼの物になる予定でしたが、しっくりこずお蔵入りしたので蛍光灯ニキことID:SCMmXHWの回想秘録的なものになりました。今回も大陸版情報及び原作改変、捏造設定など危機等級高めです。ご注意ください。


晴れ時々ペンギン急便

────── 龍門。

炎国経済拠点の一角を担う移動都市。解放・包容・自由がその最大の特徴と言われる。立ち並ぶ高層ビルと煌々しい繁華街、影には国際色豊かなギャングたち蠢くスラム街があるなど、実に多様な側面を持つ。

 

 ここ龍門を拠点とする物流組織のペンギン急便一行(と言ってもここにいるのは一人と一羽? のみだが)が到着したのは、そんな龍門の外れにある廃ビルだ。辺りは薄暗く人気もないが、スラムの中にあるような場所では珍しいことではない。

 

 だがそこは、いつもとは違う点があった。それは──。

 

 ガシャリ! 突如、背後から射撃音が鳴り響く。彼らは咄嵯に身を隠すが、音は徐々に増えていく。仕掛けてきた集団は、全員が同じ黒いスーツに身を包み、手にはクロスボウを持っている。この場所ではさほど珍しくない人種の人間たちだろう。どうやら待ち伏せされていたようだ。

 

「*スラング*」

 

 激しい矢の雨に罵声が飛び交う中、頭に切れかけた蛍光灯の様な輪っかを浮かべたサンクタ人のアルケーはがむしゃらに拳銃を撃って応戦する。

 

「弾幕がたりねぇぞ! もっと撃ちやがれ! 頭のそれはマジで蛍光灯なのか!?」

 

 必死に引き金を引き続けるアルケーに罵声を飛ばすのはサングラスをかけたペンギン、エンペラーだ。

 

「*スラング*うるせえ! キングペンギンの癖にコウテイを名乗るんじゃねぇ!」

 

「*言葉になってないペンギンの呻き声*」

 

 アルケーとエンペラーは背中合わせになりながら敵の攻撃を避けていた。二人の周りには早速血溜まりが出来ており、敵味方入り乱れての乱戦となっている。(ちなみにエンペラーとアルケーはゴム弾を使用している為殺傷能力は低い)

 

(クソッタレ!!!)

 

 歯ぎしりしながらアルケーは敵の数を数え始めた。目視できる範囲の敵は現在5人。全員武装しており、こちらより数的優位にあった。しかし、アルケーは怯まずに反撃を続ける。エンペラーは弾丸を撃ち尽くしたリボルバーを投げ捨てると、どこから取り出したのかは不明だが、新たなカートリッジと交換して発砲する。その隙を狙い襲いかかってきた敵を蹴り飛ばし、素早く次の獲物へと照準を合わせた。エンペラーは手慣れた動作で次々と敵を仕留める。まるでダンスでも踊っているかの様に軽やかな動きだった。

 

(クソッ……こんな所で死んでたまるかよ)

 

 一方、アルケーの方はとても余裕があるとは言えなかった。敵の動きを見極め、冷静に対処してはいるものの、お世辞にも命中精度が良いとは言えず、このままだとジリ貧なのは目に見えている。なんとか状況を打開しようと思考を回転させるが、焦れば焦るほどに追い詰められていった。

 


 

 事の発端は数時間前。ペンギン急便アジトに一枚のチラシが届いたことに始まる。

 

『レア物! レコードオークション!』

 

 そう書かれたチラシを見て、真っ先に食いついたのがエンペラーである。ペンギン急便のボスである奇怪なペンギンであるエンペラーはレコードの収集を趣味としており、その情熱たるや凄まじいものだった。

 

「行くぜぇ!! 今すぐ出発だァ!」

 

 興奮気味に叫ぶエンペラーだったが、彼の部下たちはそれを冷ややかな目で見ていた。

 

「いやぁ、これはちょっとねぇ。」

 

