真剣で騎士(笑)に恋しなさい!   作:ガスキン

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あまりにもオリ主が戦闘しないので無理くりやらせました。なおクオリティはお察し。


真剣で騎士(笑)に恋しなさい! その七

 ―――なんで、こんな事になってしまったんだろう。

 

 広々とした鋼鉄のフィールドに立ちながら、俺は心の中で嘆く。……いいや、本当はわかっている。全ては自分の不用意な発言が招いたのだと。

 

「頑張れお兄さ~ん!」

 

 俺の立ち位置から大分離れた場所よりこちらに向かって手を振る小雪ちゃん。彼女だけではない、百代ちゃんや冬馬君達もそろって俺に声援を送っている。

 

「いよいよ神崎殿の実力を目の当たりに出来るぞ。楽しみだなマルさん!」

 

「……そうですね、お嬢様」

 

 そして、そんな百代ちゃん達の隣で同じようにこちらを見つめている二人の女の子。彼女達こそ、俺と子ども達をこの場に招き……俺をアレと対峙させた張本人だ。

 

「……どうしてこうなった」

 

 正面約三十メートル先に佇む()()()() ()の姿が見間違いでない事を確認し、俺は改めてそう口にしたのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

 季節は既に夏真っ盛り。薄着でも少し動けば汗が滲んできそうなほどの晴天の下、俺は眼前にそびえ立つ巨大な建物を見上げていた。

 

「うわわ~! おっき~!」

 

 建物の大きさがあまりに衝撃的だったのか、小雪ちゃんが両手を広げながら叫ぶ。

 

「流石、九鬼が経営するホテル。見た目からすでにとんでもねえなぁ」

 

「ええ、英雄が自信を持って勧めてくれた所ですからね」

 

 そんな小雪ちゃんに倣って視線を上げる冬馬君と準君。彼等の言う通り、この建物の正体は高級リゾートホテルで、俺達はここに宿泊する事となったのだ。

 

 そもそものきっかけは、子ども達が夏休みにみんなでどこかにお出かけしたいと計画を練ったのが始まりだった。

 

 海や温泉など色々案が出ていたみたいだが、冬馬君が友人にアドバイスを求めた結果、「なら全て叶えればよかろう!」と何とも豪快な答えを返してくれた上で、すぐ目の前に海水浴場を備えたこのホテルを紹介してくれたらしい。

 

 当然、宿泊費等もとんでもないものになりそうだったが、どうやら冬馬君達から相談を受けた親御さん方がどうせなら家族サービスも含めて自分達も参加させて欲しいとポンと費用を出してくれた。しかも、子ども達の友達だからと百代ちゃんと一子ちゃん(百代ちゃんの妹さん)の分まで引き受けてもらっただけではなく、織江さんと俺の分まで用意してくれようとしたのだ。

 

 以前織江さんに恩を感じていると聞いてたから彼女だけならまだわかる。けど何の関係も無い俺まで参加させてもらうのはいくらなんでも図々しすぎると断ろうとしたのだが、「いつも子どもが世話になってるから」「織江様の客人なら私達の客人だから」と言い切られてしまいこうして参加させていただく事となった。

 

 織江さんは織江さんで自分の分は自分で出すと言ったら俺の時以上の剣幕で断られて困ったように笑っていた。

 

 京ちゃんもお父さんを呼び寄せて一緒に来ている。今回の旅行を通じて関係修復が出来ればいいと密かに願っている。

 

 ただ残念なのは、百代ちゃん達の所のおじいさんが来れなくなった事だ。なんでも数日間川神院に武術関係のお客さんが連日訪問してくる予定が入ってしまい総代であるおじいさんが対応しなくてはならなくなったらしい。

 

「いやじゃいやじゃ! ワシも織江ちゃんとビーチでキャッキャウフフするんじゃ!」

 

 そう叫びながらお弟子さん総出で引き止められるおじいさんを見て百代ちゃんはそれはもう満面の笑みで「ざまぁw」と言い放ったと後で一子ちゃんから聞いた。

 

 にしても、日ごろ百代ちゃんから小言が多い云々愚痴を聞かされていたから、とても厳格な人でこういったイベントには参加しなさそうなイメージがあったけど、そんなわけでもなさそうだな。未だにご挨拶出来てないけど、やっぱりお孫さん達に関わってる以上一度顔を合わせに行った方がいいよな……。

 

「どうしたのお兄様? もうみんな行っちゃったわよ?」

 

 一子ちゃんの声に我に返る。少し前から百代ちゃんに連れられてお店にやって来るようになった彼女は百代ちゃんの義理の妹さんだ。とにかく元気な子で、それにとても努力家だと百代ちゃんは自慢するように教えてくれた。それだけで彼女達の仲の良好さが窺い知れた。

 

 ただ、初対面時に「初めまして! あなたがお姉様のお兄様ね!」と言われた時は面食らったが、どうやら百代ちゃんが俺の事を説明する時に“兄のような人”と言ったらしい。

 

「べ、別に……他に適する言葉が思いつかなかったから咄嗟に出ただけです……!」

 

 だとしても関係無いね! とばかりに俺は百代ちゃんの頭を撫でまくった。だってさ、嬉しいじゃん! それだけ彼女に信頼してもらっているって証拠じゃん! そんなん撫でるしかないじゃん!

