「レイナース・ロックブルズ!君との婚約を破棄する!」
婚約者の口から飛び出した信じられない言葉を聞いて凍り付く貴族令嬢レイナース。
輝く金髪ストレートは黄金の滝のよう。
顔立ちはきりりと整い凜々しさと華やかさを高いレベルで両立させている。
シンプルなデザインの白いドレスは清純さをアピールすると同時にメリハリの効いたプロポーションをこれでもかとばかりに誇示し、大きく開いた胸元からは豊満な双球が作り出す深い谷間が覗く。
百点満点、文句のつけようのない美女であった。
美しい顔の右半分を覆う赤黒の腫れ物が臭い汁を垂れ流していなければ。
毒の沼の墳墓に潜むめんどくさい性格のアンデッドを討伐した際に邪悪な呪いを受け、顔の右半分が醜い腫れ物に覆われて以来屋敷に引きこもっていたレイナースが婚約者からのパーティーの誘いに勇気を振り絞って出席してみれば、待っていたのはゴシップ好きの有閑貴族が雁首揃えた中での公開処刑的婚約破棄イベント。
ナムアミダブツ!
なんたる非道!
「その呪われた醜い顔に釣り合う相手は地獄の魔物くらいであろうよ!」
なおも裏切り者の口が吐き出す聞くに堪えない侮辱の言葉。
そして居並ぶ紳士淑女の見下した視線と小さく聞こえる蔑みの声。
令嬢は泣きながらその場を逃げ出した。
すれ違いざまにネックブリーカーをかました婚約者の頸椎から破滅の音が聞こえたような気がするが些細な事だ。
従者を振り切り塀を跳び越えサイレントスズカ顔負けのスピードで夜の街を疾走するレイナース。
風圧でスカートが捲れ上がり、付け根付近まで露わになった美脚とストッキングとガーターベルトを目撃した通行人がはたして夢か幻かと大いに怪しみ頬を抓る。
そんな周囲の状況に脇目も振らず、令嬢は悲しみの涙を流しながらひたすら家路を急いだ。
槍を持たせれば目が合っただけでモンスターが失禁&ドゲザする一騎当千の女騎士。
それは領主の娘としての義務感から長い年月と厳しい鍛錬の過程を経て作り上げたペルソナであり、レイナースの本質は繊細で心優しい乙女なのだ。
「お前はもうロックブルズ家の人間ではない!」
父親の口から飛び出した無慈悲な言葉を聞いて再び凍り付くレイナース。
「その呪われた醜い顔でこれ以上我が家の空気を汚すでない!」
あまりに無情な言葉に令嬢は思考停止に陥ってしまう。
気がついたら着の身着のままで屋敷の外に放り出されていた。
おそらくは事前に婚約者の家と話を通していたのであろう。
ゲームのスキップ機能を使ったかのようなスピード感に感情が追いつくヒマも無い。
実際自ら騎士団を率いて領民を脅かすモンスターを駆除して回るレイナースは確かに貴族令嬢としては異端であろう。
だが考えて頂きたい、ここまでされる謂われは無い!
雲間から射す月明かりに照らされて、一人夜道に佇むドレス姿の追放令嬢。
その顔面の右半分は赤黒の腫れ物に覆われ、臭い汁を垂れ流す。
実際ホラー漫画の扉絵めいている。
裏切られた。
切り捨てられた。
愛されてなどいなかった。
無邪気に信じていたものは全て幻想だったのだ。
その事実を認識した令嬢の心は闇に飲まれる。
何も考えられず行く当てもないままノロノロと歩き出すレイナース。
その足取りは夢遊病者のように頼りないものであった。
「いけないなあアンタみたいなお嬢さんが暗い夜道を一人でフラフラしてちゃあ」
あてもなく夜の町をさまよっていたレイナースはあっという間に酒臭い男達に拉致されていた。
「俺たちみたいな悪者に襲われちまうぜ」
放心状態の貴族令嬢を尾行し人気のない路地裏に引っ張り込んだのは、性的欲求を非合法に満たすための獲物を求めて徘徊していたどこの国のどこの町にもいるチンピラゴロツキの皆さんである。
「ほ~れこんな風に」
チンピラゴロツキは獲物を賞味するために確保していたアジトの一つにレイナースを連れ込んだ。
