自意識至上主義の人々へ。   作:朝潮

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数日後
第2話


 

 

 

入学からはや数日。

櫛田を避けていたら、話しかけて来なくなった。

まあ当たり前っちゃ当たり前なんだがちょっと寂しい。

オレがぶりっ子が嫌いだからと適当にあしらっている隙に、奴は友達を続々と増やしていた。

その速さたるはもう気持ちの悪いほどで、入学3日目にして他クラスにも手が伸びていた。

 

ところで、そんなオレにも友人と呼べる存在が出来た。名前は沖谷という男子生徒。

オレの前の席で、櫛田の隣の席という立地に恵まれた生徒。あと顔面にも恵まれている。

 

「山城くん。お昼の休憩だよ。」

「……ああ。そうか……」

 

ノートの描きかけのデッサンを閉じる。

1時間目からちまちまと描いていたものが、そろそろ完成するからと夢中になっていた。

しかし昼食は摂らないといけないな。

 

オレの描いていたのは、絵と言われてまず思い浮かぶようなアニメタッチではなく。

デッサンとか素描とか、そういう立体的な絵を描く方が好きだ。

お察しの通り、中学では美術部に入部していた。

 

「それ僕がモデルでしょ?やめてよね。恥ずかしいんだから…」

「今度360°から写真撮って良いか?沖谷は良い被写体になるよ。」

「駄目だよ。」

 

オレが描いていたのは、沖谷がギャル風コーデをしている絵だ。

沖谷は誰もが認める女顔である。しかし清楚系なのでギャルの格好は意外と似合わなかった。

 

「上手なんだから落書きじゃなくてもっと良い事に活かしなよ。ちゃんと授業聞かなくて良いの?」

「どっちにしろ集中できないしな。」

 

事の始まりは須藤だった。

…いや、まず須藤とはどう言う生徒かの説明が先か。

須藤というのはDクラス随一の不良生徒だ。

誰にでも粗暴な態度を取って、教師にタメ口は当たり前。

気に入らないことがあるととりあえず手が出る。そんな奴だ。

 

その不良生徒は、授業開始初日から堂々と居眠りを始めやがったのだ。

そこから、須藤のいびきうるさくね?と後ろの方で会話が始まり。

そんな私語を何故か教師は黙認。調子に乗って馬鹿共が騒ぎ出し。

そいつらに釣られて、今では少なくない生徒が授業中好き放題していた。

 

「う〜ん。皆しっかり授業受けてくれないかな…」

「そう思うなら、前に出て注意してみたらどうだ。」

「僕にはそんなことできないよ。」

 

まあ、確かに沖谷は大人しい生徒。

クラスメイトに注意している姿は想像できない。

それなら櫛田に相談してみるって手もあるが……

彼女に今日まで注意する素振りはない。櫛田もこの状況を黙認しているのだ。

 

「よし。学食行くぞ。」

「うん。」

 

机の上でひっ散らかっていた勉強用具を片付け、オレ達は席を立った。

向かうは学食。狙うは最近のお気に入り、チキン南蛮定食だ。

 

 

 

オレ1人が、授業態度を改めろ!と注意しても、クラスメイトが素直に聞き入れるとは思えない。

それに、入学してから数日で、気になっている事が沢山ある。

休憩中にオレなりにここ数日の違和感をまとめてみる。

 

「さて。」

 

やはり、まず気になっているのは教師の言動だ。

授業中、半学級崩壊を起こしていても注意をしない。何と見事な放任主義か。

 

「沖谷。お前は教師に怒られたことはあるか?」

「うん、あるよ。」

「どんな感じだ?」

「えっと、もっとシャキッとしなさいって……」

 

それは怒られたんじゃなくて呆れられたのでは?

 

「お前が教師なら、今のDクラスを見たとして怒ると思うか?」

「怒ると思うよ。怒れる度胸があればだけど。」

「今の惨状を見れば、教師は間違いなく怒る。だが、教師は誰1人として注意をしていない。」

「どうしてだろうね。」

「……」

 

オレは話半分な沖谷の唐揚げを摘んで頬張った。

お前が言い出した事なのに。

 

「ちょっと!僕の唐揚げ取らないでよ。」

「まあまあ、一枚南蛮をやるから怒るなよ。」

「1番端っこじゃん!」

 

唐揚げと比べたら同じくらいの大きさだろうが。

ぶつくさ文句を言う沖谷だが、美味しそうにチキン南蛮を頬張った。

 

「ともあれ。教師全員が注意しないとなると、これは学校側の方針だと考えるのが賢明だ。」

 

もし仮に、これがDクラス担任の茶柱先生の教育方針ならまだ納得はいく。

彼女の性格が、面倒事にはとことん無視をし問題を先送りにするようなものだったとしても、そう違和感はない。

しかしそれが全教師となると話は変わってくる。特に、Aクラス担任の真嶋先生。

彼は規則に厳しい人間と見える。そんな教師が生徒を好き勝手にさせるか?