 人懐っこそうな笑みを少し歪め、赤髪のサンクタのエクシアは言う。

 

「こりぁあかん。詐欺の臭いがプンプンするわ。」

 

 フォルテのクロワッサンもエクシアの意見に同意し、気まずげに視線を外す。エクシアの隣では、ループス? のような少女ソラがウンウンと同意するように首を縦に振った。二人の反応にエンペラーは憤慨し、抗議の声を上げる。

 

「おいおい! お前らは行かないって言うのかよォ?」

 

「だってさー、そもそも本当に価値のあるものが出品されるかも怪しいじゃん。」

 

 エクシアは両手を広げ、呆れたように言い放つ。彼女の言っていることはもっともだ。ペンギン急便のボスであるエンペラーは攻撃的な言動で表でも裏でも非常に有名だ。彼に恨みを持つ人間の数は数えきれず、ペンギン急便はエンペラーの実質的ボディガードではあるものの、本業である配送業の傍、罠や襲撃者を処理することがもはや習慣化しているのだ。いかに希少なものであろうと、所詮はレコード。あからさまに怪しい話に乗ろうとする方がどうかしている。

 だが、エンペラーは諦めきれない様子で尚も食い下がる。

 

「そりゃあそうだがよぉ……。このチャンスを逃したら一生後悔することになるかもしれねえんだぞ!?」

 

「まあ、その気持ちはわからんでもないんやけどさぁ……そもそもこれはチャンスなんかあるんやろうか?」

 

 確かにそれは一理あるかもしれないが、リスクとリターンが見合っていないことは明らかだ。(まず、チラシが安っぽいのがあかへん、とクロワッサンは批難する)それならば、ここで無理をしてまで危険な橋を渡る必要はないだろう。しかし、エンペラーは引かなかった。

 

「いいや、俺は行くね。何があっても必ずだ。絶対にな。」

 

「えっ、マジで言ってんの?ボス。」

 

 エクシアは驚き、やや引きつった表情を浮かべる。楽観主義である彼女が悲観的になるほどに怪しさ満載だというのにこのペンギン、本気のようだ。そして、ペンギン急便のメンバーたちは知っている。こういう時のエンペラーは大抵ろくでもない結果を招くということを……。

 

 

「じゃあ、念のため誰かが同伴するってことで、いんじゃねえのか?」

 

 そのためのペンギン急便だろ、と声を上げたのは、巨大な銃のメンテナンスを行っていたサンクタの男、アルケーだ。彼はペンギン急便のメンバーではないのだが、彼の相棒はペンギン急便と契約を結ぶ国際トランスポーターであり、成り行き上ペンギン急便の面々と行動を共にすることが多くなっている。今日は相棒が近衛局からの依頼の報告のため出かけており、感染者の立ち入りが制限されている施設への同伴の許可が降りず、渋々相棒の職場にで彼女の帰りを待っていたところだ。

 

「ま、妥当だよね。」

 

「せやな。」

 

「それでいい? ボス?」

 

「ああ、荷物持ちが要るだろうからな。」

 

 ペンギン急便のメンバーたちが次々に賛同し、話はまとまったかに見えた。だが、

 

「ところで誰が同伴するんだ?」

 

 口を開いたのはループスの女性、テキサスだった。今まで沈黙を保っていた彼女が急に発言したことで、その場の空気が固まる。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ペンギン急便のメンバーたちは互いに顔を見合わせた。

 

「あたしはこれから宅配があるんだけど。」

 

 最初に口火を切ったのはエクシア。彼女はトランスポーターとしての仕事があるため、同行は難しいようだ。

 

「ごめんなさい、スケジュールが……。」

 

 次に口を開いたのはソラ。申し訳なさそうに眉を下げている。ソラはソラでアイドルとしての仕事をするために不在となるようだ。

 

「うち? ……うちはあれや、うん。……いろいろあるんや!」

 

