そしてその日はやってきた。
防衛省特別協賛レース「艦娘杯」
言うまでもなくウマ娘しか走らない上、正式なレースの枠ではないが、艦娘達も数名来るということもあり、それなりに見物客がいた。
もっともG1ほど多くもないが。
「うわあ、凄い人…」
「これでもいつもよりは少ないほうってどういうことっぽい?」
「G1とかだとこれ以上に凄まじい人数で入場制限もあるんだって」
吹雪、夕立、川内は会場内を目をまるくしつつ見ている。
ひと気が多いというのには慣れていない彼女らしいことであった。
レース前の式典の会場へ行こうとする艦娘達…だがそこに大和の通信端末に一本の連絡が入る。
「はい、こちら大和…あれ、提督。まだこちらにいらっしゃらないのですか?」
『すまん、今そういう時じゃねえ!深海棲艦が出現した!』
「なんですって!?」
「なんだと!?」
大和、長門が驚くと同時に他の艦娘も顔が緊迫したものとなる。
『現在、敵は東京湾第二海堡付近!武蔵と翔鶴達に後追わせている!だがこっちに目もくれはしない…敵は片道切符の首都攻撃の可能性がある!』
「そんなに近くまで……小笠原の観測所や哨戒機からも報告はなかったんですか?」
『ああ、すまない。本来はこういうつもりじゃなかったんだが……あと数分でJ-ALERTが発信され、同時に防衛省へ防衛出動が命令され、怪獣災害に関する国民保護法に基づく非常事態宣言も発令される』
J-ALERT
津波等の大規模災害や武力で諸外国から攻撃に晒された際、そして怪獣を始めとする特殊生物からの攻撃の可能性が高まった際に情報衛星を使用した衛星電話ネットワークにより各自治体や指定行政機関、指定地方行政機関、指定公共機関などに瞬時に伝達され、防災行政無線を自動的に作動させ、サイレンや放送などへ国民へ緊急情報を伝えるシステムである
防衛出動
治安出動、海上警備行動、海賊対処行動、弾道ミサイル等に対する破壊措置、災害派遣などの自衛隊へ発令させる命令の内の最上位。
特殊生物への攻撃の際は従来は災害派遣が適用されていたが、敵の規模が大きくなるにつれて災害派遣上で使える兵器の範囲を超えていると指摘がなされ、特殊生物に関することも防衛出動の範囲に含まれ、同時に日本国憲法下において防衛出動が発令される事例が増加することとなった。
怪獣災害に関する国民保護法
正式名「怪獣・特殊生物災害等における国民の保護のための措置に関する法律」
特殊生物等による災害に関する国民の保護を主眼とした法律。
この法により避難所及びシェルターの整備がなされ、またこの条項にある非常事態宣言が発令されると全て国民の避難や怪獣駆除が最優先され、私権も一部制限され、国及び地方公共団体の権限が一部拡張される。
『大和、長門、鳥海、神通、那珂、夕立は多摩川を伝い、東京湾へ降り、艦隊と合流せよ。残りの赤城、加賀は横田基地へ移動しそこより艦載機を発進させ、東京上空の制空権を確保。摩耶、川内、吹雪、島風、夕張、明石は国民の避難誘導後、できれば続いて艦隊へ合流せよ』
「司令官!私達も先に合流させてください!」
「どうして俺達が避難誘導の手伝いなんだ?艦隊に数が居たほうが良いだろ!」
「確かに夜戦以外はあんま興味ないけどさ…これはちょっとね…」
『忘れたか、そちらには府中基地、そしてその奥には立川と横田もある。恐らくだが敵の目標は特攻同然の軍事目標への攻撃。実際横須賀も大なり小なり攻撃を受けた!…変な賭けになるが…どうか頼む!』
声だけしかわからないがかなり頭を下げているようには聞こえた。
提督はいつもは緩すぎることで有名だが、国防に関しては信念を持ち、部下に頭を下げるのも厭わない。
「……わかりました。司令官が言うなら」
「へっ、仕方ねえな…」
