ポケットモンスター不思議のSPECIAL   作:Nフォース

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ポケモンプレイヤー「レディアンとか特防高いだけじゃんwww」
ポケダンプレイヤー「お前はまだ『ぎんいろのかぜ』と『こうそくいどう』の恐怖を知らない」


第八話「VSレディアン 前編」

 走る。ただひたすらに走る。

 後ろを振り返る暇が有ったら走れ。奴から逃げ切るにはそうするしかない。――捕まった時のことなど考えたくもない。

 そんな彼の必死さを嘲笑うかのように鱗粉を乗せた一陣の風が辺りを薙ぎ払った。その風は草を切り裂き、大木を煽り、小柄な彼を吹き飛ばした。余りの衝撃と痛みに思わず呻く。それでも何とか立ち上がって逃れようとした彼だったが。

 

 敵はもう、目の前にいた。

 

 嘘だ、と内心で叫ぶ。敵の素早さは追われていた彼が一番よく知っている。

 だから――こんなに速くは無いはずだ。圧倒的な範囲を薙ぎ払う攻撃を有しているからこそ敵は遠距離から薙ぎ払ってきていたのだ。その遠距離をあろうことか一瞬で詰めてきた。呆れるほどの超スピードで。

 そして十分な距離まで接近した敵はその固い手を使って強烈なパンチを小柄な彼の体へ叩き込む。よける余裕も時間も与えないまま。白い拳は小さな体に深くめり込んだ。空中に一瞬浮いて直後に二発目を叩き込まれ再び地面に叩き落される。

 

 なんでこんなことに。と心の中で嘆く。ただ自分はあのトレーナーについていきたいと思って住み慣れた研究所を飛び出してきた。研究所を訪れたあの優しそうな少女に。もともと外の世界を見て回りたいと思っていた彼は、次第にあの少女と彼女の手持ちの楽しげな雰囲気に憧れ、彼女についていくのが夢とさえ言えるようになっていた。

 

 しかし今、その夢は少女の顔を再び見る前に絶やされそうになっていた。

 

 激しい羽音を鳴らしながら地面へ叩きつけられた彼の前に敵が降下する。この敵は研究所で過ごしていた彼よりもはるかにレベルの高いポケモンだった。そんな彼をうかつに縄張りに立ち入ってしまったことで激しく怒らせ、そして今攻撃されている。

 敵の無機質な瞳には同じポケモンだからこそわかる激しい怒りが込められていた。縄張りを犯した者を絶対に許さないと言う瞳だ。降下はゆっくりと行った敵は彼と同じ高さまで降りた瞬間にさっきの速さをさらに超える超スピードで肉薄した。

 

 ――ああ、だめだ。やられる。

 

 もっと広い世界を見て回りたいとそう思っていた。世界にはもっと楽しくてわくわくすることが沢山有る筈だって。だから信頼できるトレーナーと一緒に世界を回りたかった。

 

 ――どうせなら意地だ。最後の瞬間まで目を開いてあの拳を見届けてやる。

 

 死ぬのは怖い。耐えようもないほどに。しかしあれだけ憧れた外の世界に裏切られたとは彼は微塵も考えていない。先に行ってしまった二匹やあの少女に出会えなかったことは悔しいが憧れた外の世界に出れた。楽しいこともワクワクすることも知らないけれど、あの研究所で何も知らずに過ごしていくよりも遥かに良い。

 しっかりと四本の足で立って、弾丸の如き速度で迫る拳を見据えた。目はつむらない。絶対につむって堪るか。これだって憧れた外の世界なんだ。自分の中にある恐怖を打破し、勇気と根性を振り絞る。

 

「――見事な勇気です」

 

 そんな声がどこからか聞こえてきた。

 そしてその声とほぼ同時に稲妻のような素早さで彼と敵の間に割り込み、そして敵を突き飛ばした。

 

「しかし諦めると言うのは感心しかねますね」

 

 首に黄色と黒のストライプ模様のリボンをマフラーのように巻いた彼女は涼しげな声で背の低い彼を見下ろした。

 

 

 

 ポケモンセンターでとあるリボンを受け取ったキリンリキはヨシノシティとキキョウシティの間の道路で偵察を行っていた。以前から凶悪なポケモンを警戒して偵察を行うのはレイとキリンリキの一つの習慣である。ついでに美味しそうなきのみが有ったらいくつかいただいてレイがジュースを作ると言うのも常日頃の光景である。

 ――もっともかつてはきのみは特殊な場所でしか見つからなかった。そも、木にきのみがならないのである。木になるから『()の実』であるのにも関わらずだ。それから比べればこうして草原を駆けまわって木を幾つか探せばきのみがあるのだからとても楽だ。

 

(むしろこれだけの量が有ると感覚が麻痺してきそうですよね……)

 

 試しに木へ長い首を伸ばして一つ手頃な実をもいでみる。まるで嘘のように簡単にもげたそれを地面において見渡しても何の異常もない。ここでは食料を他者から奪わなければ生きていけない者など誰もいないのだ。

 キリンリキは知っている。食べ物がないと言うのがどれほど辛くて苦しいことなのかを。極限の飢餓に面した時にはポケモンも人間も等しく理性なき獣に成り下がってしまう。

 

「……ここは平和だなぁ。姐さんよぉ」

 

 突然野太い声がキリンリキの背後から聞こえてきた。思わずキリンリキは顔をしかめる。そう言えばコイツの声を聞くのは久しぶりだなと思いながら。

 

