TSしたら足が動かなくて親友が過保護になったけど、優しくされると惚れちゃいそうなので乱暴に扱って欲しい。 作:貯水庫
4限の終了のチャイムが鳴ったので、これから昼休みだ。
授業は思いのほか問題なく進んでいった。せいぜい、授業の初めに各教科の担当の先生が俺を見て驚いた反応をするくらいだ。先生の根回しのおかげだろう。
俺は2日分授業に遅れているが、少し自習したのもあってついていけないこともなかった。
辞典など、後ろのロッカーに置いている教材は中島が俺の分まで用意してくれた。それくらいは俺がやると言ったが、腕が痛いんだろと言って聞かなかったので大人しく中島に任せることにした。
先生の言いつけもあってか、クラスメイトに俺の変化についてあれこれと言われることはなかった。みんななるべく俺の容姿や足に触れないようにしながら、困ったら言って、とか、がんばって、とか温かい言葉を掛けてくれている。
でも、なんだか常に視線を感じる。
授業中わざわざ一番後ろにいる俺をちらちら見てくる人、休み時間俺をぼーっと見つめている人、数人で集まって俺を見ながらこそこそ話している人、廊下から覗いてくる他のクラスの人。周りに特に気を配っていなくてもわかってしまう。
俺のことが気になるのはわかるんだけど、なんか落ち着かない。常に一挙手一投足注目されているようで、ろくに気を休めることもできない。
みんな俺にいろいろ聞きたくて仕方ない、でも自分が聞くのは薄情者っぽくなるから嫌だ、そんな感じだろうか。
甘く見ていたかもしれない。足が動かなくなったことよりも目立つということの方がこんなにも窮屈だなんて思わなかった。
「清水、昼飯買ってくるが、何がいい?」
「あー、じゃあたらこスパゲッティパンをお願い」
「あいよ」
そんな中普段通り話してくれる中島の存在には心底安心する。こいつがいなかったら今頃環境の変化にどうにかしていたかもしれない。
さてどうやら、中島が俺の分の昼食を買ってきてくれるらしい。いつもは2人で購買まで買いに行っていたけど、購買は1階だし、混むので俺は邪魔になる。申し訳ないけど、これからは中島に頼もう。
そしたら、その間に他の用を済ませよう。
「あ、あの、委員長」
「なあに?あ、トイレ?」
「......うん。お願い」
実はさっきから結構むずむずしていたのである。女子トイレに入るのに抵抗があったのでなるべく我慢していたが、そろそろきつい。
「わかったよー。じゃあ押すね」
「あ、トイレまでは自分で行けるから......」
「いいのいいの。私が手持ち無沙汰になっちゃうから」
「えぇ」
問答無用で車椅子を押される。
女子トイレは教室を出て廊下を少し進んだところにある。
俺の内心の抵抗も虚しく、あっさりと女子トイレに入れられてしまった。
床がピンク色で、個室が並んでいるだけのトイレ。紛れもない女子トイレだ。
何かイケナイことをしているような背徳感に苛まれていると、委員長が個室の洋式トイレのフタを開け、俺の横に立った。
「じゃあ持ち上げるよ?」
「う、うん」
頷くと、委員長が俺の膝裏に腕を入れ......
「よい、しょ」
力のこもった声とともに、俺の体が持ち上げられた。
おぉ......本当に持ち上がった。女子としては普通くらいの体格の委員長でも持ててしまう。俺ってそんなに軽いのか?それとも委員長に結構力があったのか?なんか失礼っぽいから口には出さないけども。
変な感じだ。女の子に力仕事をさせる罪悪感があるはずなのに、こうして持ち上げられるとなんとなく女の子の下になってしまったような感じがして、なんか胸がゾワッとする。あと単純に、女の子にこんなに密着しているということにめっちゃドキドキする。
謎の高揚感に内心ドギマギしていると、間もなく俺の体が便座に下ろされた。
「これでもう大丈夫?1人で脱げる?」
「う、うん、大丈夫」
「わかった。じゃあこっちで待ってるから、終わったら言ってね」
「ありがとう」
委員長がドアを閉めてくれる。
あ、これだと鍵が閉められないな。まあ委員長が見てくれるなら大丈夫だろうけど。
俺はスカートを捲りあげ、個室の壁を使って体を傾けながらパンツを下ろし、用を足す。
ぴちゃぴちゃと音が響く。
......ってうわあ!?これ向こうまで聞こえてない!?
さすがに恥ずかしい。俺はできるだけ勢いをゆっくりにして音が出ないようにするが、しすぎると溜まっている水に直接落ちてぽちゃぽちゃ水音が出る。なんだこれ。難しすぎるだろ。それとも俺が下手くそなのか?
