自意識至上主義の人々へ。   作:朝潮

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第3話

 

 

 

カツカツと黒板へ走る小気味良いチョークの音。

本日最後の授業ともあって、気の抜けている生徒も多い。

私語を交わす者。居眠りをする者。タブレットを触る者。

そんなクラスの中で、オレ山城真白は推論をまとめ上げていた。

 

筋は通るが確証はない。これでははっきり言ってハリボテだ。

しかし裏を取るにしてもその方法が思いつかない。

学校側が口止めしているならば、教師に聞いても返答があるかどうか。

正否の確認が取れなければ、結局推論は推論でしかない。

 

「……賭けに出てみるか。」

 

何となく、この学校の目的が理解できてきた。

それを教えるにしても、このバラバラのクラスで放課後残ってくれと言って何人が残るだろうか。

今、多少評価が下がるにしても。ここで全員に聞かせる方が後々のプラスに繋がると考えよう。

──教師の前で推論を話し、反応を見る。

その代わり授業を止めてしまうことになるが、今は教師の話を聞いていない生徒の方が多い。

数分の授業よりも、クラスの雰囲気の方が大事だろう。

 

突然、1人の生徒が立ち上がる。

何の脈略もなく、その生徒は席を離れ教師の正面へと歩を進める。

授業を妨害してしまう。そんな傍迷惑な生徒は誰でしょう。

そう。オレだ。

 

「山城。どうした?」

「いいえ、何でもありません。授業を続けてください。」

 

最前列の机にもたれかかり、ニヤニヤと笑うオレを真嶋先生は一瞥し、そのまま授業に戻る。

そのまま授業に戻れるメンタルもすごいが。

 

オレは黒板の前に立つと教卓に両手を置いてクラスメイトを見据えた。

ほとんどの生徒がこちらを注目していた。寝ている奴もいたりしたが。

普通の学校でそんなことをしたらどうなってしまうだろうか。

 

「山城。何か言いたいことがあるのか?」

「いいえありません。ところで先生。先生には何か言いたいことはないんですか?」

「どう言う意味だ。」

「言葉の通りです。今、オレに、先生が。言わなければならない事がありませんか。」

「……」

「そうですか。ありがとうございます。」

 

ここまでしても、真嶋先生は怒らない。いや、怒れないが正解か。

どっちにしろ、学校側が何かしら命令を出しているのは間違いないだろう。

 

「皆聞いてくれ。オレは今授業妨害をしている。なのに怒られることはなかった。それは何故か。」

 

私語の満盈していた教室は、皮肉にも静まり返っていた。

オレはこちらを注目している1人である真嶋先生へ目線を向ける。

 

「先生。今からでもオレを怒る意志はありますか?……そうですか。」

 

沈黙は是なり。無言を貫く教師に、オレは大義を得た気分になる。

 

「入学から一週間。教師が生徒を叱る事は一切無かった。それも全教師がだ。お前達はおかしいとは思わなかったか?」

 

クラスの連中を見回す。

不自然に感じた者。その上で気にしなかった者。そもそも気づいていなかった者。

表情から、生徒それぞれの考えが何となく伝わってくる。教師とはいつもこんな光景を見ているのか。

 

「おかしいっつったってよ。ここはそういう学校なんじゃねぇの?」

「黙れ。授業中に勝手に喋るな。」

「えぇ…」

 

問いかけに答えた生徒を封殺する。

邪魔が入ると組み立ていた構想が崩れる。

 

「ずっと考えていた。教師が授業態度を叱らないメリットとは何か。そこでこんな仮説を立ててみた。学校は、生徒が舐めてかかった所で手痛いしっぺ返しを与えるつもりではないか。」

 

「高い場所で遊ぶ事が好きな子供がいた。その子供は、何度叱っても危ない事をしていた。ある日、高い場所から足を滑らせて落ちてしまった。無事一命は取り止めたが、それ以降高所恐怖症になってしまい大人になっても高い場所には登らなかった。」

 

「動物は物事を失敗して覚える。

その証拠に、成功した思い出よりも失敗した思い出の方がより鮮明に思い出せる人間は多いはずだ。

学校側は待っているんじゃないか。生徒が調子に乗り出すことを。動物的な本能で学習させるために。」

 

オレはこんなフレーズを思い出していた。

「馬鹿は死ななきゃ治らない」

ならばいっそ死に直面させてみよう。それがこの学校の考えだ。

 

「ところで、お前達は支給された10万Pt。いくらまで使った?

