ポケットモンスター不思議のSPECIAL   作:Nフォース

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学園祭の関係で更新が少々遅れてしまいました。
……決して『うんめいのとう』にヌケニンで挑み続けていたわけではありません(汗)


第十四話「微妙な距離感」

 アサギシティに到着したクリスとレイ。地面に降りた二人がまず最初に見たものはまるで雲にも届きそうな程の高さを誇る塔だった。

 

「わあ! 凄い!」

 

 年相応の歓声をあげるクリスの傍らでレイは地図を開いていた。あのアクア号の船員からもらったものだ。断っておくが、これはジョウト全体の地図ではなくこのアサギ周辺の地図である。

 

「地図によるとあれがバトルタワー。アサギの新名所だって」

「あ、ラジオで聞いたことが有るわ。確か来月に完成する予定だって言ってた」

「へえ来月。じゃあ、この地図は先取りしてるのかな? まだ完成してないんじゃ名所とは言えないだろうし」

 

 そんな他愛もない話をしながらゆっくりとバトルタワーを目印に歩いていく。つながりの洞窟ではアクシデントに見舞われたが結果的にはジョウト地方の西部へ出る事ができたのでラッキーだったのかも知れない。このアサギシティ周辺にも未捕獲のポケモンは大量に生息している。

 しかし図鑑完成の期限までまだまだ余裕はある。少しばかり寄り道してもバチは当たらないだろう。間違いなくジョウト一の建造物であるバトルタワー。クリスもレイも少なからず興味を持った。

 

「もっと近くまで行ってみようか」

「うん!」

 

 どうやら地図はこのバトルタワーのパンフレットも兼ねているようだ。それによるとどうやら建設現場まで今は入れるらしい。海沿いの道を歩いてバトルタワーへ向かう。

 

(それにしても……)

 

 クリスは横目で隣を歩く少年を見る。マチスとレイが話しているのをクリスは殆ど聞いていなかったが彼女が見た時のレイとマチスの雰囲気は正に一触即発。導火線に火が付いたダイナマイトのような危うさ。あのようなレイは今まで見たことが――

 

(いや、そうじゃない。あの背筋が凍りそうな程の冷たい雰囲気。あれはどこかで――)

「どうしたの? クリスさん」

 

 はしゃいでいた少女がいきなり黙ってしまったことを不思議に感じてレイが声をかける。クリスもハッと我に返り

 

「……あ、ああ。何でもないわ」

 

 問いかけてくるレイの顔はクリスもよく知る、紳士的で優しい一緒に旅をしてきた少年の顔だった。まだ日は浅いとはいえもう既に幾つかの危機を乗り越えてきた相手だ。そこには少なからぬ信頼はある。ある――が。それでもまだその心の内まで踏み込めるかと言われればそうでもない。

 

「そうかい? 何か悩みが有るなら何でも聞くよ?」

 

 ……完全な善意による言葉なのだろう。しかしそれに答えることはできない。今クリスが悩んでいるのはまさしくレイの事についてなのだから。右手を前に出して振りながらクリスは丁重にレイの申し出を断る。

 

「良いわよ。別に大したことじゃないし」

 

 こういう時、人間は決まって本音と逆のことを言う生き物である。

 

「……なら良いけれど」

 

 そしてそれはレイもクリスも変わらない。

 

「そ、それより速く行きましょ! バトルタワーへ!」

「そ、そうだね。行こうか」

 

 二人の間にはまた、ニョロトノの一件以前のどこかモヤモヤした雰囲気が流れていた。観光地に来てはしゃいでいる様子には確かに旅人としての旅を楽しむ気持ちが有っただろう。バトルタワーに関心と興味を持ったことも嘘ではない。しかしこのモヤモヤを隠すための明るさでも有ったりする。それもお互いに。やはりこの二人は似た者同士であった。良くも悪くも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 アサギシティ近郊にて、まさに風の如く疾走する大型の四足のポケモンの姿が有った。余りにその疾走が速すぎる為、その姿は常人の目には留まらない。しかし、もし留まれば誰もがその水晶のような輝きに思わず息を飲んだだろう。それはもはや神々しさと言い換えても差し支えないほどであった。どこまでも澄んだ清流のように流れる鬣。雄々しいその立ち姿。水晶の一番美しい部分だけを削り取って具現化したようなその透き通る体色。どこをどうとっても変わらず美しい。