「敵さんの気配も血の匂いもしねえ。辺り一面には風になびかれ揺れる草原……良いモンじゃねぇかよ(あね)さん」

「……(あね)さんはやめなさいと前々から言っている筈ですが」

「はっはっは。おんなじ()()同士なんだしこまけえことは言うもんじゃねえよぉ」

 

 キリンリキの()()はそうケタケタ笑いながら言葉を発する。

 ――キリンリキと言うポケモンは元々脳が二つあることで知られているポケモンだ。一つは頭に。もう一つは尻尾に。

 そしてこのキリンリキはとある事情故に人間の言葉を喋れるのである。いつも喋っているのは頭の方だが尻尾の方が喋れないなんて事は無いのだ。大きさに差はあれど同じ様に脳を持つ者同士なのだから。

 しかし同じポケモンでありながらキリンリキの中にある二つの脳はそれぞれ別の脳だ。であればそこに宿る人間でいう人格に相当するものにも差ができる。そしてこのキリンリキの場合真面目な性格である頭に反して尻尾は口調からもわかる通り粗暴な性格をしていると言う訳だ。

 

「同じ自分だからこそ言うんですよ。私の品性が疑われる……まあ今はこれ以上このことを言っても仕方がない。寧ろあなたがこうして起きているのなら聞きたいことが有ります。あなたはいつも昼間は寝ていますからね」

「その分夜に起きて夜襲に備えてやってるんだろうが」

「気になる()()()はありますか?」

 

 キリンリキの二つのの脳のスペックには大きな差がある。そもそも尻尾の大きさの軽く二倍は頭の方が大きいのだからその中に入っている脳味噌の大きさにも歴然とした差が有る。

 故にほぼ全ての機能は尻尾よりも頭の方が上だ。考えること、判断すること、知ること、覚えること。脳味噌の持つありとあらゆる機能において頭が上を言っている。それも遥かに。

 と言うよりも寧ろこのキリンリキが特殊なのだ。キリンリキの尻尾には確かに脳があるがそれは考えると言う事ができないほど小さい物であり、ましてや言葉を発するなんてことは決してできないほどに。――逆に考えたり、言葉を発することができるがゆえに本来睡眠を必要としない筈のキリンリキの尻尾はこのキリンリキに限って同じくらい長い間睡眠を取り続ける必要(デメリット)を負ってしまっているので良いことばかりでもなかったりする。

 

 さて、そんな小さい脳味噌の尻尾だが唯一つだけ尻尾が頭を超えるものがある。それが嗅覚だ。

 キリンリキの尻尾の口が良い匂いを嗅ぐとそれに噛みつきたがる習性を持つのは有名な話である。また、キリンリキの尻尾が外敵を判断するのも匂いが基準となっている。これは尻尾の嗅覚が優れていることの裏付けと言えるだろう。

 

 正直、『姐さん』と言う呼び方を初め、できのよろしくない頭を持つこの尻尾には辟易としているキリンリキだがそれでもその嗅覚には信頼を置いている。外敵を探るのにキリンリキの感覚だけでは足りない時もこの尻尾の鼻が埋めてくれることは多々有るのだ。

 尻尾はキョロキョロと辺りを見回す。と言うよりも嗅ぎまわしている。やがて尻尾は満面の笑みになる。

 

「良い香りがするぜぇ……思わず噛みつきたくなるほどになぁ」

「良い香り?」

 

 後半は聞かなかったことにして前半部分を聞き返す。――本能故に仕方の無いことだとはキリンリキ自身良く知っているがそれでも匂いに反応して自分の意志関係なく噛みつきたがられるのは良い気分ではない。それを隠そうとしない尻尾の方にも。

 恍惚とした表情(他人にはわからない変化だがキリンリキ本人には嫌でもわかってしまう)の尻尾は再度嗅いで

 

「コイツぁハーブ系の香りだなぁ。ミントとか、そう言う奴だ。前にレイの旦那が茶ぁ入れる時に使ってたのと同じような匂いだ」

「ハーブ?」

 

 気候の関係上このあたりでハーブ系の植物は育たない。とするとこんな場所で誰かがお茶でも入れているのだろうか? 一応凶暴ではないとはいえ野生のポケモンもいるのに? キリンリキの頭は首を傾げる。正直妙だが、この尻尾は嘘だけはつかない。だからハーブと尻尾が言ったならハーブの香りがするのだろう。清涼感のある、はっぱの匂い――

 

「……考えていても仕方が有りませんね」

「お? 行くってのかい?」

「念のため言っておきますが噛ませませんよ?」

「……チッ」

 

 舌打ちをされようが睨み付けられようがキリンリキからすればどうってことはない。何せコイツは自分自身でしかないのだから。

 尻尾の口には鋭い歯があるがそれで噛みつかれる心配はない。それはただの自滅行為でしかない。何せ噛みつく対象は自分自身なのだから。そりゃあ勿論キリンリキは噛みつかれたら痛いだろうがそれは向こうも同じと言う事なのである。

 

「さて、行きますか」

 

 歯をバリバリと噛み鳴らしながら威嚇してくる尻尾をよそに草原を駆け抜けて行く。

 

 そして――

 

 傷だらけのチコリータとそれを襲うレディアンの姿をキリンリキは見た。




ジヘッド「二重人格とか草不可避www」
ドードー「マジウケルーwww」

レディアンなのに前後編になってしまった件について。
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