 クロワッサンは腕を組み、眉間にシワを寄せながら答える。明らかになんもねえだろというアルケーのツッコミはスルーされ、クロワッサンは何かと理由をつけて同行を拒否した。

 

「じゃあ、テキサスはどうだ?」

 

 テキサスはアルケーの言葉に小さく首を横に振る。偶然か意図的なのか、ペンギン急便のメンバーの大半が外出の予定が入っているようだ。トランスポーターは信頼が第一。指定時間に合わせられない様ではメンツが保てない。

 

「時間指定の宅配が幾つもある。……もしかしてこれもすべてボスを孤立させるための作戦か?」

 

 テキサスの一言にペンギン急便のメンバーたちの視線がエンペラーに注がれる。ボスを守るために宅配をキャンセルすれば、ペンギン急便の名前とボスの評価に傷がつく。メンツを優先するとエンペラーの身に危険が及ぶ。どちらを選んでもペンギン急便が不利益を被りかねないが、その二択なら彼はどちらを選ぶのか? 聞かなくとも後者であるとペンギン急便社員達は薄々感じている。

 皆の注目が集まる中エンペラーは、

 

「言い出しっぺの禿がいるじゃねえか。」と、アルケーを指差した。

 

 

「は?」

 

 

 ぽかんと間抜けツラを晒した後、怒声を上げた。

 

「禿じゃねえ! 頭皮が薄いだけだって何度も言ってんだろ! この鳥頭!!」

 

 アルケーは頭頂部を手で押さえ、全力で拒否の姿勢を示す。その仕草が肯定してるも同然じゃんと皆思ったが、口には出さない優しさがあった。

 

「うっせえな! 高い給料もらってんならその分ちっとは働きやがれ!!」

 

「はぁ!? ペンギン急便の社員じゃねえし、そもそもあんたから金銭もらったことないんだが??」

 

「うちの社員に養なってもらってるなら一緒じゃねえか!! どうせあいつが戻るまで暇だろ!」

 

「*スラング!*」

 

 紐扱いするエンペラーの暴言にカチンときたアルケーは、手に持っていた自身の守護銃をほっぽりだし、自分の身長の半分も無いエンペラーに掴みかかる。が、即座にエンペラーはペンギンの嘴で彼の顔面を高速で突く。甲高いペンギンの鳴き声と天使の罵声。アルケーは痛みのあまり、反射的にエンペラーを投げ飛ばす。エンペラーは空中で体勢を立て直すと、華麗に着地。そして勢いをつけて突撃する。アルケーとエンペラーは取っ組み合いになり、激しい格闘戦を繰り広げる。アジトの物資は衝撃で散乱し、部屋のあちこちにヒビが入った。

 テキサスは溜息をつくが、二人の仲裁に入ろうとはしない。

 

「先輩とボス、どっちが勝つか賭けない? あたしはボス~。」

 

「んな、賭けにならんやろが!」

 

 エクシアとクロワッサンは暢気に観戦しており、ハチャメチャなペンギン急便一同の中では比較的常識人のソラでさえ苦笑を浮かべるのみ。しばらく二人の攻防は続いたが、エンペラーはアルケーを投げ飛ばし、あっけなく勝負は決した。

 エンペラーは床に仰向けに倒れ込んだアルケーに馬乗りになると勝ち誇った表情を浮かべ、銃口を額に押し付ける。

 

「へッ、ざまあねえなァ! 俺の勝ちだぜ! さあ、荷物持ち決定だ! 大人しく着いてきやがれ!」

 

「*スラング*! どうなっても知らねぇからな!」

 

 エンペラーはどう聞いてもペンギン鳴き声にしか聞こえない勝利の雄叫びを上げた。

 


 

 と、いったことがあり、現在に至る。

 想像通りの罠の真っただ中、アルケーはこの事態に陥った原因であるエンペラーを恨めしげに睨む。

 

「……ったく、あの野郎。マジでふざけんな……。」

 

