ダンジョンに、ダンジョンマスターが現れた! 作:ずぼらさん
私が5歳の時、優しかった母が病気で亡くなりました。
泣いて泣いて泣き疲れて、目を覚ますと、父が私を抱きしめていました。
「すまなかった。許してくれ。俺が悪かった。」
強面の父が怒られた子供のように、何度も謝りました。
母の看病を出来なかった事。
最後を看取れなかった事。
葬儀に出れなかった事。
でも、それは仕方がないことでした。
父の職業は冒険者。
遠い遠い地にある迷宮都市オラリオで。
家に帰って来るのは、1年に1回だけ。
1週間滞在して、また戻ってしまう。
寂しくはあったけど、私と母に怒りや恨みはありません。
楽しそうに冒険談を話す父が、大好きだったから。
母の死後、父は冒険者を辞めて、一緒に暮らすようになりました。
とても嬉しかったです。
それから11年後。
父も病気で亡くなり、私は独りぼっちに。
しばらくの間塞ぎ込みましたが、ある決断をしました。
父と同じ、冒険者になると。
周囲に反対されましたが、押し切って迷宮都市オラリオへ!
とある神様のファミリへ入団。
冒険者として頑張る日々が始まりました。
大変だけど充実した毎日。
ある日ダンジョンの様子が、おかしいという噂が広がりました。
神様にも、注意するように念を押されましたが、私は…。
「おら!うぜえな!ゴブリン共が!」
んん?
男の人の声?
揺れが激しい?
ゆっくりと意識が回復していきます。
確か私は…落とし穴に落ちて…魔法で必死に応戦…。
ゴブリンの増援が沢山きて…あっ。
思い出しました。
PTメンバーに、同じファミリアの仲間に見捨てられました。
そして、ゴブリン達に囲まれたところで…。
恐怖のあまり気を失いました。
今の状況は?
目を開けると…っ!?
男の人の顔が、すぐ目の前にありました。
だ、誰ですか!?
30代後半くらいの強面の方。
どことなく、亡き父に似ています。
「おっ!目が覚めたか、嬢ちゃん。」
「は、はい。」
ひょっとして、この方に助けてもらったのでしょうか?
「こんな体勢で悪いが、我慢してくれや。」
えっ?
………ひょわあああああああっ!?
お姫様抱っこをされていていました。
どうしてですか!?
「モルド!そっちにいったぞ!」
「うぜええぇっ、ゴブリン共だ!」
ひいぃっ!
周囲を見ると、私を抱っこしている…モルドさん?の他に、男の人が2人。
あとは30匹以上いるゴブリンの群れです。
ギラギラした目で、こっちを見ています。
怖くてモルドさんに、ギュッとしがみつきます。
気を失っていた間に、一体何が!?
「てめえぇ、モルド!巨乳美少女とっ!」
「デレデレした顔しやがってっ!俺と代われえぇ!」
「で、デレデレしてねえよ!つーか、そんな事言ってる場合か!」
モルドさん達は、怒鳴り合いながら戦っています。
凄い。
こんな状況なのに、余裕があります。
男の人達は、モルドさんと同じヒューマン。
歳も同じくらいです。
モルドさんより、強面ではありませんが…。
私と比べて、段違いの動きです。
レベル2の冒険者?
「「「「「「ギギッ!」」」」」」
なっ!?
ゴブリンの増援が、また来ました!?
「やべえっ!モルド、さっさと逃げろ!」
「行け!そのままじゃ戦えないだろう!」
その通りです。
私を抱えているせいで、両手が使えません。
ずっと蹴りだけで応戦しています。
強くても、この数を相手には!
「お、降ろして下さい!大丈夫ですから!」
「駄目だ。」
「何故ですか!?」
「身体が震えているぞ。それで、どう戦う?どう逃げる?」
指摘されて、気がつきました。
しがみついている手も離せません。
私、ゴブリンが…。
怖い怖い怖い怖い怖い!
今まで倒してきたはずなのに、どうしようもなく怖いです。
降ろされたら、きっと何も出来ない。
「「「「「「ガルギギッ!」」」」」」
「おいおい、マジかよ。」
「冗談きついぜ。」
再びゴブリンの増援です。
しかも、完全に包囲されました。
逃げ場無しです。
いえ、レベル2のモルドさん達なら、強行突破できるかもしれません。
その場合、また私は見捨てられる?
これが私の運命なのでしょうか?
「お前らあぁ!強行突破だ!」
モルドさんが叫びます。
私を強く抱きしめて。
「あ、あの?」
「俺は
ニッと笑いかけるモルドさん。
まるで父のような、頼もしい笑みでした。
ふえっ!?
いま
こんな時に何で!?
