だんだんあざとくなっていく恵を見守ることができる読者向け

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成長しているんだろうか


メインヒロインは加藤恵であるが 加藤恵は正妻である。

 

 

 6月。外は雨が降っている。学校帰りにいつもの喫茶店で雑談・・・じゃなくて打ち合わせをする4人。

 

 

 

 瞳からハイライトが消えたまま、恵はストローで烏龍茶を飲んだ。

 

 

 

・・・主題に入る前に、時間を少し遡って何があったかを話しておこう。

 

※※※

 

「だから、詩羽先輩のメインヒロイン論は違うんですって!」

倫也が少し熱くなって話をしている。

「ちょっと、まって倫也。さも討論していたかのような導入はいいとして、あたし、納得できないんだけど?」

「どうした英梨々?」

「なんで、倫也の隣に恵が座っているのよ?」

「えっ、問題あるの・・・」

 

座席右奥に倫也、手前に恵。左奥に詩羽、その手前に英梨々が座っていた。英梨々が取り上げたのは『席順』についてである。

 

「あたし、今回はほとんど出番ないし、倫也がこの席順で進めるなら帰るわよ?」

「あら、澤村さん。ずいぶんと細かいことにこだわるのね」

詩羽がきく。

 

「それとも、恵は倫也の隣に座りたいのかしら?」

 

英梨々は立ったまま恵を見下ろしている

倫也が横目で恵の表情を確認する。まだフラットのままだ。

 

恵的選択分岐

①(別にかわるけど?) 

②(そのセリフ、そのまま英梨々に聞いてもいいかな?)

③(だって、倫也くんはわたしのだもん)

④(ねぇ安芸くん?どっちの隣に座りたい?)

 

「うーん。②かな。そのセリフ、そのまま英梨々に聞いてもいいかな?」

「別にあたしは倫也の隣に座りたいわけじゃないないわよ?勘違いしないでよねっ」

「えっと・・・なら、なんでかな?」

「フッ」

 

英梨々が鼻で笑い勝利の笑顔を浮かべている。

 

「席順には序列があるのよ、恵。いいかしら。まず代表の倫也が上座ね、次席はシナリオライターの霞ヶ丘詩羽よね。そしてイラストレイターのあたしが三番手だから、倫也の隣なのよ。別にメインヒロインのあなたが二番手でもいいけどね」

 

どうだ、この完璧な正論。と勝ち誇る。

 

恵的選択分岐

①(やだ、何このおっさん)

②(えっ?嫁に行きそびれたお局の発想怖い)

③(えりりんごwww)

④(ねぇ安芸くん、どっちに隣に座りたい?)

 

「えっと・・・①はイメージ崩れるし、②?②だよね?③はちょっとキャラ的に問題だし、②だよね?」

「あんた、何1人でぶつぶついってるのよ」

「ああ、うん。ねぇ安芸くん、どっちの隣に座りたい?」

「ごふぅ」

 

倫也が知らん顔で水を飲んでいたが、突然話を振られて水を吹き出す。

 

「そ・・・そうだな。なんか席順にこだわるのが1人いるようだし、ここは波風立てないように従うっていうのが大人な対応だと思うんだけど・・・どうかな?」

 

恵の顔が怖くて見られない。倫也が正面にいる詩羽に助けを求める。詩羽は水を飲んで目をそらせている。関わりたくないようだ。

 

「そう?それが安芸くんの選択なんだ?一番、波風立てないんだ?」

「さぁ、みんなで飲物取りに行こう~」

 

オーダーはフリードリンク4つだ。倫也は明るく話題をそらす。

 

「倫也、あんた座ってていいわよ。あたしがとってくるから」

 

倫也だけ残して3人がドリンクバーに行った。

 

「生きた心地しないけど・・・なんで、こんな話になってんの!?」

 

倫也が独り言をいった。

リアリティーを追及した結果、当然の序曲である。

 

※※※

 

3人が戻ってくる。英梨々は小さなトレイにカップを二つ乗せている。

 

「はい、倫也」

「ありがとう。で、なにこれ?」

「ハーブティー、ハイビスカスとカモミール。好きな方を試してから選んでいいわよ」

「うん」

 

・・・試して?口をつけて飲んでから選ぶのか・・・危ない。地雷踏むとこだった。

 

「カモミールもらうよ」

「そう?つまらないわね」

 

英梨々は倫也の左隣にピタリとくっつくように座る。満面の笑みを浮かべる。

 

「もう、仲がいいなぁ」

 

恵が明るい声が聴こえた。よし怒ってないなと倫也が恵の方をみる。そんなわけあるわけなくて、口元には笑みを浮かべているが目が漆黒でぜんぜん笑ってない。倫也はすぐに目をそらす。

 

「というわけで、前座は終わり。倫也、メインヒロイン論どうぞ」

「お・・おう・・・」

 

倫也は胃のあたりを抑える。今度の短編からは胃薬飲んでから挑もうと思った。

 

詩羽はアイスコーヒーを一口飲む。メインヒロイン論について特に意見があるわけでなかったので、考えなければいけない。

 

以上、冒頭に戻る。

 

※※※

 

 瞳からハイライトが消えたまま、恵はストローで烏龍茶を飲んだ。

 

恵を横目に見て、詩羽は少し口角を上げて笑った。サディスティックな笑みに倫也は嫌な予感を覚える。

 

「じゃあ、そろそろ始めましょうか倫理君」

「ええ、お願いします詩羽先輩」

「私はどうしたらいいのかしら?」

 

詩羽パスを投げる。会話の主導権を相手に握らせてから落とすのが趣味。

 

