文字数も少なめ! なんてこった! あ、石投げ無いで! 痛い!
しまった。
クリスとミナキになんだか白い目で見られながらレイは自分が冷や汗をダラダラ流していることを自覚する。そう、冷静に考えればオクタンが地上で生活するわけがない。そもそもオクタンは純粋なみずタイプのポケモンで同時に海にすむポケモンテッポウオの進化形だ。進化前同様海で過ごすのは当たり前である。当たり前ではあるのだが――
(ううん……実際に陸に上がって平気で生活しているみずポケモンの姿を僕は知っているからなぁ)
今までにもレイは様々なポケモンの生態を見てきている。
しかしレイの考える生態とはやはり違う部分が多々あるようで、恐らくクリス達との認識の差はそこから来ている。しかしそんなことを説明なんてできる筈がない。なぜならばこれはレイの致命的な『秘密』に関わっているからだ。
(どう言い逃れよう……)
何だか悪人のような思考になってしまっているがそれだけレイにとってこの話は譲れない部分なのだ。クリスは信用できる人間だろうがそれでも易々とは話せない。
――そんなことを考えていた時。
「……! この泣き声は」
渡りに船。緊急事態の筈なのにレイはそんなことを思ってしまった。
「クリスさんにミナキさん! ポケモンをボールに戻して耳を塞いで!」
二人の反応は対照的だった。訳が分からないと言う気持ちを表情で示したミナキに対しこれと同じ状況を経験したことが有るクリスではそれも当然の話。しかし行動は二人とも素早くポケモンをボールに戻す。
そしてまた、
耳を塞いでいるが故に聞こえはしない。いや、もし聞こえていれば命の危険すらあるから聞くことはできない。しかし音によって空気が震え、そしてレイ達に向けられた肌に突き刺さるような殺気がその歌の存在を教えてくれる。
「『ほろびのうた』……!」
聞いたポケモンを問答無用に
だからこそレイの胸には怒りが燃える。
(この音階は人間にも、ポケモンにも無差別に通用する歌だ! つまりもし聞いてしまったら僕たちの命をたちどころに奪える。そういう技だ!)
それを使ったポケモンも、使わせたトレーナーもわからないとは思えない。否、言わせない。『ほろびのうた』が収まった後に両手を耳から離す。これはもう先ほどの『れいとうビーム』の比では無い。完全に悪意を持ってレイ達を襲ったのだ。許すことはできない。
「キリンリキ!」
前と同じようにリボンで耳を塞いだキリンリキはレイの指示を聞いて直ぐに動き出す。まず最初に緊急事態を感知して起きた尻尾に匂いを探らせ、敵の場所を把握し
「そこか!」
キリンリキは『サイコキネシス』を茂みに向かって放つ。やはり反応は有った。まるで赤ん坊が夜泣きしているかのような鳴き声を上げてそのポケモンは飛び出してくる。この奇怪な鳴き声に、そして『ほろびのうた』。やはり間違いない。このポケモンの正体は
「ムウマ!」
よなきポケモンと分類されるこのポケモンは人の驚く様が大好きでたびたび人の前に現れては叫び声を上げたり、すすり泣くような声を上げて驚かせる。一説にはあの首にかかっている球でもって人の怖がる心を吸収すると言った事もするらしい。絵に書いたような悪戯好きでゴーストタイプのポケモンだ。
(でも、それにしたって普通は悪戯の領域を出ない事しかしない筈)
そして人にも効く『ほろびのうた』をいきなり繰り出すような凶悪な真似は普通はしない。そして何よりレイはこのムウマが単なる悪戯でもってこんな事をしていないと確信できる理由が有る。
「お前、この間ニョロトノ達に『ほろびのうた』を聞かせたムウマだな?」
レイの低い声に対し人を逆撫でするような鳴き声でもってムウマは答える。その鳴き声の、何と無邪気で何と残虐な事だろう。恐らくこの『ほろびのうた』も悪戯の域にこのムウマにとっては収まっているのだろう。しかし野生のムウマではそれは有り得ない。群をなす野生のポケモンの間には彼らなりのルールが有る。襲われてもいないのに自分勝手に『ほろびのうた』を歌うようなポケモンがそのルールの上で生きているとは到底思えない。
いや、そもそも。あの時既にレイもクリスも一つの結論に到達している。あの『ほろびのうた』の後ろには――
「フフフッ……ずいぶん怖い顔をしているな少年君」
――悪意を持ったトレーナーの姿が有る事を。
ムウマの背後から陽炎のようにゆらりとあらわれた青年。その容貌は異様としか表現できなかった。浅黒く焼けた肌に青い目。ここまではまだ良い。どちらもこのあたりで見る様な特徴ではないが遠い地方の人間だと思えば納得が行く。しかし問題は髪の毛だ。青年の髪は焼けた肌とは対照的にどこまでも白く、そして腰まで伸びている。
「……あなたがムウマのトレーナー、ですね」
「そうだが。そこに何か問題があるかね?」
ヘラヘラ笑いを張り付け、何でもない事のように答えるこの青年の態度にレイの奥歯がギリッとなる。この男は間違いなく自分の行いを自覚している。そして恐ろしいことに青年はそのことに対して何の罪悪感も持っていない。
「そのムウマの『ほろびのうた』はどう言う意図で使わせたんですか?」
「オイオイ。もしかしてわからないで聞いているのか? それともわかりたくないのか。
「答えろ!」
自然語気が荒くなる。しかしこの男の行いを考えればレイのこの対応も納得行くものだろう。自分が殺されかけたと言うのに相手を笑って許す人間がどこにいると言うのだ?
