ポケットモンスター不思議のSPECIAL   作:Nフォース

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前編後編にわかれましたがこのレディアンは中ボス的な位置づけと言う事で。

ウルガモス「虫ポケの癖に中ボスとかまじ出世」
へラクロス「全くだな」
メガヤンマ「本当にな」
ビビヨン「本当にね」


第九話「VSレディアン 後編」

 突き飛ばされたレディアンは再びよろよろと起き上がって空中に浮かぶように滞空してキリンリキをにらみつける。対してキリンリキは飽くまでも涼しげな顔でレディアンの前に立ちふさがる。二匹とも目をお互いからそらさず攻撃の構えを取る。

 

(さてレディアンですか……レディアンは『むし』タイプのポケモン)

 

 対するキリンリキは『エスパー』タイプを含むポケモンだ。そして嘗てから強豪と評されてきたエスパータイプのポケモンの数少ない弱点の一つが『むし』タイプ。相性の上ではキリンリキが圧倒的に不利。

 

(まあそんな事は今に始まったことではありませんがね)

 

 キリンリキは苦手である『むし』どころか『エスパー』タイプ最悪の天敵である『あく』タイプのポケモンとだって幾度となく戦ってきている。今更『むし』タイプのポケモンの一匹や二匹恐れる事は無い。

 

(冷静に考えましょう。相性の上では私が不利。しかしそれは相手とマトモに技を打ち合う場合の話です)

 

 ならば、技を徹底的に使わせないように立ち回るのが最上の策だ。そしてそれができる算段は既についている。

 

“あ、あの!”

「……おや? どうしましたか?」

 

 足元でチコリータが何やら訴えかけてきている。そう言えばさっき尻尾が感じたと言っていたハーブの香りの正体はこのチコリータなのだろう。チコリータとその進化形はそれぞれ良い匂いを体から発することで知られている。

 

“貴方はもしかしてさっき……”

「おっと、話は後にしましょうか。先ずはあのレディアンをなんとかしなくては」

 

 こうしてチコリータにキリンリキが意識を向けた一瞬の隙に一気に加速してキリンリキまで迫っていた。その白い拳でもって真横からキリンリキの目を目がけてフックを放つ。これは首をのけぞらせることで避けたが拳の通った空間から凶暴な風切り音が聞こえてほんの少しヒヤリとする。

 

「ハッ!」

 

 のけぞらした首を勢いよくレディアンの胴に叩きつけカウンターを仕掛ける。技の域には達していない唯の打撃だが空中を滑空していたレディアンのバランスを崩すのには十分だ。ふらついたレディアンを今度は前足で思い切り蹴る。手ごたえはしっかりと感じた一撃。堪らずレディアンは引き下がろうとした。だが

 

「逃がしはしませんよ」

 

 もとより相性で不利なこの戦い。遠距離から仕切りなおされるのはマズイ。距離を離させるわけにはいかないのだ。そこでキリンリキは強固な脚力でもって大地を踏みしめ満身の力を込めて蹴り、跳躍。そしてそのまま

 

「『こうそくいどう』……!」

 

 嘗てから『こうそくいどう』はもっともキリンリキが信頼している技だ。何度も何度も使ってきたこの技は攻め手にも守り手にも使える為、便利でかつ強力だとキリンリキは思っている。どんな攻撃もよけられるスピードが有れば怖くはないし、どんな攻撃をもあてられるスピードが有るならば倒すべき敵を決して逃しはしないのだから。

 強烈な加速により先ほどのレディアンのフックの起こしたそれとは比べ物にならないほどの風切り音が耳を叩く。しかしこれは悪くない。先ほどのフックによっておこされた音はヒヤリとさせる不快な音だが加速するときのこの風はとても心地良い。

 一気に加速したキリンリキは一歩でレディアンの懐まで潜り込み、そして――

 

「終わりです」

 

 超至近距離で『サイコキネシス』を放つ。余りの念力に空間すら歪むほどの一撃。素で受けるならばレディアンが耐えられる道理はない。しかしキリンリキは『サイコキネシス』が命中する直前にレディアンが上の腕二本ををクロスさせるのを見た。それと同時に薄い膜のようなものが張られるのも。