「まずは詩羽先輩のメインヒロインのイメージを教えてもらっていいですか?」

「そうね、私としては一般論の域を出ないわよ。物語の主軸であり、登場回数も多い女性よね。その上で幼馴染、ツンデレなどの属性をもっているキャラクターじゃないかしら?」

「えっ?それあたし?」

 

英梨々がちょっとびっくりする。恵が無表情のまま目を瞑っている。努めて平静を装う。

 

「実際そうなのよ。もちろんタイトルからすれば『冴えない彼女』の加藤さんを示すでしょうけど、物語の構成としては澤村さんが中心よね。恋敵の私や、幼馴染のお株を奪う産まれた時から一緒の氷堂さんや、上位互換の波島さんなど、ぜんぶ澤村さんと対比して登場しているもの」

「上位互換が気になるわね・・・」

「どうかしら?倫理君」

「詩羽先輩の意見はよくわかりますよ。それに金髪、ツインテール、金持ち、病弱(後付け)などのキーワードも網羅しているし」

「あら、あたしがメインヒロインでいいんじゃないの?」

 

英梨々が倫也の腕にまとわりつく。

 

「でも、それは一般論だからな。英梨々」

 

倫也が英梨々を離す。ほんと怖いから。

 

「それで、私も気になって『メインヒロイン』『wiki』で検索してみたのよ。そうしたら、アニメwikiが最初にあるじゃないの。そこに、いろんなアニメのメインヒロインと解説があったのだけど」

「へぇー」

「加藤さんはいなかったわね」

「うわぁああ!?」

 

倫也が立ち上がる。慌てて恵の方をみる。

 

恵が石になった。そのあと『ピシッ』と音ともにヒビもはいる。

 

「あら、恵。ずいぶんと器用なリアクションとるようになったじゃないの」

「私はてっきり、世界がなくなるかと思ったのだけど」

「なくなると思ったなら自重してください!?詩羽先輩!」

 

倫也が座って、ため息をつく。

 

「で、倫理君のメインヒロイン像はどういうのかしら?」

「そうよね。あたしや霞ヶ丘詩羽はあんたのイメージでゲームを作るわけだから」

「そうだな・・・要するに加藤だよ」

「倫理君、それ答えになってないと思うわよ?」

「そう?」

「だって、加藤さんがメインヒロインなのは知っているもの。で、具体的に加藤さんのどこがメインヒロインなのよ?」

「どこっていわれても・・・全部?」

「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?何よ、全部って、それじゃあ意味が通じないでしょ」

「そう?」

倫也いたって冷静だ。

 

詩羽がコーヒーを一杯飲む。

 

「じゃあ、聞き方を変えるわよ。加藤さんのどこがいいのかしら?」

「そんなの・・・まずは『可愛い』ところだよね!?」

「はぁ?」

 

英梨々が納得いかない。

倫也はおそるおそる恵を見る。

 

「・・・あれ、加藤がいないぞ」

「ほんとだ」

「あら、ドリンクバーにいるじゃない。再起動したのね」

「ちっ」

「英梨々、舌打ちした!?」

「いいのよ。で、可愛いからなんだっていうのよ?」

「大事だよね?」

「でも、倫理君、そこのペタンコだって可愛いんじゃないかしら?」

「そうね、そこのちょっとぽっちゃりしているのも可愛いわよね?」

「もちろん、2人も可愛いと思う。学校でも有名な二大美女だし」

 

2人はうなずく。

 

恵がもどってくる。ホットコーヒーを淹れている。

無言のまま席に座る。

 

「だったら、私や澤村さんと加藤さんには差がないことにならないかしら?」

「ならない」

 

倫也がきっぱりいう。

 

「あら、どうしてかしら?」

「加藤は・・・声も可愛い。澄んだ高い声が耳に心地いいし・・・」

「声?」

 

倫也がうなずく。

恵の耳がちょっと赤い。

 

「他は?」やれやれ、とんだ茶番よね、と思いながら詩羽が聞く。

 

「あとは・・・仕草とか、口調とか、ファンションセンスとか、それから料理が上手いところとか、気遣いとか・・・」

「それ、倫理君が加藤さんを好きってだけなんじゃないかしら?」

「ちがうから!」

「そこは否定するのね・・・」英梨々はあきれる。

 

「それらが、俺のメインヒロインのイメージと重なるって話だから!」

 

恵の顔が真っ赤で頭から湯気がでている。顔だけはフラットさをかろうじて保っている。

 

「それで全部かしら?」

 

あとで出演料倍額請求しようと考える詩羽が聞く。英梨々は次回作の台本を読んでいる。

 

「あとは・・・一緒にいてくれるところ・・・とか」

 

恵の表情が緩む。

 

「それから・・・一緒にいると楽しいし・・・」

 

恵は体を左右に揺らしている。

 

「だから、メインヒロインは加藤恵なんだよ!詩羽先輩」

「あっそ・・・」

 

えへへっ、と表情を崩して恵が笑っている。誰、この可愛い子。

 

「というのが、俺のメインヒロイン論なんだけど、加藤はどう思う!?」

 

倫也は立ち上がって恵の方を見て聞いた。

恵が倫也の方をみる。顔を一瞬だけフラットに戻す。すぐに笑ってしまうので、下を向いて顔をぺちぺちと叩く。

それでも収まらないので、手のひらを倫也に向け、ちょっと時間をくださいのジェスチャーをする。

少したって、一口コーヒーを飲む。

 

それから、横を向いて照れた表情をしながら

 

 

 

「そ・・・そんなの・・・知らないよ」

 

 

 

と、呟くように答えた。

 

 

 

(了)

 

 



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