ポケットモンスター不思議のSPECIAL   作:Nフォース

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 現在ネタの収集と大学の授業関係で執筆が遅れています。
 ポケダンネタとポケモン図鑑ネタを収集する作業マジ楽しい


第十九話「一つの戦いの決着」

 先ほどまでの嵐がまるで嘘か何かのように上がっていく。ウインぴょんに乗ってレイの元へ向かっていたクリスはその急速な天候の変化に戸惑った。

 

「これは……?」

「ふむ。雨を呼び寄せていた存在がこの場から立ち去って行ったのだろう」

 

 ミナキは口元に右手をあてながらそう分析する。ちなみに彼が乗っているのはマルマインだ。ワタッコと言いこのマルマインと言いどうにも丸いポケモンが多いのは気のせいだろうか。

 

(いや、違うわね。寧ろこの人みずタイプに強いタイプと技を使えるポケモンを揃えているんだわ)

 

 まず間違いなくスイクンを意識しての事だろう。そのひょうきんな行動からたまに忘れそうになるがこのミナキと言う青年は間違いなくクリスよりも長い間スイクンを追ってきた人物。クリスにはポケモン図鑑でスイクンを追う事ができると言うアドバンテージが有るがそれを埋めるだけの知識が有るに違いない。

 

(なんだかんだでやっぱり手強そうね……)

 

 そんな事を考えているうちにみるみる雨が上がってくる。もう雨合羽を脱いでも平気だろう。とりあえずフードだけを外して視界を開いた。

 

「ネイぴょん。レイ君の気配はする?」

 

 もう間もなく39番道路だ。ポケギアの話通りならばレイはここでスイクンと同等と言う規格外のポケモンと戦っていた訳である。なのでクリスはフードを外した彼女の頭にとまったネイぴょんにそう尋ねてみた。

 するとどうだろう。コクコクと頷いてくる。テレパシーで探った時間はほとんど一瞬だった。つまりレイはこの近くにいると言う事だろう。そしてクリス達はネイぴょんが示した方向へと進んでいく。そして――

 

「……うわ、これは凄いな」

 

 そんな風にミナキが漏らした。この意見にはクリスも賛成だ。あれだけ強い雨が降っていた筈なのに、辺り一面の草木は大火事が有った後のように焦土と化している。

 あの土砂降りの中ほのおポケモンではこのような事は起こせない。焦土、つまり焼野原と聞けば普通はほのおポケモンが暴れた後の事を連想するだろう。実際クリスもほのおポケモン、ウインぴょんが暴れているのを見たことが有る。炎を吐きながら彼らが暴れまわる時の被害はクリスもよく知っている。

 しかし雨の中ではほのおポケモンの力と技は大幅に弱体化する。そして雨の中何の対策もなしにほのおポケモンは外には出たがらない。クリスのウインぴょんだって今回雨の中を走る際には専用のかっぱを着ていたのだから。そんな中本能に忠実な野生のほのおポケモンが外に出て暴れたがるとは思えない。

 それこそクリスとオーキド博士が出会った日にポケモン塾で見かけたポケモンマグマッグ。あれなんかがその最たる例だろう。全身がマグマであるあのポケモンは下手をすれば雨の中を歩くだけでダメージを受けるに違いない。

 逆に言えばこんな雨の中で草原を焦土に変えてしまう類のポケモン等そう多くは無い。クリスはこの時点ですでにこれを引き起こしたポケモンが高レベルのでんきタイプのポケモンであることは確信していた。

 

「……」

 

 へし折られた木の幹に触ってみる。大きく焦がされた跡が生々しい戦闘の刻印として表れていた。よほどレベルの高いポケモンでない限りここまで凄まじい光景を作り出すことはできないだろう。レイの言っていた「スイクンにも匹敵するポケモン」と言うのは誇張でも何でもないらしい。

 

(……勿論私だってレイ君が嘘を吐いたなんて思っては無い。思っては無い筈よ)

 

 しかし「スイクンに匹敵するポケモン」がそうホイホイといて堪るかと思うのも確かだ。確かにオーキド博士からは『焼けた塔』から各地へと飛んで行ったポケモンは()()だと言われてはいた。そしてそのうちの一匹がスイクンなのだろうとも。しかし……正直最初にスイクンを見てしまったクリスとしてはどうしてもあれと同等のポケモンがあと二匹もいる等信じられない。

 

