ポケットモンスター不思議のSPECIAL   作:Nフォース

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ぱるぱるぅ! これがデンリュウの鳴き声だった筈。
……しかし悲しいかな。拙者ぱるぱるぅと聞いたらもうアイツしか思い浮かばないのでござる。


第十五話「VSデンリュウ」

 スイクンは極めて高い正義感と倫理観を持つポケモンである。

 それ故にスイクンを扱うに相応しいトレーナーを探して戦力の増強を行なわなければならない今であっても傷ついたポケモンを見過ごすことはできない。

 『きたかぜポケモン』の名に恥じぬ風の如き疾走の中、スイクンは優れた知覚でもって、ある声を捕えた。

 

 その声は悲鳴だった。

 苦しむ我が子を救ってほしい、そんな親の叫びだった。

 

 反射的に立ち止まる――その際に鬣が急停止の勢いを受けて風に靡いた。そしてその声の方角を仰ぐ。あれは確か人間たちがアサギシティと呼ぶ街がある方角。距離は、それほど遠くはない。スイクンの脚力をもってすればすぐに辿り着ける距離だ。そして、迷わず方向を変え駆け抜けた。

 余談だがスイクンは既にアサギシティへ行ったことが有る。エンジュシティの『やけたとう』から解放されたこの三匹のポケモンはまず地形的に自分に向いた気候の場所へ赴いた。そしてスイクンはみずタイプ。みずタイプのポケモンが進んで向かう場所は当然水が有る場所だ。そしてこの世で最も多くの水が有る場所と言えば――海しか有り得ない。そしてジョウト地方で海と言えばアサギシティとタンバシティ。しかしタンバシティはアサギシティから海を越えた、その先にある街。彼らが目覚めた『やけたとう』から今挙げた二つの町のどちらが近いかなど一目瞭然である。

 そしてアサギシティには、この広い世界で優れたトレーナーの代名詞ともいえる存在……ジムリーダーがいた。

 

 

 

 これはつい先日の事、アサギシティのジムリーダーである少女ミカンはある申請を行うためポケモンセンターへ赴いていた。数日前エンジュシティの地震に巻き込まれ怪我を負った彼女だったがその治療はスムーズに進み、今ではジムリーダーとしての調子も取り戻していた。

 

「……はい、これで申請は完了です」

「ありがとうございます」

 

 ニッコリと笑うミカン。今回ポケモンセンターに来て、行った申請は彼女がジムリーダーとして最も実現したいことだった。ポケモンの事をを何よりも思う彼女だからこその叶えたい願い。

 

「タンバシティの『ひでんのくすり』。まだ一般に、とは行きませんしこのアサギシティとタンバシティでだけですが有事の際にはポケモンセンターで処方できるようになりました」

「今はそれで十分です。これから広まれば良いんですから」

 

 タンバシティに伝わる『ひでんのくすり』。恐らく世界中で最高の薬だ。しかしその知名度は性能と反比例するかのように低い。なぜならばこの薬はタンバシティでしか作られていないからである。これだけ素晴らしい薬が世に広まらないのは勿体ない。そう思ったミカンはジムリーダーとしてこの薬を広めるための活動をしていた。

 しかし『ひでんのくすり』はタンバシティの物である。幾ら距離的に近いとはいえタンバシティの物を何故アサギシティのジムリーダーであるミカンが広めようとしているのか? その答えは彼女のポケモンにある。

 ミカンが生まれて初めて手にしたポケモンであるデンリュウのアカリちゃん――当時はまだメリープだったが、昔一度とても重い病に罹ったことが有るのだ。当時まだジムリーダーどころかポケモントレーナーですらなかったミカンはアカリちゃんを胸に抱いてポケモンセンターへと走った。ちなみにその日、アサギシティとタンバシティの間では稀に見るほどの巨大な嵐に見舞われていた。まだ幼い少女がそんな日にメリープを抱えてその嵐の中を走るのは自殺行為とすら言える。まだ幼かった少女は理屈の上でどれだけ危険かは決して理解はしていなかったが、窓を雨と風が叩きつけ、雷鳴が轟くことによって鳴る暴力的な音。それだけで幼い少女に恐怖を与えるのは十分であった。

