暗雲たなびく帝都アーウィンタール。
風は吠え狂い、鳥獣は息を潜めて巣穴に引きこもる。
あからさまに不穏なアトモスフィアが帝国の首都を覆っていた。
そしてその不穏な空気の発生源は皇帝の居城から馬車で三十分ほどの場所にある一軒の館であった。
城というには物足りず屋敷というには重厚に過ぎるその館は、時の皇帝が囲っている少なくない数の寵姫の一人に与えたものである。
今、その寵姫が暮らす館の地下二ある厳重に秘匿され使用人すらその存在を知らない秘密の祭壇で怪しい女が怪しい儀式を行っていた。
それは館の女主人である年齢不詳の美熟女デボチカだ。
谷間とヘソを露出させた黒のロングドレスに包まれたグラマラスな肢体は腐る直前の果実めいたむせかえるような色香を放っている。
デボチカは旅の占い師から皇帝の寵姫の一人にまで成り上がった異邦人であり、歳月を経ても衰えを見せぬ美貌と肉体を誇っていることから他の寵姫達からやっかみ半分に“魔女”と呼ばれている。
実際デボチカは位階魔法とも始原の魔法とも異なる先祖伝来の妖しの技を身につけた妖術師でもあった。
館の使用人には全員強制的に有給休暇を取らせ、この夜、この時刻に館に存在する人間はデボチカと一人息子しかいない(あと息子のペットが二頭)。
生け贄の○×△□(自主規制)の新鮮な心臓が間欠泉のように血潮を吹き上げる邪神の祭壇の前に跪いたデボチカは、ウエーブのかかった黒髪を振り乱し、シャクトリムシめいた動きで一心不乱に祈りを捧げる。
祈祷のリズムが早まり呪文を紡ぐ声色が切羽詰まったものになっていく。
肥大化した頭部と蜘蛛めいた脚と毒蛾めいた羽根を持つ邪教の神像が毒々しいオーラを放つ。
陰嚢にピンクの単眼と紫の唇、網タイツと紅いハイヒールを履いた美脚を生やした半透明の冒涜的存在が現れて、輪になってラインダンスを踊る。
「くぁwせdrftgyふじこ!」
“ふしぎなじゅもん”を唱えると床に描かれた魔方陣の中心に激しい炎が吹き上がり、炎の中から飛び出した紫色の人魂めいた火の玉が死霊の啜り泣きのような音を発していずこかへと飛んでいく。
魔女は妖しい笑みを浮かべた。
「これで帝国は我が子のもの」
その女が入って来た途端、酒場は静まりかえった。
風俗店の踊り子さえ二の足を踏む過激なボンデージ鎧を纏った金髪巨乳女騎士の降臨に誰もが絶句し動きを止める。
ゴクリ。
誰かが生唾を飲み込む音が静まりかえった酒場内にやたらと大きく響いた。
お世辞にもガラがいいとは言えない冒険者崩れが集まる酒場である。
それなりに商売女や体を使ってパーティーに割り込んでくる女冒険者相手に経験を積んできた野郎どもが、ウブなDTのように煩悩の嵐に襲われていた。
細身だが要所要所はむっちりと実っていて、その豊かな部分と締まっている部分の比率が完璧なうえ理想的な曲線で構成された極上の女体。
怜悧な美貌は顔の右半分を覆う漆黒のフェイスガードとドブ色に濁った瞳だけがマイナス点だが、それを差し引いても残りで98年型ロールスロイス・ファントムが買える。
黙って立っているだけでも犯罪的にイヤラシイのにこれが動くと来たら色々なところがムッチムッチしたりプリンプリンしたりで父ちゃんもう辛抱たまらんとくらあ。
「おい、アイツは…」
「おお、間違いねえ」
「アレが噂の…」
「畜生なんてエロい格好してやがる!」
男達の間でそんなヒソヒソ声が飛び交う中、呪われた女騎士何する者ぞと無駄に意気がった命知らずが一人、カウンターを目指してゆっくりと歩くレイナースの前に立ちはだかった。
「全部洗濯しちまって着るもの無しか?」
気の利いた台詞のつもりなのだろうが生憎と相手は元ボディビルダー演じる未来から来た殺人ロボットではない。
呪われた女騎士は濁った目で目の前のチンピラを一瞥し、無言で通り過ぎようとする。
「待てよ。遊ばねえかって言ってんだよ、こっちはよ」
怖い物知らずのチンピラは再度女騎士の前に回り込み、好色な視線をパットン戦車を収納できそうな深い谷間に注ぐ。
「そんな格好をしてるんだ、ホントは好きなんだろ?」
チンピラの手がたっぷりとしたボリュウムを見せつけるレイナースの乳房を胸当ての上からグニッと掴んだ。
「なんでリーダーを一人にするのよ!」