 

「むっ……『ひかりのかべ』ですか。厄介な」

 

 『サイコキネシス』を放った反動を利用して着地したキリンリキはそう呟いた。

 『ひかりのかべ』。『サイコキネシス』のような特殊な攻撃に対して有効で、特殊な攻撃を得意としているキリンリキからすれば厄介な防御技だ。この技は『ミラーコート』のように特殊攻撃を跳ね返したりはしないし、『まもる』のように攻撃の威力を完璧にゼロにできる訳ではない。しかしこの技は今あげた二つの技と同等、或いはそれ以上に厄介だ。なぜならば

 

「『ひかりのかべ』は長い時間、その効果が有効となる技……この間に状況を立て直す算段ですか」

 

 『ひかりのかべ』が有る今、キリンリキ得意の『サイコキネシス』は必ずしも決定打とはなり得ない。これは困ったとまるで人間のように眉を潜めるキリンリキに対してレディアンはニヤリと笑みを浮かべた。少なくともキリンリキにはそのように見えた。ゆっくりと前を向いたままキリンリキから離れそして――消える。

 

「なに!?」

 

 しかし消えたと思ったのもつかの間、再び真横にレディアンが姿を現しそして先ほどは避けられたパンチを今度は胴目がけて放つ。しかし先ほどのパンチとは同じパンチでも決定的に違うものが有る。

 

「ぐっ! これは、『マッハパンチ』ですか……?」

 

 まるで見えない。それほどの俊敏な軌道から放たれるパンチ技と言えば思い浮かぶのは『マッハパンチ』と()()()()だけ。しかしそのもう一つの方はキリンリキの記憶が正しければレディアンには使えなかったはずだ。キリンリキは強烈なパンチを得意としているポケモンと戦ったことが有りその関係で拳を用いた技にはかなり精通している。

 しかし結構な威力だ。突き飛ばされることはなかったがそれでも少しばかり重心がぐらついたのをキリンリキは自覚していた。このレディアン。このあたりの他のポケモンとは明らかに桁が違うレベルを持っている。

 

「何の! 速さなら私も負けませんよ!」

 

 再び『こうそくいどう』を用いた超加速を行い、軽快なステップでレディアンの繰り出すパンチを避ける。避ける、避ける、避ける。まるでタップダンスをしているかのような細かい足さばきでもってレディアンの攻撃範囲をわずかな差で逃れているその様は見事と言う他はない。

 

(このまま『ひかりのかべ』の効力が消えるまで避け続けられれば良いんですがね)

 

 しかしあのレディアン、予想以上に素早く小回りが利いている。そんなレディアンに『ひかりのかべ』が消えた瞬間に『サイコキネシス』を叩き込める位置をキープしつつレディアンの攻撃を避け続けるのは容易ではない。しかし距離を離せばせっかく『ひかりのかべ』が切れても再び使われてしまう可能性もある。そうなってしまえば泥沼だ。

 

 しかしキリンリキが僅かな差でレディアンの攻撃を避けていると言う事はキリンリキからしても冷や汗物だが、同時にこれ以上ないほどにレディアンの神経を逆撫でしていた。なにせ本の数センチの差で拳が当たらないのだ。攻撃している側からすればこれ以上ないほどに不愉快で、そして焦りが生まれる。

 さらに言えば先ほどのキリンリキの『サイコキネシス』。どうにか咄嗟に張れた『ひかりのかべ』で威力を軽減できたとは言え、その凄まじい威力は『ひかりのかべ』の膜を通じてレディアンにも伝わってきていた。もしこのままパンチをキリンリキに当てられず、『ひかりのかべ』が切れて尚且つこの絶妙な距離を維持されたまま、そんな最悪の事態に陥った場合はこの戦い、間違いなくレディアンが敗北する。

 そして現状その最悪の事態にかなり近づいてしまっている。戦いの天秤は確実にキリンリキの側へ傾きかけていた。理屈ではなく本能でそれを感じ取ったレディアンはどうにか自分の側へ流れを持ってこようと足掻き更に無茶な攻勢へ出る。両腕六本の内今まで攻撃に使っていたのは二本。残った四本の内空中でバランスを取るために回していた二本を更に攻撃の手へ追加する。

