今日も楽しそうに遊びまわっていた百代ちゃんと小雪ちゃん。今は休憩するために仲良くベンチに座っている。
「二人とも、ちょっといいかな?」
「どうしたのお兄さん?」
「実はね……」
織江さんが二人を招待したいと伝えると、百代ちゃんが目を輝かせた。
「おお、それはいいな! 最近おばば様に会えてないし!」
「小雪ちゃんはどうかな?」
「ボクもいいの?」
「ああ。ぜひともキミに会いたいとの事だよ」
「小雪、おばば様はとてもやさしい人だから心配するな。それに……今から行けばきっとオヤツにパンケーキを焼いてくれるぞ!」
現在の時間は午後二時二十分。……なるほど、三時のオヤツというわけか。
「そうと決まれば早く行くぞ!」
「あ、待ってよ百代ちゃ……っ!」
公園を飛び出していく百代ちゃんを追いかけようとした小雪ちゃんが腕を押さえて立ち止まる。
「小雪ちゃん?」
「え、えへへ、何でもないよお兄さん。さ、早く百代ちゃんを追いかけよう」
「……そうだね」
どうしたんだ小雪ちゃん?
・・・・・・・
・・・・・
・・・
何とか百代ちゃんに追い付き、三人そろってお店に戻る。店内には織江さんの他に学生服姿の女の子達がアクセサリーやシャーペンを手にしながら楽しそうに会話している。
「いらっしゃい百代さん!」
「お久しぶりです、おばば様!」
深々とお辞儀する百代ちゃん。こういうところはしっかりしてるんだなぁこの子。
「元気そうで何よりだわ。鉄心ちゃんや妹さんは元気?」
「ジジイは相変わらずですよ。あ、でも織江さんが遊びに来てくれないからって機嫌が悪いんですよね最近」
「あらあら、それは申し訳ないわね」
「織江さんは悪くないですよ。まったく、いい加減織江さん口説くのやめろって言ってるんですけどねぇ」
「そうねぇ。こんなおばあさん相手にしなくてももっと素敵な方々がいるでしょうに」
(うぷぷ。まるで本気にされてないみたいだな。ざまあみろジジイ!)
「百代ちゃん、妹さんがいるのか?」
「え? ああ。そういえば神崎さんには言っていませんでしたね。名前は一子っていいます。今度紹介しますよ」
「そうか。楽しみにしてるよ」
「さてさて……それで、そちらにいらっしゃるのが新しいお友達ね?」
「は、初めまして、小雪です」
織江さんに見つめられ、小雪ちゃんはちょっと緊張した表情で自己紹介をした。
「うふふ、とっても可愛らしいお嬢さんねぇ。佐山 織江です。名前でもおばあちゃんでも好きな様に呼んで頂戴ね」
「おばあちゃん……ばぁば?」
おっかなびっくりといった様子で小雪ちゃんがそう発すると、織江さんは一瞬固まったかと思ったら目に見えて機嫌を良くした。
「―――あらあらまあまあ! 嬉しいわ小雪さん! ええ、これからはぜひばぁばと呼んでくださいね!」
「……百代ちゃん。織江さんって子ども好きなんだね」
「え、気づいてなかったんですか?」
いやまあ、キミを気遣うようにしてた時から子どもを大切にする優しい方とは思ってたけれど……。
「さあ、三人ともこちらにいらっしゃい。外は暑かったでしょう。いま冷たい飲み物を用意するわね」
そう促されて店奥のスペースに移動すると、そこにはすでに先客がいた。
「おー、百代ちゃんじゃーん」
「おっすー」
片手を上げてそう挨拶してきたのは二人組の女の子だった。制服を着ているから彼女達も学生のようだが、百代ちゃんの知り合いかな?
「百代ちゃん、このお姉さん達お友達なの?」
「うんにゃ、知らん」
「ええ!?」
小雪ちゃんの質問にあっさり違うと答える百代ちゃん。ええ……じゃあ今の挨拶なんだったの?
