TSしたら足が動かなくて親友が過保護になったけど、優しくされると惚れちゃいそうなので乱暴に扱って欲しい。 作:貯水庫
思ったより水の勢いが強かったものだからびっくりして変な声が出てしまい、それを聞いた中島を宥めることになってしまったが、水の勢いを一番下まで弱めたらなかなか気持ちよくてちょっとハマってしまった。さぞかし綺麗になったことであろう。
脱いだ時と同じ要領でズボンとパンツを穿き、車椅子に乗り移る。
うん。やっぱり手すりがあるとやりやすい。
今からうちのトイレ用のを買いに行こうと思う。
多目的トイレを出ると、中島が心配そうな顔で待っていた。
「大丈夫か?どうしたんだ?」
「い、いや、なにも......それより、うちのトイレ用に手すりを見に行ってもいいか?」
「あ、ああ。それはいいが」
それから中島に車椅子を押してもらって手すりを見に行った。
手すりが売ってあるところの近くに段差解消のスロープもあって、そういえば必要だなと思ったが、うちの入口の広さや段差の高さが不確かなのでスロープは後日にするということになった。
トイレ用の手すりを買ったら家に帰り、今日は中島に持ち上げてもらって段差を乗り越えた。
それからトイレに手すりを設置したり玄関の段差の高さを測ったりしていたら、いつの間にか外は薄暗くなっていた。
お礼がてら中島にお茶を出していろいろ話をしていたら、突然、家のインターホンが鳴った。
なんだろう。と、インターホンの画面を見ると......
「あ、先生だ」
「来たか」
うちのクラスの担任だ。
今日は中島が連絡して2人とも学校を休ませてもらっていた。だいたいの事情は中島が話してくれたようだが、さすがに荒唐無稽すぎる話なので来ざるを得なかったということだろう。
俺は玄関の段差を降りられないので、中島に出迎えに行ってもらう。
「中島くんもいたんですね」
「先生、こっちです」
中島が先生をリビングに連れてくる。
メガネをかけていて物腰の柔らかい男の先生だ。専門は国語。40代と言っていたが30代前半くらいにも見える。
「き、君が、清水くん......?」
「はい、清水です」
「本当に?」
「先生、こいつは間違いなく清水です」
「......」
中島の言明があってもイマイチ信じきれないご様子。まあ、当然だ。
「では、今年の体育祭で私が清水くんをなんて励ましたか覚えていますか?」
「先生もリレーで自分の番に1位からビリまで落ちたことがあるって話ですか?」
「本当に清水くんですね......」
よくわからないけど信じてくれたようだ。
「病院には行ったんですか?」
「はい、行きました」
俺は今日のことを先生に話した。
朝起きたら女の子になって足が動かなくなっていたこと。動かない原因がわからなかったこと。DNA鑑定の結果を待っていること。午後はホームセンターに行ったこと。
「ふむ。では、今はDNA鑑定の結果待ちで、生活の方は中島くんが介助してくれる、ということですね?」
「はい」
「わかりました。では、次に考えることは......」
先生はメガネに手を当て、俺の足を、車椅子を、顔を、順に一瞥した。
「清水くん」
「はい」
「清水くんは、学校に行きたいと思いますか?」
学校、か......
正直、かなり抵抗がある。
まず、足のことだ。おそらくみんな気を使ってくれるだろうが、その心配や同情が窮屈だと感じてしまうと思う。
清水は足が動かなくなった。こう思われるのが嫌だ。なんとなく自分の値打ちが下がってしまうような気がするのだ。
こうなって初めて気づいた。無意識だが俺は健康であることにプライドのようなものを持っていたらしい。もしかしたら、みんなこうなのではないだろうか?
