それでは、どうぞ。
「え〜、この問1はこのようにaの式をbの式に代入…」
痛い、頭が。机に突っ伏して午後の授業を聞き流し、痛みに耐え続ける。保健室にはいけない。午前中に使ったから。世の中偏頭痛持ちは結構な数いるらしいが俺もその一人だ。頭痛薬も飲んだのだが、一向に効いてこない。まあ、いつものことだが。
「では、次の問題を…長谷、答えられるか?」
先生が指名してくるが今の俺は声を出す事も苦痛であるため、いつものように頭の上でバツ印を作り「無理」と意思表示する。
「あ〜、なんだ。また頭痛か。しかしな、長谷。このままでは留年するぞ?それに多少は我慢出来るようにならないと就職出来たとしても早々にクビを切られる。私はお前にそんな人生わ歩んで…」
数学の教師であり、クラス担任の七瀬桜−通称せーら先生がなにか言っているが、いよいよ酷くなってきた頭痛によって邪魔されて理解出来なくなる。
結局、そのまま学校は終わり俺は教室を出て家に帰るつもりだったのだが、
「…あ〜、頭痛薬切れたからかっていかねーと。」
と、途中で思いだし薬局に向けて歩き出した。
さて、俺の地元はそこそこ田舎だ。スーパーは車で10分掛かるし、近くて便利がキャッチコピーのコンビニは隣町にしかない。薬局は辛うじてあるのだが、店主は気まぐれで定休日以外も結構休む。それがどうしたといえば今日がその気まぐれだったというだけである。
「くそ、あの爺さんほんとになんとかならないか?」
頭痛は治まる気配がなく、寧ろ悪化している。この状態で隣町に行くのは無理だろう。よって俺は諦めて今度こそ家に帰る…筈だった。僅か2秒で俺の周りに展開された魔法陣は、激しい閃光と共に俺を世界から連れ去った。
「め……よ…」
ん?どうなった?
「めざ……と、い…………」
確か、足元に魔法陣みたいなのが広がって、目眩がするほど光った…!?頭が…痛え。
「え〜い!起きんかこの寝坊助が!」
「あん?だれです?頭痛が酷いので静かにして下さい」
「ずつう?なんじゃそれは?まあよいか。我こそは魔王、ライカ・プリミティブ・ドラグーンじゃ。崇め、讃え、我の配下に加わるがよい。アーッハハハ。」
「魔王…だぁ?お前、コスプレイヤーか?」
「は?なんじゃそのこすぷれいやーとやらは?我は正真正銘真の魔王…というかお主、顔色が悪いのぅ。召喚魔法の副作用かの?じゃがそんなものがあるとは伝えられておらんのじゃが…」
と、自称魔王はなにか呟きながら思案している。あ〜駄目だ。意識が…とぶ…
「!お主、大丈夫か?しっかりせい!誰か回復術師をよんで…」
バタリと倒れた俺の最後の記憶は、泣きながらなにかを叫ぶ自称魔王の姿だった…
★
「…うん?」
次に目が覚めたのは、知らない部屋のマシュマロのように柔らかいベットの上だった。ベットの隣を見ると、紅い瞳と黒髪のロングストレートにまさに絶世の美女と言える顔立ちのお姉さん−自称魔王がいた。
「!?気が付いたかの?大丈夫か?痛い所ないかの?」
と、俺が起きたのに気づき、酷く震えた声で心配してくれる自称魔王。
「ええ、頭痛も治まりましたし、今の所は問題ないですね。」
「そうか、よかったのじゃ。」
と、安堵の声を漏らす自称魔王は、「さて、」と区切り
「では、改めて自己紹介といこうかの。先ほども申したが、我こそは魔王ライカ・プリミティブ・ドラグーンじゃ。お主、名を何と申す。」
「長谷彼方、17歳。庭菓高校普通科2年生です。あ、彼方が名前です。」
と、軽く自己紹介をしたのだが、
「う、む。途中からよくわからんかったが彼方、じゃな。さて、いきなりだがお主をこの世界に呼び込んだのは我じゃ。少々手を貸して欲しい事があるのじゃが…ここから先は機密事項も含まれる。命を賭けることにもなるであろう。じゃから今、決めて欲しい。お主は、異世界の為に、本来なら関係のないであろう世界の為に戦ってくれるか?否、と言うなら止めはしない。今はお主を帰す魔力が足りんが、しばらくはこの魔王城にて匿おう。」
と、俺の意思を尊重すると言う自称魔王。なんか…
「魔王って言ったらもっと強制的に戦わせるようなヤバイ奴かと思ってた。」
「心外じゃのう。我は魔族の王。王たる者、民衆の声を無視など言語道断。それこそ人族でもあるまいし。」
ふ〜ん。この世界じゃあ、どうやら人族の方がクソらしい。後は…
「魔王、いや、魔王様。確認しますが、生きていればあっちの世界にも帰れるんですよね?」
「ああ、魔族の王として、我が必ずお主を元の世界に帰すと約束しよう。」