 

 ……話がそれた。とにかく、そういうわけで一子ちゃんの俺の呼び名は“お兄様”となった。その時、なんか小雪ちゃんと京ちゃんが可愛らしく頬を膨らませてたのでつついてしまったが俺は悪くねえ!

 

「早く着替えてみんなで海に行きましょ、お兄様!」

 

「そうだね。じゃあ遅れないように俺達も行こうか」

 

 一子ちゃんと手をつないでみんなの後を追いかける。この距離ではぐれる事はまずないが、大事なお孫さんをお預かりしている以上、ウザがられない程度にはしっかり面倒をみないといけないからな。

 

「……お兄様の手、温かい」

 

「ごめん、暑いだろうけどちょっとだけ我慢してね」

 

「う、ううん。そんな事ないわ。それにお姉様もよくこうやって手をつないでくれるから」

 

 いいお姉さんじゃないか百代ちゃん(泣)。

 

 そうやって二人そろってホテル内へ足を踏み入れる。中に入った途端涼しい空気に思わずため息が漏れた。

 

「大将~。こっちですよこっち」

 

 受付前にいる準君達の元へ進む。……しっかし、改めて見渡すと中もとんでもないな。普通に木とか植えてあるし、噴水みたいなものもある。スタッフさんも超キビッキビだし、きっとサービスも最上級なんだろうなぁ。

 

「ああ亮真さん。今チェックインが済んだところよ。はい、あなたのお部屋のカギ」

 

「ありがとうございます」

 

 事前に予約(というか完全予約制ホテルらしい)していたおかげでスムーズにチェックイン出来たみたいだ。ちなみに部屋割りは葵家、井上家、榊原家、椎名家はもちろんそれぞれのご家族で一部屋。織江さん、百代ちゃん、一子ちゃんが一緒の部屋で、俺はなんと一人で一部屋与えてもらってしまった。しかも他のみんなと同じスイートルームを!

 

 一般庶民としてはもう罪悪感というか申し訳なさしかなくてせめてグレード下げてくださいって言ったら、そもそもここはスイートルームしかないと返されてしまった俺の気持ちを誰か理解してください。

 

 そうやって俺が心の中で嘆いている間に子ども達はすぐにでも海に行きたいと口を揃えて親御さん達に訴えている。とりあえず荷物を置きにいかないといけないからと十五分後にさっき見た噴水前に集合という形になった。

 

 エレベーターに乗り込み目的の階を目指す。

 

「ところで、みんな同じ階なんですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ちなみに何階なんですか?」

 

「ええっと、確か五十階だったかしら。そうよね葵さん?」

 

「はい、織江様」

 

 へえ、五十階かぁ……ファッ!? ご、五十階!? 高いとは思ってたけどそんなにあるのこのホテル!?

 

「英雄から窓からの景色は中々のものだと聞いてますから、きっと神崎さんにも気に入っていただけると思いますよ」

 

「そ、そうか。それは楽しみだね……」

 

 ニコニコしながら教えてくれる冬馬君。なんか、さっきから驚いてばっかだな俺。それに比べて冬馬君や準君の落ち着きっぷりよ。親御さんの関係でパーティーとかよく出席してるって聞いてるし、こういうセレブ御用達な場所にも慣れてるんだろうな。

 

 そうこうしている間にエレベーターの電子板が五十階を表示したと同時にドアが開く。カギにくっついた部屋番のプレートの数字と同じ部屋を探して廊下を進む。

 

「私達の部屋はここだな!」

 

「ボク達はここ~」

 

「私達はここですね」

 

「んで、俺達がここ」

 

「私達はここ……」

 

 見事にみんな隣同士だな。まあ、そのへんも配慮してくれたんだろう。早速カギを開け中に入る。

 

「これは……凄いな」

 

 それしか言えんのかこのサルゥ! と言われそうだが、俺の貧相な語彙力じゃ室内の豪奢さを表現できません。凄いベッド! 凄いテレビ! 凄い窓! 凄い景色! 終わり! 閉廷! 以上!

 

「……とりあえず着替えよう」

 

 荷物から水着を取り出し着替える。用意したのは無地の黒いトランクスタイプ。これにパーカーを着て……と。

 

今回の旅行の主役は子ども達だからな。俺自身海に飛び込んでガチガチに泳ぎまくるわけでもないし、日焼け止め塗るのも面倒くさいからこれでいいや。

 

「まだ、時間はあるが……」

 

 さっさと着替えたから集合時間までまだあるけど、やる事もないしもう行くか。カギはまたフロントに預ければいいんだろうか。とりあえず行ってみよう。

 

 戸締りを済ませエレベーターへ。そしてフロントにカギを預けて数分後、百代ちゃん達もそれぞれに水着に着替えて姿を見せるのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「百ちゃんアタック!」

 

「っぶねえっ! ちょ、殺す気かパイセン!?」

 

「はっはっは。何を言っている準。私達はただビーチバレーをしているだけじゃないか」

 

「手加減しろって言ってんの! 耳元で「ヒュゴウ」って音がしたぞ!」

 