ドレス姿の令嬢を男三人が川の字になってもまだ余裕のある特大ベッドに放り投げ、飢えた野犬のように豊満な肢体にむしゃぶりつく。
「ゲッ、よく見たらなんて面してやがる」
「だが体は極上だぜ」
「首から上なんてアレだ、帽子の台とでも思っときゃいいのよ」
などと言いつつ慣れた手つきでレイナースを剥いていく。
「ヒヒヒたまんねえな」
露わになった輝くばかりの裸身を前に舌なめずりするチンピラゴロツキ。
(もう、どうなってもいい…)
絶望に染まりきった貴族令嬢は人形めいてされるがままだ。
「こうすりゃバケモノ面も気になるめえ」
うつ伏せにした令嬢の顔を地面に押しつけたチンピラゴロツキは顔の腫れ物が不気味に蠢いていることに気がつかない。
(あ、熱い…)
腫れ物が煮えたぎるほどの熱を持つとともにそこから分泌された邪悪な化学物質がレイナースの神経を犯し、無垢な乙女の肉体をめくるめく悪魔的新感覚で蹂躙する。
「ンぁ…」
たまらず喘ぎ身悶える。
「お、急にエロい雰囲気出してきやがったぞ」
「なんだ好き者かよこいつ」
「よおし天国に連れてってやるぜ」
ヒクヒクと身を震わせる令嬢の尻を持ち上げて獣の交尾の姿勢を取らせる。
「そ、それじゃいくぞ!」
むっちりと実った桃尻を抱えたチンピラゴロツキリーダーがアポロ宇宙船のメイン操縦士めいた慎重さで最終突入角度を調整する。
「くひいいいいいいィッ!」
絶叫したレイナースが激しく身悶えする。
「あが…おのおおおおおおおおォンッ!」
暴れ馬のごとき勢いにたまらず後ずさる下半身剥き出しチンピラゴロツキ。
ドピュプッ!プビュルッ!ドプルルルゥッ!
二次元ドリームノベルズめいたオノマトベとともに、令嬢の顔の腫れ物を引き裂いて真っ黒な何かが飛び出した。
「地獄の魔物だ!」
「逃げろ呪われるぞ!」
「なぜ罪も無い我々が?!」
チンピラゴロツキは脱ぎ捨てたズボンもそのままに失禁しつつ逃亡。
『うおオン俺は偉大なる古き漆黒の粘体ヘロヘロ様だ!』
人間には理解不能な発音で名乗りをあげた不吉な漆黒の粘体は、うつ伏せになって尻を突き出した体勢で失神している素っ裸の美女を目撃してちょっと考えるような素振りを見せると自在に変形する粘体の体を伸ばす。
邪悪な漆黒の粘体が潤沢な予算を与えられた深夜アニメめいた滑らかな動きで失神令嬢の国宝級の裸体に絡みつく冒涜的光景を、月は静かに見下ろしていた。
今日も今日とて竜王国では、ビーストマンと人類連合軍の文字通り食うか食われるかの激戦が繰り広げられている。
一般市民が立てこもる城塞都市コペラハからかろうじて視認できるかできないかという位置に設けられた連合軍の最前線拠点。
ここには竜王国の正規兵と冒険者、そして市民義勇兵だけでなく強力なビーストマン軍団と自国を隔てる緩衝地帯として竜王国を存続させておきたい王国と帝国と法国から派兵された人類国家連合軍が展開し、押し寄せる野生の軍団と正面から激突する。
人肉嗜好を持つビーストマンは三度の飯より戦いが好きという性質をも併せ持つ。
そこで街の前に陣地を置けばほぼ確実にビーストマンを誘引できるし、陣地が全滅してもビーストマンが腹を満たせば街は襲われないという実際ムジヒな策である。
それほどまでに人類種とビーストマンの地力の差は大きい。
だが何事にも例外というものは存在する。
こんなふうに-
「イヤーッ!」
レイナースの槍が唸る!
「グワーッ!」
ビーストマンが吹っ飛ぶ!
「○×△□!」
アルシェが適当な呪文を唱える!
「グワーッ!」
ビーストマンが吹っ飛ぶ!
「ニンポ!」
「コッパミジンコ!」
双子のニンジャのジツが発動!
「グワーッ!」
「グワーッ!」
「グワーッ!」
見ろ、ビーストマンがゴミのようだ(青髪のもと農民も巻き添えをくっていたが些細な事だ)!