「いい毛並みのぬこを見かけたので」
「あのトラジマを見逃すことはできない」
蚤の市で掘り出し物を物色している間にレイナースが一人で飲みに行ってしまった事を知り、あの歩く18禁を野放しにしてはいかんだろうと叱る姉に双子のニンジャは平然と返した。
野良猫を愛でるためにニンポまで使って追い回す双子に頭痛を覚えるアルシェだが、自身もコレクター魂を優先させて裸同然の女騎士の監視を双子に丸投げしていたため強く出ることができない。
「それであの破廉恥女騎士様は一体どこに-」
激しい破砕音とともに酒場の壁をぶち破り、時速100マイルに達しようかというスピードでアルシェと双子の眼前を通過する一人の男。
男は速度と高度を維持したまま通りを横断し、乾物屋の壁に古代エジプト王朝壁画めいたポーズでめり込んだ。
「てめえコノヤロウ!」
「ぶち犯したるぞコノヤロウ!」
チンピラゴロツキの一団を引き連れて自分が破壊した壁の穴から出てくるレイナース。
相変わらず一挙手一投足が男心(女の少々)を掻き乱す淫猥さに満ちている。
「あああまたこんな事に…」
「まさに様式美」
「そこに痺れないし憧れない」
そんな美少女三人組を見逃さないチンピラゴロツキ達。
「てめえらも仲間か!?」
「まとめてコマしたらあ!」
そこに投げ込まれる煙幕玉。
KABOOOOOOOOM!
「こっちだ!」
光り輝く金髪の美少年に先導された堕天使一行は追いすがるチンピラゴロツキを振り切ってとある酒場兼宿屋に辿り着いた。
「というわけで僕と一緒に伝説の海底神殿に行って欲しい」
輝く金髪。
幼くも怖いくらいに整った顔立ち。
文句なしの美少年であった。
その態度は限りなく横柄だが。
その少年の名はジルクニフ。
帝国の皇子である。
「12歳で愛人が両手の指の数より多いと評判の?」
「陰毛も生えてないのに巨根で絶倫と噂の?」
「アッー!アッー!」
顔を引き攣らせたアルシェが双子の口を塞ぐ。
「そんな噂もあるようだね」
ジルクニフは動じない。
あること無いこと言われるのは若くして才能の輝きが巨大に過ぎる故であろう。
当然のごとく次期皇帝候補筆頭であり、それ故敵も多い美少年は若干12歳にして酸いも甘いも噛み分けた老成の域に至りつつあった。
そんな次期皇帝候補筆頭も手を伸ばせばタッチできる距離に存在する金髪巨乳美女のボンデージ鎧から零れ落ちそうな双球の誘惑には抗し得ず、チラチラと視線を飛ばす。
「せめてマントを羽織って欲しいわね」
「暑苦しい」
未来の皇帝の性癖への悪影響を心配するアルシェの要求を切って捨てるレイナース。
「駄目だこの女騎士」
「まさに自走式性犯罪誘発装置」
双子の非難をものともせず濁った瞳をジルクニフに向けるボンデージ鎧の女騎士。
「なぜ私達に?」
背後に幽波紋のように浮かび上がった細い目の東洋人が「俺は依頼人の嘘は決して許さない」といったアトモスフィア(作画:さいとうたかをプロダクション)でガンを飛ばす。
黙って襟元を広げるジルクニフ。
鎖骨の下の薄い胸板には魚の鱗めいた不気味な網の目模様が浮かんでいた。
三日前、突然窓の外から飛び込んできた紫色の火の玉の直撃を受けたジルクニフは半魚人になってしまった。
いまは魔法オタクの爺の祈祷で呪いを抑え込んでいるが根本的な解呪のためには完全な魚になってしまう前に北の果ての永遠の氷の海の底にあるという海底神殿に行く必要があるのだそうな。
「パラダイン師は同行しないの?」
「爺は神殿に籠もって呪いの進行を遅らせるための儀式をやってる」
それは全身に香油を塗り、リオのカーニバルめいた極彩色の羽根飾りのついたビキニを装着してイナゴ頭の光の巨人がロバ頭の闇の巨人にコブラツイストを決めている超古代の神聖な石像の周囲を同じ格好をした弟子達とともに踊り回るという、感受性の鋭い人間なら重篤な影響を受けかねないものであった。
うっと呻いて口を押さえ、こみ上げる吐き気を堪えるアルシェ。
ニンジャイマジネーション力が災いして姉より詳細に情景を思い描いてしまった双子は堪えきれずにぶちまけた。
「今の僕は君だけが頼りだ」
城の人間は誰がスパイか分かったもんじゃないと語り、捨てられた子犬のような目でアルシェを見つめるショタクニフ。
なぜここまで?