 もしこのポケモンを見れば芸術家たちは挙って筆を執りその姿をスケッチブックに書き写すだろう。――しかし決して再現はできまい。このポケモンの美しさは有るがままの自然の持つ神秘性に支えられている。人の手が加わっても決してこの美しさを再現することはできないだろう。

 もしその美しさを再現できる者がいるとすれば……それはこのポケモンを生み出した、神と呼ばれる存在しか有り得まい。人間の手には決して届かないからこその()()。もし届くことが有ったとしても、それはこのポケモンが認めるか、或いは人間の方が人間を止める領域に到達してしまうか。そのどちらかしかない。

 

 そのポケモンの名はスイクン。遥か昔からこのジョウト地方で伝説として語れる三匹のポケモンの内の一匹。

 

 あるトレーナーの手によって『氷の拘束』から解放されたこのポケモンは自身と共に並んで伝説とされるエンテイ、ライコウ共々自分と共に戦うのにふさわしいトレーナーを探していた。

 もちろんスイクン、エンテイ、ライコウは三匹とも自分がジョウトを駆けまわる事がかなりの騒ぎになるのを知っている。そもそも伝説とされる彼らが自分から共に戦うトレーナーを探すことは異例中の異例。伝説のポケモンは到底人に御せる存在ではない。もし伝説のポケモンが全力で戦えば敵はおろか、その圧倒的すぎる力故に扱うトレーナーすらも危険に晒すことになる。スイクン一体ならまだしももし他のエンテイとライコウまでそろって全力をふるえば強大な力の奔流によりその場一面の酸素が失われる事態まで発生しうる。酸素がなければ人間が生きていけないのは普遍の常識であり、そしてポケモントレーナーは人間である。トレーナーが人間である以上酸素が失われる戦場では生きてはいけない。この事からも伝説のポケモンは人に到底御しきれる存在でないのは明らかだ。だからこそ彼らがトレーナーを探すのは極めて異例で稀なのである。

 当然並のポケモントレーナーであればスイクンたちにとって戦力となり得ない……いや、むしろ足手まといになるだろう。先ほども言った通り彼らが全力をふるえばトレーナーの安全だって保障はできないのだ。その状況で更に的確な指示を行い優れたサポートをできるトレーナーが果たしてこの広い世界中どれだけいるだろう。世界中に何十億といるポケモントレーナーの中からそれだけの才能と実力とそして彼らが本気で戦う中でも生きて行けるほどの生命力を持つトレーナーを彼らは探している。それはまるで広大な砂漠の中から一粒の砂を見つけるような途方もない話だ。

 しかしそれでも彼らはポケモントレーナーを探している。それは最早藁にも縋るような思いであった。伝説のポケモンである彼らは強い。とてつもなく強い。だがなまじ強すぎるが故に、彼らは今より更に強くなることは直ぐにはできない。彼ら自身の力を高める事では到底間に合わないほどの脅威がこのジョウトを襲おうとしている。人の声も、思いももはや届かぬ孤高、氷の仮面の男(マスク・オブ・アイス)。その圧倒的な力の前にスイクン達は無様に敗北し、その力を封じ込められた。麦わら帽子を被ったトレーナーの手によりその氷の封印からは抜け出し以前の力を取り戻すことはできたが……まだ足りぬ。仮面の男を撃ち破るには、それでもまだ。

 だから彼らはポケモントレーナーを探しているのだ。極めて優秀でかつ、正しい心を持つポケモントレーナーを。その風の如き走りでジョウト中を回りながら。彼らの心は、人間に例えるならば純粋な『祈り』で満ちていた。その祈りはポケモン故に、人よりもはるかに純粋で穢れなき感情。それを胸に秘めて、今日もスイクンは駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 掘削機やクレーンと言った迫力ある銃器とワンリキーを初めとした力強いかくとうポケモン達の織りなす工事現場は無骨ながらも見ごたえ有る物だ。それもジョウト一の高さを誇る建造物バトルタワーの物であるから尚更だ。

 

「お、いつも悪いな。ワンリキー!」

「カポエラー! 今日も良い回転じゃないか!」

 

