TSしたら足が動かなくて親友が過保護になったけど、優しくされると惚れちゃいそうなので乱暴に扱って欲しい。   作:貯水庫

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4話 精神的に弱ってる女の子はかわいい

 

 

「......みず......清水!」

 

俺が悲嘆に暮れてどれほど経ったか、中島が俺を呼ぶ声がして、意識を戻される。

 

「中島......どうした?」

「悪いけど場所を変えよう。話は俺が聞いといたから、とりあえず涙拭け」

 

中島がハンカチを差し出してくる。俺はそのハンカチで涙を拭い、一度深呼吸をした。

 

「悪い。もう大丈夫だ」

「じゃあ、動かすぞ?」

「ああ」

 

中島に車椅子を押してもらって、部屋を出る。

 

また、こいつにみっともないところを見せてしまった。親友に心配させて、迷惑かけて......もう俺の心はズタボロだ。

 

それから受付に行き、検査料をカードで支払った。馬鹿にならない額になっていたけど、中島によると今の俺と前の俺が同一人物と証明できれば後からでも保険金を請求できるらしい。

DNA鑑定の結果は1週間後くらいにくるらしいので、とりあえずそれまで待とうと思う。

 

「......」

 

車椅子が出口に向かって進んでいく。

 

もしDNAが一致しなければ、もう俺は俺じゃないのだろうか。

科学的に別人なら、逆にどこが同一人物足り得るのだろう。

心か?魂か?

馬鹿馬鹿しい。でも、そんなことにでも縋りたくなる。今までの俺という存在が消えることが、これほどまでに恐ろしい。赤の他人に為り変わって生きるなんて、絶対に無理だ。

前の俺が死んだことになるなら、その残りカスでしかない今の俺もいっそ......

 

立て続けの不幸に悲観的になってそんなことを考えていたら、ふいに、車椅子が止まった。どうしたんだろうと顔を上げると、中島が目の前に来て俺の顔を見ていた。

 

「大丈夫、お前は清水だ。間違いない」

 

......なんだこいつ。心を読んでるのか?

 

突然言われたその言葉。なんの理論も伴わない、こいつなりのただの慰めかもしれない。

でも、幼少から一番長い時間を共に過ごしてきた、俺を一番わかっているだろうこいつの言葉には、何か得体の知れない説得力があった。

 

「お前、あん時と同じ顔してたぞ」

 

あん時......

俺の両親が事故で死んだ時だろうか。

小学3年生だった俺にはあまりに過酷な出来事で、俺は生きる希望を失っていた。

あの時は、こいつが励ましてくれたんだったか。

 

――おまえがいなくなったら、おれはだれとゲームすんだよ!

 

......いや、全然励ましてはいなかった。俺がどこかに引き取られて今の家を離れると思ってのことだろう。今思い出しても、本当にしょうもない。でも俺はそれで、もうちょっと生きてみようかと思えたんだったっけ。そういえば、孤児の引き取りとか全部断って今の家に1人暮らししてるのも、こいつのせいだった。

 

「だから、間違いない」

 

つまりなんだ。俺がその時と同じ顔をしてたから、俺は清水だと。そう言いたいのか?

 

「そんな、ことで......」

 

中島はそれで満足したのか、せっせと車椅子の操縦を再開した。

 

そんなことで......

理論もへったくれもない、証明すらできない、本当にしょうもない言い分だ。証明ができなければ、なんの解決案にもならないじゃないか。

同じ顔ってのも、意味がわからない。俺の顔はこんなに変わってしまっているだろう。

そもそも今俺に嫌な記憶を思い出させるのはない。気を利かせているつもりなら、あまりに不器用だ。

 

でも、なんで俺は、そんなことで、嬉しくなってしまっているのか。なぜ、心の底から安堵しているのか。

らしくないな。こんな顔は見られたくない。

そう思った俺にとって、中島がすぐに車椅子の操縦に戻ってくれたのはとても都合がよかった。

 

 

俯いていた顔を上げたからか、病院の出口近くにいくつか車椅子が置いてあるのが見えた。

ああ、あそこに返却しなきゃいけないのか。

 

「車椅子、買わなきゃな」

「......そうだな」

 

これから生きていくにはお世話にならなければならない。そう思って言った言葉に、背中の後ろで中島が一瞬笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車椅子を返してしまったので、自分のを買いにホームセンターに行くことにしたが、ちょうどお昼時だったのでその前に昼食をとった。病院近くのファミレスに行って好物のたらこスパゲッティを食べた。うまかった。味の好みは変わっていないらしい。

 

それからホームセンターに行った。ずっと中島にお姫様抱っこされて運ばれていたので周りからの視線が痛かったが、車椅子を買えばそれも多少はマシになるだろう。

 

車椅子売り場で適当な車椅子に座らせてくれる。

 

「ふぅ......明日は筋肉痛だな」

「重かったか?」

「人間にしちゃ軽いが、ずっと持ってたらさすがにきつかった」

 

そりゃそうか。酷なことをした。

 

それからいろんな車椅子を見て吟味していった。自走式、電動、スポーツ用......いろいろあったが、俺は普通の自走介助兼用の車椅子にした。

病院で借りたような布が貼られてるだけのと違って座面が薄いクッション素材に覆われているので、座っていて体が安定しやすい。そして座面の高さを座りながら調整できるので、最大まで高くすれば座ったまま料理ができなくもない。

 

俺はさっそく、その車椅子と、車椅子用のタイヤカバーを買った。室内を走る時はタイヤカバーをつければ床が汚れない。思ったより取り付けるのが簡単で、俺1人で座りながらできた。

 

用が済んだのでもう帰ろうとしたが......

 

「......なんかトイレ行きたくなってきた」

「ま、まじか」

 

こんなところで催すとは。

どうしよう。俺1人じゃ便座に乗り移れないんじゃないか?またこいつに持ち上げてもらって服を脱ぐのか?

 

世の中の車椅子の人はどうしてるんだろう。

 

そういえば、公共の男子トイレには障害者用の手すりつきの便器がだいたい1つはあったよな。

 

あれがあれば俺もいけるか?女子トイレにあれはあるのか?そもそも女子トイレに入っていいのか?よくわからない。

 

ん?待てよ。あの手すりって、他にもどこかで見たことがあるような......

 

「あ、多目的トイレか!」

 

多目的トイレなら手すりがあるし、かつ男でも女でも入れる。

これは妙案だ。

 

俺はすぐさまこのホームセンターの多目的トイレに向かった。

 

「俺は外で待ってるから、何かあったら呼べよ?」

「わかった」

 

自分で車輪を動かして、多目的トイレに入る。

そして便器の前に車椅子を止め、手すりを使って便座に移った。両脇に手すりがあったので、それらを使って体を傾けながらズボンを左右交互に下ろしていくと、なかなかスムーズにズボンを足まで下ろすことができた。

 

これいいな。

うちのトイレにも導入できないだろうか?

ここはホームセンターだ。手すりならいくらでも売ってるんじゃないか?後で見に行ってみよう。

 

 

用を足し、トイレットペーパーを取ろうとしたところで便座の脇にいっぱいあるボタンのうちの1つが目に入った。あの、水が出るやつ。女性しか使わないピンク色のボタン。

 

押せるボタンは、押したくなるものだ。

 

俺は指を引っ張られるように、そのボタンを押した。

 

「.........あひゃっ!?」

 

 

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