 

「むっ、これは……」

 

 その勢いは面と向かっているキリンリキにも当然伝わった。そうでなくても先ほどは日本の手を使ってきた攻撃が今度は四本。単純計算でいえば二倍の手数と言う事になる。勿論空中でのバランスなどを考えればそう単純な話でもないのだが手数が増えより攻撃的になっていることは確かだ。

 

 ――そう心の奥底では冷静に分析を続けているキリンリキだったが、実際にはかなり厳しい。

 

 四方八方から高速のパンチが顔面や胴体、至る部位へ向かって放たれる。もはや狙いなどつけてはいまい。空中でのバランスが取りづらくなっているため攻撃の制度は明らかに落ちている。だが例えその軌道がバラバラでも、せまる拳は速くて鋭く一発でも貰えば大きなダメージを受けるだろう。寧ろ軌道が出鱈目で読み辛いとさえ思う。先ほどまでのような微妙な挙動(ステップ)では避けきれない。

 かと言って大きく距離を開けるような回避はレディアンに『ひかりのかべ』を使わせる余裕を生む。それではまたこの繰り返しだ。否、別にキリンリキとしてはここで距離をあけても問題ではない。レディアンが『ひかりのかべ』を使う余裕があると言う事はそのままキリンリキが逃げれる隙があると言う事を意味する。逃げると言えば聞こえが悪いが別にレディアンを倒すことがキリンリキの目的ではないことを考えれば逃げることだって悪くはない。何せキリンリキは、あのレディアンを倒しに来たわけでは無いのだから。

 

(しかし、それは駄目ですね)

 

 チラリと後ろを振り返る。そこには自分とはあまりに隔絶したレベルを持つ二匹の戦いに半ば呆然としているチコリータがいた。もしここでキリンリキが逃げる選択肢を選べばこのレディアンの怒りの矛先はあのチコリータに向くだろう。そうなればあのチコリータが逃げ切れる可能性はゼロだ。レベルも素早さも圧倒的に足りない。言ってしまえばあのチコリータはこのレディアンと戦うには圧倒的に弱すぎた。少なくとも今はまだ。

 

(逃げるという選択肢が選べない以上この距離を離すわけにはいかない。『ひかりのかべ』が切れた隙に『サイコキネシス』を打ち込めるこの距離を……かと言ってレディアンの攻撃をこれ以上近距離で避けることは難しい)

 

 前方から迫る二発のパンチを首を器用に曲げながら避け、そして下方からせまる追撃は前足で捌きながらレディアンの様子をうかがう。これはキリンリキの予想だが、あのレディアンがここまで攻勢に出てきたのはもう直ぐ『ひかりのかべ』が切れるからではないだろうか? ただの勘だが、しかしそう考えるとあの無茶な攻め方にも納得がいくのだ。レディアンからすれば何としてでも『ひかりのかべ』が続いている間にダメージを稼いであわよくば倒してしまおうと、そう考えるはずだから。そして何よりレディアンだってわかっている筈なのだ。キリンリキが『ひかりのかべ』の隙を突こうと考えていること位。であればその目算を崩そうとするのも自然な行動だ。

 

(ならいっそのこと何発か貰ってでもこの場で踏み止まりますか?)

 

 『ひかりのかべ』が切れるまであと少しだろうと言う自分の勘を信じるならばこのパンチの嵐はすぐに止むと言う事だ。何せ『ひかりのかべ』は攻撃しながら張ることはできないからだ。加えて言えばそれが決定的な隙となる。

 しかし勘が外れれば大ダメージは必須だ。下手をすれば死に直結するかもしれない。少なくともこのレディアンにその気はある。キリンリキを、殺す気が。

 

(ええい、ままよ!)