実はアルシェの家がまだそれなりの身分の貴族だった頃、父親について登城したアルシェは何度も幼いジルクニフの遊び相手をしていた。
次期皇帝候補筆頭にとっては、この元貴族令嬢で現やさぐれ傭兵魔法使いは今でもいざという時に頼れるアネキなのだ。
「まさかのオネショタ案件」
「しかもロイヤルロマンスのかほり」
即座に立ち直ったうえ謎の盛り上がりを見せる双子。
「お待たせしました」
ミニスカ&ポニーテイル、ソバカスがチャーミングな巨乳美少女というモブのくせにやたら凝ったキャラデザの女給(服装はバイエルン地方の酒場で見られるアレだ)がジルクニフの前にウナギゼリーの大皿を置く。
「いや頼んでないし」
「あ、ソレ私のよ」
「はいどうぞ」
皿を持って振り返った少年の目が眼窩から飛び出した。
「お前はデボチカ!?」
「そういうお前はジルクニフ!?」
たまたま適当に選んだ店に席を取ったジルクニフと、たまたま皇城から姿を消したジルクニフの情報を得るため裏社会の人間と会食する予定だったデボチカの、全く予期せぬ遭遇であった。
「ここで会ったが百年目!」
母の愛に突き動かされた美魔女は決断的に行動する。
「デーモンよ地の底から姿を現せ!」
手にした瓶を床に叩きつけ、中の液体がぶちまけられると同時に白煙があがる。
白煙が晴れると同時に床に生じた映倫がモザイクを入れそうな割れ目が“くぱあ”と開き、割れ目の中から河童のミイラとイカの姿干しと沢蟹の唐揚げをごちゃ混ぜにしたようなクリーチャーが出現。
「シンドバッド…じゃなかった、ジルクニフを殺せ!」
クリーチャーはストップモーションアニメの動きでカニバサミをガチガチと鳴らし、イカゲソをクネクネと振り回して暴れ出す。
だが標的を見分けるだけの知性は無いようで相手は手当たり次第だ。
「ま、待ちなさい、私はちg-」
当然のごとく魔女も襲われていた。
カニバサミにドレスを引き裂かれ露わになった巨乳(やや垂れ気味)を両手で隠し、卑猥な動きで迫るイカゲソから必死になって身をかわす。
BBAかわいいよBBA。
巻き添えを食った一般人もクリーチャーに追い回され、酒場は大混乱である。
「なぜ罪も無い我々が!?」
世界はその他大勢に厳しいのだ。
右往左往する酔っ払いの一人がどさくさ紛れに魔法を放とうとしているアルシェの尻を撫でる。
「ひゃん!?」
杖から放たれた魔法が天井を爆破した。
「何か騒がしいわね?」
湯船の中に均整の取れた褐色の裸体を沈めたエドストレームは怪訝な表情を浮かべた。
仕事で王国から出張してきていた彼女は御禁制の品(邪教の呪いに使うらしい)を無事発注主に納品し、つかの間の休息を入浴とお肌のケアに当てていたのだ。
「う~ん」
下っ腹の肉を抓んで少し食事を減らしたほうがいいかもとか考えていると唐突に床が崩壊、バスタブは全裸のエドストレームを入れたまま階下へと落下する。
「何なのよ一体!?」
湯の中から飛び出した褐色肌の美女が右手を伸ばし、宙を飛んで来て手の中に収まった三日月刀を振るうと目の前に飛び出してきた男(アルシェの尻を撫でた男だ)の首が飛ぶ。
同時にクリーチャーが襲いかかってきた。
「なんだどうした?」
「ナニ?酒場で裸の女と裸同然の格好をした女が戦ってる?」
噂は“裸の女”という部分が強調されて街中に拡散する。
「エドが“全裸”で戦っているだと!?」
若い衆から知らせを受けたゼロは淫売宿で三人を取っ替え引っ替えして「もう駄目」「死ぬ死ぬ」「壊れちゃう」と言わせているところだった。
「こうしちゃおれん!」
ゼロは悪党だが手下を大事にする親分肌の男だ。
ましてやチャンスがあれば寝てみたいと思っているエドストレームの危機である。
「今行くぜ!」
全裸で飛び出しかけたが流石にぱんつを履くだけの理性はあった(だがぱんつだけだ)。
こうして混沌の戦場にたまたま仕事で帝国に来ていたイレズミハゲマッチョ(ぱんつ一丁)が参戦するのであった。
酒場での激闘は続く。
アルシェの魔法や双子が投擲するスリケンの流れ弾によるコラテラルダメージも結構な数が発生しているのだが、裸で戦うエドストレームと裸よりエロいボンデージ鎧で戦うレイナース目当ての野次馬は増える一方だ。
当然のごとく人数が増えるだけ騒ぎも大きくなる。
混乱に乗じた客に個室に連れ込まれそうになった女給はスカートの中に手を伸ばし、フトモモに巻いたベルトからフォークを抜き取ると昭和52年12月15日蔵前国技館のブッチャーが乗り移ったかのような残虐ファイトで不埒者を血達磨にする。
厨房ではやたらと強い旅の料理人が「クックマン魂に火が点くぜ」と叫びながらクリーチャーを解体してブイヤベースを試作していた。
「しまった!」
裸同然の踊り子衣装で戦うのとリアルマッパで戦うのとではやはり勝手が違うのか、イマイチ動きに精彩を欠くエドストレームはクリーチャーの触腕に捕まってしまう。
「くっ、放せ!」
両腕を大の字に広げたポーズで拘束されたエドストレーム(全裸)に邪悪なクリーチャーの邪悪なカニバサミが迫る。
心臓を抉り取られるかと恐怖するエドストレーム。
だがクリーチャーの攻撃目標は褐色美人剣士(全裸)がイカゲソを振りほどこうと暴れる度にタプンタプンと激しく弾む豊満な乳房の先端の敏感な突起だった。
エドストレームの背中を生命の危機とは別種の戦慄が走る。
ガチンガチンと見せつけるように威圧的な開閉を繰り返しながらゆっくりと標的を狙うカニバサミ。
「い、嫌…ッ!」
冷酷非情な褐色美人剣士(全裸)が半泣きだ。
ああ、このまま辱めを受けてしまうのか?