戦場に居合わせた全員が己が目を疑うその光景を作り出したのはいま売り出し中の傭兵チーム<堕天使>であった。
そのチーム編成は戦士のレイナース、魔法使いのアルシェ、双子のニンジャのクーデリカとウレイリカ。
四人とも見目麗しい女性であるが容姿・実力ともに突き抜けているのは“呪われた女騎士”としてよくも悪くも有名なレイナースである。
ただでさえ強い女騎士に呪いの力が合わさって最強に見える。
今のレイナースが本気を出せばどこぞの執事(声の出演:千葉繁)も指先ひとつで爆発四散(かもしれない)。
かてて加えてそのヴィジュアル。
成熟した女体に纏うのは(一部を除いて)ヨーグルトめいて染み一つない白い柔肌を締め上げるように装着された露出過多で材質不明な漆黒のボンデージ鎧。
別世界に存在していた一字違いの至高の堕天使がパクリ疑惑で民事訴訟を起こしかねない際どさである。
あえて言おう、痴女であると。
レイナースの犯罪的なボディを飾るボンデージ鎧、その正体はあの運命的出会いの夜から女騎士と特殊な共生関係にある古き漆黒の粘体である。
そのガード範囲は顔の右半分にも及んでおり、腫れ物から滲み出る臭い汁も粘体が吸い取っている(多い日も安心)。
さらにレイナースが振るう不吉な漆黒の長槍も粘体の魔力で作られた無銘の魔槍であり、突くと傷口から腐食が広がってあいてはしぬ。
光り輝くブロンドの長髪を靡かせ、グラマラスな肢体を躍動させて縦横無尽に戦場を駆けるレイナースは野郎どもの視線を磁石のように吸い寄せる。
「なんだあの女は?」
「オッパイプルンプル~ン!」
「なんて強さだ!」
「オッパイプルンプル~ン!」
「なんてスケベな格好をしてやがる!」
「オッパイプルンプル~ン!」
「知らねえのか?アレが噂の“呪われた女騎士”さ!」
「オッパイプルンプル~ン!」
しつこい?乳揺れは男のロマンですよ。
ビーストマン相手に無双状態のレイナースと仲間たちだが、戦場全体を俯瞰すればやはり人類側の戦況は悪い。
「前線が押し込まれてるわよリーダー」
「このままではジリープアー」
「我々のライフもデンジャー」
女騎士は迅速に状況判断し、無言で突撃を敢行する。
「またなの!?猪なの!?」
「駄目だこの突撃脳」
「早く何とかしないと」
だが女騎士は止まらない。
「もう、仕方ないわね!」
後に続くアルシェ。
「結局付き合ってしまう姉はドMなのでは?」
「ボブは訝しんだ」
双子のニンジャも後に続く。
そして規格外の強さを持つ<堕天使>の四人が突出したことで手応えのある相手に飢えていたビーストマンの強豪が軒並み誘引される。
結果としてその他大勢の皆さんに戦線を整理する余裕ができた。
「グワハハハ、やるではないかニンゲンのメス!この勇者アダモン様が直々に相手をしてy-」
「イヤーッ!」
レイナースの一撃が頭蓋骨を貫通、筋肉モリモリマッチョマンなハイエナ男は即死!
「ヒャッハーッ!このメメント様の動きが見切れるものなr-」
「イヤーッ!」
シマウマ男の跳躍に動きを合わせたすくい上げの斬撃による股間破壊、ビーストマンは悶死!
「フッフッフッ、今までの相手は我らの中でも一番のこm-」
「イヤーッ!」
ツキノワグマ男は田楽刺しで即死!