「いいからほら、そっちのボールだぞ」

 

「ええい、なんとか一泡吹かせてやるッ!」

 

「その意気ですよ準ンアッ!?」

 

「若ぁぁぁぁぁぁぁァ!?!?!?」

 

「あ、しまった……」

 

「んしょ……んしょ……じゃじゃーん! ピサの斜塔~」

 

「わあ、凄いわ小雪! ねえ京、小雪が凄いものを……っ!?」

 

「ふう……どうかした?」

 

「ね、ねえ、何を作っているの?」

 

「兄様の像」

 

「お~。面白そう~! ボクもやる~」

 

 おもいおもいにはしゃぎまわる子ども達の姿に思わず笑みがこぼれる。パラソルの下でジッとしているだけで汗が流れるほどの暑さだが、彼等には関係無さそうだ。

 

「亮真さん。はい、水分補給は忘れずにね」

 

「ありがとうございます」

 

 涼しげな意匠の浴衣に身を包んだ織江さんがお茶を手渡してくれた。すぐに飲まずにおでこに当てたりして涼をとる。

 

「ふふ、見て頂戴。あの子達の顔」

 

「そうですね。みんな本当に楽しそうでよかったです」

 

「……ありがとう、亮真さん」

 

「え?」

 

 唐突なお礼に思わず首を傾げると、織江さんは柔和な表情でただ静かに話をつづけた。

 

「あの子達がこうしてここで友達として一緒に笑っていられるのは、あなたのおかげよ」

 

「そんな事は無いと思いますが……」

 

「そうね。あなたがいなくても、いずれあの子達は出会っていたかもしれない。だけど、その時、あの子達の関係が良好なものになっていたかどうかはわからない。人というのは、出会う時期で全く異なる関係になってしまうものだから」

 

 まあ、確かに織江さんの言うように、タイミングや環境であっさり友達になれたり、逆にただのクラスメイトや顔見知り以上にはならないって事もある。

 

「あなたが百代さんと出会い、私のワガママを聞いてくれたから……小雪さんと出会い、彼女を助ける事が出来た。その小雪さんが冬馬さんや準さんと出会った事で京さんがお店にやって来た。そして、あなたがお兄さんとしてあの子達の信頼を得た事で、百代さんは一子さんを連れて来るようになった。もちろん、あの子達自身の相性も良かったのが幸いだったのもあるでしょうけれど。ただ、この日、この場所であの子達が一緒になって遊ぶ未来を導いたきっかけを作ったのは間違いなくあなたよ」

 

「そう……なんでしょうか。あまりそういった実感はありませんが……」

 

「百代さん達の笑顔……それが全てよ亮真さん」

 

「お~い! 何やってるんだ神崎さ~ん!」

 

 再び子ども達に視線を向けようとした途端、百代ちゃんがビーチボール片手に俺を呼んだ。

 

「そんな所でジッとしてないでこっち来てくださいよ。手合わせは我慢してますけど、これなら存分に対決出来ますからね!」

 

「大将ぉ! 敵を……俺と若の敵を取ってくれぇ!」

 

「お兄さんもビーチバレーやるの? じゃあボクも混ぜて~」

 

「あ、ちょっと小雪。京の手伝いは……って、あれ。京はどこに……」

 

「私は兄様と同じチームだから」

 

「いつの間に!?」

 

「ふ、ふふ……全員集合ですね」

 

「若!? ああ、そんな生まれたての小鹿みたいにプルプルして……!」

 

「あらあら、ご指名みたいよ亮真さん」

 

 ……ああもう。最近ほんっとあの目(期待を込めたキラキラしたヤツ)に弱くなったなぁ俺。

 

「すみません、織江さん。ちょっと行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい。せっかくの海なんですからあなたもしっかり楽しみなさいな」

 

 パラソル下から抜け出し、みんなの元へ駆け寄る。それから、一度昼食休憩を取りつつ、子ども達は満足するまでめいっぱい遊び続けるのだった。

 

 結果、夕食時には皆ヘトヘトとなっており、せっかくのバイキング式料理もちょっとしか手をつけずそろって寝床についてしまった。その後、子ども達を寝かしつけた親御さん達は待ってましたとばかりに酒盛りを始め、俺もそれに付き合わされた。

 

 一応身体上は未成年なので酒は飲まなかったが、代わりに俺自身の事について色々質問攻めされてしまった。織江さんとの関係とか。子ども達の事とか。あと、俺に特殊性癖があるかどうかとか。最後のヤツはまあ、年の離れた男が息子や娘に変な気持ちを抱いていないか確認したかったんだろう。冬馬君や準君の親御さんは冗談みたいに言ってたけど、京ちゃんのお父さんは割と目がマジだった気がする。

 

 そして、宴もたけなわとなった所で俺も解放され、精神的な疲れもあってか俺もベッドに飛び込むと数秒も経たずに意識を手放したのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

……そうだ。一日目は本当に楽しく平和に終わったんだ。二日目の今日だって、みんなで観光とお土産を見て回ろうってホテルからタクシーを出してもらって出かけたんだっけ(織江さんはお留守番)。

 

 子ども達がみんなでお揃いのものが欲しいって言うから、それならとお土産屋さんに入った。……そこで()()()に出会ったんだ。

 

