ダンジョンに、ダンジョンマスターが現れた! 作:ずぼらさん
まだ陽が昇らない深夜。
誰にも知られる事なく、ゴブリン達が地上に向かっていた。
迷宮都市オラリオの歴史で、暗黒期と同じように恐怖の惨劇して語られる。
こちらは、たった1日。
されど平穏な日常を破壊するには、十分の出来事だった。
【ゴブリンキングパート】
蜥蜴ニ乗リ、螺旋階段ヲ縦ニ登ッテ行ク。
登リキレバ地上ダ。
心ノ奥デ、不思議ト燻ッテイタ願イ。
地上ニ行キタイ!
何故ソウ願ッタカハ、モウ思イ出セナイ。
「「「「「
俺ノ後ロカラ、同ジク蜥蜴ニ乗ッタ配下共ガ、叫ンデイル。
精々俺ノ役ニ立テ。
巨蛙ニ乗ッタ配下ハ、螺旋階段ヲ使ッテイル。
鉢合ワセシタ冒険者共ヲ、始末シナガラ。
着イタ。
登リキッタゾ。
「なっ!?魔物が、ぐはっ!」
「警報を、ぎゃあっ!」
見張リデアロウ冒険者達ヲ、即座ニ斬リ殺シタ。
ココハ建物ノ中カ。
入リ口カラ外…街並ミガ見エル。
夜トイウヤツカ。
辺リハ薄暗ク、上ハ天井デハナク、天高ク無数ノ輝キガアッタ。
素晴ラシイ!
アアア、アレガ地上ノ光景カ!
ツイニ俺ハ、地上ヘ来タ!
願イガ叶ウト、ドス黒イナニカニ、心ガ支配サレル。
「蜥蜴部隊ハ女ヲ奪エ!巨蛙部隊ハ男ヲ殺セ!侵攻ノ開始ダアアアアアアアアアアアッ!」
「「「「「
【ギルド職員ゼクスパート】
残業が遅くに終わって、ギルドに寝泊まりしていたら…。
悲鳴声で目が覚めた。
慌てて、部屋から飛び出すと…そんな!?
居るはずのない魔物がいた。
あれは…ゴブリンだ。
沢山いる。
先輩や同僚達が、次々に襲われている。
ギルド職員は冒険者と違い、主神から恩恵を受けていない。
一般市民と同じで、戦闘能力は皆無。
助けたいけど、死体が増えるだけだ。
逃げて、冒険者達に助けを…あっ!
寝泊まりしている中に、ミィシャとエイナ。
それから、テリア先輩がいる!
急いで探さないと!
あちこちから聞こえる悲鳴声に恐怖しながら、俺は走った。
先輩達の居る場所は近い。
どうか無事で!
幸運にも襲われず、女性専用の仮眠室に着いた。
「テリア先輩!」
誰も居なかった。
争った跡や血痕があるだけ。
………遅かった?
3人とも魔物に?
う、嘘だああああああああああああああああああああああっ!
【一般市民とある父親パート】
待ってくれ!
娘と妻を連れて行かないでくれ!
私は涙を流し、心の底から叫んでいた。
数分前の事だった。
玄関の扉を乱暴に叩く音が聞こえて、目が覚めた。
こんな深夜に一体誰だ?
可愛い娘や美人の妻も起きてきた。
まさか、強盗か?
護身用に買っておいた剣を掴み、玄関に近づく。
「だ、誰だ!?」
「「「グギャギャギャア!」」」
「うおおおっ!?」
扉が破壊され、入って来たのは…魔物!?
馬鹿な!?
街の中に何故!?
「パパ!」
「あなた!」
「2人とも奥へ!逃げるんだ!」
怖かった。
足の震えが止まらない。
だが、父親であり夫である私が、大切な家族を守るのだ!
我武者羅に剣を振るった。
剣を使った事はないし、剣術を習った事もない。
時間を稼げれば…。
「ぐわああああっ!」
左腕・右脇腹・左太腿を短剣で刺された。
あまりの痛みに倒れ、動けなくなった。
魔物達は私を無視して、家の奥へ入って行く。
やめろ!行くな!
「パパ!パパ!」
「あなた!」
魔物達が娘と妻を、家の奥から引き摺り出してくる。
神よ!お願いだ!私はどうなってもいい!
「だから、家族に救いの手を…ぐふっ!」
最後の力を振り絞って、立ち上がろうとしたが、胸に短剣を突き立てられた。
「いやああああああああっ!パパ!」
「お、夫を殺さないで!」
2人は必死に抵抗したが、魔物から逃れる事は出来ず、家の外へ連れて行かれた。
もう目が霞んで、よく見えない。
血を吐き、身体から力が抜けるのを感じる。
誰でもいい。
娘と…妻…を…助け…て…く…。
【豊穣の女主人の料理人パート】
はあー、酔い覚ましの水を。
アーニャさん達の酒盛りに、付き合ったのは失敗でした。
リューさんのように逃げるべきでした。
私は、ドワーフのウラミオ。
まだまだ未熟ですが、料理人をしています。
「うぷっ。」
こんな所で吐いたら、ミア母さんに怒られます。
お薬も飲みましょう。
どこでしたか。
うん?