どんどん積み上がるビーストマンの死体の山。
「推参な!」
暴風のように暴れるレイナースの前に立ちはだかったのはムキムキマン揃いなビーストマンの中でもひときわ堂々たる体躯を誇るジャガー頭の超戦士。
「我が名はイグン、一騎打ちを所望する!」
鋭い鉤爪が並んだ両手を大きく広げ、腰を落として低く構えたイグンが尋常ならざるプレッシャーを放つ。
レイナースは不吉な漆黒の長槍を構え叩きつけられる殺気に正対する。
無言の対峙から数秒、爆発的な踏み込みで同時に前に出る二人。
「陽光聖典ニグン見参!」
「グワーッ!」
ニグンの放った魔法弾がイグンを直撃。
女騎士に全集中していたところに横から不意打ちをくらったビーストマンは激怒する。
「貧弱な魔法使いごときが我と同じイグンを名乗るか!」
「私はニグンだ!」
実際紛らわしい。
「ええい勝負は預けたぞ!」
土手っ腹をブチ抜かれたイグンだがそこはビーストマンの勇者、まだまだ元気一杯である。だが空いた穴からモツが覗いている状態で呪われた女騎士の相手はできぬ。
「全軍退却せよ!」
腹の穴に両手を当てて飛び出しそうになるモツを押さえながら意外と軽快な足取りで走り去るイグン。
弱肉強食の荒野で鍛えられたビーストマンの逃げ足は速い。
あっという間に地平線の彼方に消えていく野生の軍団。
「お怪我はありませんか?」
一騎打ちに横やりを入れられたことに思うところがあるのかないのか、レイナースは濁った瞳でニグンを一瞥すると無言でその場を立ち去る。
「惚れましたか?」
ニヤリと笑って尋ねる副官。
ニグンは頭を振った。
「あの女騎士だがな…」
たしかに放送コードに引っかかる部分はしっかりガードされているとはいえ、それ以外は裸も同然なレイナースは黙って立っているだけで男ども(特に下半身)を落ち着かない気分にさせる。
だがニグンが感じたのは劣情だけではなかった。
「あの鎧がどうも気になる」
などと言いつつ視線は遠ざかるレイナースのプリプリと揺れる美尻(当然のごとくTバックである)に釘付けだったりする。
兵隊稼業の楽しみといえばナニはなくとも酒と女。
夜も更けて勝利の宴も盛況となれば、そこかしこで酔いが回った野郎どもが女騎士や女傭兵にちょっかいを出す。
唯一の例外は<堕天使>の四人である。
間違っても女性としての魅力に欠けているわけではない。
四人が四人とも水準以上の美貌の持ち主。
そのうえ動きやすさを重視した双子のニンジャ装束は肌色面積多めのうえプロポーションも露わなぴっちりボディスーツ仕様。
フトモモに巻き付く網タイツめいたチェインメイルが実にフェティッシュである。
一番大人しい魔法使い衣装のアルシェも腰までスリットの入ったタイトなスカート&生足という無敵コンボ。
かてて加えて胸の膨らみを強調するビスチェタイプの革の防具は鎖骨の上で交差した革ベルトが大きめのモノはより大きく、そうでないモノもそれなりに寄せて上げる親切仕様。
チームリーダーの肌色大盤振る舞いについては言及するまでも無い。
実際のところ近づく男を破滅させるというレイナースの呪い(100%風評被害)と規格外の強さ、そして破廉恥極まるボンデージ鎧に対する倫理的忌避感が性的魅力の合計値を上回る抑止力となって野郎どもを遠ざけているのだが。
「おお、ここにいたか!」
暗黒の呪い(風評被害)の抑止力に完全と挑戦する光の勇者、その名はバルブロ!
実際今回の対ビーストマン戦には<堕天使>をはじめとするフリーランスの傭兵チーム以外にも援軍として各国正規軍(および陽光聖典のような不正規戦部隊)による多国籍軍が派遣されており、その総司令官に任命されていたのが頭を使う仕事を参謀に丸投げしていれば見てくれも身分も旗頭として申し分ない王国第一王子バルブロであった。
「本日の働き、実に見事であったぞ!」
さも当然といった調子でレイナースの隣に座るバルブロは漆黒のボンデージ鎧に包まれた犯罪的な肢体をねっちょりと視姦する。
女騎士は奥ゆかしく何も語らない。
「うむ、“呪われた女騎士”などと言われているが実に魅力的なおっp-もとい、令嬢ではないか!」
奥ゆかしく何も語らない。
「どうだ、王国に士官する気はないか?」
何も語らない。
「待遇は応相談だが?」
語らない。
「コトバツウジテル?」
「すみませんすみませんウチのリーダーは病的に無口なうえアダマンタイト級の人見知りでして」
たまらずフォローに入るアルシェ。
「実際自我が心配なレベル」
「実は鎧が本体なのでは?」
双子のそれはフォローなのか?
