【探偵ならば言葉を紡げ -オッドアイキャット連続消失事件―】   作:玉兎たまうさぎ

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第1話 探偵の始まり、変化の時。

【1月21日 9時】

 

未だに慣れない朝の光と人混みに当てられ、ベンチに座っているのに息が上がって来る。

 

目まぐるしく動く背景に吐き気が押し寄せ、とっさに携帯に目を落とした。

 

そこには———

 

社畜探偵 『早速だが、キミの探偵としての初めての仕事だ。

21日、来週の日曜日に今成駅前に来てくれ。

不安かもしれないが、安心してほしい。

キミと年の近い先輩も呼んである。

仕事の詳細は彼から聞いてくれ。』

 

———もう何度も確認した、自分への初めての仕事の内容が書かれていた。

 

六號館殺人事件から1か月近く、社畜さんの協力で僕が探偵同盟の一員になる手続きに追われていたが、ついに来てしまった初めての仕事。

 

「ほんとうに僕にできるのかな…」

 

思わず出てきてしまった本音。

不幸を振りまく体質と、社畜さんが『名探偵体質』と呼んでくれた体質が表裏一体とは、僕には到底思えない

 

『キミのその境遇は、名探偵そのものだよ』

 

社畜さんから言われた言葉を思い出す。

 

そうだ、探偵を目指すと決めたのは僕自身なんだから、頑張らないと!

 

そう思い顔を上げると———

 

「考え事は終わったかい」

「ひぃぃぃ!」

 

自分の目の前に男がしゃがみ込んでいた。

男は驚いている僕を見てケラケラ笑う。

 

「そんなに驚かれると傷つくなぁ。仮にもこれから一緒に仕事する仲間なのに。」

「え…」

 

そういうと男はショルダーバックから見覚えのあるモノを取り出した。

 

「あ…探偵デバイス…」

「俺も探偵同盟の一員だよ。不幸探偵」

 

そういって探偵デバイスをしまい、僕の隣に腰掛ける。

 

俺も…?

 

「えっと、じゃああなかが社畜さんが言っていた年の近い先輩さんですか?」

「そう、キミの一個上で元探偵だよ」

 

先輩というにはイメージとかけ離れていた。

探偵といえばスーツのようなピッチリとした服を着て、真面目なイメージだ。

少なくとも、社畜さんはそのイメージ通りだった。

 

でも目の前の先輩は、服はだぼだぼのパーカーで髪は寝癖でぼさぼさだし、さっきからずっとニタニタと笑っている。

 

「えっと…お名前は…?」

「かたいなぁ、年も近いし敬語はやめてよ」

「そ、そうですね…あっ」

 

敬語をやめてと言われた途端出てしまった敬語に、男はまたニタニタ笑った。

 

「まぁいいや、俺は言葉探偵。呼びづらかったら言の葉って呼んでくれたらいいよ」

「うん、わかったよ。言の葉くん」

 

言いなれないタメ口に言いづらさと共に、自分が変わろうとしていることに実感が湧き妙な嬉しさが込み上げてくる。

 

「よし。じゃあゆっくりお喋りと行きたいところだけど、残念ながら時間があんまりないから早速本題に入ろうか不幸探偵」

 

ショルダーバックからまた探偵デバイスを取り出す言の葉探偵

仕事の話になるからか、さっきの軽い口調から真面目な雰囲気に切り替わっている。

 

でも、その前に気になることが…

 

「あの…さっきから不幸探偵って、僕のことですよね?」

「そうだよ。見ず知らずの人間にいきなり本名が知られているっていうのは気持ち悪いと思ってね。

あらかじめ社畜さんから聞いた情報からあだ名を考えておいたんだ」

「そうですか…」

 

不幸探偵か。

社畜さんが言の葉くんにどんな情報を伝えたのかはわからないけど、僕を表すには確かに適切な言葉だと思う。

 

不幸な探偵、字面だけを見れば、こんな探偵なんかに事件の解決は頼まないだろう。

 

「納得したなら今回の仕事内容を伝えるよ」

「は、はい!」

 

自嘲気味になっていたところに、仕事という言葉が耳に入り、一気に背筋が伸びてしまう。

 

「まぁまぁ、そんな難しい仕事ではないから硬くならないでいいよ」

 

言の葉さんの言葉を聞いても、僕の緊張は解けないままだった。

 

 

 

 

今回の仕事は迷い猫三匹の捜索。

探偵の定番ともいえる猫の捜索ではあるが、一度に三匹ともは聞いたこともない。

言の葉くんも「流石に三匹はやったことない」って愚痴をこぼしていた。

探偵同盟加入への最初の試練といったところだろうか。

 

「ただ社畜さんから貰った情報に少し違和感があるんだよなぁ」

「違和感…?」

 

言の葉さんが探偵デバイスを眺めながら呟いた。

 

「三匹も猫が行方不明になっていること自体は別にいい。ただどうして今成駅周辺の捜索としか書かれていないんだ」

「え、そうなんですか!?」

「そう、真面目な社畜さんには珍しくここだけ雑に書かれているんだ」

 

確かにそれはおかしい。

迷い猫といえば、飼い主の家の周辺当たりから捜索するのがセオリーだろう。

なのに猫三匹の写真はあれど、猫三匹の飼い主の情報が全く書かれていない。

 

確かに不自然だ。

 

「まぁ社畜さんにも考えがあるんだろうから、とりあえず目ぼしい場所を片っ端から当たろうか」

「そういうものなんでしょうか…」

 

大体の目星はついているのか、言の葉くんは早速携帯で周辺のマップを見ながら立ち上がる。

 

「あぁそうそう忘れてた」

「え…」

 

言の葉くんはゆっくりと振り返り、まだ座ったままの僕に手を差し伸べる

 

「これからよろしくね。不幸探偵」

 

日の光を背に手を差し伸べるその姿は、第一印象とは打って変わって頼りがいがあるもので———

 

「———よろしく。言の葉くん」

 

言の葉くんの手を掴み、ゆっくり立ち上がる。

 

立派な探偵になった自分の姿が、おぼろげながら浮かびあがり、久しぶりに目指すべきものが見えた気がした。




あと二話ぐらいあります
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