「あははー。この辺りで川神院と百代ちゃんの事知らない人間いないしねー」
「そーそー。つーかこんな所で会うと思わなかったし。それで、そっちの可愛い子はどしたん? 友達?」
「髪白っ! うわー、いいなー。私も髪染めよっかなー」
「え、あ、あの。お姉さんの髪も綺麗だよ?」
二人に見つめられアワアワしながら答える小雪ちゃん。すると女の子達は揃って顔を見合わせたかと思うと口元を押さえながら天を見上げた。
「は? 何いまの可愛すぎかよ」
「うわー、やべー、連れて帰りたくなったわー。そんでもって着せ替えさせたいわー」
「アンタんとこ弟がいるでしょ」
「ふざけんなし。あんな生意気なクソガキとこんな天使一緒にすんな。目ん玉腐ってんの?」
「腐ってませんー。アンタのそのギットギトに黒い腹の中までしっかり見えてますー」
「……おう、やんのか人形趣味?」
「……やってやろうかミス・コールタール?」
ええ……なんで小雪ちゃんを褒めるところからこんな状況になってんのこの子達……。
「あははは! この人達面白いな!」
「ケ、ケンカしちゃだめだよぉ」
それを見て大笑いする百代ちゃんと、何とか宥めようとする小雪ちゃん。なんだこのカオス。
「ん? ああ、ごめんごめん。本当にケンカしてるわけじゃないだよ。ウチら普段こんな事ばっかり言ってるくらいだし」
「そ、そうなの?」
「そうそう。友達だから本気じゃないってわかってるし。だからこんなバカみたいな話だって出来るのよ」
「友達だから……」
そう呟くと、何を思ったのか小雪ちゃんは百代ちゃんの前に立った。
「も、百代ちゃん!」
「お、おう。何だ小雪?」
「えっとえっと……百代ちゃんは足が速い!」
「……はい?」
なんの脈絡もなく褒められた百代ちゃんは?マークを浮かべながら首を傾げた。
「追いかけっこでも全然追い付けないし。あと、凄い高くジャンプできるし。いっぱい走っても全然疲れないし。あと、ええっと、それから……」
「待て待て小雪さんや? なんでいきなり私を褒めるんだ?」
「だ、だってお姉さんが友達ならこういう事言うんだって」
「いやまあ、確かに私も聞いてたけど。今のどこに馬鹿にする要素が?」
「……せっかくお友達になれたのに、悪口なんて言いたくないもん」
(((ピシャァァァァァァァァァンッ!!!)
あ、絶対今この三人の脳内に雷落ちたわ。
「……え、何この子。本当に天使なの?」
「……もう無理マジしんどい。小雪ちゃんだっけ? 今からお姉さんの家に遊びに来ない? というか真剣にウチの弟と代わらない?」
「ええ!?」
「待て待てお姉さんがた!」
ちょっとシャレにならない目の色をした二人に詰め寄られようとした小雪ちゃんの前に百代ちゃんが立ちはだかった。
「小雪は私の友達だ。連れていくなら私を倒してからにしてもらおうか!」
「百代ちゃん……!」
「だいいち、小雪を持って帰るのは私だ! ワン子共々私の妹にして存分に可愛がってやる!」
「ふええ!?」
百代ちゃんェ……。
「あらあら、楽しそうね。おばあさんも混ぜてくださいな」
そして織江さん。この状況に自ら飛び込んで来る……だと……。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
あれから場を落ち着かせ……たと思ったらようやく俺に気づいた女の子達(弟さんがいる方が片山 泉さんでもう一人が如月 綾香さん)が「織江さんどこでこんなイケメン拾ってきたの!?」とか「写真撮ってSNSに上げさせてもらっていいですか!?」とか一騒ぎあったが、なんとかそれらをやり過ごしてみんなでまったりとした時間を過ごす俺達。
しかし、そんなゆったりとした時間は突如として破られる事となった。小雪ちゃんの事を相当気に入った片山さんが感極まったのか彼女の腕に抱きついた瞬間。
「痛っ……!」
苦しそうに顔を歪ませる小雪ちゃんを見て慌て片山さんが離れる。
「ご、ごめん小雪ちゃん」
「ちょっと泉! アンタリンゴ片手で砕けるくらい力あるくせに何やってんのよ!?」
「な、何で知って……じゃなくて! そんな全力で抱きしめるわけないでしょうが!」
「じゃあなんで小雪ちゃん痛がってんのよ!」
「ま、まって! 泉お姉ちゃんは悪くないの! これは……」
「……小雪さん、ちょっと失礼するわね」
そう言って、織江さんが小雪ちゃんの服の袖をめくる。……そして露わになったのは、痛々しいあざがいくつも出来た彼女の腕だった。
「……何……コレ……」
絶句する如月さん。無理もない。こんなの日常生活で負うような怪我じゃない……!