突然レイナースが立ち上がった。
槍を手にした女騎士が向かった先では二手に分かれた兵士の小集団が殺気を飛ばしあっている。
鎧の意匠から一方は帝国軍、もう一方は王国軍と知れる。
隣同士の国というのは実際不仲な事が多い。
特に長く国境を接する帝国と王国は過去何度も領土紛争を起こしており、連合軍を編成しても些細なことで喧嘩が起こる。
大概はその場にいる良識派が刃傷沙汰になる前に双方を諫めるのだが今回は火消しが追いつかないようだ。
「来いよ腰抜け、剣を抜いてかかって来い!」
「野郎ぶっ殺してやる!」
血気にはやった二人の剣が打ち合わされようとしたその時、間を割って突き出された不吉な漆黒の槍が二本の剣を宙に舞わせた。
「何奴!?」
驚いた両軍兵士はまずレイナースの全裸よりエロいボンデージ姿に目を見張り、ついで呪われた女騎士の噂を思い出して顔を強張らせる。
騒動の真ん中に進み出た女騎士が無銘の魔槍を一振りすると、恐れをなした両軍兵士が一気に10メートルほど後ずさる。
流血沙汰は避けられたものの依然として危険な状態だ。
「放っとくんですか?」
「ここはお手並み拝見といこう」
野次馬を決め込んだ総司令官に氷点下の視線を向けるアルシェだが、上級者バルブロにとってはむしろご褒美である。
殺気だった両軍兵士の輪の中で、レイナースは手にした槍を逆手に持ちかえ足下の地面を無造作に突く。
さして力を込めたとも思えぬ一撃。
されど日本車輌の三点式パイルドライバのごとき轟音で垂直に打ち込まれ、大地にしっかりと固定された槍に両手を添えて、女騎士は漆黒のボンデージ鎧を纏ったグラマラスな肢体を妖しく揺らしはじめる。
「あれは聖典に記された禁断の暗黒舞踊ポールダンス!」
「知っておるのかニグン!?」
こうなっては喧嘩どころではない。
目を血走らせた兵士たちに囲まれて女騎士の淫靡なパフォーマンスは続く。
大きく片足を上げ大胆に鼠径部を晒したI字バランスからの360度連続側転。
お次は膝立ちの姿勢から上下に動き、乳谷に挟んだ槍を扱きながら官能に喘ぐかのような吐息を漏らす。
「こ、こんなの見たことねえ…」
ゴクリと生唾を飲み込む兵士たち。
「う~む、これは是非とも王都で興業を打ちたいのう」
まさかのバルブロP誕生フラグである。
もはや喧嘩そっちのけで熱狂する野郎ども。
レイナースの神話級ボディを駆使したセクシーダイナマイト猛爆撃の前では王国と帝国の遺恨など増水したメコン川に飲み込まれるジムニーシエラであった。
「何事もエロで解決するのが一番だ」
「古事記にもそう書かれている」
そして双子は手桶を持ってギャラリーの間を回りお捻りを徴収するのだった。
「カァ~ッ、この一杯のために生きてるわぁ!」
一息で飲み干したエールのジョッキをテーブルに叩きつけて酒臭い息をブハッ!と吐き出すアルシェ。
「だめだこの姉」
「はやく何とかしないと」
あまりにおっさん臭いアトモスフィアを放つ魔法使いの体たらくを見て、アレとDNAを共有しているというイヤな事実に双子のニンジャは震える。
そして同じテーブルを囲んだ三人とは世界が断絶しているかのように淡々と砂肝の串焼きを口に運ぶレイナース。
帝都アーウィンタールの一角にある居酒屋<轟く鬼亭>。
竜王国での仕事を終えた<堕天使>の四人は宿屋を兼ねたこの店で真っ昼間からクダを巻いていた。
そこに妙に目つきの鋭い店員から呼び出しがかかる。
「元締がお話があるそうで」
二階の奥の間で四人を出迎えたのは小柄な初老の男であった。
「竜王国ではそれはもう大活躍だったそうで。ええ、お噂は帝都まで届いておりますよ」
<堕天使>の四人の前で愛想よく笑う山村聡演じる音羽屋半右衛門めいたこの腰の低い居酒屋の支配人が、帝都の闇に暗躍する仕事人の元締であることを知るものはあんまりいない。
「帰国してすぐというのもいささか心苦しいのでございますが、今回ばかりは急ぎのうえ確かな腕を持つお方がどうしても必要でございまして」
依頼内容は帝国と王国の国境地帯の森で活動する<死を撒く剣団>を自称する半傭兵・半山賊集団に拉致された帝国貴族の救出。
それも極秘に、である。
「まあ帝国よりは色々と規制の緩い王国の“その手の店”であまり趣味のよろしくないお遊びを楽しまれた帰り道で拉致されたとあっては、これは表沙汰にできようはずもございません」
「貴族なんてそんなものよ」
容赦ないアルシェ。
自身も帝国貴族の家に生まれたはずのアルシェと双子が魔法使いとニンジャとなって傭兵稼業なぞやってるあたり壮絶な過去があったりするのだろうが、三人は黙して語らない。
なおいつぞや酒の席で貴族についてどう思うと聞かれたときの三人の回答は以下の通りである。
「人間の屑」
「フンコロガシほどの価値もない連中」
「匂いを嗅ぐと気分が悪くなるので会う前に頭からラクダの小便を被ってほしい」
とはいえ仕事となればそれはそれ、これはこれ。
「それではお引き受けいただけるということでよろしいですな?」
元締は前払い金と成功報酬、失敗の内容による違約金のコース設定といった項目を手際よく決めていき、最後に救出対象の人数と特徴が伝えられる。
直接名前を出さずともそれなりの事情通ならどの家の誰と察しがついてしまうのだが、形だけでも守秘義務は守らねばならぬ。
ガタッ!