 どうやってトリガーを引いているのかよくわからないペンギンの姿が視界に入るたびに沸々と怒りがこみあげてくると、銃のトリガーを引きながらアルケーは悪態をつく。

 こちらはアルケー自身とエンペラーのみ。それに対しギャングらしき集団は数を増やし、ざっと数えても20人はいる。念のためにゴム弾とサブの銃を多めに持ってきたが、とても足りるとは思えない。エクシアやソラ、クロワッサンの誰か一人がいればもう少しマシだったかもしれないが……。テキサスなんか一人で片付けられるだろうし、なんで俺なんだよとアルケーは悲観的に嘆く。しかし、今更そんなことを言っても仕方がない。ないものねだりしたところで状況は好転するわけがないのだ。ならば、今は生き残るために最善を尽くすしかないだろう、とアルケーは目の前に迫りくる敵に銃弾をばらまきながら思考を切り替える。

 テラの銃とは一般的に銃にアーツを流し込み、弾薬に仕込まれた源石回路を作動させ、エネルギーが放出され弾が打ち出されるという繊細なアーツ技術を必要とするややこしい仕組み。だが、サンクタはそれをほぼ無意識にやってのける。(このサンクタより、エンペラーの方が射撃精度は遥かに高いが)引き金を何度も引き、銃の弾が切れれば即座にマガジンを交換し、リロード。その間、彼は決して立ち止まらない。走り回り、敵の矢を回避すると、素早く遮蔽物に身を隠し反撃する。一発、二発と弾丸を撃ち込み、相手を倒す。だが、すぐに別の敵が襲い掛かってくる。これではキリが無い。それに、いくら倒しても一向に減っている気がしない。このままだと弾切れか体力の限界を迎えるのは目に見えている。そうなってしまえば終わりだ。どこかで攻勢に出なければならないが……。アルケーは背負った巨大な銃に目を向ける。彼はペンギン急便関係者の中では戦闘能力は低い方だ。現役アイドルであるソラにも一般的なアーツ適性では劣り、一般人と言って差し支えがないだろう。だが、彼が背負った守護銃は違う。大型ターゲットの撃破に適性を持ち、クルビア製の自立兵器に母校の建物、ウルサス軍のドローンにリターニア術師の操るゴーレムといった巨大物体を一撃で撃破することができる。それだけの威力があればこの状況を一発で覆すことも難しくないだろう。しかし、そんなものをこんな閉所で撃ち放てば、辺り一面が吹っ飛んでしまう。襲撃者ごと埋まってしまうなど避けたいところだ。現状打破の方法が見いだせないまま、サンクタはハンドガンのトリガーを引いた。乾いた発砲音が響き渡り、ゴム弾が次々と放たれていく。しかし次の瞬間、銃弾は敵の身体に届くことなく弾かれてしまう。まるで見えない壁に阻まれているかのようではないか。

 

「術師いんのかよ!?」

 

 どうやらアーツによるシールドを張り始めたようで、こちらの威力の低いゴム弾は通らず、向こうの攻撃だけが一方的に届いてしまう最悪な状態になってしまった。律儀に実弾使用不可という龍門の表向きルールを守り続けるペンギン急便と、手段を選ばない襲撃者達。あまりにも不利すぎる。しかも、敵は次々と増え続け、徐々に包囲網が狭まりつつある。絶体絶命の危機だ。

 

「*スラング*! 弾がねえ! 下っ端!」

 

「誰が下っ端だ! *スラング*!! こっちもだよ!」

 

「お前の無駄に長い守護銃を寄越せ。俺にいい考えがある!」

 

「マジか! なにするんだ!?」

 

「真っ二つにへし折って棍棒にして殴りゃいいんだよ!」

 

「地獄に堕ちろクソペンギン!!」

 