「あ……」

 

「ん……?」

 

 一子ちゃんが可愛らしいハンカチに手を伸ばすと同時に、一人の女の子が同じ物に手を出す。触れ合った手にお互いも顔を合わせた。

 

「あ、ごめんなさい。お先にどうぞ」

 

「かたじけない」

 

 金髪の女の子が嬉しそうにハンカチを手に取り、一子ちゃんも続く。

 

「うむ、この色……マルさんにピッタリだな」

 

「お友達にプレゼントするの?」

 

「ん? ああ、私の姉のような人でな。お世話になっているお礼をしようと思って」

 

「それは素敵ね! 私もお姉様がいるからあなたの気持ちわかるわ!」

 

「おお、あなたもそうなのか! 私はクリスティアーネ・フリードリヒ。あなたの名前を伺ってもいいだろうか」

 

「私は川神 一子よ。……それにしてもクリスティアーネさん、外国の人なのに日本語上手ね」

 

「日本の時代劇が好きでな。言葉の意味をもっとよく理解したかったから勉強したんだ」

 

「努力したのね。私、一生懸命努力する人は尊敬するわ」

 

「そ、そうか。ありがとう一子殿」

 

「やだ、一子でいいわよ。殿なんてくすぐったいわ」

 

「ならば、私の事もクリスでいいぞ」

 

……一子ちゃんコミュ力すげえ。あっという間に仲良くなってるし。

 

「どうした一子?」

 

「お嬢様、どうかされましたか?」

 

 仲良く会話する二人に気づいたのか、一子ちゃんの下に百代ちゃん。女の子の方に赤い髪に眼帯をした女の子が近づいてきた。見た感じ、百代ちゃんよりちょっとだけ年上かな。

 

「あ、お姉様。何でもないわ。この子……クリスとお話してただけだから」

 

「……そうなのですか、お嬢様」

 

「ああ、一子の言う通りだマルさん。偶然同じお土産に手を伸ばしてしまってな。彼女が先に譲ってくれたんだ」

 

 金髪の子が補足すると、赤髪の子の表情が僅かに和らぐ。

 

「なんだなんだ一子。こんな可愛らしい子と知り合うなんて流石我が妹。お姉様にも紹介したまえ」

 

「は、はい。えっと、この子の名前はクリスティアーネ・フリードリヒ。日本の時代劇が好きで、日本語もそれで勉強したんですって。ここには姉の様に思っている人にお土産を買いに来たんですって」

 

「あ、こ、こら一子! マルさんの前でバラしたら意味ないだろ!」

 

「え? あ、ごめんなさい! もしかしてそっちの人が……」

 

「そうだ。この人がマルさんだ。む~。後で驚かせようと思ってたのに」

 

「お、お嬢様。私の為に……!?」

 

 うわぁ、すっごく嬉しそうだなあの子。尻尾あったらブンブンしてそう。

 

「まあいい。それで一子、今度は私にそちらの方を紹介してくれないか」

 

「もちろん。この人が私の大好きで尊敬している川神 百代お姉様よ!」

 

「ドーモ、クリスティアーネサン。川神 百代デス」

 

「川神 百代? ……まさか、あのMOMOYOですか?」

 

 何かに気づいたかの様な言い方をする女の子に百代ちゃんが怪訝な顔を見せる。

 

「ん? その言い方だと、私の事知ってるのか?」

 

「ええ。父から川神院。そしてあなたの事はよく聞いています」

 

 驚くべき事に、ドイツからやって来たというこの二人はご家族が軍人らしい。そして、そんなご家族から、日本には川神院という武の総本山があり。その跡取りとなる川神 百代というとてつもない実力者がいるのだと聞いていると。

 

「いやあ、私も有名になったもんだなぁ」

 

「流石お姉様だわ!」

 

「うむ、百代殿の噂は私も知っている。マルさんなんかいつか出会うことが出来たらぜひとも手合わせしたいと言っていたしな」

 

「……へえ」

 

 百代ちゃんが目を細める。それに気づいていない一子ちゃんは金髪の子と話を続ける。

 

「じゃあ、クリスは休みを利用して旅行に来たの?」

 

「いや、休みではあるが、旅行というわけじゃないんだ」

 

「?」

 

「合同演習後の休暇という事でしょう」

 

 そこでタイミングを計ったかのように冬馬君達がやって来た。

 

「冬馬、どういう意味だ?」

 

「川神市がドイツのリューベック市と姉妹都市提携を結んでいる事はご存じでしょうが」

 

「そうなのか?」

 

「そうなの?」

 

「……それでですね、その関係で日本の自衛隊と合同演習を行う際、ドイツ軍は九鬼が所有する土地を借りて演習をするそうです。これは数年前からの恒例行事となっているようです。そして、演習終了後は一般人を招き入れていろんなイベントを行っているそうです」

 

「へえ、若。どこからそんな情報を?」

 

「出発前に、ホテルのロビーにいらっしゃったマダム達に伺いました」

 

「そうだったのね。あ、じゃあせっかくの休暇なのに長々とお話ししてたら勿体ないわね。ごめんなさいクリス」

 

