「どんな願い事でも叶えてくれるポケモン、か」
未だオーキド博士はこの話には半信半疑だった。確かに少年の持ってきた資料は正確で信憑性の有るものだったし彼の推理にも説得力はある。オーキド博士の方にも実はそれを裏付ける報告があったのだ。オーキド博士は天体観測については素人だがその道の専門家の知り合いはいる。そんな彼らが前に不自然な彗星をレーダーに捕えたと報告してきていた。――恐らくレイの言っていた『千年彗星』と同じ彗星だろう。
しかしそれでもなお半信半疑だった。なにせ『願いを叶える』と言うのだ。お伽噺にはよくある話だがそれが現実にあるのでは訳が違う。それがいると信じて探しており態々オーキド博士の元へやってきたレイには悪いが現実味は相当薄い。
「君の願い事は一体何なのじゃ?」
そう聞かれた少年は俯き、そしてほんの少しだけ肩を震わせる。しかしハッキリとこう答えた。
「言えません」
「なぜじゃ?」
ここでオーキド博士の問いに答えないことが決して良策ではないことがわからないような少年ではあるまい。しかし彼はハッキリと「言えません」と答えた。
「ごめんなさい。これだけは絶対に、言えないんです」
「ふむ……」
オーキド博士は内心この時点で協力することをやめようと思った。真面目な好青年だが自分の願いを言えないと言うのはやはり怪しい。悪事を企んでいる、等と言う事は無いかもしれないがそれはオーキド博士の目だけで測れるものはない。しかし――
「ですが信じていただきたい! 僕は絶対にこのポケモンを見つけたからと言って誰かの不幸になるようなことは願わない! 必ずです!」
そう言い放った少年の目は古い友人によく似ていた。自分のミスでポケモンを失ったしまった。その罪の意識で押しつぶされそうになっていた友人に。
今は老人のオーキド博士だが、彼も昔は夢を追い友情を宝物と思う若者。オーキド・ユキナリであった。そんなオーキドは悔いていたのだ。自分の友人を、深い深い自責の念から救い出してやることができなかったことを。
――結局オーキド博士は自分の中に残っていた若きオーキドの声に耳を傾けることにした。彼に『願いを叶えてくれるポケモン』の捜索を協力することに決めたのだ。
今はこの選択がはたして正しいのかどうかはまだわからない。オーキド博士にできることは唯一つ。
「信じておるぞ君を。レイ君」
あの少年の善意にかけることのみだ。
一方その頃、当のレイは何をしていたかと言うと……
「こっちが星図。そしてこっちが年表です。こことここがこうつながるんですよ」
「……へええ。成程」
クリスに自らの持ってきていた『願いを叶えてくれるポケモン』の資料について彼女に解説していた。ポケモンの権威であるオーキド博士とは違って、捕獲の専門家であることを除けばそこらにいる少女となんら変わりないクリスにとって彼の持ってきた資料は一言で説明されても欠片も理解できないほど難解で専門的な物だったのだ。
しかしそれだけなら態々資料を親切に解説する必要はない。そもそもクリスがこの資料と『願いを叶えてくれるポケモン』について知っていたとしてもなんの役にも立たない情報の筈なのだ。それなのに何故、レイはクリスに資料について教えてあげているのだろうか?