外が騒がしいですね?
どこぞの冒険者達が騒いでいるのでしょうか。
近所迷惑ですよ。
窓を開けて、外の様子を見ます。
へっ?
建物が燃えていました。
火事!?
1軒や2軒ではありません。
一体何が…まさか放火ですか!?
「ウ~ラ~ミ~オ~、お酒のおかわりニャー!」
「うひゃっ!?」
背後から誰かに抱きしめられました。
って、アーニャさん!?
それどころじゃないです!
「ちょ、離して下さい!外を見て…えっ!?」
抱きしめたまま寝ている!?
うぐぐっ。
振りほどけないです。
寝ているのに、なんて力ですか!
火の手が豊穣の女主人にまで、来るかもしれません。
何より、ご近所さんの火事を見過ごせません。
消火の手伝いに行かないと!
「「「グギャギャギャア!」」」
「アーニャさん、いい加減に…ん?グギャ?」
改めて外を見ると…魔物のゴブリンが沢山いました。
うじゃうじゃいます。
どうして街の中に!?
「「「ゴグギャギャギャ!」」」
ああっ!
扉を破壊して、豊穣の女主人の中に入ろうとしています!
大変です!
寝ている皆さんに知らせないと!
ぐぬぬっ。
アーニャさんが重くて、移動できません。
「起きてーっ!」
【一般市民達を守る冒険者パート】
うっざい!
ゴブリン達の数が多い。
とにかく多い。
私や仲間達だけでは、手が足りない。
一般市民達を守りきれない。
「冒険者様、お願いです!妹を助けて下さい!」
女性が泣きついてきた。
指差す方向には、担がれている少女の姿があった。
ちっ!
逃がしたら、もう助けれない。
そんな予感がした。
だから走った。
なのに、目を離した僅かな隙に…。
「きゃああああああっ!」
泣きついてきた女性が連れて行かれた。
ダンジョン・リザードに乗ったゴブリンによって。
くっ、移動が早い!
片方を追えば、確実に片方を見失う。
仲間達も一般市民達を守っていて動けない。
どっちを助ければいい?
妹の方?姉の方?
私は迷った。
「「「「「グギャギャギャガ!」」」」」
「なっ!?」
ゴブリンの増援が来た。
また数が多い。
姉妹を追いかけたら、守っている一般市民達と仲間達が…。
「戻ってきて!ウッドリア!」
「こいつら魔法を使うぞ!」
「ウッドリアさん!うわっ!」
くそ!くそ!くそおおおおおぉっ!
仲間達のところに戻る。
私は姉妹を見捨てた。
自分の弱さに涙が流れた。
【ソーマ・ファミリアの団員パート】
ダンジョンの異変が、オラリオまで及んだのか!?
ゴブリン共が攻めてきた!
俺の所属するソーマ・ファミリアのホームにも、恐ろしい数で来やがった。
やばいぞやばいぞ。
最近強くなっているゴブリン共。
団員の大半が、レベル1の俺達は防戦一方だ。
このままだと、負けちまう。
ザニス団長が頑張っているけど、指揮が出来てねえ。
………逃げるか?
周りの連中も、そう思っているはずだ。
ソーマ様を連れて、オラリオを出る。
「裏口が破られた!」
絶望的な悲鳴声が聞こえた。
同時に、ホーム内部でも争う音が聞こえてきた。
いよいよ後がなくなってきた。
逃げるなら早い方がいい!
提案しようとしたら…巨大な光の柱が空に昇った。
ホームの屋根が吹き飛び、俺も吹き飛ばされた。
「なんだ!?何が起きた!?」
身体の痛みを我慢して立ち上がる。
状況を確認しようとして、失っていくモノに気がついた。
神の恩恵が…消えた?
「馬鹿な!?」
今の光の柱は、神の送還なのか?
まさか、ソーマ様が?
ゴブリン共に殺されて?
「「「ギャギャギャギャ!」」」
ゴブリン共の醜悪な笑い声が聞こえた。
ひいいいぃっ!
恩恵がなくなった俺達は、一般市民と変わらない。
魔物に勝てる力はない。
その証拠に団員達が、あっさりと殺されていく。
に、に、逃げないと!
「ぐあっ!?」
後頭部に強い衝撃を受け、意識が薄れる。
やら…れ…た…?
嫌…だ…死にたく…な…。
【ディアンケヒト・ファミリアの団員パート】
死なないで!