だったら、答えは決まってる。
「魔王、ライカ・プリミティブ・ドラグーン様。この長谷彼方、貴方に忠誠を誓いましょう。」
「うむ、我の為、我が民衆達の為に手を貸してくれる事に感謝しよう。」
魔界暦3045年5月27日、俺は魔王様の配下の一員となった。
魔王城9階、総合会議室。そこに集められ、円卓を囲む者達。それを覗く俺。
赤い髪と緑の瞳、黒いシャツに紅のジャケットとズボンを纏い体のいたる所から炎が噴き出す男。
「魔王様直々の召集なんていつぶりだ?」
永炎なる四天王 ジーク・プリミティブ・フェニックス
透き通るような金髪と、氷のように冷たく光る蒼い瞳。すらっと伸びた体に純白のドレスを纏い、口には鋭い牙が生えた冷徹な美女。
「ド阿呆め、たかだか2週間ぶりであろうに。脳まで燃え尽きてしもうたのか?まあ、貴様は燃やすことしか能がないようなものじゃし、仕方あるまいかのう。」
華冷なる四天王 レイ・プリミティブ・バンパイア
「んだとゴラァ!」
「なに、事実を言ったまでじゃが。」
色の抜けた髪と瞳、華奢な体をし、おっとりとした雰囲気を纏うゴスロリ少女。
「全く、君達はいつも喧嘩ばかりだね。また魔王様に叱られても知らないよ?」
操怨の四天王 リリナ・プリミティブ・ネクロマンサー
「…よし、お互い今のはなかった事にするぞ。」
「…うむ、それが良い。お互い忘れるとしよう。」
紫色の髪と金色の瞳、額に生えた1対の角。いわゆる細マッチョともいうべき体を緑色の軍服で包み、黄色のユサールを羽織る青年。
「はあ…相変わらずだな、お前等は。前線を任されてる俺の気持ちにもなってみろ。腹立たしい!!」
雷冥の四天王 荒鬼雷斗
栗色の髪と瞳、細い体を包む執事服。他の4人が座る中彼だけは一歩後ろに立っていた。
「まあまあ、落ち着け。お前が最前線を任されているのは四天王の中でお前が最も適任であるという魔王様の御心の表れ。そう苛つくな。」
魔王補佐官 ロイ・プリミティブ・ナイトメア
「いいか?彼方よ。我が最初にお前を紹介するから、前半は黙っておれば良い。いいな?」
「は、はい。」
魔王軍最高戦力の四天王と唯一魔王補佐官が待つ中、扉を開くのは我が魔王ライカ様である。俺はといえば、ライカ様の後ろに隠れ、兎のように震えている始末。
「皆の者、此度の召集に応じ、ここに集まってくれた事、感謝するぞ。」
『ハッ、有難き御言葉。』
うわぁ。やっぱり俺の話し方って失礼に当たるのかな…ヤバイ。緊張する。なんて考えてる間に一番派手な席につくライカ様。
「で、今回の召集、その真意はどのようなもので?」
と、ライカ様に尋ねるロイさん…だよな確か。
「うむ。先日、とうとう異世界より協力者を召喚することが出来た。」
「マジかよ!」
「ついに、ですわね。」
「てことは〜反撃開始かな?」
「…でその協力者ってのはその魔王様の後ろに隠れている奴の事ですか?」
「うむ、そうであるが…」
「だったら、俺はそいつを軍に迎えるのは反対です。そのような腰抜けが、我々と共に戦うなど、傲慢にも程がある。それにしても…」
腰抜け、腰抜け…か。そうかもな。だって俺は…
違う
「逃げんなよ、偏頭痛なんて訳わかんない理由で」
お前等こそわからないくせに
「お前のせいだ」
僕は悪くない
「お前が逃げなきゃ」
僕は逃げテナイ
「…ダイキライ」
イカナイデ
イヤダ、ボクヲ…ヒトリニシナイデ
「雷斗、黙れ。」
「え?」
ライカ様が俺に片手を翳し、雷斗さんを牽制する。
「な、何故です!我らを恐れ、魔王様の後ろに隠れるような者を、人族との戦に巻き込むなど!それこそ罪無き命を失う事になるのですよ?ましてやその者は異界より呼び込んだ客人。その命を此方の勝手な事情で散らすなど言語道断!!決して許されることでは…」
「魔王ライカ・プリミティブ・ドラグーンとして命ずる。『黙れ』」
その言葉は決して大きくなかった。だが、
「ギッ!?」
それは呪縛の鎖に変換され、確かに雷斗さんを縛った。あれが魔法なのか?そんな疑問を持つが次に口を開いたのは金髪の吸血鬼、レイさんによって思考は途切れた。
「…雷斗の意見は確かなものだ。しかし、どうするかはその者自身から訊くべきである、と妾は感じるのじゃがのう。異議のある者はおるかの?」
『…』
「おらんようじゃな。ではその者に訊くとしよう。ソナタはこの世界で、どうするのであるか?その口が飾りでないのであれば、答えてみよ。」
そうして俺に集まる視線。さて、ライカ様が何か言おうとするが、