「俺のエドに何しやがる!」
ゼロパンチ!相手は死ぬ!
「大丈夫か?」
「誰が“俺のエド”よ!」
男の子の切ない部位に情け無用のヒザ!
ゼロは崩れ落ちた。
「完璧だわ」
デボチカ(全裸)は手にした金色の物体を頭上にかざし、熱に浮かされたような表情で呟いた。
それは自らが召喚した地獄の悪魔と女悪魔のべ十二体を相手にした肉弾相打つ激しい乱戦(比喩的表現)で得た魔力を注ぎ込んだマジックアイテム。
歯車と板バネと滑車装置の組み合わせでありながら妙に有機的なフォルムを持つその純金製の機械仕掛けの心臓を色々な体液でべたついた裸体のまま作業台に横たわる巨人の胸にセットする。
その大きさはアストラギウス銀河の一人乗り人型戦車とほぼ同サイズ。
全盛期の大関寺尾を連想させる太マッチョな胴体とその上に乗った雄牛の頭は一分の隙もなく金ぴかだ。
その名はミナトン。
酒場の乱戦で結局ジルクニフを取り逃がし、お手軽に召喚したボンクラ揃いの魔物だけでは戦力的に不安があるという結論に達した魔女が錬金術を駆使して作り上げた戦闘用自動人形である。
「命授けよ!」
最後にありったけの魔力を使い力尽きて倒れる魔女。
ゴンゴンゴンという重々しい駆動音とともに黄金の巨体が動き出す。
上半身を起こしたところで一時停止し、鼻からブワッとT-34のエンジン始動めいた白煙噴出。
続いて膝立ちの姿勢になって顔を上げブゥンと両目が発光。
最後に勢いよく立ち上がって両腕を振り上げ、稲妻を背景にバンガオと吠える。
由緒正しいスーパーロボット起動シーンであった。
ミナトンは床に大の字になって失神しているデボチカ(全裸)を見てちょっと考えるような仕草をしたあと、腐る寸前の果実めいた美熟女の裸体をシーツで包み、優しく抱き上げて寝所へと運ぶのだった。
「と言うわけで秘宝使わせてください」
「絶対にノウッ!」
この間0.1秒。
ジルクニフと堕天使の四人は法国中央神殿に来ていた。
目的は六大神の遺産である。
ここで竜王国の戦いで作ったコネが役に立つはずだったのだが、陽光聖典隊長はそう甘くはなかった。
「待ちたまえ」
そこに現れたのは某ベータスマッシュめいた赤と銀の筋肉モリモリマスクマン。
「従属神様!?」
五体投地するニグン。
「君が噂の呪われた女騎士かね?」
女騎士をじっと見つめる600年前から存在しているNPC。
その視線の向かう先は633爆撃隊が飛び込んで行きそうな深い谷間かそれを覆う漆黒のボンデージ鎧か。
「隙アリ!」
女騎士はクーデリアから手渡されたパイプ椅子をベースマモドキの脳天に叩きつける。
「グワーッ!」
よろけたところにヘッドロック。
液状化した粘体が邪悪な動きで従属神の耳に潜り込む。
「アッ――――――――――!!!」
ビクンビクン!