 しかし苦しむアカリちゃんを前にしてミカンはただじっとしている事などできなかった。彼女はポケモンが大好きなのだ。大好きなポケモンが苦しんでいるのに自分は安全な家の中で心配そうに見守っているだけ、そんな状況に納得はできなかった。――だから嵐の中を駆け抜けることに迷いは感じなかった。

 

 だが――

 

「なお、せない?」

 

 ポケモンセンターに着いたミカンが聞かされたのはその残酷で無慈悲な宣告だった。雨に打たれ、風にあおられ、それでも必死の思いで嵐の中を駆け抜けたのにミカンが聞かされた言葉はそんな救いのない台詞だった。打ちひしがれる彼女にポケモンセンターの職員は目を伏せながら告げる。なんでもアカリちゃんの病気は極めて珍しい物でポケモンセンターのマシンで治せるようなものではなく、また治せる薬も置いていなかった。

 

 ――そんな事を聞いても諦められるはずがない。ミカンは泣き叫びながらポケモンセンターの職員の服を引っ張る。真面目な性格である彼女の人生初めての我儘だった。例え他の事は許せたとしてもポケモンに関してだけは妥協できる気がしなかった。

 しかし幾らなこうが喚こうが治療できないと専門家が判断したものは治療できないのである。それにポケモンセンターの職員だって同じくらい助けたいと思っていた。ポケモンを愛せない人間がポケモンセンターで働くことなどできるはずがない。そんな人間がただ衰弱していくポケモンを見ていることが苦痛でない筈がない。――だが、それでも彼等ではどうしようもなかった。

 

「――失礼、雨が酷くてな。雨宿りさせて貰えないだろうか」

 

 恐らくミカンはその時の、その人の声を一生忘れないだろう。

 その声は静かで、されど激しい嵐とミカンの声すら超えてポケモンセンター中に響き渡る声。傍らには彼のポケモンであろう大きなカイリューが控えていたのを覚えている。見たこともないモンスターボール(だいぶ後にミカンはこのボールが、モンスターボールの中で最上級の性能を誇るハイパーボールと呼ばれるものであることを知った)にカイリューを戻し、その上でミカンの方へ歩み寄ってきた。

 ――声の主は背の高く、髪を逆立てた青年だった。小さかったミカンは首をほとんど真上に向けなければその顔を見る事ができないほどに。その肩にはマントを着けていた。

 チラリとミカンを見て、次にその目線はアカリちゃんへと移る。

 

「……職員の方で間違いないな?」

「え、ええ! その通りです」

 

 青年の放つ妙な迫力の前にポケモンセンターの職員はどもってしまった。そんな相手に構う事なく青年は懐から袋を取り出した。

 

「この薬を与えてやれ。それで治せるはずだ」

「え、ええ?」

「早くしろ! それともこのままそのポケモンを見殺しにしたいのか?」

「は、はいいいいい!」

 

 怒鳴りつけられた職員がアカリちゃんと青年から渡された袋を持って別室へと移動した。その後姿を見ながら青年はフン、と鼻を鳴らす。

 

「君」

 

 ミカンは最初、それが自分を指している言葉だとわからなかった。戸惑う彼女の様子にいら立ったのかもう一度青年は呼びかける。わかりやすいように指を突き付けて。

 

「君の事を言っているんだ」

「わ、私……?」

「そう、君だ」

 

 先ほどまで戸惑っていた様子に対していら立っていた様子の青年だったが返事をされると少し考え込む。

 

「この嵐の中、あのメリープをこのポケモンセンターまで連れてきたのか?」

「そう、ですけど」

「そうか」

 

 その時だけ、青年は微かに笑った。

 しかし直後には先ほど職員を怒鳴りつけた時のような仏頂面に戻る。その変化にミカンは戸惑うばかりだった。

 

