自意識至上主義の人々へ。   作:朝潮

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一週間後
第5話


 

 

 

入学して一週間が経った。

あれから、され放題だった遅刻欠席は今のところ出ていない。

私語もグッと減り、クラスは平和になった…と思われたのだが。

授業中に聞こえてくるいびきだけはおさまっていなかった。

あの日も奴は寝ていて、オレの話なんか聞いていなかっただろうが…

平田か誰かが話をしに行ったはずだ。その上でその態度なら…今後地獄を見るのは自分自身だ。

 

「山城くんってさ。僕としか話してないよね?」

「それはお前も同じだろう。」

「僕は話したことあるよ。ほら。平田くんとか、櫛田さんとか。」

「そいつらは全員に話しかけてるんだよ。」

 

クラスの中心人物が、撒き餌のように、クラスメイトに一度話しかける。

それを会話と呼ぶかどうかは当人の自由だが。

それを引き合いに出してくるとは余程会話をしていないのだろう。哀れな奴め。

 

「違うよ。放課後の、作戦会議でも少し話したんだ。」

「へえ…それを自慢したかったのか?」

「そうじゃなくて。もう少し、友達を作ってみない?」

「それは平田か櫛田の入れ知恵か?」

「頷ける部分もあったから。」

 

とは言え、オレの友人が沖谷だけだと思ったら間違いだ。

ほら、いるだろう。椎名とか、椎名とか、椎名とか……

オレはたくさん友人を作ることに賛成はしないのだが。人間関係は面倒だ。

それでも、沖谷の希望なら。友人候補を見繕うくらいの協力はしてやるつもりだ。

 

「そうだな…」

 

友人になれそうな人間を探すため、クラスの中を見渡す。

まず()()()()()()()()()のは、机の上で足を組んでいる金髪のマッチョ。

オレは人間を探しているのだ。未確認生命体はご遠慮願いたい。

 

「この学校は最高だよな!まさかこの時期から水泳の授業があるなんて!」

「いやー昨日は楽しみすぎて目が冴えちゃって!」

 

次に目立っているのは、いつもの馬鹿騒ぎコンビだ。

普段からはしゃいでいて、(悪い意味で)クラスのムードメーカーとなっている。

周りの生徒からの目線に耐えかねて、授業中には大声を出すことは無くなった。

私語をしていないかどうかはわからない。奴らはオレより後ろの席なのだ。

 

「何なの?アレ。」

「男子さいてー。」

「まあまあ。彼らも悪気があるわけじゃないから…」

 

次にエントリーしてきたのは、平田率いるハーレムチーム。

気の強そうな女子が平田の周りにへばりつく形で出来ている。

その中に1人、大人しめの女子が端の方で愛想笑いを浮かべている。

楽しんでいるわけじゃないが、馴染めてないわけでもない。

恐らく、取り巻きの連中の中に1人友人がいて。その他の人間とは、友達の友達といった関係なんだろう。

狼の群れに羊を入れてしまった状態の中で、必死に生きているその姿には好感が持てる。

 

見た目的には、タレ目とふんわりとウェーブのかかった長髪から、おっとりとした印象を受ける。

よく見れば素材は良いのだが、ぱっと見て如何せん地味なのだ。

一言で言うならば劣化椎名。

しかし、出来ることならば卒業まであのハーレムグループとは関わり合いになりたくない。

もし声をかけるにしても、せめて相手が1人の時だな。

 

次は櫛田率いる仲良しグループ。ハーレムに興味ない女子を束ねた、と言う感じか。こっちは論外だな。

あんな魔境に自ら入るくらいなら、平田のハーレムの一因にしてもらう方がいくらかマシだ。

 

やはり、大きなコミュニティに入っている人間を狙うのは難しい。

ここは何のグループにも属していない、ぼっち仲間を探すべきか。

 

気取った女。気難しそうな勉強オタク。触ったら切れそうな狼。剃り込みのヤンキー。

さすがは一週間経ってもぼっちの人間。やはり一癖も二癖もありそうな奴らが多い。

そんな中、一点を見つめて何をするでもなくボケっとしている男子に目をつける。

名前は確か…道路工事みたいな感じだったんだが。何だったかな?

 

「アレなんかどうだ。幸薄そうだしお前とも気が合うだろう。」

「指差すのやめなって。」

 

沖谷がオレの腕を掴んで離さない。そんなにしがみつかなくても良いだろうに。

 

「ところで僕が幸薄そうってどういう意味かな。」

「お前がとは言ってないだろう。」

「言ってるようなものだったけどね。」

 

腕に抱きつきながら小声で文句を言いまくる沖谷。

そんなことをしているうちにオレたちは奇異の目線を集めてしまっている。

中には熱い視線も混ざっていたのは勘違いだと思いたい。

 

「とりあえず一旦話してみればいい。」

 

視線から逃げるように席を立つ。沖谷の手を引き、最後列の席まで移動する。

目的の男は、近寄ってきたオレたちを眠そうな目で興味なさそうに見ていた。

その隣の女に至っては、こちらのことを気にもせず毅然な態度で前方を向いていた。

こいつら…明日を見てやがるぜ。

 