「ちょっと! 凄い怪我じゃない! 何があったの小雪ちゃん!? 何かぶつけられたの!?」
「ち、ちが……これは……これは……」
「―――小雪さん」
「ッ!」
パニックになりかけていた小雪ちゃんを織江さんが優しく抱きしめた。傷に触らない様。優しく、ひたすら優しくその小さな体を包み込んだ。
「ここにいるのは、みぃんなあなたのお友達。誰もあなたを傷つけないわ。だからみんなに、このばぁばにお話を聞かせてちょうだいな」
「……うえぇ」
耐えきれなくなったのだろう。小雪ちゃんの目から大粒の涙が溢れ出す。そして、彼女から語られたその話の内容にその場にいた全員の顔が険しくなる。
「……ふざけんなし!」
バンと勢いよく机を叩く片山さん。それでも気持ちが収まらないのか肩を大きく震わせていた。
「止めなよ泉」
「はあ!? 綾香、アンタこんなん聞かされて黙ってろっての!?」
「んなわけないでしょ。でも、大きな音だしたら小雪ちゃんが怯えるだろうが」
「あ……」
ハッとなる片山さんが押し黙る。―――実の母親からの日常的な虐待。それが小雪ちゃんの怪我の原因だった。
「……何なのよ。何でこんないい子叩けんのよ。しかもご飯も満足に食べさせてあげないなんて……」
「……行ってくる」
百代ちゃんが席を立ち、店を出ていこうとする。
「百代ちゃん、どこへ?」
「小雪の家」
「……何をしに行くつもりかな?」
「―――決まってるだろ神崎さん。私の友達を傷つけたんだ。親だろうが関係ない。二度と小雪を殴れない様に両手両足の骨をグチャグチャに砕いてやる……!」
凄まじいまでの殺気を漏らしながら百代ちゃんが宣言する。出会ってまだ二日しか経っていない。けれど、彼女にとって小雪ちゃんはかけがえの無い存在になっていたようだ。
しかし、だからといってこのまま彼女を行かせてしまってはそれこそ取り返しのつかない事になってしまうだろう。そう思い、彼女を引き止めようとしたその時だった。
「―――その必要はないわ百代さん」
一瞬にしてその場の空気が冷え込む。怒りの形相だった百代ちゃんさえも凍り付かせたその正体は……全身から圧倒的なプレッシャーとでも呼ぶべきものを放ちながらニコニコしている織江さんだった。
「織江……さん……?」
「うふふ……。そうねそうね。泉さんの言うとおりだわ。いかなる理由があろうと……いえ、理由があろうとなかろうと、虐待なんて許されるものではないものねぇ。いいわ。小雪さんのばぁばとして……やってやろうじゃありませんか」
そう言うと、固まる俺達を尻目に織江さんは傍にあった電話でどこかに連絡を取り始めた。
「……もしもし葵さん? 織江です。……もう、いつまでも昔の事に恩を感じなくてもいいのよ。あれはただのお節介なんだから。……それでね、実は今から診てもらいたい女の子がいるの。……ええ……ええそう。……まあ、車を回してもらえるの? 助かるわぁ。では待っていますね」
そして、連絡を取り終えた織江さんは静かに店の奥に引っ込んだ。一分もかからない内に戻ってきたが、その右手にはとんでもないものが握られていた。
「薙……刀……!?」
それはどこをどう見ても薙刀だった。昔武術を嗜んでいたとは言っていたが、まさかの薙刀だったとは。
「……うわぁ、久しぶりに見た。織江さんの出撃モード」
「終わったね母親。ま、これで小雪ちゃんの安全は保障されたわけか。……おーいみんなー!」
片山さんが店内にいた他の学生達に呼びかける。
「見ての通り、これから織江さん出撃するから今日は店じまいでーす! 買いたいもんは明日まで我慢しなよー!」
「りょうかーい!」「え、今度はどこの馬鹿が織江さん怒らせたの?」「さあ?」などと会話しながら次々と店を出ていく学生達。
「き、如月さん、いったい何が……?」
「あ? お兄さん知らないんだ? 織江さんって普段は菩薩みたいな人だけど、一度キレたらとんでもない事になるんだよねー」
「前はなんだったっけ? 確か孤児院に因縁吹っ掛けて潰そうとした奴らの所にお友達と一緒に乗り込んで逆に叩き潰したんだったっけ?」
ファッ!?
「そうそう。ま、そういうわけだから。これから小雪ちゃんの母親の所に乗り込んで楽しいOHANASHIするんじゃないの」
―――若いころには武術なんかにも挑戦したりしてみたりね。
いや、今も現役じゃないですか!
「小雪さん、これから私と一緒に病院に行って怪我を診てもらいましょうね。それが終わったら、あなたのお家まで案内してもらっていいかしら」
「だ、ダメだよ。あの人、もしかしたらばぁばまで……!」
「まあ、ばぁばを心配してくれるのね。けど、大丈夫。
そうして、織江さんはくるりとこちらを振り向いた。
「そういうわけだから亮真さん、申し訳ないのだけれどお留守番お願いしてもいいかしら」
「え、ええ、構いませんが」
「百代さんはどうする? 私達について来る?」
「……止めときます。私が行ったら迷惑になるでしょうし。だから織江さん、小雪を……私の友達をよろしくお願いします」
心からそう願う様に頭を下げる百代ちゃんに織江さんはいつもの笑顔を返す。
「もちろん。可愛い子ども達のならおばあさんは何でも出来ちゃうんだから」
その時、外からクラクションが鳴る。どうやら迎えが来たようだ。
「じゃあ、行ってくるわね」
まるで散歩にでも行くような気軽さで小雪ちゃんと店を出ていく織江さん。
―――それから数時間後、怪我の手当の為に小雪ちゃんを病院に預け戻って来た織江さんは一言。
「頑張ったわ」
とだけ言うのだった。
織江さん無双その一。原作に入れたい頼れる大人が書きたかった・・・。