 アルケーはエンペラーのふざけた提案に憤慨する。この危機的状況で冗談を言える余裕はどこから来ているのか理解に苦しむうえに、守護銃の撃ちすぎで頭上の輪っかから痛みが響いてくる。(おまけに膝も痛い。)

 

「だったら早くそれを撃ちやがれ!」

 

 なんだって? 二重に頭を痛めるアルケーは一瞬なにを言われたのか分からず、怪訝に眉を顰めた。エンペラーはいらつきながら彼が背負った守護銃を翼で指差す。これを撃て? 何言っているんだこいつは。正気じゃない。こんなものを撃ち放てば自分たち諸共吹き飛ぶに決まっているじゃないか! エンペラーの無茶な要求に困惑するが、銃に目をやり考える。確かにこれを使えば形勢を逆転させることが出来る。ただし、下手をすれば自分達も一緒にお陀仏だ。アルケーはエンペラーの提案を却下しようと思った。だが……。

 

(どうせもう死ぬも同然なら、やることやって死んだ方がマシだな)と、一瞬そう思ってしまったのだった。

 

 覚悟を決めた表情を浮かべると、「やるしかねえか……ッ!」と守護銃を背中から下ろし、銃口を天井に向けた。

 

「おい、俺が合図したらそのデカブツぶちかませよ?」

 

 とエンペラーは言い、アルケーは守護銃を構える。できるだけ多くの敵を巻き込めるよう、ギリギリまで引き付ける。

 

「よし、いまだ!」

 

 そしてエンペラーの合図とともにトリガーを引き

 

「ボスー! 先輩ー! まだ生きてるー!?」

 

「遅くなった。」

 

 激しい銃撃に斬撃の雨霰。飛び込んできたエクシアは次々に敵を弾丸を喰らわせ、テキサスは持ち前の俊敏さを生かし、敵の懐に飛び込むと強烈な剣技と格闘術によって瞬く間に制圧していく。なんと配達を急ピッチで終わらせたエクシアとテキサスが助太刀に来たのだ。

 

 

 が、

 

『あっ』

 

 アルケーはその巨大な守護銃の引き金を引いた後だった。

 

 

 

 


 

『昨夜、龍門■■地区で起きた大規模な爆発事故により、現場は混乱を極めています。現在、近衛局と消防が対応に当たっておりますが、原因は不明とのことです。なお、この事故の影響により、■■地区で停電が発生しており、復旧の目処は立っていません。繰り返し、お伝えします。昨夜、龍門■■地区で大規模な爆破事故が発生しました。現時点での被害者数は不明で、龍門の近衛局は事態の調査に―――』

 

 

 喧騒を見下ろすビルの屋上で、ラジオから自身の引き起こした失態が報道されているのを聞き流しながら、アルケーはヤケクソにタバコを蒸していた。

 

「相変わらず悲観的なのに、変なところで思い切りがいいよね君は。」

 

 ラジオのすぐそばに置かれた通信端末から聞こえる落ち込むアルケーを揶揄う女性の声に、彼はイラッとして言い返す。

 

「自分自身にも執着が無さすぎて、思い切りが良すぎるお前にだけは言われたくないぞモスティマ。」

 

 電話越しにモスティマと呼ばれた女性が、呆れ顔で肩をすくめる様子が見えるようだ。

 

「もう少し待ってればよかったのにさ。まぁ損害は払わなくていいんでしょ? よかったじゃないのかな。」

 

「待てる状態じゃなかったわ……ったく。」

 

 彼の巨大な守護銃により襲撃者を退けることに成功したものの、周辺にかなりの損害を出してしまった。ところが、すぐにどこから話を知ったのか、クルビアの超大企業のCADUCEUSが今回の件で半壊した区域ごと買い上げたため、ペンギン急便が債務を負うことはなかった。あの商談を聞いた時のウェイの顔はここ半年で最高に笑えたとエンペラーが腹を抱えていたのが記憶に新しい。このペンギンが手を回したんだろな、相変わらず人脈が凄いことで、と思いつつ、アルケーは何度もその人を苛立たせることにおいて右に出るものがいない嘴をへし折ろうとこぶしを握り締めたが、自身の出した損害がチャラになったので渋々怒りを飲み込んだ。