「ライカ様、もう大丈夫です。後は…自分で話します」
「し、しかし」
ライカ様は止めるが、
「魔王様、ちょっと過保護すぎるんじゃないの?そいつも自分でやるってんだから、漢を見せてやらせてくれよ。な?」
白い髪の少女、リリナさんがドスの利いた声でそんな事を言う。え、何?元ヤンなの?ま、まあいいや。とにかく
「そういうことです、ライカ様。お願いします。」
「…全く、前半は何もしなくていいと、言ったであろうに…では、後は好きにせい。」
そう言って手を下ろすライカ様。
「ありがとうございます。」
そう言い、俺はライカ様の前に立つ。
「改めまして、ライカ様に召喚された長谷 彼方です。よろしくおねがいします。あぁ、彼方が名なのでそっちで呼んで下さい。」
「うむ、では彼方。ソナタはどのような利益を我らにもたらす。」
レイさん、ガンガンくるな…。
「ええ、最初に言っておきますが俺が最前線に出るのは無理です。少々事情がありますので。」
「ほう?だったら、どうやって人族との戦争に手を貸してくれるんだ?俺は足手まといなんぞいらないとおもうが。」
と、冷静に尋ねてきたのはさっきまで静かだったジークさん。いやアンタ俺が入る前とキャラ変わってるよね?まあいいか。
「はい。最前線に出ても意味がない。だったら俺に出来るのは敵の撹乱ぐらいかな、と。これでも俺も人間、いや人族なので偽の情報を流すとか。敵の策を潰すとかは出来ると思います。」
そう、俺は偏頭痛持ちだ。したがって戦闘自体は参戦出来ない。例え参戦出来ても気候、湿度、気圧。これらが変動すると偏頭痛で動けなくなる訳だからどうやっても足手まといだ。
だったら、策を考え、敵を翻弄し、確実に勝利を導くしかない。幸い俺は地頭はいい方だしな。
「…ふむ、良いであろう。四天王が一人、レイ・プリミティブ・ヴァンパイア、ソナタの事を認め、我らの協力者として歓迎しよう。」
レイさんはそう言い、俺を歓迎してくれた。
「まあ、俺の邪魔をしないならいいか。四天王、ジーク・プリミティブ・フェニックス、お前を魔王軍の一員と認める。」
「まあ、ゴホン。まあ及第点かな。四天王、リリナ・プリミティブ・ネクロマンサー、君をしゃて…魔王軍の一人とみとめま〜す。」
「ふむ。私も異論はない。魔王補佐官、ロイ・プリミティブ・ナイトメア、貴殿を歓迎する。」
ジークさんとリリナさん、ロイさんも認めてくれた。あとは…
「…あの、ライカ様。そろそろ雷斗さんを解放してもいいのでは?」
そう。雷斗さんは俺が話している間、ずっと呪いで喋れなくなっていたのだ。流石に可哀想である。
「ん?ああ。忘れておったわ。ほいっと。」
と、いう気の抜ける掛け声と同時に雷斗さんの口が開く。
「っはぁ…チッ。それだけ考えてるならそれでいい。俺が一番嫌いなのは、自分を過信して何も考えてないで死んでいく馬鹿だからな。四天王、荒鬼雷斗、お前を歓迎する。」
よかった、これで全員。俺は晴れて魔王軍の一員となったのだ。と、纏まった所でライカ様が口を開く。
「…なぁ、彼方よ。お主が戦闘自体はしないというのは、お主が言っていた頭痛とやらのせいなのか?」
「ああはい。そういや、この世界に天気によって頭が痛くなる偏頭痛ってありますか?」
と、返答ついでに尋ねるとロイさんが
「似たようなものであればイアイタマタという病はあります。」
「えっと、ならそれ用の薬なんかは?」
頼む、有ってくれ。俺の生命線!!
「残念ながら私は存じません。他の皆様方はいかがですか?」
「しらねーな。」
「妾も解らぬ。」
「僕も知らないな。」
「早く人族を燃やしたい。」
…マジ?誰も知らないようだ。てかリリナさん僕っ子だしジークさんなんか物騒だな…あ、そうだ!
「ちなみに回復魔法とかは…」
「彼方、すまんが回復魔法はイアイタマタには効かないのじゃ。理由が不明で対策も出来ないので我もこまっているが…」
これから綴られるのは、
… お わ っ た
魔王と共に世界を支配し、
「スゥ~。」
しかし、英雄は偏頭痛持ちの
「頭痛薬無しでどう耐えればいいんだよ〜〜!!」
こんなセリフから始まる、新たな救済の物語。
絶望(頭痛薬が無くて)
補足
偏頭痛 痛い。酷い時は布団から出る事すら出来ない。作者は年に1回それで学校を休む。気圧、天気、気温差など様々な理由で痛くなる。
主人公の偏頭痛は最強クラスで、基本的に痛いときは寝込むぐらい。今作では回復魔法も効かない設定。
転移先 頭痛薬なんぞ無い。
もしかしたら続く…かも?