ダンジョンに、ダンジョンマスターが現れた! 作:ずぼらさん
【ニーテルパート】
ボク達は、薄暗く長い通路を突き進みます。
途中でゴブリンと遭遇しては、仲間を呼ばれる前に瞬殺しました。
ここはラウルさんが発見した、ゴブリンのアジトへ続く通路。
攫われたオラリオの一般市民達が居るはずです。
おそらく、行方不明になった女冒険者達も。
合流していない部隊は、いくつかありますが…。
この人数なら問題ないと、フィン団長が判断しました。
「通路を抜けるぞ。」
先頭を走っていた仲間の言葉に頷きます。
出た先は、広いルーム。
通路より明るいです。
一般市民達は…居た!
変な首輪を付けられ、一か所に集められていました。
「助けなきゃ…っ!?」
ルームの奥を見て、言葉を失いました。
ボクだけじゃなく、仲間達も。
裸の女性達が、ゴブリンに犯されていました。
ダンジョンに突入する前、偶然聞いてしまった会話を思い出します。
フィン団長と
ダンジョンに異変が起きてから、ゴブリンの数が増加。
強くなったゴブリン。
魔法やスキルを使うゴブリン。
ゴブリンに攫われた女冒険者達。
いくつもの情報を合わせ、予想したフィン団長の答え。
当たってしまいました。
ゴブリンは、捕まえた女性達を孕ませている。
「作戦通りに動け!」
フィン団長の大声で、我に返りました。
止まっている場合じゃありません。
女性達を救出する。
その為に、ここへ来ました!
「
えっ?
1匹のゴブリンが何か叫ぶと、一般市民達も裸の女性達も、ボク達に襲い掛かってきます。
なんで!?
攻撃を躱し、受け止めます。
突然の出来事に、仲間達も混乱しました。
「くっ、まずいかも!」
ゴブリンも加わり、戦いは乱戦状態になります。
絶好の奇襲タイミングだったのに!
徐々に、ゴブリンの数が増えてきました。
「なんで襲うのよ!」
「違うの!身体が勝手に!」
仲間が怒鳴ります。
取り押さえらえれた一般市民は、泣きながら顔を横に振りました。
身体が勝手に?
どういう事?
「避けて!」
「止まれ!私の身体!」
「後ろ!後ろ!」
「わわっ!?」
この動き、冒険者です。
レベルは2ぐらい。
声をかけてもらわなかったら、ダメージを負っていました。
言葉と行動が真逆の彼女達。
一体何が?
「
さっきのゴブリンが、また叫びます。
だけど途中で、女性の1人も叫びました。
首輪?
粘土を握り潰したような奇妙な形の宝石が付いた首輪。
何かある?
フィン団長が一瞬考え、結論が出たのか、仲間達に伝えます。
「首輪だ!彼女達は首輪で操られている!」
まさか!?
人を操る呪具の類を、ゴブリンが持っている!?
信じられないけど…。
「ニーテル!押さえたぞ!」
「はい!」
やるしかありません!
仲間が羽交い絞めにしている女性から、首輪を外します。
すると、女性は大人しくなりました。
「あ、ありがとう!首輪を付けられたら、ゴブリンの命令に逆らえないの!」
ほ、本当だった!
ボク達を見た仲間達は、次々に首輪を外していきます。
やったー!
これで救出が可能になりました。
予定通り、救出部隊と討伐部隊に分かれて、行動を開始です。
「冒険者ガ攻メテ来タダト!?」
「やあ、君が
「クッ、コンナ化物マデ!」
「オラリオの為にも、
一回り大きなゴブリン…ゴブリンキングと、フィン団長の一騎打ちが始まりました。
心配なんてしません。
フィン団長は、
「はああああああっ!」
「ガアアアアアアッ!」
あれが、強化種。
ゴブリンとは思えない気迫。
左右から襲いかかる短剣の二刀流。
動きが早く、腕力も強いです。
ボクが戦ったら、敗北は確実な相手。
そんな相手に、フィン団長は…。
「終わりだ。」
「オノレ…コンナトコロデ…俺ガ…グフッ!」
息を切らす事もなく、無傷で圧勝しました。
さすがです!
仲間達から歓声が上がり、ゴブリンは逃げ出しますが…。
「ふん!」
「「「「「ゴギャアアアアッ!?」」」」」
合流してなかった部隊の到着により、次々に倒されていきました。
特に、
大剣の一振りで、多くのゴブリンを屠ります。
「遅かったか。」
「すまないね、オッタル。小鬼の強化種は倒したよ。」
「フィン…そうか。」
「大丈夫さ。誰が倒しても、そのメイド服は今日までだよ…多分。」
「…そう思うか?」
「ああ…きっとね。」
え、えーと。
会話の意味は分かりませんが…。
しょんぼりしている王者さんを、フィン団長が慰めています。
何があったのかは、聞かない方がいいですね。
「…兄貴…ゴメン…ヤット思い出シタ…。」
ゴブリンキング!?
まだ生きて!?
「ミンナ…ノ…所ニ、帰リタカッタ…。」
みんなのところ?
ゴブリンに向けたものじゃない…そんな気がします。
誰に?
ゴブリンキングの瞳から生気が失われ、身体は灰になりました。
残っているのは魔石だけ。
あっ!