 

「で、お前から連絡があったってことは、そろそろ帰ってくるのか?」

 

 モスティマはアルケーの問いかけに肯定するように「ああ」と短く答える。アルケーは、ふうっと息を吐き、再び吸う。煙が肺を満たし、少しだけ甘い余韻を舌に残す。空を見上げ、雲ひとつない快晴の青空を眺めながら、ぼんやりと彼女に尋ねた。

 

「エクシアに会うつもりか?」

 

 彼女は答えず、代わりにクスリと笑う声が聞こえてきた。それが返事だ。幼馴染、実質姉妹とも呼べる関係のエクシアとモスティマは、数年前のある事件により一方的に関係を絶たねばならない事態になってしまった。何も知らされず不服に思ったエクシアはモスティマを追って龍門までやってきたのだが、いまだ会えずじまい。そのことを彼女らのことを昔から知る(たいていトラブルに巻き込まれていた)アルケーは気の毒に思っている。機密扱いの事件の概要を漏らすわけにもいかないため、エクシアには自身の姉が意識不明の重体に陥ったことやモスティマがなぜ堕天したのか、一切知らせることはできない。そして、モスティマがエクシアに事の全容を直接教えることはないだろう。エクシアがこのことを知る日は来ないし、知るべきでもないのだ。だが、アルケーの考えは違う。サンクタの法も頭の上に浮かぶ光の環にも疑問しか抱いていない。少なくともアルケーは、法など無視してエクシアは彼女の姉を昏睡状態にした彼の友人を一発殴らせるべきだと、心の中で愚痴る。

 

「エルに真実を伝えて、彼に引き合わせて殴らせようと思ってるなら、やめたほうがいいと思うけど」

 

 モスティマはすぐに彼の考えを否定した。彼女はサンクタ特有の感情の共有を失ってから久しいというのに、アルケーの喉に引っかかった言葉を当てて見せた。(しかも、電話越しにだ)アルケーは、はあーっとため息をつくと再びタバコを吹かし始める。

 

「簡単に当てやがって。」

 

「まぁ、君は昔から感情を共有してくれなかったから、慣れただけさ。電話越しでも、堕天しても、君は変わらないから好きだよ。」

 

「これが普通なんだよ。感情がわかるってのは普通じゃねえんだ。」

 

 普通ねぇ、とモスティマは薄い笑いを浮かべる。自分のことを棚に上げて何を言っているのだろうかと思ったが、口には出さない。サンクタが毛嫌いするサルカズにも、この大地に蔓延る不治の病を患った感染者に対しても幼いころから偏見を持たず、サンクタが生まれつき有する力を無意識に拒絶するサンクタが普通なのかな?と問いたい気分だった。

 

「やっぱり君はサンクタというより、リーベリのほうが似合ってるよ。」

 

 モスティマは自身のすぐそばで、アルケーがある人物の所在を漏らさないか、一言一句聞き逃すまいと音を拾っている赤いリーベリを見ながら言葉を選ぶ。

 

「……お前の監視係に言っといてくれ。俺はあいつの場所は知らねえって」

 

 アルケーはモスティマの言葉に含まれた意味を察し、うんざりした様子で電話を切った。アルケーはしばらく通話の切れた端末を眺めていたが、やがて目を閉じて、ふぅーと長く息を吐き出すと、ゆっくりと瞼を開いた。ここは龍門で、もうそろそろ相棒が俺を探しにここまで来るだろう。ラテラーノとサンクタのあれやこれやは、ここで考えるべきではない。また友人から連絡があったときに討論すればいいと、アルケーは思考を打ち切ると、携帯灰皿を取り出し、吸い殻を押し付けた。

 

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