三秒後-
「どうぞお使い下さい」
「バカナー!?!」
ニグンは失禁した。
照りつける太陽の下、男が一人、黙々と野菜の収穫を行っていた。
太い男だった。
体が太い、手足も太い。
顔の造作も何もかもが太くて大らか。
往年のスーパーロボットアニメに出てくる水中戦用三号機のパイロットが似合いそうなこの青年こそジルクニフの(数多いる)異母兄弟の一人トルチョック皇子である。
トルチョックは首にかけたタオルで汗を拭い、手にしたトマトの艶と張りを確かめて笑みを浮かべる。
「これならあいつの鼻をあかしてやれるな」
あいつというのはやはり畑仕事を趣味にしている知り合いの公爵令嬢で、トルチョックとは野菜作りのワザマエを競い合うよきライバルであり、互いに「野猿」「田吾作」と呼び合う仲である。
「トっくーん!」
デボチカがとろけるような笑顔で駆けてくる。
「ああなんて可愛い息子なんでしょう!」
トップロープからトペを敢行するドスカラスめいた勢いで畑仕事で鍛えられた息子のがっちりした肉体に飛びつくと、流石に加齢には勝てず若干垂れ気味の巨乳をトルチョックの顔に押しつける。
「母上苦しい」
暴走する母の愛のマリアナ海溝めいた深さと圧力に圧壊してしまいそうだと思いながらも魔女の熟れきった肉体を優しく引き剥がす。
「何かご用でしょうか?」
「北に行くわよ!」
「分かりました」
母親が主観的かつ独善的、さらには下手に口答えすると火病を発症するのは確定的に明らかなので余計な事は言わない。
「今度こそあの糞生意気な小僧の息の根を止めてくれるわ!」
などと叫びつつ走り去るデボチカを見送り、トルチョックは肩を竦めた。
「俺は美味い野菜を育てていればそれでいいんだがなあ」
そんなトルチョックの両肩にポンと手を置いたのは灰色の毛皮に黒の斑紋が美しいでかいぬことしか形容のしようがない二頭のペット。
名前はユキチとリアン。
口から冷凍ガスを吐き、鋭い爪で鋼鉄をも引き裂くれっきとした魔獣である、でかいぬこにしか見えないが。
二頭はトルチョックがカッツェ平野で拾った魔獣であり、リアルの東山動物園で飼育されているユキヒョウと名前と容姿が同じなのはもちろんただの偶然だ。
「まあ母上には俺がついててやらないとな」
トルチョックは弁当箱からユキチとリアンの好物である揚げたタマネギを取り出した。
女騎士の説得(邪法)によって法国の秘宝である光り輝く黄金の天の浮舟を借り受けた堕天使一行は寒冷地への旅に備えて準備を整える。
「違う違う、保存食は痛みやすいものを上に、長持ちするものを下に!」
古き漆黒の粘体に脳ミソレロレロされ、よく訓練されたベトコンのように従順になった従属神とその使徒であるムキムキな神官たちによる荷物の積み込みを監督するのはアルシェ、そしてそれをニヤニヤしながら眺めるジルクニフ。
「何よ?」
「“苔のお姉さん”が立派になったもんだなあと」
「やめろぉッ!」
かつてフールーダのもとで魔法を学んでいたアルシェは師の命令で魔法薬の原料集めをやらされていた。
高山に自生する希少な苔を採取するため断崖絶壁に取り付いたアルシェの姿を目撃した木こりや猟師が「ヤモリビト」とか「苔のお姉さん」と呼んでいたのは彼女にとって触れられたくない過去の一つである。
「これ以上そのネタ引っ張るとスカート履かせるわよ」
「姉の男の娘にかける情熱は異常」
「特にスカート丈の拘りはピンクの肉棒の関与が疑われるレベル」
ジルクニフは恐怖した。
「積み込み完了です」
「では出発!」
戦闘以外ではほぼ自発的に動くことのないレイナースはあくまで不動を貫いていた。
氷原を進むニワトリの足を生やした帆船。
それは当然のごとく魔女デボチカが操る魔導船だ。
進路を警戒するミナトンがヒョコヒョコと歩く船の概ね50メートルほど前方を進み、ユキチとリアンは嬉しそうに船の周囲を駆け回っている。
船上では酒場の戦いで生き残ったクリーチャーたちが甲板掃除をしたり船首楼に設置された4インチ両用魔導砲の手入れをしたり筋トレしたりカバディしたりしていた。
「ふう…」
船尾楼の奥に設置された浴室で、かろうじてプロポーションは維持できているものの微妙に弛みの兆候が見られる熟れ過ぎボディを熱い湯に沈めたデボチカは、うっとりと目を細めて息をつく。
「母上、流石にこれは問題なのでは?」
困惑するもの無理はない。
トルチョックが湯船に肩まで漬かっているまさにその最中に、一糸纏わぬ母親がさも当然といった風情で堂々と浴室に侵入し、息子が入っているその同じバスタブに身を沈めて来たのだ。
