リバーサル・ワールド   作:朱花

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枠組みがファンタジーであっているのか分からない⋯⋯


作戦開始

 常人には持つことすらも叶わない能力『異能』。 この世の中にそう呼ばれたものが誕生したのは、今から約150年前と定義されている。 当時、異能を持った存在『異能使い』は多少恐れられてはいたが、法整備などにより大きな問題には発展していなかった。

 ―――しかし、変革が起きたのはそこから約30年後のことであった。

 

 後の世にて『災厄の日』と呼ばれる大災害が世界中で相次いで発生した。 それによる死者は億を超えるとも言われている。 そんな世の中では、法律なんて速攻で無に期した。 異能使い達が狂ったかのように暴れだし、世界中の国々を支配していった。

 

 そして⋯⋯その日から世界は狂い出した。 全ての尺度が異能の強さに左右される実力世界。 かつての民主制を嘲笑うかのような社会が形成されたのだった。

 

 しかし、そんな状況を良しと思わない者たちもまた水面下にて行動を開始していた。 人々はそんな光の存在を『革命軍』と呼び、全力で支援を行っていた。

 

 ―――ここにもまたひとり。

 ギラギラとネオンが闇を照らす街の路地裏、ほとんど人の通りがないその場所にて、五人の男女がヒソヒソと何かを話していた。

 

「皆、準備はいいな?」

 

 その内の一人の言葉に、残りの四人が頷く。

 

「よし! それじゃあ行くぞ! この腐った世界を⋯⋯ぶっ壊すために!」

 

 そうして彼らは闇の中へと消えてゆく⋯⋯新たなる世界を創り出すために。

 

 ―――

 

「⋯⋯さぁさぁテメェら! 今夜は無礼講。 共に飲み明かそうぞ!」

 

「「「うぉぉぉぉ!」」」

 

 壇上に上がった妖艶な美女の掛け声にその場にいた男たちが湧く。 皆一様になみなみと酒が注がれたジョッキを掲げて狂乱する。 ここは国際的犯罪組織『毒蝶』の会合場。 今日のひと仕事を終えて上機嫌の様子だ。

 

「乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 大声を上げて騒ぎ立てる男たちはガヤガヤと喚きながら上機嫌で酒やつまみを平らげていく。

 

「⋯⋯ひゃっ! すっ⋯⋯すいません!」

 

 そんな折だった。 酒を運んでいた少女が派手に転び、床にジョッキを落としてしまう。 ガラスが割れる喧しい音が会場中に響き渡り、参加者の視線がその一点に集中した。 楽しい雰囲気をぶち壊されたことにご立腹の様子で、少女を睨みつける⋯⋯

 少女は目に涙を浮かべながらビクリと肩を震わせている⋯⋯

 

「⋯⋯おいアンタ。 よくも折角の楽しい雰囲気をぶち壊してくれたなぁ。 ⋯⋯へへっ覚悟は出来てるんだよなぁ?」

 

 それは酒からか、はたまた欲情してか、ほんのりと顔を赤らめた男が下卑た笑みを浮かべながら床に座り込んでいる少女の肩を掴む。

 

 ―――それが合図であった。

 

「⋯⋯なんだなんだ?」

「電気だ! 電気が落ちている! ブレーカーを上げろ!」

 

 前触れもなく会場中の電気が切れ、暗転した。 男たちは少女のことなど忘れ去り、声を荒らげながら電気の復旧に取り掛かる。

 そして⋯⋯その喧騒に紛れて男たちは気が付かなかった。 断末魔のような小さな呻き声が上がっていたことに。

 

「⋯⋯おいお前たち! ネズミが入り込んでやがる! ⋯⋯即刻抹殺しろ! 魔剣が盗まれたぞ!」

 

 電気が復旧した途端、いつの間にか再び壇上に上がっていた女が指示を飛ばす。 男たちはその言葉を受けて、胸元から拳銃を取り出した。

 先程までの浮ついた雰囲気を感じさせぬ、氷のように冷たい、裏の者たちの表情である。

 

「⋯⋯よーしテメェら! 絶対に逃がすなよ!」

「「「うぉぉぉぉ!」」」

 

 叫び声を上げながら男たちは女の護衛である数名を残して、会場の外へと散らばっていく。

 

「この会場内も念の為精査致しますね」

 

 側近の男の提案を了承する。 そうして扉が閉じられ、会場内の調査が始まった。

 

「⋯⋯さて。 アイツら⋯⋯しっかりやってくれよ?」

 

 偉そうに椅子にふんぞり返りながら、女は誰に言うわけでもなく呟くのであった。

 

 ―――

 

 時を同じくして会場外では、彼らの魔剣を盗んだ()()()の捜索が行われていた。

 静まり返った夜の中に、男たちの喧騒が響き渡る。

 

「⋯⋯ふっふっふっ! ご苦労なことですねぇ」

 

 遠くから聞こえてくる喧騒を聞きながら、人気の無い路地裏にてどこか楽しげに呟く少女がいた。 そんな少女を横のニコニコとした青年が軽く小突く。 少女は「いたっ!」と軽く呻いた後、小突かれた場所を手で抑えながら恨めしげに青年を睨みつけていた。