男はヘラヘラ笑いを尚も崩さずにこう答えた。
「勿論君達三人纏めて殺すつもりだったのさ。と言うかそれ以外に何が有る? 寧ろそれ以外の『ほろびのうた』の活用法が知りたいものだがね」
青年の嘲笑うような口調に呼応するように甲高い声で鳴きながらムウマが飛び回る。その言葉の物騒さと青年の不気味さにクリスは思わず顔を青ざめさせ一歩後ずさった。しかしこの場合は年端も行かない彼女がこの相手に背中を見せて逃げ出したりしない所を寧ろ褒めるべきだろう。まあ流石に反論できるほどの度胸はまだ無かったが。
「ふざけるな!」
今まで黙っていたミナキが怒鳴りつける。飄々とした様子からは想像もできないほどの激しい怒り。クリスとレイはそんな彼の様子を意外だと思った。そんな二人を置いてミナキは怒りそのままに青年に詰め寄る。
「わかっているのか!? それは最早立派な犯罪だ! 殺人だろう! なぜそんな事を平気で笑いながらできるんだ!?」
ミナキの怒りを助長させているのは、口で言っている当たり前の倫理観からも来ていたが、実はもう一つ理由が有る。ミナキは青年と、そしてムウマを睨み付ける。ミナキには親友が一人いる。スイクンを追うために力を借りた親友が。結局その親友はスイクンを見つけ出せなかったが、スイクンを追い求めるミナキ同様に『七色の翼』を夢見た青年とは意気投合して掛け替えのない親友となった。
その親友とはエンジュシティジムリーダー。ゴーストタイプのスペシャリスト、マツバ! もし彼がこの青年のムウマの使い方を見れば嘆くだろう。夢見る『虹色の翼』と同等、或いはそれ以上にゴーストタイプのポケモンを愛しているマツバがこんな下らない男が下劣なゴーストポケモンの運用をしているところを見てしまったら。しかしここにマツバはいない。
だからミナキは怒る。ここにいないマツバの分も。こんな下劣な男を、そして躊躇いなく人を殺そうとしたムウマも断じてミナキは認めない。
「フフフ……」
そのミナキの怒りを前にしてすら青年は不気味に笑っている。まるで怒っているミナキやレイが、青年を恐れているクリスが、可笑しくって仕方がないと言う様子で。
「何が可笑しいんだ?」
まるで凍り付くかのような冷たさを持ってレイは問いを投げる。もっともレイ自身に何かを問うつもりはない。このような男の事など知りたくもない。重要なのはこの青年が、レイが今までに見てきた中でも屈指の邪悪に入る事。
対して青年は笑いながら答える。
「フッフッフ……そもそも君達。『ほろびのうた』が効かなかった以上私が次の策を考え出す筈じゃないか。そんなことも思いつかないのか?」
戦慄がレイ達の間に流れる。今の青年の台詞はまさに宣戦布告と言って良い物だろう。その言葉を言い終わると同時に青年はモンスターボールを軽く放った。
「ブーバー、『かえんほうしゃ』で焼き払え」
熱線が迫る。しかしそれは横から割って入ったキリンリキの『サイコキネシス』によってあっさりと防がれる。その様子を見て青年は「ほぉ」と感嘆の声を漏らした。それはキリンリキの力へ向けた彼なりの評価なのだろうか。
(いいや。そんな事はどうでも良い)
重要なのは青年が本格的に攻撃を仕掛けてきたこと。そして青年からの攻撃を受けたことだ。最早今更だがここにレイの迷いは完璧なまでに粉砕された。この青年は敵だ。敵は倒す。これが今一番重要な事だ。
「キリンリキ!」
レイの声と同時にキリンリキが彼の元へ駆け寄る。声の微妙な調子からレイが自分の元へ寄れとキリンリキに伝えたのだと判別できたのだ。
そしてレイはその背に飛び乗る。そしてそれに倣うかのようにミナキとクリスも『ほろびのうた』を回避させるためにボールに戻した各々の手持ちを再び繰り出した。
「行け、ブーバー、ムウマ」
青年も自分の手持ちを繰り出す。先ほどから既に青年の周りを漂っていたムウマと、そして新たに繰り出したブーバーの二匹でもってレイ達に対峙した。
さて、ここから重大なお知らせが有ります。
作者は実は大学生なのですが、大学の実習の関係で七月中旬から八月中旬まで実習に出かける為その間更新は停滞します。エタルわけでは有りません。と言うか次の話ももう書けています。
しかしやはりその間、更新も感想がえしもできなくなるのでこの作品を楽しみにしてくださっている方々には申し訳ない。
追記 意外に感想返しはできそうです。