「し、清水くん、音姫......」
「へ?」
「脇に、ボタンがあるでしょ?」
向こうから聞こえてきた委員長の声に何だ何だとトイレの脇を見てみると、確かに、あの水が出るボタンの並びに『音姫』と書かれた見慣れぬ緑色のボタンがあった。
「何これ?」
「え、知らないの?とにかく押して!」
言われた通りにそのボタンを押すと......突然トイレからデカい音がした。
「おぉっ......?」
トイレの水が流れる音。しかしながら実際に水は流れていない。電子音だ。
なんでこんな......と一瞬思ったがなるほど。これで音を隠すのか。俺のも完全に隠れている。結構便利かもしれないな。女子トイレにはこんなものがあったのか。
感心している間に出切ったので、止ボタンを押して音を止め、ちゃんと拭いて水を流し、パンツを穿いた。
「終わったよ」
「うん、じゃあ開けるよ」
委員長が入ってきて、お姫様抱っこで車椅子に移してくれる。
「女子トイレにはあんなのがあったんだ」
「逆に男子トイレにはないんだね......」
女子には常識だったのか?寝耳に水なんだが。
水道まで車椅子を押してもらい、体を支えてもらいながら手を洗う。
「清水くん、普段の生活は中島くんが助けてくれるの?」
「うん」
「だったら、女の子の生活のことはあまり分からないんじゃない?」
耳が痛い。
音姫なる装置のことも知らなかったし、他にもまだ分からないことが結構あるかもしれない。
例えば美容面のことだ。俺は今のところ風呂でリンスを始めた以外男の頃と変わっていないが、女の子はもっと何かしているイメージがある。
俺もせっかく可愛い見た目になったんだから、それを保つ努力はしてもいいと思っている。
「確かにそうかも」
「だよね。なら女の子の生活のことは私が教えるよ。わからないこと何でも聞いてね」
「ありがとう。じゃあ、肌のケアは普通何をするの?」
「朝とお風呂上がりに化粧水と乳液は必須かな。乳液は保湿クリームでもいいよ。特に乾燥する時期は絶対ね。出掛ける時は日焼け止めもしてね。私は美容液も使うけど、高いし、他のと比べると必須ではないかな」
「お、おぉ??」
思っていた3倍くらい答えが返ってきた。女の子っていつもそんなことしてるのか?大変だな。
教室に戻ってからも美容についていろいろ委員長に手ほどきをしてもらった。
俺が唯一していたリンスは褒められたけど、ドライヤーをしてないと言ったら怒られてしまった。
今日言われた美容品は学校が終わったら買いに行こうと思う。ドライヤーは母が使ってたのがあるはずだけど、どこにしまったっけな......
そんなことを考えていたら中島が戻ってきたので、一旦切り上げて昼食にする。
「だから放課後美容品買いに行くわ」
「わかった」
「......」
「......」
いつも通り中島と2人で向かい合って昼食をとっている。
普通であれば、楽しくゲームやアニメの話をしながら食事をしていたのだが......
なんか視線が気になって話がしにくい!
ちらちら、ちらちらと。特に男子からの視線が熱い。そんなに俺が食べてるのを見るのが楽しいのか?
もう我慢ならない。
俺から話しかけよう。
「中島、あっちに混ざろう」
「そうだな」
俺はたらこスパゲッティパンを持って、クラスメイトの中でもよく話す2人組のところまで車椅子を動かす。周りの視線も付いてくるが気にしない。
「よっ」
「し、清水」
「なんだよさっきから。言いたいことがあれば別に言っていいんだぞ?」
「いや、そういうわけじゃ......」
歯切れが悪いな。それなら普通に雑談でも振るか。
「そうだ、このガチャ引いたか?」
「あ、ああ。俺は爆死したけど」
「俺はコンプしたけどバイト代が消えた」
この2人と俺と中島がやってるソシャゲの話題だ。こいつらとはその繋がりでよく話すのだ。
「そ、そうか、ドンマイ......」
「う、うん」
それなりに気安く話す仲だったのだが......なんだろう、なんか態度がよそよそしい。顔を赤くしてちらちらとこちらを窺っている様子で、口調がいつもより柔らかい気がする。
......ん?どこを見てるんだ?
もしかして、胸、か......?
「......」
いや、胸だけじゃない。
足、腰、顔。
俺の体を、まるで女の体でも見るようにちらちらと見ている。
ぞわぞわと。嫌な感じが体を巡った。
俺に、色目を使っているのか?
思わず言葉を失ってしまう。
中島も俺にエロい目を向けることはあったが、こいつらとはどこか違う。
中島はちゃんと俺を清水として見てくれていた。
......いや、こいつらも俺が清水だと信じてくれてはいるのだと思う。
だが根本的に違うのだ。
中島の目は、"女になった俺"を見る目。
こいつらの目は、"俺という女"を見る目。
もう、友達に向けるような視線ですらないかもしれない。
今日ずっと、そういう目で俺を見ていたのか?もしかして、他の男も?
どんどん理解してしまい、ひどくがっかりして、項垂れてしまう。
まあ、しょうがないのかもしれない。確かに見た目は相当いいからね......
こいつらは中島みたいに昔から俺を知っていたわけでもない上に、思春期真っ盛りなのだ。俺が清水だということを差し置いて、この容姿に魅入ってしまうのかもしれない。
俺はできれば、クラスメイトには以前のように接して欲しかった。その方が以前の俺のアイデンティティを強く保つことが出来るから。
でも、見た目の変化というものは、想像以上に大きかったのだと、今思い知らされてしまった。