そのうちの一人の情報を聞いたレイナースは無意識のうちに立ち上がっていた。
あの日あの時のあの台詞が決して解けない呪いめいてフラッシュバックする。
“その呪われた醜い顔に釣り合う相手は地獄の魔物くらいであろうよ!”
数日後、王国へと向かう街道を逸れたとある廃村で、<堕天使>の四人は助っ人であるワーカーチーム<魔界倶楽部>の四人と合流を果たした。
傭兵チームとして表の仕事も請け負う<堕天使>とは違い、<魔界倶楽部>は裏仕事専門である。
それはチームのメンバー四人のうち二人が亜人だからだ。
なかなかの男前だがどこか小物臭がする格闘家のヤルムチャはオレンジ色の道着に布製の靴という軽装で防具の類いは一切装備していない。
極限まで鍛えた格闘家は大抵の攻撃は気合いで弾けるというのが本人の弁である。
十文字のスリットで視界を確保したフルフェイスのヘルムを被ったタンク役の重戦士レパルドはA27巡航戦車のQF75ミリ砲に100メートルの距離から撃たれてもビクともしない重厚な鎧で全身を覆っている。
純白のローブを羽織ったワニ顔のロダンはリザードマンの神官戦士という変わり種で、メイン武器である聖杖にはガンダムシールドも叩き割れそうな斧状の刃が付いている。
第一話でいきなり敵に捕まって裸に剥かれてクスグリ拷問されそうなアトモスフィアを漂わせているのはレンジャーのミレディ。
波打つ灰色のロングヘアにピンクのメッシュが一房入った豊満なダークエルフで、露出度に関しては双子以上レイナース未満というなかなかのレベルにある。
クセは強いが実力は折り紙付きの四人であり、なおかつ他チームとの共同作戦もそつなくこなせる程度に全員の人柄が練れている。
これだけの人材が用意されたところにこの仕事に対する元締の力の入れようが表れていた。
「面妖な」
事前に集めた情報から山賊のアジトがあると思われる山中を静かに進むなか、風上に顔を向けたロダンが唸った。
「多数の人間と鉄の武器の匂い、これは敵のアジトが近い証左ではある」
顎に手をあて首を捻る知性派マッチョのリザードマン。
「だがゴブリン、オーク、それにオーガにトロールの匂いも混じっておる」
顔を見合わせる八人。
エルフやダークエルフはともかくゴブリンにオーク、ましてやオーガやトロールが山賊とと行動を共にしているとは?
考え込むアルシェ。
「情報が必要だわ」
「偵察してきた」
「行きはヨイヨイ帰りはチョロい」
山の斜面の周囲から遮蔽された窪地で双子が持ち帰った情報を元に作戦を練る一同。
なおレパルドは片膝をついた双子のスカートの奥がよく見えるようにさりげなく低い位置に移動している。
「ゴブリンとオークとトロールが山賊と一緒にアジトを守ってる」
双子の報告を聞いて驚く一同。
これは一体どういうことなのか?
「なるほど、そういうことだったのね」
シリアスな声と表情のミレディに全員の視線が集まる。
「つまり<死を撒く剣団>はノンケも亜人も見境無しに食っちまう上級者のしゅうd-」
ミレディの脳天にロダンの鋭く重い拳骨が落ちる。
「済まない、彼女はときどき起きたまま寝ぼけるのだ」
「アッハイ」
「でもこれは明らかに異常だわ」
アイテムで支配されているならともかく、モンスターが自発的に人間と協力するなどあり得ないとアルシェが断じる。
「そうとも限らない」
濁った瞳をぼんやりと彷徨わせながらレイナースが言った。
「人も亜人もモンスターもまとめて従える事の出来る存在がトップにいるなら」
はたしてそれはどのような存在なのか?