「……雨宿りのつもりで立ち寄った、その直後に雨が上がるか」

 

 皮肉だな、と吐き捨てハイパーボールから再びカイリューを繰り出しポケモンセンターの外へ歩いていく。

 

「ま、待って……」

「じゃあな」

 

 呼び止めようとするミカンの声を切るように短い返事をして青年は飛び立っていった。青年の言葉通り嵐は止んでいる。青年が飛び立っていくのと同時に。まるで青年こそが嵐だったかのようだ。……馬鹿げた話だと思うがミカンは今でもこの時そう思ったことを笑う事ができない。それだけ苛烈な雰囲気をもった青年だったのだ。

 しかし本当に驚いたのはこの後だ。

 

「ミカンちゃん!」

 

 ポケモンセンターの職員がすごい勢いで走ってきた。

 

「はぁ、はぁ……あなたのメリープが!」

 

 最初、ミカンはそのあまりにも必死な様子に不吉な予感を抱いた。

 しかし荒い息を抑え、顔を上げたポケモンセンターの職員の顔は、

 

「息を取り戻しました!」

 

 満面の笑みであった――

 

 

 

「……あの時の薬が、『ひでんのくすり』だったんですよね」

 

 今でも知られていない薬である『ひでんのくすり』だが、その当時は更にマイナーな薬でアサギシティどころか、全国何処のポケモンセンターの職員もその存在を知らなかった。ミカンが『ひでんのくすり』の存在を知ったのはジムリーダーになってからである。

 全国どの地方においてもジムリーダーの集会は存在する。ジョウト地方のジムリーダーの集会に加わったミカンはそこでタンバシティのジムリーダーシジマと出会った。シジマは恐らく視覚的な意味ではジョウトで一位に立つジムリーダーである。……集会に上裸で参加するジムリーダーなどジョウトでは彼位の物だ。真面目な少女であるミカンは失礼ながら彼を初めて見た時叫んで飛び出したことが有る。……申し訳ないだとは思っているが今でも正直ミカンは慣れていない。

 しかしシジマは格好はともかくとしてジムリーダーにふさわしい見識と人間性を持つポケモントレーナーである。特に彼の本拠地であるタンバシティの事についてはシジマは誰よりも詳しかった。そのシジマから『ひでんのくすり』についてミカンは教えて貰ったのである。

 ――『ひでんのくすり』の効果は強烈だった。ミカンの記憶を裏切らないほどに。ポケモンセンターが匙を投げるほどの病状のポケモンをたちどころに治せる霊薬。だからこれだけ素晴らしい薬が世に知れ渡っていない事にミカンは嘆いた。だからジムリーダーとしてこの薬を広める活動を始めて、そして今に至る。

 『ひでんのくすり』がマイナーで有り続けたのにはタンバシティでしか作られていない事の他にも理由が有る。

 まず『ひでんのくすり』の材料。この『ひでんのくすり』を作るのに要求する材料たるや、目を疑いたくなるほどに煌びやかで到底一般人に手の届くような代物ではなかった。例えば純度の極めて高い『げんきのかたまり』を筆頭に貴重な木の実、半端じゃない値段の漢方。ことさらに厄介なのが『げんきのかたまり』で、木の実は育てることによって増やすことが一応できるし漢方の方も値段こそ目を疑う物だが店頭に売られないことはない。しかしこの『げんきのかたまり』だけは量産が不可能で、自力で天然の物を集めるしかない。あたり前の事だが市販されている『げんきのかけら』では純度が一般向きに調整されているので代わりとしては使えない。つまり『げんきのかたまり』は安定した供給が一切期待できない材料と言う事になる。これでは量産が不可能だ。