「よう。こいつが君に話したいことあるってよ。」

「い、言ってない!」

 

とりあえず話を丸投げすると、首を千切れんばかりに左右に振り出した。

首の可動域が変わった赤べこみたいだな。

どうやら沖谷は、話から入るのは無理そうだ。

担当直入に、用件から伝えるか。

 

「こいつが友達になりたいってさ。」

「言ってない!」

「お前とは友達になりたくないってさ。」

「そうとも言ってない!ちょっとこっち来て!」

「何だよ…」

 

沖谷はオレの口を両手で塞ぐと後方に引っ張り始めた。

離れた場所で、口元に手を当てて小声で密談する。

 

「顔真っ赤だぞ。惚れたのか?」

「怒ってるんだよ!」

 

器用に小声で叫ぶ沖谷。

なんというか、小動物が意地になっているような微笑ましさを感じる。

 

「というかさ。全部僕のせいにしないでくれる?」

「お前から言い出したことだろう。オレは別に、友達を増やそうとは思っていない。」

「だからって全部僕になすりつけるのは違うでしょ。」

 

オレが沖谷に頬を両手で引っ張られている間。

明日見コンビも会話を始めていた。

 

「良かったわね。あなたと友達になってくれる物好きがいたみたいよ。」

「これで本当に1人なのはお前だけだな。」

「揶揄ったつもりかしら?幼稚ね。」

 

この女は孤高の狼だと思っていたが、意外と話せるようだ。

自分以外興味ありませんってタイプだとばかり思っていたが。

 

「待たせたな。いきなりすまない。」

「それは良いが…頬が赤いけど大丈夫か?」

「気にしないでくれ。」

 

とりあえず沖谷を宥めてもう一度2人の前に戻る。

先ほどまで話していた彼女も、今は我関せずといった顔で無視していた。

 

「ところで。先程までの話だが。オレたちと友人になるつもりはないか?」

「それは有難い話だが…オレで良いのか?」

「良いも悪いも。こちらからお願いしているくらいだからな。」

「そうか…じゃあ、その。よろしく。」

 

手を差し出してきたので、握手を結ぼうとしたその時。

外野から声をかけられ、その行動は中断させられた。

 

「おー。綾小路。お前らって仲良いの?」

 

話を遮ってきたのは、クラスのお調子者の1人。

騒がしい中でも背の小せぇ方。こいつの名前は、確か沼…

 

「俺は池寛治だ。お前は山城だっけ。」

 

そうそう。池だったな。

オレは池のとの間に沖谷を引っ張ってガードをして、綾小路(池が言っていた。多分こいつの名前。)に問いかける。

 

「知り合いか?」

「あー。そうだな。部活動説明会で連絡先を交換して以来だな。」

 

部活動説明会て。興味がないためオレは行かなかったが、確か入学2日目じゃなかったか。

こいつがセットでついてくるなら、綾小路も不良物件と言わざるを得ないが…特に仲が良いということはなさそうだな。

いつも騒いだりヘラヘラしていて、どうも好きになれない人種だ。

 

「そういえば、男子用のチャット作ったんだけどさ。折角だからお前らもやらない?」

 

激しいトークに圧倒され、溺れていた沖谷。オレも本当はあまり喋りたくもないが。

無視して席までついて来ても困るため、とりあえずはっきりと断ってやる。

 

「必要ない。」

「何だよ。沖谷はどうする?」

「えっと、僕は…」

「別にオレに気を使う必要はない。入りたいなら入ればいいし、嫌なら嫌とはっきり言ってやれ。」

 

オレのすっぱりとした答えに、今度は沖谷の方へと問いかける。

沖谷はグループに入っても、どうせ話には混ざれないだろう。

 

「僕は入れてもらおうかな…連絡事項があった時に、山城くんに伝える人がいないから…」

「やっぱお前らデキてんのか?」

「黙れ。」

 

これだからおちゃらけ野郎は嫌いなのだ。

それにやっぱとは何だ、やっぱとは。

 

「非常に不愉快だ。綾小路。先の話はまた別の機会に。」

 

沼だか湖だか知らないが。あいつの好感度ならどれだけ下がってもいい。

背を向けて席に戻ろうとした時。河は聞き捨てならない話を始めた。

 

「ったく。ノリ悪いよな。…そんでさ。実は今俺たち、女子の胸の大きさで賭けようってことになってるんだよ。」

「何だよ?それ。」

「今日の水泳で、博士にクラスのおっぱいランキングを作ってもらうんだよ。あわよくば携帯で写真も撮ってな!」

 

こんな教室の中、堂々とゲスい話が始まってしまった。

しかも、既に女子の多くが登校している。正気とは思えない。

 

「沖谷。お前はこっちに来い。」

 

オレは沖谷の腕を掴んで逃げの一手を繰り出した。

そのおっぱいランキングとやらを作るのは個人の自由だし、そのランキングに興味がないと言ったら嘘になる。

しかし。女子の機嫌を損ねてまで堂々と言うものか。

 

 

 

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