「気にするな。こちらこそ引き止めるようなってしまって悪かった。じゃあ、マルさん。そろそろ行こうか」

 

「ええ。みんな、私達も……お姉様?」

 

 それじゃあねと別れようとする両者だったが、何故か百代ちゃんと赤髪の子が動かない。

 

「……そっちのマルさんはまだ私に用があるんじゃないのか?」

 

「……あなたにそう呼ぶの事は許可していない。私の名はマルギッテ・エーベルバッハ。呼びたければそちらで呼びなさい」

 

 あれ~、可笑しいぞ~(某名探偵感)。なんで剣呑な雰囲気になってるんですかねこの二人。

 

「では、マルギッテ。さっきから私だけに殺気を送り続けていたのはどういう意図がある?」

 

「さっきから殺気……はっ、これは……!」

 

「はいはい、ちょっと静かにしとこうなユキ」

 

「先ほどそちらの彼が説明した通り、現在演習地では一般人向けのイベントが行われています。そして、その中で軍人の格闘術を披露する場も設けてあります」

 

「だから?」

 

「そこで私と戦いなさい、川神 百代」

 

 あ、わかった。この子あれだ。少し前の百代ちゃんみたいな子だわ。

 

「聞けば、あなたも強者との闘いを求めているとか。ならば、私と戦う事は必然と思いなさい」

 

「まるで自分が強者のような言い方だな」

 

「ええ。だから試してみてはどうです?」

 

「ふ、ふふふ……確かに面白そうだな」

 

「では……」

 

「だが断る」

 

「なっ……!?」

 

 キッパリと拒否を示す百代ちゃんに、信じられないとばかりに目を見開く女の子だったが、すぐにそれが嘲りへと変わる。

 

「怖気づいたのですか?」

 

「いや……ジジイがな」

 

「ジジイ……?」

 

「川神 鉄心。ウチの総代。で、そのジジイから、この旅行中一度でも暴れたら二度とこいつ等と遊びに出させんって言われてなぁ。私としてはぜひとも戦いたいと思っているが……同じくらい、こいつ等とつるんでるのも楽しいんだ」

 

「百代ちゃん……」

 

「パイセン……」

 

 感激した様子の小雪ちゃん達に、ちょっと気恥ずかしそうに頭を掻く百代ちゃん。

 

「だからまあ、悪いがアンタの思いには応えられない。どうしてもっていうなら直接川神院を訪ねてくれたらいい」

 

「……仕方ありませんね。総代の厳命を破らせたとなっては後で問題になる恐れがある。ここは引き下がるとしましょう」

 

 どうやら一件落着みたいだな。

 

「すまないなみんな。マルさんは強い者を見ると戦いたい気持ちが抑えられないのだ。……そうだ! お詫びといってはなんだが、もしよければイベント会場まで私達が案内してやろう」

 

「イベントって、さっき言ってたヤツか。どうする?」

 

「まずは父達に報告ですね。まあ、元々観光する目的でここに来たわけですし、行ってみるのも面白いかもしれませんよ」

 

「よし、じゃあ早速聞きに行こう」

 

 そんなわけで、話し合いの結果、次の目的地はイベント会場となった。再度タクシーを拾い。会場近くまで来たところで徒歩に切り替える。

 

「結構賑わってるみたいだな」

 

 準君の言うように、周囲では同じ方向に向かって進む人の波が出来ていた。これみんなイベント会場に向かっている人なのだろうか。

 

 そうして足を踏み入れた先は、見渡す限りの広大な土地に人が溢れかえっていた。出店はもちろん、軍のイベントという事からか戦闘機や戦車が展示されている。

 

「こういうのって機密情報とか大丈夫なのか?」

 

「その点に抜かりはありません」

 

 詳しくは言えないが、悪い事しようとする輩はすぐにわかる様になっているらしい。

 

「けどまあ、こういうのって俺らは楽しめそうだけど、女子からしたら退屈なんじゃねえの?」

 

「ですが、中々体験できる事でもありませんし、見てみれば意外と……おや、どうしました百代さん?」

 

「なあ、クリス。あの建物なんなんだ?」

 

 百代ちゃんの示した先には、長方形の真っ白い建物が建っていた。見たところあまり人が集まっていない様に見える。

 

「ああ、あそこは戦車の解体ショーをやってる」

 

「……は? 解体? 戦車を?」

 

「凄いんだぞ。工具じゃなく武器を持った軍人達があっという間に戦車を鉄くずに変えてしまうんだ。ただ、ドイツでは好評だけど、こちらではあまり人気が無いようなんだ」

 

「ああ、だからあそこだけ人がいないのですね」

 

「どうです、川神 百代。手合わせが無理ならばアレで勝負しますか?」

 

「どっちが先に戦車を破壊出来るかって? うーん……お、そうだ! そんなに勝負したいのなら神崎さんとやったらどうだ」

 

 ……はい?

 

「神崎?」

 

「ほら、そこで呆気に取られてる人だよ」

 

「……何故、この方の名を?」

 

「それは―――」

 

「だって、お兄さん強いんだよ」

 

 こ、小雪ちゃん!?