おっと。今までの話と関係ない話だと思うなよ。むしろ1番関係のある話だ。」

 

「この中で学食に行った奴はいるか。自販機で飲み物を買ったことがある奴は。コンビニやスーパーに入った事のある奴は。……そこで一度は見た事がないか?0円の商品やメニューを。」

 

「学食で無料の、山菜定食を食べている上級生はちらほらといた。興味本位でオレも一回頼んでみたが、出来るならもう食べたくはない程度の味だった。」

 

実際のところ、そこまで不味かった訳じゃない。

山菜は雑草みたいな味だったが、味噌汁とご飯は普通だった。

が、話の信憑性を高めるために少し盛ってみた。

 

「一ヶ月10万Ptもあって、わざわざ不味い無料の飯を食べたい奴がどこにいる。……貰えないんだよ。毎月10万も。」

 

「覚えているか?入学時、茶柱先生が説明した言葉を。

ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月は10万Ptが振り込んである。

…そうだ。先生は一度たりとも毎月10万Ptが振り込まれるとは言っていない。」

 

「だとしたら。Ptが増減する条件とは何か。

教師達が見逃し、野生に解き離れた猛獣のように好き放題していた生活態度だ。

ここまで言えば、オレの推論がどこに落ち着くか分かっただろう。

そう。オレ達に与えられようとしている大きなしっぺ返しとは。」

 

「毎月支給されるというPt。それが生活態度と紐づいて増減する。

お前達がしめていたのは、味じゃなくて未来の自分たちの首だったわけだ。」

 

「この学校では、生徒の実力が常時評価されている。

教師が放任主義なのは、生徒本来の性質を見たかったのかもしれないな。

お前達はまんまと手のひらの上で踊らされていたってわけだ。」

 

授業を聞く気がないオレも、人のことは言えないが。

それでもこんなに人間性が出たのはDクラスくらいのものだろう。

 

「今話した事は全て仮説に過ぎない。何1つ当たっていないかもしれない。が、生活態度を考え直す切っ掛けになればと思う。各々よく考えて行動してくれ。オレの話は以上だ。」

 

最後まで噛まずに言えたー!

教室中から向けられる視線を感じながら、オレは自分の席へと戻る。

真嶋先生は何事もなかったこのように授業を再開させた。

否定も肯定もない。どうせ学校から口止めされているんだろう。

席に戻る瞬間見えた、すれ違う沖谷の顔が赤く熱っていた。どうした。惚れたか?

 

椅子に座った後にノートを定規で綺麗に切り取り、メッセージを書いて折り畳み。

うっすらと耳の赤い沖谷の、頭の上に乗せた。

沖谷に回収されたノートの切れ端は、暫くしてひらひらとオレの机の上に落ちてくる。

 

───

顔が赤いぞ。惚れたか?

 

共感性羞恥って知ってる?

───

 

質問に質問を返すなって教わらなかったか、あぁん!?など考えたが。

沖谷はどうやらオレの授業中の奇行が恥ずかしかったのだと言う。

まあ確かに、沖谷にあんな事ができる度胸があるとは思えないが。

 

あれだけ授業態度を注意しておいて自分は改めないのか、だって?

いやいや。周りをよく見てみろよ。

動揺した奴らがざわざわと、いつもより酷い状況になっているだろうが。

ちなみに、授業終了まで続いた。

 

 

 

「皆聞いて欲しい。僕たちはこれからの事を真剣に考えたいと思う。良ければ参加してくれないかな。」

 

多くの人間がそれに賛同し、賛成ムードだった中。

平田の声が聞こえなかったかのように、高円寺が教室を出て行った。

そのいっそ清々しい無関心さに少し笑ってしまう。

 

「山城くん。出来るなら君にも残って欲しいんだ。君の意見が聞きたい。」

 

高円寺に続け!とばかりにいそいそと荷物を整理していた所。

オレは平田にドラフト一位指名の栄誉を受けた。

 

「悪い。今日は用事があるから。…な。沖谷。」

「え?でも今日も僕の部屋で本読むだけだよね?」

「大事な用事だろうが。」

 

沖谷の言う通り別に大した用事はないのだが、面倒だったので帰ることにした。

特に誘って来たのが平田っていうのがまた。どこか信用ならないんだよな。

例えるなら、味方なのに声が石田さんだから安心できないとか、そんなイメージ。

 

「私からもお願いできないかな?」

「無理。」

 

もっと最悪なパターンに入ってしまった。櫛田桔梗が回り込んでいたのだ。

残念。一度断ったら来年まで加入することはできない。いやあ本当に残念だ。

彼女はオレが帰ろうとしているのを見て取ると、オレの手を掴んだ。

 

「どうしてもダメかな?山城くんのおかげで、クラスの皆が良い方向に変わろうとしてるの。」

 

柔っこい手に包まれて、ふんわりとフローラルな花の匂いが香る。

オレは櫛田の手を振り払って、代わりに沖谷の肩を掴んで櫛田に引き渡す。

 

「えっ?えっ?」

「今日の話は沖谷が思いついたことだ。オレはそれをまとめただけ。話が聞きたいなら沖谷にどうぞ。」

「えぇっ!?」

 

どうしても逃げられないなら仕方がない。オレは身代わりを使うことにした。

放課後を平田や櫛田に拘束されるなど看過できない。

しかもそれがクラスの今後の話し合いとか。本気で面倒だ。

これ以上引き止められないよう、鞄を掴んで小走りで教室を出た。

 

 

 

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