私は重傷患者に治癒魔法を使いました。
オラリオにゴブリンの大軍が現れてから、多くの怪我人が運ばれてきます。
たった数時間でホームは、野戦病院のような有様です。
必死に治療しても、亡くなってしまう人が後を絶ちません。
冒険者でない一般市民の方ばかり。
「母さ…ん…姉…さん。」
「しっかりして!」
重傷患者…血塗れの少年の手を握ります。
避難中に襲われ、お姉さんと母親が行方不明に。
血が止まらない。
もっと治癒魔法を!
ううっ、眩暈がします。
でも、諦めません!
お願い!生きて!
「ん…ここ…どこ?」
良かったー。
傷が塞がり、意識を取り戻しました。
油断できない状態ですが、あとは仲間に任せましょう。
次の重傷患者の所へ向かいます。
フラフラしますけど、休んでいる暇はありません。
ポーションを飲み、精神力の回復。
本来治療する
私達が頑張らないと!
【ゴブリン達と戦う冒険者パート】
ギレマ!ダッタガ!デッロー!
仲間達が倒された。
最弱の魔物ゴブリンに1対1で敗れた。
あ、ありえねえぇぇっ!
仲間達だけじゃない。
他の冒険者達も倒されている。
俺が勝っているのは…多分レベル差だ。
倒された仲間達は全員レベル1。
レベル2以上は、俺を含めて勝っている。
まあ勝っているだけで、押されまくっているがな!
数の暴力は厄介だ。
しかし、ゴブリンが強くなったのは、何故だ!?
いや、レベル1に倒されているゴブリンもいるか。
個体によって違う?
「グワギャギャギャ!」
「うるせえよ!」
強いゴブリンは俺が倒して、弱いのは仲間に任せるしかねえ!
これ以上オラリオで、好き勝手させてたまるか!
「お前ら!作戦を伝えるぞ!」
【逃げ出す冒険者達パート】
だ、駄目だ。
ゴブリンの癖に強くなっているし、この数は反則だ。
勝てるはずがない。
ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアは、何をしているんだ!
さっさっと出て来て退治しろよ!
役に立たねえ連中だ!
逃げよう。
まだ死にたくない。
「た、助けて、冒険者様!」
怪我をした一般市民が片足を掴んだ。
「しるかよ!」
「ひぎゃあぁっ!」
もう片方の足で、一般市民を蹴り飛ばした。
お前らみたいな弱者を助けたら、こっちの命が危なくなる。
勝手に死ね。
ついでに、囮になってくれると嬉しいぜ。
どこへ逃げる?
オラリオの外か?
慌てて逃げたから金がねえ…そうだ。
「ぼ、冒険者様?一体何を…ぐあああぁぁっ!」
「へへへ、金品を頂くぜ。」
どうせ、お前は死ぬんだ。
死人に金品は要らねえ。
ありがたくもらって、使ってやるよ。
【ガネーシャ・ファミリアの団員パート】
「俺がガネーシャだ!」
何やってるんだ、あのアホ主神は!
危ないから隠れとけよ!
面倒を見るように頼まれた、
責任は、お前が取れよ!
「ハオルタ、どうする?」
「俺達が団長に頼まれたのは、消火活動と避難誘導だ。」
シャクティ団長もイルタ副団長も、別行動中だ。
与えられた仕事は、きっちりやるさ。
救助した一般市民達を安全な場所へ誘導。
安全な場所が、少な過ぎるけどな!
問題は消火活動だ。
多くの建物が燃えている。
原因は、生意気にも魔法を使うゴブリン共だ。
消しても消しても、火をつけやがる。
とはいえ、火事を放置できない。
消火活動をしながら、魔法を使うゴブリン共を駆除する。
ったく、暑いな!
汗が止まらないぜ。
「おい、あの燃えている建物の2階!子供がいるぞ!」
なんだと!?
その建物に向かうと…くそが!
確かに居やがる。
「火の勢いが強いな。」
消火活動は間に合わない。
このままだと子供は、数分で焼け死ぬ事になる。
「お願いです!娘を、娘を助けて下さい!」
父親らしい男性が、必死に懇願している。
だが、建物の1階は火の海だ。
誰もが迂闊に助けられない。
「………はあー、しょうがねえか。」
バケツに入っている水を、頭からかぶる。
見捨てられない自分の性分を恨むぜ。
「何かあったら、指揮は任せた。」
「ハオルタ!?」
「馬鹿野郎!やめろ!」
「死んじまうぞ!」
仲間達の制止を振り切り、俺は燃え盛る家に飛び込んだ。
数刻の間に、多くの命が消え、多くの絶望が生まれた。
あざけり笑うゴブリン達の声と燃え盛る炎の合唱。
人々は地獄を見た。
しかし、ここは迷宮都市オラリオ。
英雄達が集う場所。
無作法な来訪に、黙っているはずがなかった。