 

「学校側が、先生達に生徒を注意するな、って言ってるって事?」

「そう考えれば辻褄が合う。」

「えー。でもそれっておかしいよ。」

 

そんなのわかっている。

そもそも教師が生徒を注意しない時点でおかしいのだ。

 

「問題は、どういう理由で学校がそんな命令を出しているのか見当がつかない事だな。」

「普通なら逆に注意しろって言うはずだもんね。」

 

その点はどう考えてもおかしい。

誰にも咎められないのなら、楽な方に傾くのが人間というものだ。

例えば、今日から犯罪を犯しても咎められなくなればどうなるか。

それが今のクラスの状況だ。このまま無法地帯にしておく訳にもいくまい。

 

「学校は生徒の生活態度を改めさせるつもりはない?」

 

いやいや。そんなことはない…と思う。

高育は国内随一の進学校。卒業した暁にはどんな就職先や進学先でも斡旋してくれる。

生活態度の悪い人間を排出する意味などないはずだ。

明らかに間違った対応。それがメリットになるような状況。

わからない。まるでなぞなぞを解いているような気分だ。

まだ手がかりが…前提条件が足りないのかもしれないな。

 

「学校側がどうしてそんな方針を取ってるのかはひとまず置いておこう。だが学校側が生徒に甘いのは間違いない。それは高々高校生に10万も渡していることからも察せられる。」

 

学生に金のやりくりを覚えさせようとしているのか。とも考えたが。

それは光熱費や水道代が請求されないと言う点から、間違っている、あるいは最大の目的ではないと踏んでいる。

そもそも、やりくりさせるには10万は多すぎる金額だ。

 

「一ヶ月10万円っていうのは多いよな?」

「一人暮らしした事ないから、よくわからないけど。そういえば、1ヶ月一万円で生活してみよう、みたいな番組があったよね。」

 

学校側も、娯楽品を一切買えない生活を強いる気はないとは思うが。

家賃などの生活費は学校側が負担していることも考えると、やはり10万Ptは多いだろう。

 

「毎月10万Ptか。学校は何を考えてるんだろうな。」

「でも、先生は毎月10万Pt(ポイント)入るとは言ってなかったと思うよ。」

「え?そうだったか?」

「うん。Ptの振り込みは毎月1日、今月は10万Pt振り込まれている。って言ってただけだよ。」

「そう言われてみればそうだったような。先入観で毎月10万入ると考えていたが……」

「入学を果たした評価って言ってたから、10万Ptは多分入学祝いみたいなものだと思うよ。最初は生活用品を買わなきゃだし。来月からは毎月5万Ptとかになるんじゃない?」

 

沖谷の推論はなかなかどうして説得力があった。

こういうの、叙述トリックみたいでなんだかワクワクするな。

そうなると来月は10万Pt貰えるのか確認する必要があるか。

 

教師の元まで行くのも面倒だ。手っ取り早く先輩にでも聞いてみるか。

学食内に、人の良さそうな先輩がいないか見渡す。

が、よく考えたら先輩と同級生の見分けがつかない。

制服の綺麗さで見分けられるかもしれないが…パッ見ではオレにはわからないな。

こう言うのって学年毎にネクタイの色が違ったりするんじゃないのかよ。

……それにしても、多いな。見える範囲だけで3人か。

 

「山菜定食か……。沖谷。お前山菜定食は食べたことはあるか?」

「え?ないよ?僕野菜苦手だから。」

「食わないと大きくならないぞ。まずはこのキャベツを…」

「自分で食べてね。」

 

チキン南蛮の消えた皿を差し出すと瞬時に押し返された。

仕方がないので残ったキャベツは適当に調味料を振って口に入れる。

 

「沖谷。他の生徒の食べているものを見てみろ。あそこ。そこも。あっちにも。」

「山菜定食だね。」

「山菜定食を食べている生徒はちらほらといる。毎月十万Ptもあるなら好き好んで食べるメニューじゃないだろう。喜べ沖谷。どうやらお前の推論は正しそうだ。」

「それはともかく、知らない人を指差すのはよくないよ。」

「分かってらぁい。」

 

山菜定食を見事完食した先輩は、トレーを持ち、食器を下げに席を立つ。

様子を見ていたオレは沖谷を連れ、その後ろをついていく。

食器を返し、廊下へ出ていく前にできるだけ人の少ない場所で呼び止める。

 

「こんにちは。先輩ですよね。」

「え?何だよお前。」

「早速ですが取引があります。確か、生徒間でPtの譲渡もできるんだったよな。沖谷。」

「そうだけど。」

「優しい先輩が質問に答えてくれれば、こちらにはそれ相応のPtを譲渡する用意があります。」

「…何が知りたい。」

 

話を聞く気になってくれたようだ。

山菜定食を食べているくらいだから、Ptに余裕がないのだろう。

Ptを譲渡すると言った瞬間に目の色が変わった。

 

「先輩が今、ひと月に振り込まれるPtを教えてください。」

「それは…無理だ。」

「どうしてですか。」

「無理な物は無理だ。これはいくら積んでも喋れないぞ。」

「学校側から口止めされている、と考えても良いでしょうか。」

「…好きに考えろ。」

 

それはそうだと言っているようなものだ。

オレは学生証を取り出し、所持Ptの画面を開く。

 

「ありがとうございます。オレは話せないという情報をもらいました。一万Ptお支払いします。」

「いいのか?」

「ええ。情報は情報ですから。」

 

名も知らぬ先輩は学生証を取り出し、しかしすぐに引っ込めた。

 

「…いや、やっぱり無理だ。そこまで理解しているお前達からポイントを受け取ったら、俺が話したと誤解されかねない。」

「そうですか。これは配慮が足らずに。入金元を隠す裏道などはありますか?」

「無いな。少なくともオレが知る限りは。」

「そうですか…では少ないかもしれませんが、今度任意のメニューを奢らせて頂きます。」

「遠慮しとくよ。情報は大切だ。俺が新入生に奢らせた事が出回ると面倒だからな。」

 

 

 

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