 

「まだ任務中でしょ? 最後まで油断しちゃダメだよ〜」

「⋯⋯ナビィ、すぐ油断、だめ」

「ほら、シノブちゃんも言ってるじゃん?」

「うぅ⋯⋯わかりましたよぉ。 ⋯⋯って言っても、もう着くじゃないですか? ちゃんと剣も盗んで来ましたし⋯⋯あれ?」

 

 ナビィと呼ばれた少女はそう言いながら、ポンッと腰の辺りを叩く。 そして⋯⋯顔を青くした後にバンバンと何度もそこを叩き続けた後に、絶望的な表情を向けた。

 

「⋯⋯ない、です」

「は?」

「⋯⋯盗んだ剣がないんですよ!」

「⋯⋯嘘でしょ?」

「ナビィ、嘘、よくない」

 

 そんな彼女の言葉にさすがの青年も笑みを崩し、シノブと呼ばれた銀髪の少女も感情の薄そうなその顔を驚愕の色に染め上げていた。

 

「⋯⋯どうしますか?」

「どうするって言っても⋯⋯」

 

 気まずそうに下を俯くナビィを見つめながら、青年は頭を掻く。

 

「⋯⋯敵、近く、来てる」

 

 シノブが長い銀髪を掻き上げながら呟いた。 耳を澄ませば、遠くから大きな足音が少しずつこちらに近づいてきていることが容易に理解出来た。

 

「⋯⋯ッ! 仕方ないねぇ。とりあえずターゲットは殺せたから⋯⋯一旦退こうか」

 

 青年は顎に手を当てて少し考えた後⋯⋯ 苦虫を噛み潰したような表情をして撤退を決意した。

 

「シノブさん、ダリアさん⋯⋯ごめんなさい」

「大丈夫、目的、果たしてる。 ミス、仕方ない」

「そうそう。 気にしなくても大丈夫だよ〜」

 

 ダリアと呼ばれた青年は俯くナビィの頭をポンポンと叩いた後、彼女の手を引いて再び走り出した。 眠らない街の品のない光の中に、彼女ら三人の姿が呑まれていくのであった。

 

「⋯⋯やれやれ。 ビックリしやしたぜ⋯⋯」

 

 静まり返った路地裏にてひとり呟く男がいた。 三角笠を目深に被り、マントを羽織ったその男の格好は明らかに異様なものであった。 そんな彼の腰の辺りは不自然に膨らんでいる。

 

「⋯⋯おやおや。 皆さんお揃いでどうかしやしたかい?」

 

 その男は路地裏を出たところで、ナビィ達を追っていた男たちと鉢合わせる。 男たちはその問いに答えることなく、すぐさま背筋を伸ばして勢いよく頭を下げた。

 

「「「お疲れ様です! ガイザ様!」」」

「あー。 大丈夫でございやす」

 

 ガイザと呼ばれた男は、自分に向かって依然頭を下げたままの彼らを鬱陶しげに制している。

 

「それで? 揃いも揃ってここで何をしてたんですかい? 今日は宴だったような⋯⋯」

「⋯⋯賊が入り込んで、我らの魔剣を盗んでいったのです」

「⋯⋯へぇ?」

 

 その言葉に一番前にいた男はビクッと震える。 見ると、ガイザは腰の辺りをモゾモゾと漁っていた。

 その動作に他の男たちは思わず身構えていたが、先頭の彼は恐怖のあまり声をあげることも叶わない様子であった。

 

「⋯⋯お、お許しを」

「⋯⋯くらいやがれ」

 

 氷のように冷たいその声と共にガイザは何かを抜き放つ。 その何かは、常人には視認することも叶わない速度で先頭の男の首元に突きつけられた。

 

「⋯⋯何で目をつぶっているんでございやすか?」

「⋯⋯え?」

 

 ガイザの言葉で、ひんやりとしたその感覚に気がついた男は恐る恐る目を開き、驚愕の表情を見せた。

 

「これでございやしょう? 見かけたんで奪い返しておきやしたぜ?」

 

 ガイザは三角笠を上に押し上げ、悪戯な笑みを浮かべながらそう言った。 そのまま手に持つ魔剣を腰に差し直す。 男たちはその動作を見届けた後に⋯⋯喉を震わせて雄叫びをあげた。

 

「さすがはガイザ様! 『毒蝶』最強の男!」

「お見逸れ致しました⋯⋯まさかそんなに鮮やかに奪い返すとは⋯⋯」

「⋯⋯宴にいなかったのはこれを予想しての行動だったのか⋯⋯」

「いや⋯⋯それは酒を買っていたんでござい⋯⋯」

「またまたご謙遜を」

「力に溺れないガイザ様は素晴らしい!」

「魔剣も取り戻したことですし、もう一酒行きましょうぞ!」

 

 男たちは力の限りガイザを持ち上げる。 何やら若干の誤解が生じているようだが、色眼鏡がかかりまくっている男たちにとっては些細なことである。

 内心で苦労するガイザを他所に、盛り上がった一同は再び宴会場へと向かうのであった。

 




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