 

「小雪の言う通り、その人強いぞ。何せ、私の攻撃を一度も食らった事の無い人だからな」

 

「お兄さんね、テロリストや悪魔と戦った事あるんだって」

 

 ええ!? 俺そんな事言って……ましたね。ええ、しっかりと。

 

「……それは本当ですか?」

 

「……嘘は言ってないよ」

 

「あなた職業は? 軍人なのですか? それともボディーガード? 傭兵?」

 

「生憎、そんな仕事に就いた事は無いかな」

 

「ならば、何故あなたのような一般人がテロリストと戦う事になったのです。それに悪魔などと非科学的な……」

 

 はい。おっしゃる通りです。だけど、あの時はなんとか京ちゃんを説得しようと必死だったんですよ……。

 

「いいでしょう。では川神 百代の攻撃を捌き切ったというあなたの実力、拝見させてもらうとしましょう。ええ、まさか子ども相手に嘘を吐いて偽りの称賛を受けたかっただけではないでしょうから」

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

 そして話は冒頭に戻る。マルギッテちゃんが中にいたスタッフさんに話しかけ、何やら準備を始めた。なんか酷く驚かれてたけどなんて説明したんだろう。

 

 いやまあ、一般人が見物じゃなく参加するとか言い出したらそりゃ驚くか。

 

「見物される方々はこちらへどうぞ」

 

 俺以外の全員が見物スペースに移動したところで、前方の床がスライドし、何かがせり上がってくる。やがて姿を現したその正体は巨大な戦車だった。

 

 もう一度言おう、どこからどう見てもガチガチの戦車だった!

 

「……本物?」

 

「ええ。現役を引退した旧式のものを訓練用にとっておいたものです。なので思い切りやってもらって構いません。武器が使いたければそちらを」

 

 指定された立ち位置の横の床がスライドし、そこから武器の載せられた台が上がって来た。

 

 武器か、本当は()()()が使えれば一番いいんだけど、ここで取り出したらまたえらい事になりそうだしな。

 

 ただ、せっかく用意してもらったし、何か使うか。

 

 といっても、この中で使えそうなものといったら。

 

「おお! 刀か! マルさん、神崎殿が刀を選んだぞ!」

 

 時代劇が好きだからだろうか、刀を手にした俺を見てクリスティアーネちゃんが興奮している。ちゃんと剣帯まで準備しているあたりやけにこだわりを感じる。

 

 しかし、彼女には申し訳ないが、時代劇みたいな派手でカッコいい殺陣は俺には無理だわ。

 

 俺に出来る事と言えば、あっちで刀剣使いの後輩にお願いして教えてもらった事だけだから。

 

 ()曰く、俺の場合斬ればその時点で終わりだから、後の事は考えずに最初の一刀に全てをかけたらいいそうだ。懐かしいなぁ。あの時は事情があってとにかく吸収できるものは何でもやろうと思ってたから、当時、彼も色々あって疲れていたからかやけに青ざめていた表情をしていたのも覚えている。今にして思えば、酷い先輩だったな俺。

 

 とにかく、俺に出来る事はただ一つ。何も考えず()()()()()()()()()()だけだ。

 

「……よし、やるか」

 

SIDE OUT

 

 

戦車対人間。言葉だけならば聞いた者が耳を疑いそうなその対決が百代達の目の前で始まろうとしていた。

 

「やれやれ、大将も災難だねぇ」

 

「お姉様、お兄様って強いの?」

 

「防御に関してはかなりのものだと思う。だが、何が得意でどんな攻撃をするのかは私も見たことがない」

 

「では、これが神崎さんの実力の初披露というわけですね。ふふ、あの人の初めてに立ち会えて私は嬉しいです」

 

「ドキドキするね京……そのカメラどうしたの?」

 

「ふふふ、兄様の雄姿をバッチリ収めてみせる」

 

 鼻息荒くする京の後ろで、娘の姿を記録しようと用意したはずのカメラをかっぱらわれた父が泣きそうな顔をしていた。

 

「準備が出来たらいつでも始めてもらって構いません」

 

マルギッテの指示に亮真は静かに眼前の戦車を見据える。

 

「……やるか」

 

 そう呟いたと思った刹那、この場にいる武術に身を置く全ての人間が亮真から発せられる気配が豹変したのに気づく。普段の彼を知っている者ほどその変わり具合に対する衝撃は大きかった。

 

(何て目だ……。それに、これだけの距離があるのに届く威圧感……。あれが、武人としての神崎さんの姿……!)