近い例を出すなら、野球部に入って髪を丸刈りにされてしまった感じだ。こうなれば、刈る前の髪を知っている人にはできれば見られたくないと思うだろう。
この点に関しては、清水ではない赤の他人としてマイナス1から始めた方がマシだと思う。
しかし、俺は清水なのだ。中島も間違いなく清水だと言ってくれた。少なくとも、俺は俺でありたいと思っている。
これは自分が健康であることより高位のプライド。アイデンティティなのだ。これを無くすようなことは、したくない。
容姿や性別のアイデンティティは、今朝失ってしまった。だから、俺が清水だというアイデンティティも手放してしまえば、もう以前の俺は死んだも同然になってしまう。それはどうしても避けたい。
しかし、皆が今の俺を見て、ちゃんと俺を清水だと信じてくれるかが分からない。
信じてくれたとしても、足のことで俺のプライドが傷ついてしまう。逆に信じられなかったとして、俺は別人のように扱われることに耐えられるのか、分からない。それで俺が清水だというアイデンティティを手放さずにいられるのかも、分からない。正直、自信がないのだ。
他にも嫌なこと、心配なことはたくさんある。
移動のこと。中島や周りにかかる迷惑のこと。体育の授業のこと。戸籍や学歴のこと。細かいことを言い出せばキリがない。
ここまで踏まえて、俺は学校には行きたくない。
しかし行きたくないのと行かないのとは別だ。
俺には養ってくれる家族がいない。今は遺族年金や死亡保険金でやり繰りしているが、それには限りがある。
まあ、中島が医者のおじさんに聞いた話によると、前の俺との同一人物の証明ができれば遺族年金は18歳で打ち止めだったのが20歳まで延長され、20歳以降は障害年金というものが貰えるらしいが......どちらも年に100万も貰えないので、生活していけないことはないけど、一般的な生活には遠い。
それでどうやって将来満足のいく生活をするか。
誰かのお嫁さんにでもなるか?いや、ありえない。俺が自分で稼ぐしかない。足のせいで、道は狭いけど。
だから、学校には行かなければならない。
「行きます」
「そうですか......他の高校に行くという選択肢もありますが、どうでしょう?」
「いえ、そのつもりはありません」
転校はありえない。
以前の俺を知る人がいない環境では、俺は清水であるというアイデンティティが薄れてしまう。
一番重要なのは、たとえ女になっていても俺は今までの俺と同一人物だとみんなに認識してもらうこと。それでアイデンティティを保ち続ける。
それに、新しい高校で中島のように介助してくれる人を見つけられるかもわからない。少なくとも中島と別の高校になれば登下校の時間がズレてしまうので1人で家を出入りする必要が出てくるが、スロープがあっても段差の上り下りは危ないだろう。
中島に頼りっきりにはなってしまうが、他の人に迷惑をかけるよりは中島の方が少し気が楽だし、今の高校のままがいい。
「では清水くんとしては、このままうちのクラスでやっていきたいと?」
「はい」
「わかりました。では、清水くんの見た目が変わったけど気にしないで欲しいと他の先生方に伝えておきます。学籍情報のことは、ひとまずDNA鑑定の結果を待ちましょう。明日からでもいらしていいですが、どうしますか?」
そ、それでいいのか。
でも、明日からはさすがに急ぎすぎかな。スロープなど買う物もまだあるし、心の準備も整っていない。
「うーん、もうちょっと時間が欲しいです」
「わかりました。いろいろ落ち着いたら、いらしてください」
「はい」
そこに中島が口を挟んだ。
「清水、服はどうするんだ?」
「あ」
服。忘れていた。
前の服は全部ぶかぶかになっているので、もう前の制服は着れない。買わなきゃいけないか......
「そうでしたね......制服はできれば女子の物を着て頂きたいです」
ま、まじか。
女子制服って、俺がスカートとか穿くのか?
なんか抵抗があるな。女装するみたいで。
いやでも、着ないと悪目立ちするし......ここは腹を括るしかないか。まあ、車椅子の時点で目立ちまくりではあるけど。
「わ、わかりました。明日買いに行きます」
それから服以外にも、先生がいろいろ学校生活について教えてくれた。
移動は、車椅子の生徒とその介助者はエレベーターを使うことを許されているらしいので、それを使わせてもらう。
体育の授業は、俺用に個別の課題設定をして頂けるようで、それをしていけば単位は問題ないらしい。もしかしたらボッチャなどの障害者スポーツも授業としてやることになるかもしれないとのこと。
トイレは......うちの高校に多目的トイレはないので、普通に女子トイレでして欲しいそうだ。個室に車椅子が入るスペースはなさそうなので、誰か女子に協力してもらう他ない。なんか、余計気が重くなってきた。