「親子のスキンシップです、何も問題ありません」
などと言いつつその手をトルチョックの股間に伸ばす。
「は、ハハウエ!?」
「息子のムスコを点検するだけです、何も問題ありません」
「ダイセツザンオロシィ――――――――――!!!」
青少年の何かの危機に錯乱したトルチョックのヒサツ・ワザが炸裂。
船室の天井をブチ抜いて飛び出したデボチカ(全裸)は美しい放物線を描いて顔から氷原に突き刺さった。
軽やかな足取りで駆け寄ったミナトンはスケキヨ状態の魔女(全裸)をよっこい庄一と引き抜くと、優しく抱き上げて船へと向かうのであった。
堕天使一行を載せた黄金の天の浮舟は北の果てにある永遠の氷の海の上空にいた。
魚化が進行したジルクニフは時折理性を失いアルシェに抱きついては白子をぶっかけようとするので水槽に閉じ込めてある。
「そろそろだぜ」
操船を担当するメカメカしい宇宙服を着込んだアライグマのNPCに目的地が近いことを知らされたアルシェは懐からガラス瓶を取り出した。
瓶の中には緑の服を着て緑の帽子を被ったミクロマンサイズのアゴヒゲのおっさん。
これぞ法国から借り出した第二の秘宝、<瓶の小人>である。
「小人さん、お願いできるかしら?」
「え~メンドイのう~」
小人は見た目も態度もおっさんそのものだった。
だが小人の扱い方は従属神からレクチャーを受けている。
ここで一番デカいレイナースの出番である。
レイナースは瓶を乳谷に沈めると瓶ごと圧し潰す勢いで両サイドから圧力をかけながら低い声で言った。
「やれ」
「はい」
小人はポケットから取り出した魔法の金貨を放り投げた。
金貨が瓶を素通りして氷原に落下すると氷をブチ割って巨大な石造りの建造物が現れる。
それは海底神殿へと通じるエレベーターめいた建造物であり、当然のごとく防衛モンスターとセットであった。
ガオオンと咆哮するのは日野の14トン積み冷凍冷蔵車サイズの巨大セイウチ。
頭が二つあるところとサザエを背負っているところがちいっとばかし個性的である。
「ちょっと強そうじゃない?」
倒すのにどのくらい手こずりそうか脳内シュミレーションを開始するアルシェ。
「野生動物をむやみに殺戮するべきではない」
「よく見ればかわいい」
異を唱える双子。
「アレがカワイイ?」
妹たちの理解不能な感性にアルシェは震える。
「それでどうするの?」
地上に降りてサザエを背負った頭が二つある巨大セイウチという正気を疑いそうな存在と対峙した一同を代表して瓶の小人に質問するアルシェ。
ちなみに小人の入った瓶は今もレイナースの左右の乳とボンデージ鎧の胸当てによってしっかりと三点ホールドされており、激しく動いてもすっぽ抜ける心配はない。
「奴は未成熟な娘さんの百合が好物なんじゃ」
小人はエチぃニンジャ装束に包まれたクーデリカとウレイリカの肢体をねっとりとした視線で交互に見た。
「あんたらならギリギリ守備範囲じゃ」
「心得た」
「ニンジャのワザマエをとくと見よ」
思い切りよく半脱ぎになるクーデリカとウレイリカ。
双子が演じる文章に書き起こすことが憚られるパフォーマンスにかぶりつきになる防衛モンスター。
その間にレイナースとアルシェ、そして手足に水掻きが生えたうえすっかりインスマウス面になったがまだ意思疎通は出来るジルクニフがエレベーターに駆け込んだ。
その頃使い魔の殺人魚フライングキラーが発見した別ルートを進んでいたデボチカとその一味は地底の沼地で原生モンスターに襲われていた。
現れたのはフジツボに手足が生えたような四足歩行のモンスターとムツゴロウが放射能を浴びたような魚型のモンスター。
海底神殿が舞台ということで「アトランティス・七つの海底都市」からザルグとモグダン(頭になかよひはつかない)の登場だ。
極地なのになぜか熱帯気候の地下世界ということで黒のビキニに黒ブーツという原始惑星の女王ルックになっている魔女はフンと鼻を鳴らした。
「ミナトン!」
黄金の巨体が前に出る。
「やっておしまい!」
デボチカの命令を受けた戦闘用自動人形は全兵装一斉掃射。
マジカルスペースビーム。
マジカルデストファイヤー。
マジカルフィンガーランチャー。
マジカルクロスアタックビーム。
高揚感溢れるビッグバンドの演奏(指揮:佐藤勝)をBGMに出鱈目な火力でモンスターの群れを吹き飛ばしていくミナトン。
中野爆発めいたこの威力!