 

「? どうしたんだよパイセン?」

 

「……お前ら、これから起きる事をよく見ておけよ」

 

 かつてないほどの真剣な声色の百代にただ事ではない何かを感じた準や冬馬は言われるままに亮真へ視線を固定する。

 

 誰もが固唾を飲んで見守る中、亮真は静かに鞘に入れたままの刀を構え、体勢を低くする。その姿にクリスはまたもや興奮した。

 

「おお……。あれこそジャパニーズ居合……!」

 

「……美しい」

 

 瞬間、自らの発した言葉に動揺するマルギッテ。しかし、否定しようにも武人としての己が認めてしまう。あれは格好だけ取り繕おうとしただけでは決して身につくものではない。かといって、この国の教育機関等で学ぶという武道とよばれる理念からのものでもない。あれは……明確に敵と戦うための技だとマルギッテは理解した。知らずの内に、彼女の目に熱がこもる。

 

 周囲の期待値がエライ事になっている事などつゆ知らず、亮真は目をつむる。そして、一瞬の後に見開いたかと思ったその直後、彼の姿がその場から掻き消えた。

 

「え、消え―――」

 

キイィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 誰かが発そうとしたその言葉を、甲高く澄んだ音が覆いつくす。人によっては耳を塞いでしまいたくなるようなその音の発生源はどこかと人々が視線を動かそうとしたその時……()()()()()()

 

 文字通り中央から真っ二つ。現役だったころは砲弾や地雷も耐えられるという売り出し文句だったはずのその頑強な装甲が、まるでバターの様に切り裂かれ、内部が露わとなっていた。そして、その戦車の後方に亮真は立っていた。

 

 その光景に頭が追い付いていないのか。誰も言葉を発しない。その間にも、亮真は刀をその場に下すと両断した戦車の片側に一足で踏み込むと、両手を上下に合わせたそれを迷う事無く突き出した。

 

「白虎咬っ!」

 

練り上げられたエネルギーが青白い光となって戦車を飲みこむ。炸裂した光の暴力の前に、戦車はなすすべもなくその姿を()()()()()。文字通り、跡形もなく。まるで最初から存在していなかったかのように。

 

「……こんなもので満足してもらえたかな?」

 

 無言の空間の中、いつものお兄さんに戻った亮真の声に、ようやく人々は動き始めたのだった。

 

 

IN SIDE

 

ふう、上手くいってよかった。これで、嘘つき呼ばわりは勘弁してもらえたらいいんだけど。

 

 刀を拾い上げ、最初の場所へ向かう。剣帯と一緒に元に戻した。

 

「あの……」

 

 うわ、びっくりした! 

 

いつの間にかマルギッテちゃんが背後に立っていた。え、何。またなんか言われそうで怖いんだけど。

 

「あなたの実力を侮った事、謝罪します」

 

「あ、ああ。それは別に気にしていないよ」

 

「その上でお願いします。ぜひ、私と手合わせ願いたい」

 

 あ、やっぱりそういう流れ? うーん、百代ちゃんに夢中だとばかり思っていたけど、今のでずいぶん評価してもらえたみたいだな。だけど……。

 

「……ごめんね。それだけは勘弁してもらえるかな?」

 

SIDE OUT

 

 

「……とんでもねえな、ウチの大将」

 

 最初に言葉を発したのは準だった。しかし、未だに目の前で起きた事が信じられないのか体が小刻みに震えている。

 

「……流石の私も今の衝撃を言葉にする事は難しいです」

 

「え、人間だよね? 神崎星から来た神崎星人じゃないよね?」

 

「ほえ~~~~」

 

「ユキはまだ戻って来ていませんね」

 

「だな。……で、こっちも」

 

「……」カシャカシャカシャ!

 

「し、しっかりして京! な、何で気絶してるのにシャッターの指は動いてるのよ!?」

 

「ありゃホラーだわ。……で、パイセンはどうだったんだ?」

 

「……」

 

「パイセン?」

 

「ん? あ、ああ。そうだな。流石に私も驚いた」

 

 どこか歯切れの悪そうな百代だったが、準はそれに気づかなかった。

 

(……そうだ。本当に凄かった。私は、こんな実力者に勝負できるまで待ってろなんて言ったのか……)

 

 しかも、褒めてもらうためという極めて自分勝手な理由で。

 

 いつもの百代ならば、むしろこんな強い人間といつか戦えるのだとただワクワクしただけだろう。しかし、何故か亮真相手だとそんな気分になれなかった。

 

(もしかしたら、神崎さんはもう忘れているかもしれない。私との約束を)

 

 本人が聞いたら「ファッ!?」となりそうだが、百代の気分はますます沈む。

 

これまで、手合わせを挑んできた者達は百代が勝つとそれから二度と挑んでこなくなった。別にそれはいい。自分の実力をわきまえる事は大切な事だから。

 

 けれど、川神院の中で、同じ実力の門下生達が互いの長所や欠点を指摘しあいながら切磋琢磨する姿を見て何故自分にはあんな相手がいないのかと思った事もある。

 

 そんな日々の中で出会ったのが亮真だった。言いがかりをつけた自分を怒る事もなく、それどころか鍛錬に付き合ってくれた。たった数日だけだったが、百代は今も鮮明に覚えている。

 

 祖父や師範代達と行う鍛錬とはまた違う時間を過ごす事で百代の意識は少しずつ変わり始めた。川神院での修行を真面目に行わずに亮真に会いに来ている自分が酷く情けない様に感じるほどに。

 

 だからこそ、百代は彼と約束したのだ。いつか、本気で戦ってもらえるよう、自分も適当な真似はせず一心に鍛え続けるのだと。孫の意識の変化に鉄心は驚きつつも喜んだという。

 

 しかしここに来て、亮真の実力の一端を垣間見た百代の中に小さな陰が生まれた。自分は約束の為に変わった。けれど、彼にとって自分との約束はそこまで重要なものではないのではないだろうか。あれだけの実力者だ。きっと多くの武人から勝負を挑まれるだろう。そうなれば、子どもである自分との約束などその内忘れてしまうのではないだろうか。