不穏な気持ちを抱きつつも戦いにの準備を整えた一同は慎重に前進を続け気付かれることなく廃鉱を利用したアジトの入り口近くに接近する。
「では打ち合わせ通りに」
作戦はいたってシンプル、戦車並みの突進力を持つレパルドと重爆撃機並みの破壊力を持つレイナースと恐竜並みの馬力を持つロダンが正面から突入して掻き回している間に獣を凌ぐ不整地走破能力を持つ双子とミレディと飛行能力を持つアルシェとヤルムチャ(極限まで鍛えた格闘家は気合いで空も飛べるとは本人の弁)が反対側の断崖に面した隠蔽された裏口から侵入して人質を救出する。
「作戦は手の込んだものになればなるほど些細なイレギュラーで全てが崩壊する、こういう場合はシンプルに大筋だけ決めて現場で起きたトラブルは即興で解決するのが正しい選択」
アルシェの言葉に一様に納得する脳筋の七人。
アジトの入り口を守っていた見張りは驚愕した。
森の中から棒のようなものが回転しながら飛んできたのだ。
聖職者が持つ聖杖みたいだなと思ったその棒にはごつい斧状の刃が付いていて、警告を発しようとした時には隣に居た見張りゴブリンの頭がカチ割られていた。
続いて森の中から裸同然のボンデージ鎧を纏った金髪巨乳美女が飛び出し、不吉な漆黒の槍を翳して突っ込んでくる。
すらりと伸びた美脚が力強く地面を蹴る度にブルンブルンと躍動する魅惑の双球に思わず見入ってしまうのは健全な成人男子としては致し方ない。
「おっp-」
牡の本能に忠実な叫びをあげかけた見張りの口を槍が貫通、即死!
「ナニゴトダ!」
頭は悪いが鼻が利くオーク分隊が異変を察知して洞窟の奥から飛び出してくる。
「グオゴゴゴ!」
「ギャア~~~ッ!」
レパルドのチャージを受けたオーク分隊は一瞬にしてネギトロめいた轢殺死隊に、まるでツキジだ!
次々現れる山賊やゴブリンやオークやオーガやトロールを千切っては投げ千切っては投げ。
山賊やゴブリンはともかくオークとオーガとトロールさえサクサクと倒していくレイナースとロダンとレパルドは紛れもない逸脱者であった。
その頃裏口から侵入した救出組はさしたる困難もなく人質貴族を発見、見張りのトロール二体をヤルムチャとミレディが一撃で倒す。
二人もまた逸脱者であった。
「案外あっけなかったわね」
一番の懸念だった人質を無事確保し息をつくアルシェ。
「そうでもない」
「一人足りない」
双子のニンジャは強襲組を支援すべく風のように駆けた。
「得物を捨てな!」
正面から突入した痴女と戦車男とワニの力押しトリオが快調に山賊とゴブリンとオークとオーガとトロールを駆逐しているときだった。
「抵抗するとこいつの命はねえ!」
人質貴族の首にナイフを突きつけた山賊が行く手を阻む。
「レイナース!レイナースじゃないか!」
それは元婚約者であった。
(どうする?)
(時間を稼ぐ)
(心得た)
目配せひとつでコミュニケーションを成立させた三人はそろって得物を手放した、タツジン!
