自意識至上主義の人々へ。   作:朝潮

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第4話

 

 

「あはは……逃げられちゃったね。」

「あの、山城くんがごめんなさい。」

「いや、いいんだ。無理やり参加させるのも良くないからね。」

 

それにしても、僕を盾にして逃げるなんて。そんなに嫌だったのかな。

それに関しては、クラスの皆が参加するなら僕も参加するつもりだったから良いんだけど。

でも推理の手柄を押し付けてきたのは困る。

 

「山城くんは、何というか。好き嫌いが激しいから。僕としか話してないみたいだし。」

 

他にも、一緒に学食に行き始めてから、チキン南蛮を頼んでいるところしか見たことがなかったり。同じ本ばっかり何度も読み返してたり。

好きなものはとことん好きになって、その他には全く興味がないんだと思う。

 

「山城くんには独特な空気があるよね。話しかけてもなかなか仲良くなれなくて。」

「私も嫌われてるみたいなんだ。沖谷くんは仲良くなる方法とか、わからないかな?」

「わからないです。ごめんなさい。」

 

僕がこうやって話してるのが嫌なことに気が付かない限りわからないと思う。

山城くんは興味ない人には話しかけづらいオーラみたいなのが出てるから僕よりかはわかりやすい。

表によく出す彼と、隠して一歩引いている僕。

性格は真逆だけど。山城くんも、僕みたいに奇異の目で見られていたのかもしれない。

 

「でも2人は仲良いよね。やっぱり共通するところがあるから?」

「そう、だね……」

「ごめん。ちょっと嫌な話だったかな。」

「ううん、大丈夫……」

 

僕はもう気にしていないけれど。

はっきり答えず、態とちょっと気まずい空気を残して、話を終わらせた。

 

最終的に、教室には。

山城くんと、それから金髪の筋肉がすごい人や赤髪の不良くんといった協調性のない5、6人を除いた多くのクラスメイトが残っていた。

 

 

 

 

 

平田と櫛田の攻撃を、場の沖谷を墓地に送ることで無効にしたオレは図書館へと足を運んでいた。

元々、放課後はいつものように沖谷の部屋でダラダラ過ごす予定だったのだが。

実のところ。合鍵というか、合カードキーは持っているため部屋に入るのは訳無い。

主人のいない部屋に勝手に上がり込むのは、まあ少しは悪いと思った訳だ。

 

上京してきたばかりの田舎者の如く図書館内を練り歩く。

最初くらいは、地図や案内板を見る前に楽しみながら探すのが乙だ。

図書館の探検がてら、ミステリーのコーナーを探す。

漫画のコーナーがあったり、涼宮シリーズが全巻持っていかれていたり、教科書の倍はあるサイズの本が置いてあったり。

 

ところで、その空間は図書室の隅にあった。

 

壁と窓とで角になっている場所に、大きな机が一つ置かれている。

他の方向も本棚で隠されていて、意図して入らなければ周囲から見つかることはない。

入り口から最も遠く、窓を除けば三方向を塞がれているこの視界の悪さだ。

ここが本屋ならば、監視カメラを取り付けていなければ万引きされ放題な立地。まるで秘密基地。

 

そんな空間で、1人の少女が読書をしていた。

窓から差し込む日差しに煌めく蒼白の長髪をなびかせた、本の女神。

そうだな。属性で例えるなら……

櫛田が愛嬌、沖谷が小動物だとして。この娘は穏和かな。

 

「……見つかってしまいましたか。」

「えっ」

 

少女は、書籍から目を離さないまま呟いた。

こっちには気付いていないと思っていたので、思わず声を漏らした。

まず蝶のような髪飾りが揺れ。一瞬遅れて顔がこちらを向いた。

ゆったりとした口調。垂れた目。軽くウェーブのかかった長髪。

 

清楚が、清楚が服着て喋ってやがる……!

ここに来ての、イロモノじゃないヒロイン!

うちの櫛田にも、このナチュラルボーン清楚を見習って欲しいものだ。

 

「突然声をかけてしまって。驚かせてしまいましたか?入学してから、この場所に来られたのはあなただけだったので。」

「こんな辺鄙な場所にくるのは、よほどの探検家か相当な読書家だ。オレは前者だが君は後者かな?」

 

隣の本棚を見てみると、育児や子育ての本が並んでいる。好き好んでこのコーナーに来る人間は少ないだろう。というかこんな本この高校内で誰が読むんだ。

まさかと思い彼女の読んでいる本の表紙を盗み見るが普通の小説のようだ。

 

「はい。私は読書をとても好んでいます。が……あなたも読書家ではないんですか?それはABC殺人事件ですよね。」

「良くご存知で。」

 

彼女も、オレと同時に持っている本を見たのだろう。

オレの手の中には、ミステリーのコーナーから引き抜いて来たABC殺人事件があった。

それも原書と翻訳版が一冊ずつ。

 

「ここのクラスはABCD組の振り分けだろ。中学までは数字でね。急に読みたくなった。」

「ふふ。それはそれは。」

「だがオレは読書家ではない。唯の英語の勉強だ。」

 

オレは重ねて持っていた本を両手で持ち、二冊の表紙を顕す。

 

「ところで。良ければ同席しても良いかな?もし1人の空間を邪魔されたく無いのであれば、別の場所を探すことにするよ。こんな秘密の空間を邪魔してしまうのは、あまりに忍びない。」

「いえいえ。どうぞ座ってください。」

「……」

 