 次に製造方法。これもまた極めて厄介かつ難解でこの薬を作れるのは全世界中どこを探してもタンバシティの薬屋だけ。作り方を聞けば一応親切に教えてくれるのだが……その尋常ならざる匠の技を会得できた人間は一人もいない。絶妙な分量での材料の配合、一秒の十分の一の時間すら気にする繊細な工程。手先が器用だとかそんなレベルでは足りない圧倒的な難易度を誇る。オマケに時間もかかる。ポケモン一匹を治せる適量の薬が出来上がるまで軽く三か月はかかる。

 最後に値段。これだけの手間と超高級な材料を要求するこの『ひでんのくすり』で採算を取れる値段を現実的に計算したところ……ポケモン一匹分で『120万円』と言う達の悪い冗談のような金額になった。こんな薬をいくら高い効果があるからと言ってホイホイ買う事は誰にもできない。

 高い、遅い、手に入れにくい。この三拍子がそろった『ひでんのくすり』はその結果速度が重視される医療の現場から疎まれ使われないでいた。

 

「でも、この薬がないと助けられないポケモンだったいる」

 

 薬としての役割ならば『ひでんのくすり』は最高の薬だ。それはもはや疑いようのない事実である。だからミカンはジムリーダーとして活動を行い続けた。

 そして今日やっとアサギシティとタンバシティのポケモンセンターにおいて非常時限定で取り寄せが可能になった。ポケモンセンターと言う公式機関においてこの『ひでんのくすり』が使われるようになったのは世界初のことである。長年の努力が実を結んだ結果と言えた。

 一度死にかけたとは思えないほど元気なアカリちゃん。今では立派なデンリュウになってミカンの手持ちとしてだけではなくアサギシティの灯台の灯としても活躍している。それもあの時『ひでんのくすり』が有ったおかげだ。そしてあれだけ貴重な『ひでんのくすり』を無償でくれたあの青年にも勿論ミカンは感謝している。もし出会う事ができれば幼い時は言う事ができなかった礼を言いたいと思う。

 ――そう、もしであえたら、だ。ミカンはジムリーダーになった今でさえもあの青年が何者なのかを知らない。ジムリーダーとしてのネットワークを使ってもあの青年の足取りを掴むことはミカンにはできなかった。素性についても言わずもがな。

 

「……あら? アカリちゃん?」

 

 気が付くとアカリちゃんはミカンの顔を心配そうに覗き込んでいた。今日はミカンの悲願が叶った日だ。そんなに日に沈んだ顔をトレーナーがしていればポケモンだって心配になる。

 

「ふふ、ごめんね。心配かけちゃったのね」

 

 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。それを見てミカンも笑う。そう、今日は良い日だ。ならばそんな日にふさわしく楽しく過ごせばいい。

 

「帰ったらお祝いにしようね」

 

 微笑むミカン。それに答えるようにアカリちゃんも尻尾のライトをピカピカと点滅させた。さて、これからどうするか。アサギの食堂に良く通うミカンだが自炊ができないわけではない。今朝ジムトレーナー達の間で市場に新鮮な食材が届いたと言う噂話をここで思い出した。何なら今日は腕によりをかけてのご馳走にしようか。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

「あら?」

 

 何かが聞こえてきた。

 それは鈴の音のようでもあったし、笛のような音でもあった。

 まるで水晶のような透明感のある鳴き声。極上の音楽と言っても過言ではない妙なる調べ。

 ジムリーダーとして、これがポケモンの鳴き声であることは想像がついた。しかしこんな声の持ち主がどんなポケモンなのかと聞かれればミカンは答える事ができないだろう。聞いたことのない鳴き声だったと言うのもそうだが、こんなに美しい声を持つポケモンがどんな姿なのか、ミカンには想像もできなかったのだ。

 

 そして。

 

「キャッ!?」

 

 ミカンの脇を疾風が駆け抜ける。その凄まじい勢いとそれに巻き上げられた砂埃に思わず目をつむり腕で頭を守ろうとする。

 

「一体、何が」

 

 そして目を開けるとそこには

 

「――」

 

 言葉で言い表せないほど、美しいポケモンがそこにいた。

 