「みたまえクリス。これなんか凄いぞ!」

「え?」

 

 まるで子供のような歓声を上げるミナキ。その様子に少々怪訝な表情をしてクリスは近づく。

 

「ほら、この幹だ。物凄い牙の痕じゃないか。幾つか貫通しかけた跡すらあるぞ」

 

 確かに凄い。この幹自体がかなり樹齢が高く太い幹であるのだがその中心まで歯が食い込んでいた跡が有る。途轍もない(アゴ)の力だ。しかしそれ以上にクリスには気になった跡が有る。

 

(この木。念力で締め付けられた跡が有る)

 

 顎の力も確かに凄いがこの念力による締め付けもまた凄まじい。まるでこの太い幹を巨人が手でもって握りつぶそうとしたみたいに締め付けられている。勿論巨人なんて言うのは進撃……もといフィクションの存在だ。巨人のようなポケモンならいるかも知れないが、あいにくクリスはこれだけの念力を引き起こせるポケモンを一匹知っている。

 

「キリンリキ……」

 

 間違いない。ここで戦闘を行っていたのはレイ達だ。そうクリスは確信する。であれば彼らもすぐ近くにいるはずだ。ネイぴょんのテレパシーを頼りにクリス達は探し回る。ここからそう遠くには行っていない筈だ。ポケギアをかけても見たのだがどうやら戦闘で故障してしまっているらしく通じない。無理もあるまい。この惨状から見てもレイ達が戦った相手はでんきタイプの、それも極めてレベルの高いポケモンだったのだ。そんな中で安物のポケギア等簡単に壊れてしまうだろう。ポケギアは精密機械。電気に弱いと言う事は考えるまでもない。付け加えるならば防水加工もしていない安物なので雨にも弱い。

 

(今度はもっと性能の良くて丈夫なポケギアを渡すことにしましょう……でないとこう言う時に不便だわ)

 

 特にあれだけ動き回るスイクンを相手にしているときには今回のような非常時にも常時連絡が取りあえるようにしておかないと。更に言えばスイクンはみずポケモン。みずポケモンを捕獲しようと言うのに防水加工のされていないポケギアを持っていても戦闘時に使える訳がない。それもあってあの時レイはポケギアの電源を切ってしまったのだろう。

 

(スイクンについての知識が有るレイ君のアドバイスは戦闘中でも欲しいわ)

 

 基本的にポケモンを捕獲する際にはポケギアの電源を切っているクリスだが、別にそれはいつもと言う訳ではない。知識が必要な相手ならば戦闘を行いながらオーキド博士のような知識人からアドバイスを受けながら捕獲することだってある。

 今度からその事もキチンと説明してあげなくちゃね、とクリスは思った。あの少年は賢く優れた感覚もあって頼りにはなるのだが如何せん機械に疎い所が有る……気がする。実際ポケギアの存在もクリスが教えるまでレイは知らなかったのだ。他にもモンスターボールの捕獲の仕組みだとか、何だか知識に偏りが有る気がする。

 

(まあ趣味趣向は人それぞれだけどね。ポケギアだってここ最近にできた物なんだし)

 

 コガネシティにできたリニアと言い最近の技術の進歩は凄まじい。機械に疎ければその流れに乗って行けない人もいる。レイもそんな人間なのだろう。

 

(……そんな人間?)

 

 そもそも私がレイの何を知っていると言うのだろう? そんな風に思ってクリスは立ち止まる。そうクリスはレイの事を何も知らないのだ。どこの生まれでどうしてキリンリキをボールに入れたがらなくて、どうして願いを叶えてくれるポケモンなんて物を追っているのかも。一緒に旅をしてくれている協力者、程度の認識しかクリスはしていなかった。ニョロトノの一件で多少の友情は芽生えたが、逆に言えばそれだけだ。

 思えばあの少年、最初にあった時から謎だらけだった。第一印象の『何だか謎めいた不思議な子』と言う印象は未だにはがれていない。アクア号の一件でその印象は寧ろさらに強くなっていた。

 

(私は……彼の事をどう思っているんだろう?)