 

(……いや、それでいいのかもしれないな)

 

 約束なんか忘れて、ただのお兄さんとしてこれからも遊び相手になってもらう方が、きっと自分は……。

 

「ありゃ、何する気だあの人?」

 

 それ以上考えたらダメだと頭を振った百代の耳に準の声が届く。目を遣ると、亮真の前にマルギッテが立っていた。何やら会話を交えていたと思ったら最後にこう言った。

 

「その上でお願いします。ぜひ、私と手合わせ願いたい」

 

 勝負の誘いをかけるマルギッテに準は目を丸くする。

 

「アレを見て挑むつもりかよ……」

 

「むしろ見てしまったからでしょう。先ほどから飛び出したくてたまらないって様子でしたし」

 

「うわあ、どっちが勝ちそうかしらお姉様?」

 

「……さあな」

 

 そう、自分には関係ない。亮真が誰と戦おうが……。そのはずなのに、なんだか胸がモヤモヤする。

 

「悪い、私ちょっと外に……」

 

「……ごめんね。それだけは勘弁してもらえるかな?」

 

 背中を向けようとした百代の動きが止まる。

 

「何故です。まさか、私が子どもだと侮っているのですか? 私があなたを侮っていた意趣返しだと?」

 

「いや、それだけは無いとハッキリ断言しておくよ」

 

「では何故?」

 

「ある子と約束してるんだ。いつか手合わせするって」

 

「ッ……!」

 

 目を見開く百代。愕然とする彼女に気づかず亮真は続ける。

 

「今すぐじゃないけど、俺に勝つために修行するからその時まで待っててくれって。そして、その時が来たら褒めてくれって。……そこまで言われたらさ、俺も彼女との約束に真摯でいたいなって思ったんだ。だから、俺はその子と手合わせする時が来るまで、他の誰ともしないって決めてるんだ」

 

 彼は忘れてなかった。それどころか何よりもそれを大切にしてくれていた。百代は何故か泣きそうになった。

 

「いま大将が言った子って」

 

「百代ちゃんの事だよね」

 

「お、気が付きましたかユキ」

 

「もう大丈夫。えへへ、良かったね百代ちゃん。お兄さん、ちゃんとあの時の約束覚えてくれてるみたいだね」

 

「……ふ、ふん! 当然だ! この百代ちゃんとの約束を忘れるなんてありえないもんな!」

 

 努めて明るい声をあげる百代。その本心に気づいていたのは果たして……。

 

「だからゴメンね。もう一度言うけど、決してマルギッテちゃんを侮っているわけじゃないんだ」

 

「ちゃっ!? ん、んんっ! ……その約束した彼女とは川神 百代の事ですか」

 

「わかるか?」

 

「その様な事をいうのは彼女くらいでしょう。……わかりました。約束や契約の重要性は私も理解しています。非常に不本意ではありますが、そこまで聞かされてなお願い出るのは無粋が過ぎるでしょう」

 

「ありがとう、マルギッテちゃん」

 

「そ、そのマルギッテちゃんというのは止めなさい! そ、それよりあなた! 私とも約束しなさい! 川神 百代と手合わせしたら次は私とすると!」

 

「それは……けど、キミはドイツへ帰るんだろう?」

 

「いずれまた日本に来る日は必ずやって来ます。その時に約束を果たしてもらえればいい。逃げる事は許しません。そうなったら必ずあなたを探し出して戦ってもらいます」

 

「……わかった。約束するよ」

 

「それでいいのです。……で、では握手を。こ、これは約束の証であり、先ほどあなたが見せてくれたものへの敬意を示したいだけであって他意はないのだと理解しなさい!」

 

「? とにかく、握手すればいいのかな?」

 

 そう言って亮真が手を差し出そうとした瞬間だった。横から伸びた小さな手がそれを止める。

 

「はい、そこまで~」

 

「なっ!?」

 

「困るな~マルギッテさん。私達の神崎さんに色目を使ってもらっちゃ~」

 

「どうする兄様? 射す? 射す?」

 

 握手を阻んだのは百代。そして亮真の隣に立つ京は台の上に置いてあった弓矢をマルギッテに向けながら亮真に確認する。

 

「ま、そういうわけだから。アンタは二番の女として私が神崎さんと手合わせする時まで精々我慢しておく事だ」

 

「に、二番!? 川神 百代! と、取り消しなさい今の言葉! その言い方は誤解を……!」

 

「取り消せだと? 断じて取り消すつもりはない」

 

 逃げ出す百代とそれを追いかけるマルギッテ。

 

「……うん! マルさんが楽しそうで何よりだ!」

 

 それを見て、どこかズレた発言をするクリスであった。




クリス「のるなマルさん! 戻れー!」

滅茶クソ長くなってしまいました。1万文字超えとか書きすぎぃ!

クリス達と出会わせる予定はなかったんですが、百代の約束云々を入れようと色々考えたらこんな流れになりました。

軍云々とか適当の極みだけどこの世界ではそうなんだよ! で通しますのでオナシャス!
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