今回短めです。
「確か徐伴といったか、そういうことで悪いが指揮を頼む」
「ハッ、大王……いえ、漂殿もどうかお気をつけて」
「ああ、壁もよろしく頼む」
「勿論です、必ずや合流地でお会いしましょう」
結局隊を率いてもらうこととなった二人に声をかけ、横を振り向くと、俺にぴったりつくように蓮荷がいて、その後ろに三十名ほどの兵が見えた。
速歩ていどととはいえそこそこの速度で馬を走らせながら短時間で編隊したことから精兵と分かる彼らが蓮荷と共に俺に付き従ってくれる者たちなのだろう。
意志の籠った目で俺を見つめる彼らに安心感を覚えながら、未だ後ろを走る残りの兵たちに振り返り声をかける。
「聞いての通りだ! 俺は離れるがお前たちは二人について行ってくれ!!」
まだ状況を吞め込めていないのか反応が鈍い兵たちに、微笑みながら再度いう。
「将として命じる。生き延びろ!! そして後で合流地で会おう。いいな!!」
「「「「「ハッ!!!」」」」
俺の声にはっと我に返ったように威儀を正し、声をそろえて返事をした兵たちを見てから俺は馬首を翻した。
俺の目線に合わせてついてくる蓮荷と三十の騎馬、そして壁と徐伴が大声で指示を出してそれぞれが目的地に向かって走り出した。
ここから俺が兵たちにしてやれることは精々敵兵の目を引き付け、彼らを追う兵を減らしてやることのみ。
俺含めた三十余騎が向かうは本隊右手から現れた新手およそ三百騎。
俺は真っ直ぐ敵騎馬隊に向かうのではなく少し迂回しつつ近づいていく。
敵騎馬隊は本隊の横腹を食い破るべき邁進してきており、本隊から離れた俺とは少し進路がずれてきている。
敵騎馬隊は本隊が二つに分かれバラバラに動き出したのを見てどちらを追うか迷っているようだった。どちらに大王がいるのかを確かめようとしているのだろう。
ほんの小勢であるである俺たちは気付いていないのか、気付いていていて放置しているのか分からないが、敵騎馬隊は俺たちに対して特別な動きは見せなかった。
まさか、標的である俺が数十騎しかいない集団にいるとは夢にも思わないのだろう。
迂回しながら敵騎馬隊の動きを窺っていると後ろの兵の一人が声をかけてきた。
「にしても漂さんは剛毅っすね。わずか三十騎で十倍の敵に突っ込むとは。はっきり言って正気の沙汰じゃないっすよ」
「こら、鯉郭。口が過ぎますよ」
鯉郭と呼ばれた兵をちらりと見やると未だ年若い男だった。今の俺よりは年上とはいえ日本であれば精々高校生くらいの年齢だろう。彼は徐伴により真っ先に選ばれた者の一人だったはずだ。若さに反して使い込まれた防具や剣は彼がただの若兵でないことを主張している。
ざっくばらんな口調の彼に好感を覚えながら蓮荷に窘められている彼に声をかける。
「いや、いいさ。鯉郭、俺は別に一人で十人倒せ、などというつもりはない。俺たちは今から敵の横腹を食い破って向こうに抜ける。直接ぶつかるのは同数がいいとこだろう」
「ははっ、おっしゃる通りで」
「……しかしそれでも危険なことには変わりありません。せめて先頭を走るのはお控えください」
蓮荷は俺を案じてそう言ってくれているのだろうが、これは譲れない。
どうせ三十騎ならどこにいても危険度にそう変わりはないだろうし。笑みを浮かべながら口を開く。
「いや、指揮官先頭は将の特権だ。これは蓮荷にも譲るわけにはいかないな」
「ひゅー、これは頼もしいっすね」
「鯉郭!!」
また蓮荷に怒られる鯉郭。
ただのお調子者のようにも見えるが、この俺たちのやり取りを聞いて今から死地に向かうのだと緊張していた兵たちの雰囲気が柔らかくなったのを感じた。
やはり、この若さで彼らの主である蓮荷の供回りに選ばれるだけあって彼も非凡な者らしい。頼もしい味方を得られたことを喜びつつ、もう間近に迫った敵兵を見据えながら檄を発する。
「という訳で、お前たちは先ほどと同じくただ俺の背を追え。まだまだ先は長い。一兵も離脱せずについてこいッ!!!」
「「「「応ッ!!!」」」
兵たちの士気は上々。
俺は機を見計らってまだ余裕を持たせていた馬の足をさらに早めさせる。
その機とは敵が丘を下りきったその瞬間。
下り坂で勢いの付いた騎馬たちは地面が平面となったとき僅かに減速する。一騎ならば問題にならないそれも数百ともなれば明確な隙となる。
俺はこの敵騎兵がわずかに詰まる、この瞬間を待っていたのだ。
勿論、敵は王騎将軍の兵。そんなものすぐに立て直すのだろうが、俺はそんな時間を与える気などまったくなかった。
いよいよ敵騎馬隊が平面に差し掛かった。
瞬間、俺は大声で号令を発した。
「今だ! 突撃ィッ!!!」
「「「ウオオおおおぉぉおお!!」」」
敵兵が体勢を立て直す前に思い切り突っ込んでゆく。
俺も腹の底から蛮声を上げながら騎馬の勢いのまま敵兵に斬りかかるッ!
こんな小勢で本当に突っ込んでくるとは思っていなかったのか、敵兵たちは面食らったようで武器すら構えていないものが多くあった。無論そんな隙を見逃すはずもなく、茫然とこちらを見やる敵兵の首に剣を振るう。
呆気ないほどに簡単に斬り飛ばせた敵兵の首の行方を見る暇すらなく、他の兵が繰り出してきた槍を身をよじって避けてカウンターで槍を持つ腕を両手共に斬り飛ばす。
別の兵が剣を抜いて斬りかかってきたので何とかこちらも剣で受け止めるとその瞬間俺の後ろにいた蓮荷が躍り出てその兵を斬り殺した。今度は蓮荷に飛んできた槍をはじき、勢いに押されて落馬した兵を馬蹄で踏みつぶす。
またも視界が開き、敵の壁を抜けたことが知れた。
「蓮荷、損害は!?」
「傷を受けたものはありますが、離脱者はいません!!」
ひとまず危機を脱したが、まだまだ危険には変わりない。というか、大王の恰好をしたまま敵陣突破というこの上なく目立つ行動をしたのでいまから敵兵をこちらに殺到してくるだろうから、むしろ今からが本番だ。
速度を落とさずに馬を走らせていると、横に蓮荷が付いて懐から出した布を差し出してきた。
「漂様、これを」
気づかわしげな彼女の目線をやると俺のわき腹から血が流れていることが分かった。
どうやらさっきの突撃で知らぬうちに傷をつけられていたらしい。アドレナリンでも出ているのかまったく気付かなかった。
とはいえ、あまり深い傷ではないようだったので蓮荷の差し出した布は断った。
「治療は後だ。ひとまずこの束達の丘から脱するぞ」
「……分かりました。しかしあとでしっかり治療を受けてもらいますからね」
そういうことになった。
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