リバーサル・ワールド 作:朱花
ここは、とある国の外れに位置する「革命軍本部」その一角にて、現在怒号が響き渡っていた。
「それで⋯⋯お前たちは失敗して帰ってきたと」
「いや⋯⋯だから失敗してねえっての!」
大きく机を叩きながら声を荒らげるのはニコラ。 彼女は目の前に座る大柄の男を忌々しげに見つめている。
「ニコラ、暴れる、良くない」
「そうだよ〜。 ちょっと落ち着きなよ〜」
「うるせえ黙ってろ! これで落ち着いてられるかよ!」
そんな彼女を止める仲間の健闘も虚しく、ニコラは男に喰らい付いていく。
「⋯⋯お前たちが失敗していなかったとしても関係ない。 結果として、お前たちは魔剣の奪取に失敗した」
「だから! テメェは倒せるのかって聞いてるんだよ、『雷神』を! それに『毒蝶』の会長は始末したんだから別に問題ねえだろ!」
「そもそも出会さないように行動出来たはずだろう? 一度奪った魔剣を奪い返されるなどという失態を起こしたのは君たちの責任だ」
必死の弁明も冷たくあしらわれたニコラの激情は留まるところを知らない。 遂に炎をその手に灯しだした。 しかし、「出て行くがいい」という声と共に彼らはつまみ出されるのであった。
「⋯⋯くそっ! ムカつくなぁぁぁ!」
「是。 自分だけ安全なところでぬくぬくしておいてあの言い草⋯⋯ものすごく苛立ちを覚えます」
「ですよねー。 私もあの人苦手ですー!」
廊下を歩きながらも彼女らの激情は収まらない。 ブツブツと文句を言いながら行進する様は多くの同胞にすらも異端視される程であった。
「おい⋯⋯十四番隊だぜ」
「⋯⋯なんでも任務に失敗したらしいぞ。 絡まれないうちに行くぞ!」
「ああん?」
通り際にヒソヒソと離される噂話に突っかかろうとするニコラを、今度はサロメが取り押さえた。彼女の豪腕に取り押さえられたニコラは動く事が叶わない。
「全く。 少し落ち着きなさいよ単細胞。 確かにあのおっさんが言うことは気に食わないけど、言うことも一理あるわ」
「⋯⋯くそったれ。 わかったよ」
暴れ狂うニコラを諌めたのは、皆が暗めの色の任務服を着込む中で一人だけ白衣を纏った端正な顔立ちの少女であった。
「まぁあの人はああ言ってるけど、気にする必要なんてないわ。 あの魔剣が無くても私たちには関係ないもの。 まぁこれからは気をつけて行動するようにしましょう。 次からも私が助けてあげられるとは限らないもの」
「そうだな⋯⋯ありがとうリーシャ」
ニコラはその少女―――リーシャに頭を下げる。 彼女は柔らかく微笑んだ後に「良いわよ」と呟いた。 実は彼女こそが、あの絶望的な状況からサロメとニコラを救出した人物だったのだ。
「それじゃあ! 任務も終わったことですし遊びに行きましょうよ!」
「お! いいねぇ。 僕も遊びたいよ!」
「是。 休息が必要と判断」
「ふふっ。 良いわね。 私も色々と調達したいものがあるし」
「遊び、たい」
「たっく。 仕方ねえな。 思いっきり遊ぶぞー!」
青髪の溌剌とした少女―――ナビィの提案に全員が同調する。 彼らは拳を突き上げた後に、ワイワイとしながら準備をするべく自室へと向かう。
事件が起きたのは、その途中のことであった―――
「いやいや。 流石は落ちこぼれの十四番隊。 任務失敗後に反省もしないで遊びに行くとは⋯⋯その能天気さには恐れ入ったよ」
「⋯⋯ゴルアン」
丸々と肉付いた男が、難癖をつけながら彼らに絡んでくる。 その男―――ゴルアンはニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべながら彼らの前へと歩み寄った。
「全く⋯⋯いいかい? 君たちみたいな凡人は僕たち天才の足を引っ張らないように訓練に励むべき立場なんだよ。 それを自覚してくれないと困るねえ」
「⋯⋯あん? んだよテメェ」
「ふーん。 そうやってすぐに暴力に訴えるんだねえ。 やはり君は低脳だ。 『女装癖』のニコラくん?」
「あん! やるのか? ぶっ殺してやるよ」
ニコラがゴルアンの胸ぐらを掴みながらそう言った。先程と違い、仲間たちも今度は彼女を諌める気配はなかった。 しかし、彼の表情に余裕はあった。
「それで俺を殺してどうするんだ? お前はその後の制裁をどう乗り切るつもりだ? その次、を考えられない君は所詮雑魚なんだよ」
「グッ⋯⋯」
黙り込んだニコラを見て、彼は「それに⋯⋯」と続ける。
「君の『異能』は知っている。 炎を操る能力だろう? 普段君は、それを暴発させないように手袋をしている。 ただ今もそれをつけたままだ。 本当に殺す気もない雑魚の言葉なんて響くわけないじゃないか」
「⋯⋯やめろ馬鹿者が」
得意げな顔でつらつらと論理を並べていたゴルアンの頭を後ろから来た強面の男がコツンと叩いた。 彼は頭を抑えながら小さく呻く。 その男はゴルアンの首根っこを掴みあげながら、こちらを見つめた。
そして、そのまま頭を下げる。
「こいつが失礼したな。 十四番隊」
「あっ⋯⋯ああ。 ⋯⋯大丈夫だ」
その様子に呆気に取られていたニコラは、二つ返事でそう呟いた。 彼はこくりと頷いた後に、未だ恨めしげに自分たちを見つめているゴルアンの頭を殴り無理やりに連行していくのであった。
「いやー。 ニコラさんナイスです! よくあそこで胸ぐらを掴みました!」
「⋯⋯ニコラ、かっこよかった」
「おいやめろ! 引っ付くなナビィ!」
振り返ったニコラを迎えたのは仲間の盛大な歓迎であった。 特にナビィはニコラの身体に掴みかかって離さない。 よっぽど鬱憤が溜まっていたようで人一倍清々とした顔ぶりである。
「うん。 正直驚いたね〜。 まさか一番隊の隊長様が出てくるなんて⋯⋯」
「是。 あのように素晴らしい上司からゴミみたいな部下が出るとは信じ難いですね」
「⋯⋯ちょっと! サロメがキレてるわよ!」
「まぁいい。 とりあえず部屋に戻るぞ」
ひとつの波乱を超えた一行は再びワイワイと騒ぎながら廊下を歩いていくのであった。