ありふれた幼馴染が世界最強 作:麦わら
「だ、誰ってどういうこと?」
「だって俺こんなかわいこちゃんの知り合いいないし…」
頭を抱えてうずくまる十四郎を見ていると彼が嘘をついていないことが明らかにわかってしまう。
「というかかわいこちゃんて何?ボク男なんだけど」
「うぇ?いやいやそんなはずないだろう。俺こんなプリティーな男見たことないぞ」
「いや、だから‼ボクは男だよって」
それでも納得しないのか十四郎はまた頭を抱えてうずくまる。その場所からはいつから胸が膨らんでいる男が発生したんだと意味の分からない声が聞こえてきた。
「あの。南雲君?でいいんですよね?」
何が起こっているかと困惑していると横から女性の声が聞こえてくる。そちらの方を向くと、そこには愛子が困った顔をしてこちらをみていた。
「はい。ボクは南雲一ですけど…」
「えーっと、南雲君は男子生徒だったわよね?」
「はあ、そうですが」
「そうよね。じゃあ、驚かずに聞いて欲しいんだけど、あなた今女の子になってない?」
「……?」
こいつは何を言っているんだろうか。という目で思わず愛子をみてしまう。ボクが女?男じゃなくて?確かに制服の胸周りがきつくなったような気がする。確かにズボンの丈が長くなったのと感じる。だがそれは誤差だろう。はじめはその真偽を確かめるためにあるはずべきモノを触ろうとする。だが、そこにははじめが大事にしていたモノがなかった。
第二話「訓練」
「そんな落ち込むなって」
「とし君は‼黙ってて‼」
あれからいろいろありメイドに案内された部屋についたはじめは十四郎を怒鳴る。もう頭がパンパンなのだ。異世界やら世界を救ってほしいやら女になったやら。もうなにがなんだかわからない。それに
「本当に気づいてなかったの?」
「ああ。俺の幼馴染がこんなプリティーになってるとは思わなかったよ」
「もう‼ちゃかさないの」
この幼馴染は全く気付いてなかったのである。何年一緒にいたと思っているのだ。正直見た目がどれほど違っているかはわからないが軽くショックだった。
「戦争しないといけないって本当なのかな……」
「さあな。まあでも俺の手にかかればちょちょいのちょいよ」
「鍛冶師っていう職業だったのに?」
「それは言わないお約束だよ」
こんな状態でも変わってない。会話をしているとそう思った。おちゃらけていて人に心配させない。突然変な世界に飛ばされて自分も不安だろうにこっちの不安を和らげてくれる。
「まあでも、俺の鎧は誰も死なせない。ってね?かっこつけてみることよ」
「それは凄いね」
「だろ?目指せトータス一の鍛冶職人‼」
腕を曲げ力持ちのポーズをする。そのポーズに意味があるのかはわからないが、少し元気をもらったような気がした。
「そういえば騎士団長が明日から訓練っていてたよね」
「そういえばそうだったな。けど俺は特別訓練があるらしいから別だな」
「鍛冶師の?」
「そうそう。なんでも工房にお邪魔して訓練するらしい」
「そう。じゃあ、明日は別々だね」
「そうだな。お互いに頑張ろう。じゃあな」
「うん。じゃあね」
仲がいいと言えどもさすがに今は異性だ。こっちにその気がなくてもこの世界の人にとってはそうではない。それぞれに割り振られている部屋に着くと、そのままどろのように眠った。
☆
「おい。訓練の後こっち来いよ」
目つきの悪い嫌な感じをした男がはじめに小声で囁く。確か名前は
「こっちこいっていったろ‼」
だが髪を引っ張られ抵抗できないうちに訓練場の端の人目がない場所まで連れてこられてしまった。そこには檜山を中心とする集団の人物がそろっていた。
「今日は王子様はいないもんなあ?日頃の恨み晴らさせてもらうぜ」
急に襲ってくるお腹の痛み。それは檜山にお腹を殴られた証拠だった。思いっきり吐瀉物を吐く。食欲がなかったためか食べ物は出てこなかったが、かわりに大量の胃液が出てきた。
「いままでずっとこうしてやりたかったんだよ‼白崎さんに話しかけられてんのに澄んだ顔しやがって‼クソ野郎が」
腕が、足が、お腹が打撃を受ける。決して痣が見えないように服で覆われている部分だけに攻撃されていた。何分、何時間たっただろうか。無限に思われるその時間だったが奴らは一先ず満足したようで自分の部屋に帰っていったようだった。
「よ‼遅かったな。待ってたぜー」
「あはは、訓練でこっ酷くやられちゃって」
誤魔化せただろうか。部屋に戻ったときに十四郎がいたときは焦ったが、すぐに傷だらけである言い訳を考えた。
「ふーん、そうか。まっ、悩んだら言えよ?俺たち親友だから」
「ふふっ、なにそれ?」
この人と話してたらやっぱり気が晴れる。なんだがわからないけど明日も頑張ろうとそう思えるとはじめは感じていた。
翌日。その翌日もはじめに対する暴力は止まらない。むしろ過激になっていく一方だった。人の目に出来るだけ映らないようにしていたものもなくなり、次第に顔にも暴力痕が残るようになっていた。
「今日は火魔法も使ってみるか。火傷しても仕方ないよな?これ
「おい、大介。それは流石にまずいよ」
「は?お前が実験台になりたいのか?」
「い、いや。そういうわけじゃないよ」
つるみがある人間でさえ檜山を恐れるようになり、口出しをする者も減っていた。それでも檜山は止まらない。これはある種の熱病なのだ。幼き精神を持ったものが強大な力を持つことで起きる熱病。
檜山の作る火炎がだんだん大きくなっていく。小さな球ほどの大きさのものが人の顔よりも大きくなっていった。
「火傷にならないといいなぁ」
気持ちの悪い笑顔を浮かべる檜山が火炎をこちらへ飛ばそうとしてくる。その時
「なにをやっている?」
目を向けるとそこには重厚な鎧を身に着ける騎士が立っていた。
「め、メルド団長‼こ、これは南雲が訓練つけてほしいからって」
「訓練だと?訓練で癒えない傷を与える攻撃をしろと誰が言った」
「いえ、ですが」
「お前らはもういい。部屋に帰ってろ」
心底失望した。というような表情を浮かべ彼らを部屋に返すメルド。救護班を呼ぶとどこかへ行こうとしたがその前に一つ聞きたいことがあった。
「まずは助けていただきありがとうございます。一つ聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「いいが、なんだ?」
「どうしてボクがここでいじめられてるって気付いたんですか?ここ誰も来ないような場所ですよね」
「……。タレコミがあったんだよ。匿名でな」
一瞬言おうか迷ったのだろうか。一つ口を
「ありがと」
「ん?どうした帰ってきて早々」
部屋に帰ると十四郎がいる。はじめは十四郎が部屋にいること戸惑っていたが今では慣れてしまってベッドで寝転んでいる十四郎にお礼を言う。
「別に、ただ言いたかっただけだよ」
「そうか?ならいいんだが」
「そういえば、今日の訓練は楽しかったよ‼今までで一番くらい」
「そうか。ならよかった」
穏やかな夜が過ぎていく。一人の少年、一人の少女が巻き込まれていく運命に安らぎがあることを願って。