「でもすごい話ですね。千年に一度だけ地球に接近する彗星が特殊なエネルギーを発していて、その星のエネルギーによって目覚めるポケモンがいるなんて」
「まあまだ仮説だし確証がない部分も多いけれどね」
「それでもですよ! なんだか私、俄然やる気がでてきました。ぜひともこのポケモンは私の手で捕まえたいです」
クリスのこの台詞こそがレイの行動の答えだ。
何せ『願いを叶えてくれるポケモン』である。どう考えても伝説、或いは幻のポケモンだろう。願いをかなえてもらうにしても一筋縄ではいかないだろう。
そこで捕獲の専門家であるクリスの出番と言う訳である。レイの計算が正しければこの『願いを叶えてくれるポケモン』は数年以内に目を覚ます筈だ。その時に彼女のような捕獲の専門家がいれば心強いことこの上ない。
そしてクリスとしてもこういう珍しいポケモンの情報は喉から手が出るほど欲しい物だ。なにせ彼女の目標はポケモン図鑑のコンプリート。すべてのポケモンを捕獲することである。
しかしその為には幾つもの大きな壁を突破しなければならない。伝説や幻と言った人の想像を遥かに超越する壁を。ポケモンの中には神話に語られるような種類もいる。それらのポケモンを並大抵の努力で捕獲できるとはクリス自身思っていない。
また、いくらクリスの捕獲の腕が優れていたとしても、戦う以前にそういった伝説や幻に出会えなければ話にならない。であればこそ情報は必須だ。だからクリスは資料とその情報が欲しかった。
しかしクリスのその思いと同じくらいレイとキリンリキにとっても資料は大切な物なのだ。このまだ本当の事かどうかわからない情報に縋ってでもレイ達には叶えたい願いが有るのだ。
今でも目をつむれば思い出す。暗黒に心が染まってしまったポケモン達の醜い姿。
耳にはこびりついている。暗黒から逃れた者たちが無残に食いつぶされていくその悲鳴を。
「戦うことは悪でしかない」
レイの胸にある言葉が蘇る。
「戦うというのは力をふるうことだ。仮にそれで悪を倒せたとしても力をふるうことは醜い暴力に過ぎない」
それは誰よりも世界を想う男の言葉だ。
「それでも戦わなくてはならない時がある。戦うというのはその時が来た際に戦えない者の代わりに戦う罪を背負うことなのだ」
……誰もが皆、戦う勇気と覚悟が持てるわけではない。
しかしその一方であの世界を変えたいと言う意志を皆胸の底に持っている。ただ、実際に行動するという一歩が踏み出せないだけなのだ。しかしそれを責めることはレイにはできない。そのたかが一歩を皆どれほど恐れているかはレイ自身良く知っているからだ。
戦わずしてあの現実を変えられるのならば皆そうしている。誰だって自分が傷つくのは怖い。当然である。傷つくことを恐れるのは生命がもつ本能だからだ。
だからその一縷の希望であるこの資料を、いくら優しいレイでもそうホイホイと渡すことはできない。
であれば残る道は一つ。お互いに協力してこのポケモンを探す。それだけだ。
そしてこのことにクリスもレイも不満は抱いていなかった……のだが
「あああああああああ!!」
クリスの絶叫が響き渡るここは三十番道路。彼女の目の前にはキリンリキの『サイコキネシス』でケチョンケチョンにされてしまったウツボットが一体。ちなみにウツボットの体力はくさとどくの複合。そしてどくタイプのポケモンにエスパータイプの『サイコキネシス』はそりゃあもう良く聞く。ただでさえ相性抜群でその上超高威力の『サイコキネシス』をしかもあのキリンリキの高いポテンシャルから叩き込まれればどうなるかは自明の理。
「え、えーと。私何かいけないことをしてしまったのでしょうか?」
あのキリンリキに悪気はない。……とそう信じたい。しかしこればっかりはあまり看過できる話ではない。
ポケモンは倒してしまっては捕まえる事ができないのだ。そしてクリスの目標は全ポケモンの捕獲である。あのキリンリキはいきなり飛び出してきたウツボットに対し手加減抜きの『サイコキネシス』を噛ましてしまったのだ。
そしてクリスの絶叫に戻る、と言う訳である。
「キリンリキ……あのね。ポケモンを捕獲するには倒しちゃダメなのよ」
とても、とても疲れた様子でクリスはキリンリキとそしてキリンリキと同じくキョトンとしていたレイに対してそう教えてやる。しかしこの二人、モンスターボールなど知ったことかとばかりにポケモンを外に出しているレイに喋れるほどに知性が有って人間らしいキリンリキ。クリスからしたら面倒くさいことこの上ない。
「な、何故です!?」
「倒れたポケモンにはモンスターボールは反応しないからよ」
これもハッキリ言ってしまえばトレーナーの常識のようなものだ。普通に考えて知らないなんてことは有り得ないほどの常識。
しかし――
「なるほど倒れてなければいいんですね」
そう言ってレイはある
「……もう驚かないわよ」
倒れたはずのウツボットが再びパワー全開で起き上がっても。絶対に。
タイトルのポケモン。まさかの出落ちに。
ゴールデンウィークも終わったので更新は遅くなりますが応援よろしくお願いします。ちなみに感想返信はきちんと行いますので遠慮なくドシドシと送ってください。
……って言うか原作がマイナーだからかこの小説感想少なすぎる。