 

 自問自答する。だが答えは出ない。その問いに答えを出すにはクリスはレイと言う少年を知らなさすぎた。

 

 

 

 

 

 

 ――少々時を遡る。

 キリンリキの決死の一撃をその実で受けたライコウは正に満身創痍と言う出で立ちであった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 しかし最早レイもキリンリキも限界であった。腕の怪我の痛みこそねじ伏せていたが雨の冷たさ、そしてあれだけの高速移動に鼻血が噴き出そうなほどに頭も酷使していた。体力的にどうしても限界であった。これ以上はもう戦えない。

 

「うっ……つう。派手にやっちゃったなぁ」

 

 怪我を負っていない方の手、左手を支えにしてよろよろと立ち上がるレイ。彼の言葉通り辺りはもう滅茶苦茶だ。

 

「レイ、大丈夫ですか?」

 

 傍らには特に苦労なく立てているキリンリキの姿が有った。あの爆発によるダメージはやはり人間のレイより遥かに少ないらしい。そこはポケモンと言う事だろう。

 

「ハハ……ちょっと張り切りすぎた、かな。キリンリキは?」

「私は平気ですよ。と言っても戦えと言われれば少々厳しいですが、貴方を守る事位ならば」

 

 それは普通に戦うよりもある意味厳しいだろうに、と内心でレイは呟く。キリンリキにとっての最優先事項は昔から変わらない。レイを守る事、それこそが彼女なりの吟司なのだ。いつもいつもお世話になっているレイから見ればキリンリキ程忠実で高い実力を持つポケモンがそばにいてくれる事に感謝をしてもし足りない。

 

「ライコウは……」

 

 傷だらけのライコウはジッとレイを見つめてくる。立ち去ろうとも、戦いを続けようともしない。これはどういう事だろう? レイもキリンリキも疑問に思う。

 レイ達の事を見つめていたライコウはやがて小さく唸る。唸ると言っても威嚇するような気配はない。何かをレイ達に伝えているようなそんな気配だ。

 

「キリンリキ?」

 

 そして人間であるレイにとってそれを理解するにはやはりキリンリキの力を借りるしかない。頷いて一歩前に出る。そしてライコウの声に耳を澄ませ、そして重々しい口調で口を開いた。

 

「『素晴らしい戦術だった。君はどうしてそこまで適切な指示を下す事ができたんだ?』と言っています」

「素晴らしい戦術に適切な指示……ははっ。伝説のポケモンライコウにそう言われるとはね。僕の戦術眼も捨てた物じゃあないらしい」

 

 勿論ライコウの台詞はキリンリキに高い実力が有る事をわかった上で聞いてきているのだろう。あれだけの戦いを繰り広げておいてその上でキリンリキの実力がわからない筈はない。それなのにキリンリキではなくレイの戦術をライコウは評価している。

 それはレイにはとても予想外に嬉しくて――けれど返す答えは決まっていた。

 

「キリンリキを信じていたからさ。僕が戦術を立てれば、キリンリキは必ず答えてくれる。それ以外の理由がいるかい?」

 

 それを聞いたライコウはどこか納得したように頷いて、再び唸り声を上げた。それを聞いたキリンリキが一瞬驚き、そしてレイを見る。レイは構わずに促した。

 

「『ならば私と一緒には戦えないのか?』って言っています」

「さあ、どうだろう? やってみないとわからないな」

 

 なるほどキリンリキが驚いたわけだ。つまりこの伝説のポケモンは自分をトレーナーとしてスカウトしようと思ったらしい。伝説のポケモンライコウ。その実力は今思い知ったばかりだし、ライコウについての知識も人並み以上にはあるつもりだ。しかし一緒に戦えるか? と聞かれればやってみなくてはわからないとしか答えようがないだろう。

 

(ライコウもなかなか底意地の悪い質問をする……ま、ライコウにその自覚が有るかどうかはわからないけど、さ)

 

 ライコウは前足で頭をかき唸る。キリンリキが翻訳しなかったところを見るとこれは人間でいう『相槌』のようなものなのだろうか。仕草とも噛み合っている事からそう予想できた。

 

(……なんだか懐かしいな)

 

 この感覚には覚えが有る。

 今、レイはキリンリキを間に挟んでいるとはいえポケモンと対話しているのだ。それもキリンリキ以外のポケモンと。カント―地方に僅かしかいないトキワの森の能力者。或いは先の未来、遠く離れた地方でとある組織の王となる少年。彼らのような例外を除いて人間はポケモンと会話をすることはできない。この常人なら絶対に珍しいと感じるであろうこの状況は、しかしレイにとっては馴染みの有る物に感じられた。

 いや感じられた、ではない。馴染みは実際に有った。最近はこんな機会はなかったが、かつてレイは――

 