「あ、なたは」

 

 ミカンが言葉を紡ぐよりも先に、そのポケモンが動く。

 まずミカンが感じたのは強烈な冷気。辺りの気温が一瞬で氷点下まで下げられる。

 そしてその冷気によりそのポケモンの周りの水分が凝結し、そして鋭利な氷の刃へと変化を遂げる。

 

「っ、アカリちゃん!」

 

 主であるミカンよりも先にそのポケモンの闘争心を察知したアカリちゃんはミカンの前に躍り出る。それと同時に謎のポケモンは氷の刃を強烈な風を用いて射出した。それをアカリちゃんは『ひかりのかべ』を即座に作り防御する――しかし。

 

「う、そ。アカリちゃんの『ひかりのかべ』が」

 

 射出された氷刃はたったの三発。しかし一発目を受けた瞬間に亀裂が走り、二発目で更に亀裂が広がり、そして三発目で粉々に粉砕される。こんなにも早く『ひかりのかべ』が破られるのは初めてだ。幾ら優しい少女であってもミカンはジムリーダーでありそのポケモンも半端な鍛え方はしていない。アカリちゃんだって例外ではない。そのアカリちゃんの張る『ひかりのかべ』だって強さに比例して強靭な防御力を持つ。それなのに。

 

「っ! いけない、アカリちゃん!」

 

 謎のポケモンは三発の氷刃を放つだけで攻撃の手を休めたりはしなかった。寧ろ今のはそのポケモンにとっての小手調べ(挨拶代り)に過ぎない。口を開き、そこに怒涛の如き水流のエネルギーを蓄える。

 技の前兆ですぐにミカンは察知した。今、このポケモンが放とうとしている技はみずタイプの中にあって最上級の威力を誇る『ハイドロポンプ』。小手調べだけで『ひかりのかべ』を破壊するようなポケモンの『ハイドロポンプ』など当たってしまえばミカン諸共アカリちゃんは吹き飛ばされる。

 

(こうしてはいられないわ!)

 

 ミカンの顔が優し気な少女の物から気高きジムリーダーのそれへと変貌する。懐から二個のスーパーボールを取り出し、それをアカリちゃんの丁度前にポケモンが現れるように調整して投げる。

 

「レアコイル! お願い!」

 

 二体のレアコイルが並んでアカリちゃんの前に現れ同時に攻撃の構えを取る。

 

「『10まんボルト』!」

 

 磁石から高圧の電流が放たれる。それもボールから出た瞬間にそれが放たれた。放たれる『ハイドロポンプ』に先んじて技を放つことで対処しようとミカンは考えたのだ。攻撃技のぶつけ合いならば基本的に先手を取れたほうが有利になる。そしてそこに更に

 

「アカリちゃん! 電力をレアコイルに送って!」

 

 レアコイルが攻撃に使った磁石はそれぞれ三つそして。レアコイルは六個の磁石を持つポケモンである。単純計算でそれぞれもう半分余っていることになる。

 その余った磁石からアカリちゃんが電力を供給することによって更に『10まんボルト』の威力を底上げしようと言う狙いだ。

 そしてミカンの見立てが正しいならばあのポケモンはみずタイプのポケモン。そして如何に凄まじい実力を誇るポケモンと言えどタイプと言う括りが有る以上ポケモンには必ず弱点が存在することになる。みずタイプのポケモンはでんきタイプの技に弱いと言う括りに。

 ……負けない、その筈だった。アカリちゃんの電力によって強化された上で更に先んじて放たれた『10まんボルト』。これだけの好条件が整っていてオマケに相手はみずタイプのポケモン。これで力負けするとは到底思えない。

 しかしそんな当たり前の予想すらこのポケモンは覆す。『ハイドロポンプ』は若干後手に回って放たれたが『10まんボルト』とぶつかり合う寸前にそのポケモンの額にある水晶のような角が光る。そして

 

「『オーロラビーム』!? しかも発射先は自分の放った『ハイドロポンプ』の水流へ!?」

 