 彼らのトレーナーで職場仲間である作業員たちとのコンビネーションもバッチリだ。人間よりもはるかに強い力を持つが、器用さには欠けるかくとうポケモン達。それを人間や機械の力で補う。またただ力が強いだけでなく機械の代わりを果たすポケモンもいる。例えばカポエラー。尖った頭を軸にして回転を行うこのポケモンはその回転速度を上げることでドリルのような役割をも果たす。他には伸びる手足を持つサワムラ―が鉄筋などを伸ばした足に巻き付け運ぶことで疑似的なクレーンの役をも果たしている。疑似的とはいえこれも侮れない。一度に運ぶ量こそクレーンに負けているが運ぶ速さと小回りの利き方ではサワムラ―が完全に勝っている。そんなポケモン達と銃器と人員をそれぞれ適所に配置することで効率よく作業を進めていく姿は実に見事であった。

 

(大した信頼関係ですね)

 

 その様子をレイの隣でキリンリキは眺めていた。何時もならば始めて行く町は偵察を彼女かレイのどちらかが行うのが常だが今日は潜水艇の件もあってキリンリキもレイも疲れてしまっている。むしろレアコイルの罠に引っかかったクリスの方が元気なほどだ。妙な話だが潜水艇の中でずっと起きていたレイの方が極度の緊張に晒され続けた為より多くの体力を奪われていたのだ。と言ってもレイ自身はそれを表には出していない。長い付き合いのキリンリキだからこそわかる事なのだ。

 

(しかしまあ人間も複雑ですねえ。私の主は、あの工事の様には簡単には行かないようです)

 

 そして聡明なキリンリキは既にレイとクリスの間に流れる微妙な空気を察知していた。何というかキリンリキからすれば随分と妙なところでしこりができたなと思う。レイが己の本性……いや、この言い方にはかなりの語弊が有るが、ああいう顔を出したのは間違いなくクリスを守るためだったのだ。事実彼がクリスの事を一切考えないのであればあの場から逃走するとまで行かなくともマチスに対して容赦なく先制攻撃を仕掛け、彼女が寝ている間に叩きのめそうとしただろう。あのマチスと言うポケモントレーナーは一筋縄では行かない実力者のようだが不意さえつければキリンリキとレイならば倒せる。これは確信である。しかしそれをやらなかったのは他ならぬ気絶してしまったクリスを守るため。あの場で手段を選ばず戦えばクリスを危険に晒すことになる。

 

 ここまでレイの側で考えてみれば、クリスは自分を守ろうとした行動に対して忌避感を覚え、自分を守ろうとしたレイを疎んでいることになる。それは自分勝手だ。そこを庇うことはできない。

 

 しかしその一方でキリンリキはクリスの方にも女……ポケモンでいう♀としてある程度の理解は示していた。レイがどんな顔をしようともう既に知っているキリンリキからすれば別にどうってことはないがあれだけ心優しく、紳士的な少年が大の大人顔負けの殺気を放っているのを見れば誰だって怖い。捕獲の専門家としてある程度自立しているとは言えまだ少女であるクリスならばそれも当然のことだ。仕方の無い事である。

 それにレイだってマチスを挑発するような言動をあのアクア号の上でしなければクリスを怯えさせることもなかったのだ。レイだって無能ではない。あの追求を飽くまでも柔らかく回避する方法の一つや二つはレイにだって思いついたはずだ。なのに彼がマチスに対して皮肉めいた口調で受け答えをしたのは彼の個人的な好き嫌いである。それもまた自分勝手なことだ。

 

(まあ私がこんなことを考えても仕方の無い事なんですがね)

 

 喋れるポケモンキリンリキ。その認識自体はレイもクリスも変わるまい。しかしレイの考えるポケモンと、クリスの考えるポケモンには決定的な差が有る。

 今回のモヤモヤした空気の原因は間違いなくレイとマチスの会話だろう。しかし恐らくあんなことがなくてもレイとクリスはまたこうしてすれ違うことになった筈だ。なぜならば二人は二人で旅をしているからだ。旅をする間柄と言うのは決してお互いの良い所ばかりを見て行ける間柄ではない。意見の違いですれ違うだろう、ポケモンについての認識はその最たる例だ。趣味の違いを理解できず、またされないことも有るだろう。なぜならば旅とは家なき生活だからだ。生活を共に行う者同士が上っ面だけの付き合いをするなど不可能。だからキリンリキは良い旅の集団とは仲間同士が仲の良い家族のような関係の者達だと思っている。酸いも甘いも受け入れた仲間。それが生活を共にするのならばそれは家族と言って何ら問題無いはずだ。

 

(レイ、私はあなたが優れた旅人であることを知っています。そしてクリスさん、あなたもそうであると信じています)

 

 だからキリンリキは態々自分から助け舟は出さない。そんなことをせずともこの二人ならきっと分かり合えるはずだ。キリンリキはそう信じている。

 

(しかし今回も切欠が有ればいいんですけどねー。例えばニョロトノの時みたいに……正直レイもクリスも空元気なのが見えていてそばにいる身としては中々応えますよ)

 

 もしキリンリキに信頼できる間柄のポケモンか、人間がいれば愚痴っぽく語っていたかも知れない。……何というか人間味あふれるキリンリキである。尻尾の特殊な事情も併せてここまで変わっているキリンリキも珍しい。ふぅ、と人に聞こえないような小さな声で溜息をつく。溜息一つにも気を使わなければならない現状を疎みながら。

 

“大丈夫ですか?”