粉々に砕けました。
「フィン団長の槍が掠っていた?」
うーん。
考えても分かりません。
ゴブリンキングの言葉を、あとで報告しておきましょう。
「こっちは片付いた!」
「そっちの援護に行って!」
「動けない人がいるわ!運ぶの手伝って!」
討伐は、もう間もなく終わりますね。
一般市民達や行方不明だった冒険者達を救えて、本当によかったです。
でも…。
「お腹の子と…一緒に殺して…。」
「あは…ははは…。」
「冒険者やめる…故郷に帰るんだ…。」
全てが終わったわけではありません。
心身に傷を負った彼女達を癒さないと。
それに、ダンジョン異変の原因は、分からないまま。
ボクの心から、不安は消えませんでした。
【苗床産ゴブリンパート】
俺はゴブリンだ。
父がゴブリンで、母が人間だ。
他の兄弟達と違って、何故か人間の様に話せた。
男は殺す。
この考えは兄弟達と変わらないが、俺は慎重を第一に考えている。
無理なら逃げるか隠れる。
生きていないと実行できないし。
俺には、3つの日課があった。
1つ、兄弟達と人間狩り。
1つ、鍛錬する。
1つ、母と話す。
人間狩りは、ゴブリン繁栄の為に必要不可欠。
ダンジョン産のゴブリンは弱い。
知能も低い。
経験は継承されても、ゴブリンの限界を超えれない。
まあ、
狩りは楽しい。
戦って強くなると、生きている事を実感する。
いつかは、ゴブリンキング様より強くなりたい。
鍛錬すると、兄弟達が馬鹿にするが、それは俺の台詞だ。
俺達の中には、母の力を受け継いだ者がいる。
その力は鍛錬しなければ、上手く使えない。
なのに兄弟達は、使えるだけで満足している。
宝の持ち腐れだ。
俺が母から受け継いだのは、気配遮断。
気配を完全に遮断して、相手に自分の存在を悟らせない。
最初は効果時間が短かった。
しかし、今では長くなって重宝している。
母と会話。
兄弟達は自分の母を、苗床としか思っていない。
俺は…分からない。
ただ、雑に扱いたくない気持ちはあった。
だから、毎日話しかけた。
無視されたり、睨まれたり、罵倒されたが、今は会話してくれる。
俺に名前まで付けてくれた。
『セリオン』と。
死んだペットの名前らしいが…。
ぽつぽつと、自分の事も教えてくれた。
母の名前は、シェイナ。
第二級冒険者で、レベル3らしい。
そういえば、俺は女を犯した事がない。
何故か、犯そうという気にならなかった。
兄弟達からは、不能者とか童貞野郎とか馬鹿にされた。
別にいいさ。
戦いこそが、俺にとって最高なのだから。
ある日の事だった。
ゴブリンキング様が、地上の侵攻を宣言した。
俺も行きたかったが、残念な事に巣の守りを命じられた。
「いやあああああっ!」
「
侵攻は成功したようだ。
人間の女性が次々と運ばれ、苗床にされた。
母は顔をしかめつつ、俺に言う。
隠れていなさいと。
意味が分からなかった。
聞いてみたら、攻められた冒険者達が、このまま何もしないはずがないと。
ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアが来たら、ゴブリンの巣は滅びると。
強い奴が来る。
戦ってみたいが、生存を最優先に考えよう。
母に別れを告げる。
冒険者達が来るなら、母は助けられて、ここから居なくなる。
多分、永遠の別れだ。
何も言わず、母は抱きしめてくれた。
新たな苗床達の確保で、祭り騒ぎのような中、俺は隠れる場所を作る。
そして、その時が来るのを待った。
「ゴブリン共を倒せええええええぇっ!」
冒険者達の声が聞こえた。
隠れて、冒険者達が去るのを待つ。
兄弟達を見捨てる?
見捨てるとも。
一応警告してやったが、巣は見つからないし、自分達は負けないと言い放った。
継承した経験を無駄にしている。
俺達が学んだように、冒険者達も学ぶ。
対策を練る。
何より、いつから力を過信した。
本来は俺達の方が弱いのだ。
戦いの音が聞こえ、兄弟達の悲鳴が聞こえた。
最後に、ゴブリンキング様の断末魔。
ああ、ゴブリンの巣は滅びた。
冒険者達が生き残りを探している。
1匹残らず殺すつもりだ。
正しい判断だ。
だが、俺は生き残ってやる。
気配遮断のスキルを使って、ひたすら隠れた。
うん?
様子を窺う為に開けた小さな穴から、1人の冒険者が見えた。
エルフの少女だ。
ドクン!と、俺の心臓が高鳴った。
初めての感覚だった。
欲しい!あのエルフの少女が欲しい!堪らなく欲しい!
体も心も、全てを奪いたい!
苗床に…いいや、俺の妻にしたい!
ぐっ、今は駄目だ。
見つかったら殺される。
荒れ狂う感情を必死に抑えた。
こんな気持ちが、俺の中にあったとは…。
もう1度だけ見る。
山吹色の髪をした美しいエルフの少女。
装備からして、魔導士か?
黒髪のエルフと会話していた。
「レフィーヤ、怪我はないか?」
「はい、大丈夫です!心配してくれて、ありがとうございます!」
「わ、私は別に…ごにょごにょ。」
「フィルヴィスさん?」
「何でもない!ほら、生き残りのゴブリン共を探すぞ!」
「はい!」
レフィーヤ。
それが、エルフの少女の名前か。
覚えた。
絶対に忘れない。
美しい姿も目に焼きつけた。
この欲望を止める事は、きっと死ぬまで無理だ。
俺は強くなる。
強くなって、彼女を俺の物にするぞ!
ゴブリンキングが死亡しました。
ダンジョンマスターの魔力を無断使用し、灰で身体を構築します。
…成功しました。
魂から情報を抽出します。
…成功しました。
不必要な魂を処分し、灰の身体に情報を挿入します。
…成功しました。
灰者の軍勢に、1匹追加されました。