 何が狙いなのか、理解するのに一瞬遅れた。それだけ非常識な行いである。自分の技に自分の技をぶつけるなど。しかしこのポケモンは何も自分の技を自分の手でつぶす愚かなポケモンではない。そこにはちゃんとした考えが有る。

 強烈な冷気により極地的なオーロラを発生させることから『オーロラビーム』と呼ばれているその技は一瞬にして『ハイドロポンプ』の水流を完全に凍結させる。『ハイドロポンプ』の水流の勢いを殺さずにそのままで。その結果、

 

 『ハイドロポンプ』は瞬く間に巨大な『氷槍』に姿を変え、

 砦すら一撃で粉砕しかねない勢いで放たれる。

 

「――!」

 

 ミカンは何かを叫んだが、

 それすらも『10まんボルト』の電撃を噛みちぎった氷槍が地面に激突、炸裂した事による大音響が掻き消した。

 

 

 

 

 『やけたとう』より放たれたスイクンはこの後何人ものジムリーダーと戦うことになる。

 その初戦の相手がミカンであった。

 スイクンはその力もさることながら様々な技を応用することによる手札の多さを最大の武器とするポケモンだ。そしてスイクンはミカンのポケモン達が防御力に秀でていることに気付いていた。だからこそ、その防御力(ちから)を確かめるべく圧倒的に巨大な氷の槍を作り出しての質量攻撃を放ったのだ。

 ――結果的にミカンはあの攻撃をどうにか防ぎ切る事には成功した。ポケモンの事を思ったスイクンがワザと外し、地面にぶつけて炸裂させたのもそうだが、やはりミカンのポケモンの防御力の高さがダメージを抑えられた最大の理由と言えるだろう。しかしあの攻撃を防ぎ切った上で更に素早いスイクンを追う力までは残っていなかった。

 

 ――あれがアサギシティ一の実力者。

 

 スイクンに限らず伝説のポケモンと言うのは皆知能が高い。人間の言葉だって理解するし人間たちの雰囲気からも思考を読み取ることだってできる。そんなスイクンにとってこのアサギシティ一の実力者が誰かは手に取るようにわかった。

 ミカンは並大抵のポケモントレーナーではなかった。優れた判断力に、良く育てられたポケモン達。そして何よりポケモンを思いやる優しい心。――しかしスイクンが下した判定は不合格だった。

 実力云々以前に恐らくミカンではスイクンを使いこなすことはできなかっただろう。スイクンがミカンと戦って、どうやらこのポケモントレーナーはみずタイプのポケモンを専門にしてはいないだろうと言う風な印象を持った。スイクンが求めるポケモントレーナーはスイクンの力をスイクン以上に発揮できるポケモントレーナーだ。で、あるからには相手がスイクンに詳しくみずタイプに精通しているトレーナーでなければ意味がない。

 

 ……いや、これでは少々誤りがある。

 

 みずタイプの、ではなく。正しくはスイクンについての詳しい知識だ。極論を言えばスイクンさえ使いこなせるのならば他のポケモンを使いこなせなくても構わない。勿論スイクンを使いこなせると言う事はその時点で凄まじい実力のポケモントレーナーの証明となるのでスイクンだけしか使えないポケモントレーナーなど有り得るはずもないが。

 

 自嘲気にスイクンは笑う。

 

 それだけの資質を備えたトレーナーを一刻も早く見つけ出さねばならないのにスイクンは今もう行った事のある街へ向かおうとしている。そこにもうスイクンの求めるポケモントレーナーがいないことはもうわかっているのに。自分の性質に恥を感じた事は無いスイクンだったがこの時ばかりは少々恨めしかった。

 

 そんな事を考えているうちに灯台が見えてくる。灯台はアサギのシンボル。それを確認したスイクンは前足を突き出すことによりブレーキをかけて速度を落とす。そしてその汚れた海を見た。

 