さらにテケリリと鳴く不定形生物やイソギンチャクめいた地球外生命体を駆逐しながら魔女の快進撃は続く。
トルチョックは(そう言えば留守の間の畑の世話を頼んだとき野猿が顔真っ赤にして「か、勘違いしないでよね!」とか言ってたけど何だったんだろう)と現実逃避していた。
「ここだわ!」
エレベーターは海底神殿の最奥にある聖なる祭壇への直通であった。
祭壇には巨大なワイングラスとも言うべき透明な盃が置かれていて、その中ではいかにも霊験あらたかな七色の光が渦を巻いている。
「あの中にジル君を入れれば!」
「そうはイカの金太郎!」
死角からのアンブッシュ!
べたつく粘液に覆われた触腕がレイナースを絡め取る。
それは背中に黒と金の髑髏模様を浮かべた甲虫の胴体にタコの足を生やした巨大なフンコロガシであった。
先に祭壇に到着していたデボチカが遺跡の制御機構を掌握し、防衛モンスターをも配下にしていたのだ。
「うっ、く…ッ!」
しなやかな肢体をタコ足に締め上げられ苦悶するレイナース。
身内絡みでないからなのか今回は漆黒の不浄の炎は発動しない。
手足を拘束され、反撃の手段を奪われたレイナースを特に理由の無い羞恥責めが襲う。
サービス担当だからね仕方ないね。
特に集中的に狙われたのはそのボリュウムと形の美しさで一際目立つロケットおっぱいであった。
乳房に巻き付いた触腕がいやらしい動きで根元から先端に向かって絞り上げ、締め付けによってパンパンに張った乳肌に吸盤による甘噛み攻撃まで追加される。
危険な合わせ技だ!
柔らかくてそれでいて張りのある双球がグニグニと捏ね回され、バニラアイスのように真白い乳肌が擦り付けられるタコ粘液に汚されていく。
「ホホホいい格好ね」
魔女は嘲笑した。
トルチョックはあんなに大きくてもやっぱり妊娠していないと母乳は出ないんだなと一人納得していた。
「さあ仕上げと行こうかい」
デボチカが石版にタイピングめいた指タッチをすると謎の古代機械が唸りをあげ、巨大タコ足フンコロガシが落としたレイナースを吸い込んでチカチカと点滅する。
三分後、ペペペと吐き出されたのは長方形の黄色の板の上でアーチ形に成形された黒白段駄羅模様の人肉加工食品。
それは紛う事なきカマボコ(原材料:女騎士100%)であった。
おおレイナースよカマボコになってしまうとはなさけない。
アルシェは崩れ落ちた。
なお瓶の小人は速攻で谷間から引っこ抜かれ、床に空いた裂け目から地下のマグマ溜まりに投げ捨てられていた。
おお、ナムアミダブツ。
「メシだぞ」
レイナースはカマボコにされジルクニフは水槽の中。
そして檻に入れられたアルシェにトルチョックが差し入れたのは黒パンと木の椀に盛った野菜とベーコンのスープ。
見た目は雑だが意外と味はいいスープを啜りつつアルシェは訪ねた。
「私達をどうする気?」
「そうさなあ」
トルチョックは矛盾に満ちた存在である。
気は優しくて力持ち、驚くほど無欲な人間であると同時に母のためならどんな非道も平然とやってのける男でもある。
今も捕らわれの女魔法使いをできることなら助けてやりたいと思いつつ、母が殺せと命じれば躊躇なく実行するつもりのトルチョックはちょっと考えたすえ-
「まだ慌てる時間じゃない」
問題を先送りすることにした。
その時、<非常口>と表示された鋼鉄の仕切り板をこじ開けてサザエを背負った双頭の巨大セイウチが入って来た。
「お待たせ」
「それともお呼びでない?」
サザエの上でポーズを取っているのは当然のごとく双子のニンジャ。
さっそく巨大タコ足フンコロガシとの怒濤のモンスター対決に突入だ。
「アレはもう私達の下僕」
「カプセル怪獣みたいな?」
一体ナニをして手懐けたのか非常に気になるアルシェだったが追求する勇気はなかった。
素早く檻を解錠しアルシェを伴って脱出しょうとした双子のニンジャの前に二頭のユキヒョウめいた魔獣が立ちはだかる。
「うおおおおおおおお!」
「モフモフウウウウゥ!」
荒ぶるクーデリカとウレイリカ。
双子のニンンジャはレズでもショタコンでもなくケモナーであった。
ビーストマン?あんな半端者にハアハアするほど双子の”純度“は低くない。
魔獣さえ反応できない速度で寝技を仕掛ける双子のニンジャ。
あっという間に組み敷かれるユキチとリアン。
モフモフを目の前にした双子は無敵である。