「モルド!ここを抜けたら、酒を奢れよおおおおぉぉっ!」
「まったくだぜ!ゴブリン共しつこいぞおおおおぉぉっ!」
「はっ、割り勘に決まってるだろうがああああああぁぁ!」
行く手を阻むゴブリン達を倒し、追いかけてくるゴブリン達を振り切ります。
強行突破は順調です。
い、いけます!
助かる可能性に安堵した時、相手の戦法が変わりました。
私を狙い始めます。
殺そうというよりは、捕まえて連れて行こうとしている?
そんな感じの猛攻でした。
「痛ええぇっ!くそったれがっ!」
私を守ろうとするモルドさんにも集中します。
あああっ!
攻撃を避け切れず、どんどん傷が増えていきます。
血が!
私のせいで、あんなに血が流れて…。
「私を置いて逃げて下さい!モルドさん達だけなら…。」
「そうだな。だが断る!」
「えええっ!?」
「俺自身も分からねえ!ただ言える事は、絶対に嬢ちゃんを置いていかん!」
あわわっ!?
胸の
顔を熱いです。
ゴブリンだらけの状況なのに、お姫様抱っこされて、安心している自分がいます。
父のように素敵な人。
私、ファザコンだったのでしょうか?
………違います。
父も大好きでしたが、モルドさんの方が、はわーーーっ!
「どうした?顔が真っ赤だぞ?」
「な、な、な、なんでもありません!」
ううっ、母の言葉を思い出しました。
『友達に言われたけど、私ちょろイン?だって。娘の貴女もそうなるかもね。』
両親の出会い。
魔物が襲った馬車に、母が乗っていました。
他の人は助けてくれず、囮にまでしたとか。
傷らだけになりながら、助けてくれたのは父でした。
強面で、山賊にしか見えなかったそうですが、母は惚れたそうです。
ちょろインの意味は分かりません。
ただ、今の私は母と同じ。
ああああああああああああああああっ!
「大丈夫か!」
「またゴブリン共か!手伝ってやるぜ!」
「おおおっ!助けてくれ!」
独りで悶えている間、他の冒険者PTが助けてくれました。
それも2PTも。
あっという間に、ゴブリン達を掃討。
危機的状況から脱出しました。
「ありがとうございます。」
モルドさんの手当てをしながら、私が意識を取り戻すまでの話を聞きました。
ゴブリン達に担がれ、どこかへ運ばれている
隙をみて救助し、逃走していたそうです。
本当に感謝の言葉しかありません。
もし、発見されて助けてもらえなかったら、今頃どうなっていたのか。
想像しただけで身が震えます。
「さっきは顔が真っ赤だったが、今は体調は平気か?」
「はわっ!?へ、平気です!」
体調が悪かったわけではなく、貴方に…。
「そいつは良かった。てっきりに俺に惚れたかと思ったぜ。」
「っ!?」
惚れました。
大好きです。
ちょろインです。
「それはねえだろ。鏡で自分の姿を見て言え。」
「まったくだ。美少女とおっさんは有りえねえ。」
「冗談だよ!夢ぐらいみたっていいだろう!」
モルドさんと一緒に、私を助けてくれた方。
ガイルさんとスコットさん。
2人の言葉に、モルドさんが叫びました。
良くない状況です。
私は本気なんです!
このままお別れとかは嫌です!
「ほ、惚れてます!結婚して下さい!」
「…ま、マジで?」
「「なんだと!?」」
あわわわっ!?
私は何を言って!?
いきなり結婚して下さいとか!?
「おい、モルド。ちょっと向こうの曲がり角まで、面貸せや。」
「だな。この裏切り者め、
「ば、馬鹿!やめろ!まだダンジョンだぞ、ぎゃあああああああああぁっ!」
恥ずかしい!
穴があったら入り…たくないです。
ダンジョンからオラリオへ、無事に帰還しました。
その後、色々な事がありました。
ゴブリンに恐怖し、ファミリアの仲間達を信頼できなくなった私。
冒険者を引退しました。
そんな私を嫁に貰ってくれたモルドさん。
両親の話をしたら、これからずっと一緒に居てくれるって。
素敵な旦那様です。
あっ、報告します。
元冒険者の私こと、アルディーネは…。
故郷へ帰る前に、オラリオで結婚しました!
この後、10人の子宝に恵まれますが、また別の話です。
〝くくク〟
〝確認しましタ〟
〝18階層デ、ベル・クラネルとモルドハ、再会せズ〟
〝運命ハ狂っていク〟
【アルディーネ】
本来は、ミノタウロスと戦闘で死亡。
ファミリアの仲間達と共に、ミノタウロスと初遭遇。
ミノタウロスの強さの前に、仲間達はアルディーネを囮にして逃亡。
胴体を真っ二つにされた。
【モルド・ラトロー】
本来は、仲間のガイル・スコットと共に、冒険者を続けている。
このパラレルワールドでは、アルディーネと出会い、冒険者を引退。
愛妻家で、子煩悩な父親になる。