「野郎さんざん暴れやがって、たっぷり礼してやるぜ」
両手を頭の後ろに組んで正座したレパルドとロダンを無視し、山賊たちの怒りの矛先はレイナース一人に向かう。
いたぶるなら全身鎧やワニ男よりえっちな格好をした女騎士、黄金のルールである。
「クラエ!」
背後から羽交い締めにされたレイナースの形のよいヘソを狙って繰り出されるゴブリンパンチ。
女騎士の(左半分だけ)美しい顔が苦悶に歪む。
「オラァ!」
乱暴に突き倒され四つん這いの姿勢を取らされたレイナースのむっちりと実った臀部を打ち据えるオークの張り手。
押し殺した悲鳴とともに女騎士の背中が反り返る。
「ヲラヲラヲラッ!」
「豚のような悲鳴をあげろ!」
降り注ぐ拳と蹴りを浴びてのたうつ被虐の女騎士。
Vシネマならミリオンセラー間違いなしだ。
為す術無く蹂躙されるレイナースの無惨な姿をナイフを突きつけられていることも忘れ、目を血走らせたうえ鼻息を荒くして凝視する元婚約者。
「そろそろヒン剥いちまおうぜ」
一人の山賊がぐったりとしたレイナースの胸当てに指をかける。
「アバッ!?」
山賊の手が漆黒の炎に包まれた。
「アババババ―――――ッ!」
あっという間に全身に広がった黒炎は山賊の肉体を貪り食い、見事なお骨様と化した山賊は理不尽な死を納得しかねるかのように佐渡おけさめいたモーションを披露したのち、力尽きてカラカラと崩れ落ちた。
「この野郎!」
逆上した山賊が元婚約者の首にナイフを突き立てるが人肌とも思えぬ固い感触に困惑する。
「なんじゃあこりゃあ!?」
いつの間にやら人質が服を着た丸太に入れ替わっていた。
「すり替えておいたのさ!」
「これぞニンポの奥義ウツ=セミのジツ!」
なおジツを成功させる代償として場にいる味方のうちランダムで一名が全裸になる。
「キャアアアアッ!?」
今回の犠牲者はミレディであった。
この機を逃さず逆襲に転じる仕事人軍団。
「さあ、お前の罪を数えろ」
配下の山賊とモンスターの全てを倒され最後の一人となった頭目に向かって決めポーズを取るヤルムチャ。
「くそがくそがkそgaクソガクソガアッ!」
錯乱したかのように喚き散らす頭目。
両眼が怪しく輝き肌が毒々しい紫色に染まり上半身が音を立てて盛り上がる。
バリッ!
右の頬を縦に割って二つめの口が開いた。
墓石めいた白い歯がキラリと光る。
バリバリッ!
左の頬と首の後ろに第三第四の口が開いた。
墓石めいた白い歯がキラリと光る。
バリバリバリリッ!
額に手のひらにヘソの下、タテヨコナナメに数えきれぬ口が開く。
今や頭目は下半身はズボンを履いた人間の姿、上半身はブラコ星人めいた腫瘍の塊のあちこちに無数の口が開いた異形の姿に変じている。
「ヤロウブッコロシテヤルッ!」
多口魔人が吠えた。
「硬気弾!」
「グワーッ!」
ヤルムチャが放った金色の光の弾丸が多口魔人にダメージを与える。
「ホーリーブレス!」
「グワーッ!」
ロダンが放ったチェレンコフ光めいた蒼炎が多口魔人にダメージを与える。
「地獄の光弾!」
「グワーッ!」
レパルドの鎧の背面に装備されたアイテムから発射された金色の光の弾丸が多口魔人にダメージを与える。
アルシェと双子も魔法とニンポで戦っている。
ミレディ(全裸)はこんな時でも性欲を我慢できない人質貴族にまとわりつかれて戦いどころではない。
「フヒヒヒ闇妖精もなかなかよいではないか」
「ワーカーなどと言って本当は体で稼いでおるのだろう、ウン?」
「僕と契約して肉奴隷になってよ!」
「クぅ、クズがあっ!」
ミレディさん色っぽいからね、仕方ないね。
そんなダークエルフと色ボケ貴族をよそに戦いは続く。
「ジャマヲスルナッ!」
全身の口で魔法を詠唱し火の玉や氷柱や稲妻を繰り出す多口魔人。
「ハイッ!」
両の掌から“気”の盾を展開したヤルムチャがガードする。
「オレハアイツラニフクシュウヲッ!」
「それはこの世界では叶いませんよ」
平坦な口調で呟きながらレイナースが駆ける。
その声は短波無線機を介した別人の声であるかのように異質で無機質だ
魔槍の穂先で燃えさかる漆黒の不浄の炎が多口魔人の攻撃のことごとくを打ち消していく。
「これで終わりです」
繰り出される致命の一撃。
「イヤーッ!」
「サヨナラッ!」
多口魔人は爆発四散!
「悪く思わないでくださいよベルさん」
女騎士の唇から紡がれるのは果たして誰の言葉なのか。
「貴方が弱いわけじゃない、依り代の地力の差です」
爆炎の中から現れたモンゴロイド系の男が憑き物が落ちたような笑顔で昇天していく姿はレイナースにしか見えなかった。
「先に逝って待っててください、私はこっちでも残業です」
そして危険がなくなった途端女騎士に擦り寄る元婚約者。
「ああ、やっぱり君は僕の守護天使だ」
馴れ馴れしく腰に手を回す。
「もう一度友人からやり直さないか?ちょうどエ・ランテルで仕入れた珍しい玩具があるんだが是非君の体でためs-」
レイナースは殴った。