 

 彼女、いやポケモンにしか聞こえない声に振り向く。

 キリンリキに今話しかけているのはメガぴょんだ。心配そうに背の高いキリンリキを頑張って見上げているその様子が何とも微笑ましく右足で葉っぱの着いた頭をなでる。

 

“わわっ。くすぐったいよ~!”

 

 何とかキリンリキの足を振りほどこうとするメガぴょんだが、チコリータと言うポケモン特有の短い脚ではどうしようもなく、されるがままとなってしまう。

 

“……その位にしといてやったら?”

 

 今度は上を向く。今の声はクリスの頭の上にチョコンと止まっているネイぴょんの物だ。

 

“なんて言うか、メガぴょんが見ていて不憫よ”

 

 そうですか? と問い返す代わりに首を傾げる。彼らと違いキリンリキは普通に人間の言葉を使って喋るため街中では言葉で受け答えをすることができないのだ。

 

“うぇぇ。ネイぴょんありがとう……”

“どういたしまして……それにしてもキリンリキと私ではずいぶん口調が違うわね?”

 

 確かにそうですね、と言う意思表示の為に首を縦に振る。そのネイぴょんの質問に対してメガぴょんは胸を張ってこう答えた。

 

“だってキリンリキは僕の師匠だから!”

“あら本当なの?”

 

 違う違う、と言う意思表示の為に首を横に振る。弟子にした覚えはない。メガぴょんが勝手に言っているだけだ。

 

“……キリンリキは首を横に振っているけれど?”

“ええー? そんな事ないですよね! ね!”

 

 ゴリ押されても覚えの無い物は無い。再度首を振りながらキリンリキは思う。メガぴょんに懐かれたのは間違いなくレディアンの一件が原因だろう。それ以外には考えられない。助けられたことを純粋に感謝してキリンリキの弟子を名乗っているのだろう。しかしキリンリキはそれが複雑だった。

 実はあの時メガぴょんを助けたのは言ってしまえば気まぐれだったのだ。あのレディアンはレベルが高く獰猛で、更に狡猾だった。キリンリキでも危険を感じる程に。……実のところキリンリキは最初レディアンに襲われるメガぴょんを見た時助けようと進んでは思わなかった。あれだけレベルの高いレディアンを相手のしてまで助ける義理は無いとそう考えたのだ。それでも助けようと感じたのはメガぴょんがレディアンにやられる直前で見せた勇気故だ。メガぴょんの命を救ったのは実は彼自身の勇気だったのである。これをメガぴょんにキリンリキが言っても頑として信じないだろうが。

 それにあの時キリンリキはこうも考えていた。自然には一つ、不変にして絶対の摂理が有る。それは『強い者が勝つ』と言う事だ。メガぴょんはあのレディアンより弱かった。だからメガぴょんがレディアンに叩きのめされ、その結果命を落としたとしてもそれは仕方の無い事だとさえキリンリキは思っていたのだ。この弱さ、この調子では助けたところでいつかまた危機に陥り、そしてその時こそ命を落とすことになるだろう――それならばここで助けたところで得られるものは安い自己満足に過ぎない。そんな自己満足はただの偽善だ。

 しかし現実はどうだ。ただの自己満足の筈がメガぴょんは助けられたことによってクリスの手持ちとなり生き延びる。キリンリキが切り捨てようとした命は確かに繋がっている。その事で、自分は褒められるべきではないのにこうしてメガぴょんに慕われている。なんて皮肉な話。

 

(まあ慕われること事態に悪い気はしないんですがね……慕われる理由が純粋すぎるのが何とも悲しいです)

 

 主の事を悩んでいながら、キリンリキはキリンリキで微妙な距離感に悩んでいた。




 感想十件達成。あともう一件くれば感想二ページ目に突入!
 ……催促してるわけじゃありませんよ(白目)
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