彼女は窓を背にして壁側の隅の席に座っている。

オレはその対角線上の1番遠い席を借りようとしたのだが。

彼女は何を思ったのか、自分が座る隣の席を引いてニコニコしていた。

 

「よいしょ〜〜」

 

オレは、1番近くの席。つまり元々座るつもりでいた椅子を引いてその場所に座る。

別に彼女に従う必要はない。というか読書をするなら人の近くにいない方が良い。

……沖谷?あいつは物静かだから別だ。

それに、奴は部屋に食材を持ち込んだらいつの間にか食事になっている魔法を使えるのだ。

 

「君はなかなか大胆だね。」

「椎名です。椎名ひより。」

「椎名。君はとても大胆だね。」

 

態々回り込んで来て、オレの隣の席を確保した椎名。

物好きだな。

 

「お嫌ですか?」

「邪魔をしないなら構いはしないが。」

「そんな無粋な真似はしません。」

 

じろじろと見ていたら悲しそうな顔をされた。

この…!これだから天然は困るんだ!

これなら櫛田の方が…いや。それはないな。

 

「そんな楽しそうな事をされると、気になって読書に集中できません。」

「隣でゲームをされていると、自分もやりたくなってしまうアレか。」

「私にそのような経験はありませんが、おそらくそういう事です。」

 

妙な興味を煽ってしまった。

少し身の危険を感じたが、可愛いから許す。可愛いは全てを解決する。

せいぜいその高い顔面偏差値に感謝することだな。

 

「ふふふ。わかりました。本当のことを言いましょう。実は、気になっているんです。ミステリー小説で英語の勉強なんて、素敵です。」

 

「それに……The ABC Murders.一度読んだ事があるので、翻訳のお力になれると思います。」

 

うわあ…ガチの人じゃん。

ガチガチのミステリーオタクは苦手なのだ。何故ならにわかがバレるから。

折角原書を読んでいても、一度でも「こんなことも理解できてないの?」となってしまえばかっこいいどころかダサすぎる。

とりあえず1ページ目だけでも完璧に翻訳出来れば明日から使えると思っていたのに。

 

「見てください。イギリスでは、このような掛け合いが好まれているのでしょう。可愛らしいとは思いませんか?」

「オレからは国間の文化の違いは大きいとしか。」

「ここの文は、直訳と変わりません。日本語と同じ表現を使っているんですね。」

「興味深いか?」

「ええ、とても。」

「それは態と当てているのか?そうでなければ少し離れてくれ。」

「ふふ。態となら良いんですか?」

「揚げ足を取るな。」

 

一々ちょっかいを出されながらも、翻訳に励んだ。

彼女は確かに翻訳の助けにはなった。しかしそれ以上に疲れたのも事実。

しかし、楽しそうに二冊を見比べる椎名の横顔を見て、言ってやろうと思う皮肉も引っ込んだ。

 

「君は推理小説をどう読むのが好きなんだ?」

「私は、やはりどのような人物が犯人か。どのような策略を練ったのか。その動機は何なのか。それを推理しながら読み進めることが好きですね。」

 

「推理は本との対話です。推理小説は張り合いがあります。」

 

「勿論、推理小説以外のものも好きですよ。本の一冊一冊は人生です。ひとたび読み始めると、私は私以外になれます。」

 

著者の考えを読み解き、犯人を予想する。なるほど、合理的な楽しみ方だ。

椎名の推理力はどの程度なんだろうか。この学校からの問いを疑問に思っているだろうか。

 

「ところで、あなたにとって本とはどのように楽しむものなのでしょうか。」

「粗方椎名と同じ意見だ。」

「それは狡いと思います。」

 

不満そうな顔で、人差し指を使い頬をツンツンとつついてくる。

初対面の相手にそこまでスキンシップを許したつもりはないぞ。

 

「オレは探偵にはなれないんだ。」

「それはどういう意味でしょうか?」

()()()()()にはわからないよ。」

 

オレは推理小説を読みながら推理ができない。

というのも。考えるよりも前に、どうしても真実を知りたがってしまう。

クイズを見つけたら、とりあえず回答が書いてある場所を探すタイプだ。

オレが推理小説を読むのは、推理を解いていくかっこいい探偵が見たいから。

断じて探偵と一緒に推理をしたい、と言った粋人ではないのだ。

このお嬢様が、読者全員が同じラインに立っていると思っていると思っているのなら大間違いだ。

そう全てを言ってしまうのは癪だったので、適当にはぐらかしてやった。

 

「そろそろ良い時間だ。今日はありがとう。助かった。」

 

この本は貸し出しじゃなくて返却だな。

本を閉じて席を立つと、椎名はまた捨てられた子犬のような表情をしてきた。

うちはペット禁止なんだ。どんな顔をしても拾ってはやれないぞ。

 

「何か不快な事を言ってしまったのでしょうか。申し訳ありません、配慮が足らず……」

「そんなことはない。有意義な時間だった。実は人を待っていてな。そろそろ奴の用事も終わった頃だろう。」

「待ってください。まだお名前を聞いていません。」

「名乗るほどの者ではない。」

「名乗るほどの者だと思いますけど……」

 

一度言ってみたかっただけだ。

別に隠し通す気もなかったが、腕を掴まれてしまったので正直に答える。

 

「山城真白。ついでに殺された可哀想なクラスだ。」

「椎名ひよりです。本命のクラスです。」

 

「気が向いたらまたお話をしましょう。いつでも待っていますね。」

「気が向いたらな。」

 

 

 

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