邪魔する奴はケモナージャーマンだ。
「ああ、この感触!」
「おお、まさに至高のひととき!」
「クウ~ン♡」
あっという間に陥落するユキチとリアン。
そして巨大タコ足フンコロガシと双頭サザエ大セイウチは組み合ったまま床に空いた亀裂から地下のマグマ溜まりへと落ちていく。
おお、ナムアミダブツ。
「もうお前達だけ」
「ここが年貢の納め時」
ユキヒョウめいた二頭の魔獣を無力化し勝ち誇る双子。
「だがこのミナトンには敵うまい!」
魔女の命令で光り輝く金ピカ自動人形が動き出す。
「ミナトン、殺せ!」
「そうは行かない」
舞い降りる白い影。
それは裸よりエロい我らがボンデージ女騎士だ。
「お前はカマボコにしたはず!?」
「呪いの力を舐めてもらっては困る」
レイナースにかけられた呪いは干物にされようが練り製品にされようが必ず<美人でナイスバディだが顔の右半分が臭い汁を垂れ流す腫れ物に覆われた女騎士>の状態に戻ってしまう建物更生保険めいた原状回復特約付きなのだ。
「ええいミナトン!欠片も残さず消し飛ばしておしまい!」
自動人形が両眼から放つマジカルスペースビームを跳躍回避。
「目には目を、スーパーロボットにはスーパーロボットを!」
レイナースの瞳がグルグルと渦を巻く(作画:石川賢)。
セクシーボディを淫靡に飾る漆黒のボンデージ鎧、その胸当てと肩アーマーが液状化し、左腕へと流れていく。
極限まで薄く細くされた胸当てはもはやかろうじてチキビしか隠せていない紐ビキニ状態だ。
そして左手の先に集まった漆黒の粘体はエメラルド色のオーラを纏いつつ超高速螺旋回転。
「ゲッタードリル!」
女騎士のドリル貫手がミナトンの顔面を粉砕!
自動人形は爆発四散!
「かくなる上は!」
自ら短刀を抜き放ちヤバレカバレで女騎士に向かっていこうとするデボチカの首の後ろの急所をトルチョックが手刀で打つ。
「当て身」
「はう!」
失神した魔女を息子は優しく抱き上げた。
「もうここまでにしよう母上」
そしてゴブリンのミイラとイカの姿干しと沢蟹の唐揚げがごちゃ混ぜになったクリーチャーを下がらせる。
「さあ、ジルクニフ殿を元の姿に」
「…ありがとう」
複雑な表情のアルシェがジルクニフを伴って祭壇へと向かう。
「さ、ジル君」
ほとんどウロコとヒレ足の生えたオオサンショウウオと化していたジルクニフは「ゲコ!」と鳴いてピョンと跳んだ。
そしてアルシェに顔面騎乗し美しい顔に白子をぶちまける。
魔法使いは無言で次期皇帝候補筆頭の両足を掴んでジャイアントスゥイングし、盃に投げ込んだ。
日差しは優しく風は爽やか、わざとらしくハトも飛ぶ。
堕天使一行はジルクニフの招きを受けて皇城を訪れていた。
「すっかり世話になったね」
呪いが解け、美少年に戻ったうえ皇子としての正装に身を包んだジルクニフは優勝パレード用に飾り立てたリンカーン・コンチネンタルよりも煌びやかだった。
「お役に立てて何よりです」
相変わらずドブ色の瞳に気のない表情で突っ立ったままの女騎士に代わって当たり障りのない挨拶をするアルシェ。
「ところでアルシェ」
ジルクニフ少年は年上の魔法使いにあざとい上目使いをしながら言った。
「もしよかったl-」
「ここにいたのか、野菜持ってけ!取れたてだぞ!」
トルチョックが現れた。
背中に野菜を山盛りにした籠背負って。
押しつけられた旬の野菜を抱えて微妙な表情になるアルシェ。
だがユキチとリアンと戯れる双子の至福の笑顔を見て悩むのも馬鹿らしくなった。
「そういえばあのクソ魔j-じゃなくてお母様は?」
「旅に出てる」
自分を見つめ直すと言ってわざわざ王国まで行って偽名で冒険者登録し、やはり冒険者になるために田舎から出てきた少年達とパーティーを組んだのだそうな。
精通もまだな少年グループに年増とはいえ色気の塊のような美女が一人。
イケナイ予感しかしないのだがそれはここで語るべき物語ではない。
「ところでアルシェ」
仕切り直したジルクニフが再びあざとい上目使いをしながら言った。
「もしよかったら傭兵稼業なんか辞めて僕の…」
「ここにおったかジル!」
極彩色の羽根飾りが付いたビキニ姿のままのフールーダが駆けてきた。
「あの白子を調べたところこの世に二つとない秘薬の原料であることが分かったのじゃ、是非もう一度呪いを受けて半魚人n-」
アルシェは殴った。