「ライコウ!?」

「キリンリキ? どうしたの?」

 

 レイの思考を裂いたのはキリンリキの驚きの混じったライコウへの呼びかけだった。ライコウはと見れば攻撃的な唸り声を上げている。いや、これは攻撃的なと言うよりも警戒しているというニュアンスの方が正しい気もする。

 

「違いますライコウ! これは決して悪意のある人間の足音では――!」

 

 キリンリキが呼ぶ声もむなしくライコウは森の奥へと消えて行った。

 

「ああ……」

 

 名残惜しい。もっとその姿を見たかった。別にポケモンを姿で区別することは基本的にしないレイだがライコウの猛々しさも混じった美しさはやはりレイの心を掴んでいた。自然とライコウが消えて行った方向に右手が伸び。

 

「い、っつぁ」

「レイ!?」

 

 怪我が途端に自己主張を始める。声にもならない呻きが漏れた。キリンリキが心配そうにレイを覗き見る。大丈夫だと伝える為に左手を上げたが心配そうな顔はやめてくれない。レイを見つめていたキリンリキはやがて申し訳なさそうに口を開く。

 

「ごめんなさい……私がワガママを言ったから。ある程度平等な条件で戦いたいだなんて」

「……」

 

 ライコウと向かい合ったあの時、キリンリキは確かにそう言っていた。伝説のポケモンライコウ。これほどの相手とマトモに戦える機会は殆どないだろう。しかしキリンリキは戦いを楽しむ性分ではない。寧ろその逆で戦うと言う行為自体好きでは無かった筈だ。それなのにキリンリキは平等な条件で戦いたいと言った。

 だからレイは指示こそ出したし戦略も立てて一緒に戦ったが、逆に言えばそれだけしかレイはしていない。もしレイがこの戦に手段を選ばずに勝利を奪いに行ったら――レイはバッグに手を伸ばしていただろう。レイのバッグには色々な道具が入っている。割る事で効果を発揮する『ふしぎ玉』、ポケモンに影響を及ぼすタネ。そしてレイ自身が武器として使うことも有るクギやハリ。これらの道具を使えばライコウに対しても優位に立ち回れたかもしれない。

 気にしないでほしい、とレイは思う。何故戦いが好きでは無いキリンリキがそれでもライコウと勝負をすることを望んだのか? それはレイ達の目的にどれだけ自分たちの実力で近づけるか試したかったのだろう。そしてそれはレイも同じだった・願いを叶えると言う千年彗星。これを追うレイ達がライコウ一匹にマトモな勝負が演じれないようでは先が知れている。

 

(それでも僕たちはまだ楽だ)

 

 少なくともレイ達とは違う場所に行った『彼ら』に比べれば。なぜならば彼らは伝説のポケモンを少なくとも三体は倒さねばならないのである。

 

(『感情を司る物』、『知識を司る物』、『意志を司る物』……この三体を倒そうとしているあの人たちに比べればライコウと勝負位なんて事は無い)

 

 だからキリンリキが気にする必要はないのだ。実際今回レイ達は引き分けと言って良い形に勝負を終える事ができた。彼らが伝説のポケモンを相手取る事が初めてなのを考えればこれは素晴らしい快挙だ。だからレイは寧ろ満足しているのである。しかしキリンリキにそれを言っても聞くまい。キリンリキはレイの事を守れない事を何よりも嫌がるのだ。ハァ、とため息を吐く。生真面目でレイに忠実で優しいキリンリキは、しかし慰めるのがかなり面倒な事をレイは知っている。

 

「ライコウは……何だって?」

 

 キリンリキは直ぐに表情を変えて先ほど通訳できなかった部分をレイに告げる。その内容はおおむねキリンリキの叫びから想像できる物だった。やはり伝説のポケモンの警戒心は人一倍のようだ。

 

(図鑑登録だけはさせてあげたかったんだけどなぁ……)

 

 あれ程のポケモンに会える機会はそうは無いだろう。特にスイクンを追っている今は。こちらに向かって歩いてくるクリスの姿を見ながらレイはぼんやりとそう思っていた。




ちなみに作者は自称推薦マンである。これまでにも四作の作品の推薦を書いてきた。

世界樹の迷宮 光求めし者達
僕の名前はインなんとか
Dies iraeに空の魔王ぶっこんで見た
この世界の中心は、

どれも素晴らしい作品だ。どの作品も納得の赤評価作品である。オススメ
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