 排水があふれてしまった海。その汚染により怒るハリーセンの群。そして――

 

「いっけぇ! モンスターボール!」

 

 ――大群のハリーセンをボールを蹴り飛ばして難なく捕獲する少女。

 その巧みな技はスイクンをして唸らせるほどの物だった。

 しかし少女は気づいていない。まだ傷ついた子供のハリーセンには。その親の怒りを鎮めることに夢中で、子供の方に少女は気づけていない。

 

 それを補うかのように少女の前に一人の少年が飛び出した。キリンリキにまたがった少年は、キリンリキの念力を上手く使って海に浮かぶ子供のハリーセンのをその手に呼び寄せる。捕獲の腕は少女にはるかに劣るだろうが、その知覚は少女のそれよりも優れているようだ。

 キリンリキに乗った少年はハリーセンを抱え全力で走る。大した速さだ。あのスピードならスイクンにさえ追いすがる事ができるかもしれない。念力はハリーセンを救出するために弱めた物しかスイクンは見ていないが、少なくとも足の速さだけならばスイクンとあのキリンリキは互角だった。そして少年の後にウィンディにのった少女が続く。こちらもキリンリキには劣るがかなりの速さだった。

 しかしスイクンにはわかる。如何にあのキリンリキの足が速かろうとあのハリーセンは助かるまい。あの場で即座に傷を癒してやらなければ廃液を取り込んでしまったハリーセンの命はここで尽きてしまうだろう。

 

 なればこそ、スイクンは跳躍する。

 

 

 

 

 

 

 ハリーセンを抱えて走るクリス達。

 ――そのポケモンの気配に最初に気付いたのはやはりレイであった。

 

 わずかな空気の違いを敏感に肌が読み取り、そして直後に強大なポケモンの気配を感じ取る。キリンリキに乗りながら周りを見渡したレイはそこで、水晶色に輝くポケモンがレイ達の前に降り立つのを見る。

 

「あ、あれは!?」

 

 クリスの驚きの声が背後から聞こえてくる。

 レイもまた、驚いていた。しかしその驚きはクリスのそれとは違う。

 

 クリスは見知らぬポケモンがいきなり目の前に現れたことに驚いていた。彼女はあんな風に輝くポケモンを知らなかったのだ。知らない物に驚くのは人として当然の事。

 

 だが、レイは違う。レイは知っていた。この広い世界でただ一匹だけ水晶色に輝く伝説のポケモンがいることを。とある事情からさまざまな伝承を調べてきたレイは伝説のポケモンについても詳しい。だからあのポケモンの事も知ってはいた。

 しかし、知っているからと言って――いや、知っているからこそ――あのポケモンに出会えたことには驚きを隠せない。何せ会おうと思って出会えるポケモンではスイクンは無いのだから。

 レイとクリスを一瞥したスイクンはその水晶の角を輝かせる。

 スイクンは、汚れてポケモンが住めなくなった湖を一瞬で浄化したと言う伝説を持つポケモン。その逸話の通りスイクンの輝く角から放たれたオーラが辺りを包み込み、そしてハリーセンの体を犯す排水共々海を浄化しその輝きを取り戻させた。

 

「ま、待って!」

 

 スイクンの輝きに見惚れたクリスが立ち去ろうとするスイクンを追おうとする。

 しかし踵を返したスイクンはそのまま走って立ち去って行った。

 

 『捕獲の専門家』クリスタルに彗星を追う少年レイ。そして伝説のポケモン、スイクン。

 スイクンはハリーセンの件がなければアサギシティに寄る筈はなかったしクリスとレイもマチスの罠にかからなければまずアサギシティにはいなかったはずだ。そのすべてが重なる確率は最早天文学的な計算になるだろう。――だがその億すら生温い数字に一の出会いはなった。

 この運命的な出会いが、もたらす物をまだ誰も知らない。




さあ皆もスーパーマサラ人と一緒に叫ぼう。

「パルキアのバカヤロォォォォオオオオ!!!!!」
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