 

 力強く二本の前足を地面に叩きつけて踏ん張る。どの道相性の上で不利な戦いだ。これ位の度胸がなければ勝利は引き寄せられない。そう割り切ってレディアンを思い切り睨み付ける。

 

 

 

(勝った――)

 

 大地を踏みしめ堪えることを選択した目の前のポケモンに対し、彼は内心でほくそ笑み、相手の失策を嘲笑った。彼にはまだ見せていないとっておきの切り札が有る。白い拳を握りしめ、そこに満身の力を込める。

 相手は『ひかりのかべ』はもう長続きしないと予想したのだろう。――確かにその予想は正しい。そうでもなければ保守的な性格をしているこのポケモンが捨て身の攻勢になど出るはずがないからだ。

 

 ――これで自分を脅かすものはいなくなる。

 

 彼が欲しかったのは安住だ。かつてトレーナーのポケモンであった彼はそこで死ぬほど辛い特訓を強いられた。チャンピオンを目指す。そんなありふれた夢を持った少年トレーナーの。

 そんな夢だけは立派だったそのトレーナーは、されどあまりにも子供であった。バトルに強くなるためにはより強いポケモンを。そんなシンプルな思考の元、彼は徹底的に自分の捕まえたポケモンへの強化を施した。特訓もそうだが何やら得体のしれない薬を飲まされ、得体のしれない器具を身に着けさせられ、まるで生きた心地のしない日々を過ごしていた。そんな日々の中、気が休まる瞬間など彼にはなかった。トレーナーが寝た隙を見て自分のボールを壊し、外に飛び出すまでは。――そんな日々が、彼の保守的で自己中心的な性格を生み出した。

 このポケモンは強かった。それこそ並の野生のポケモンは一撃で倒せてしまえるほどのパンチ。危険を感じれば即座にに貼れる『ひかりのかべ』。

 皮肉な話だがあの特訓の日々は、確かにこのポケモンの糧となっていたのだ。その実力を持ってすれば安住を手に入れるのは楽だ。目に入ってきた他のポケモンをすべて蹴散らしてしまえば良い。その上でなら自分はゆっくりと誰にも脅かされずに過ごすことができる。

 だから、今戦っている縞々のポケモンの後ろにいる小さなはっぱのポケモンにも手を出した。ポケモンを見かけたならば敵と思え。先手必勝。視界に入った相手が悪い。自分はただ安住が欲しいだけだ。自分は悪くない。歪んだ思考の元最速を誇る拳でもって打ちのめしてやった。自己正当化の塊であるその思考に罪悪感は微塵もない。

 ところがどうだ。こうして打ちのめしたと思ったら今度は別のポケモンが出てきた。しかも腹ただしいことにこのポケモンは強い。今まで戦ってきた中ではダントツに強い。自分の拳も当たらず強烈な念力で攻撃を仕掛けてくる。

 

 腹立だしい。腹立だしい。腹立だしくて、忌々しい。

 

 その涼しげな顔が。意味不明な足捌きが。強烈な攻撃が。本当に憎たらしい。思わずとっておきと思っていたこの技を使って、殺してしまおうと思うほどに。

 

 背中の五つ星が光を放ち、強大なエネルギーを吸収する。

 やがてそのエネルギーは口へと収束していき、そして一筋の光線となって放たれる。

 その光景はまさに光の鉄槌。自分の安住を乱す愚かなポケモンへの鉄槌そのもの。

 

 ――それは世間では『はかいこうせん』と呼ばれる技であった。

 

 パンチなら耐えられたであろうキリンリキは、しかしこれには耐えられるはずもない。

 強烈過ぎる一撃に、後ろにいたチコリータ諸共吹き飛ばされ、そして跡形もなく消え失せる。それも見たレディアンはただ笑った。これで自分の安住が守られる、と。安住さえ守られるのであればあんなポケモンの一匹や二匹どうでもいい。そう本気で思っていた。巣としている木へ帰ろう。これで安住が手に入る――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の勝ちです」

 

 レディアンは地面へ静かに落ちて、動かなくなった。戦いの最中、急に混乱状態に陥ったのだ。そんな隙をキリンリキが見逃すはずはない。

 

「この『リバースリボン』を巻いた私を相手に接近戦は無謀ですよ。と言っても、もう聞こえていないんでしょうけどね」




気づいたらレディアンが妙なキャラクターになっていた件について。
まあこれはポケダンコラボ補正と言う事で。
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