「陸上から艦載機を出すことは…できましたよね?」
「いや急に確認しないでください…昔とは違ってできます」
赤城の抜けているところに加賀は容赦なく突っ込んだ。
その後、J-ALERTのサイレンが始動
『特殊生物襲来情報、特殊生物襲来情報』
『この地域に特殊生物等の襲来の可能性があります。ただちに指定避難場所へ避難してください』
それと同時に観客達は一斉に驚き始める。
だがそれと同時にアナウンスも入る。
その主はたづなさんであった
「関東地方全域に非常事態宣言の発令されました。レースは中止となります。観客の皆様は直ちに指定避難場所である学園内体育館へ避難してください」
それと同時に観客達は我先へと避難をし始める。
深海棲艦の襲来などの特殊生物の襲来には慣れているためか、逃げ始めるのは早い…だが当然統制は取れていない。
「落ち着いてください!まだ大丈夫ですから!」
「おら、並べ!慌てなくても大丈夫だ!アタシ達がいる!」
「こういう時は早くなくても大丈夫だよー!」
そこは迅速に艦娘達が入る。
やはり「軍人」の一人である以上、こういうことはお手の物である。
「よし、私達もいくぞ。緊急プランの発動だ」
「はっ!」
生徒会長のシンボリルドルフと副会長のエアグルーヴも各ウマ娘に通達し、避難誘導や場合により炊き出しや救護班の編成などを行うこととした。
彼女達にも有事の際のガイドブックの用意はされているのだ。
「学級委員長として負けてはいられません!!バクシン!!」
……どこかなにか違うウマ娘もいるが。
ーーーーーーーーーーーー
『Em-netによる第一次情報の通知及び送信を完了しました!』
『東京、神奈川、千葉の沿岸部には緊急避難プランCを適用!内陸部は避難プランFを適用!!』
『敵は東京湾を北上中!東京襲撃の公算大。各隊迎撃機用意!』
『百里より301飛行隊のF-35Aスクランブル!続いて3飛行隊のF-2もスクランブル!小松からも303のF-15Jが発進しました!』
『第1護衛隊群、第11護衛隊は現在、艦娘とともに東京湾へ展開中!「いずも」よりF-35Bもスクランブルします!』
第1護衛隊群
第1護衛隊 ヘリ搭載護衛艦(DDH)「いずも」ミサイル護衛艦(DDG)「まや」汎用護衛艦(DD)「むらさめ」「いかずち」
第5護衛隊 ミサイル護衛艦「こんごう」汎用護衛艦「あけぼの」「ありあけ」「あきづき」
地方配備部隊
第11護衛隊 多機能護衛艦(FFM)「もがみ」汎用護衛艦「ゆうぎり」「あまぎり」
『空自第1高射群パトリオット、陸自第2高射特科群中SAM、迎撃体制に移行!』
『こちらは602飛行隊所属のAWACS「ブルーアイ」、これより戦時航空管制を行う。各機指示に従ってください。データリンクも引き受けます』
『地対艦ミサイル連隊はポイントFで待機!第1戦闘ヘリ隊、第4対戦ヘリ隊は後方待機を継続せよ!』
『練馬より各地にて対空迎撃陣を構築!避難誘導も現在進行中!!あと数分で民間人の避難は完了します!』
様々な無線が飛び交う。
国を守るため、全力を尽くす自衛官たちの姿がそこには合った。
「うむ、砲雷撃戦用意!」
そして艦娘もである。
戦艦「武蔵」の号令とともに交戦距離へ入った艦娘達は各自攻撃を開始する。
…だが、どこか深海棲艦の様子がおかしい。
「何故だ…?こっちに意識を向けようともしない…?」
「全く!こっちとも勝負をしようとしないってどういうことなのよ!!」
瑞鶴もいらだちを見せる。
まるでこちらをガン無視しているようにも見える。
「千代田への攻撃は絶対にさせては…!」
翔鶴がそう言おうとした途端、別の通信が入る。
「武蔵だ」
『こちら第3航空隊哨戒機、ネプチューン2、別方向より深海棲艦の艦隊を探知!』
「なに!?」
「まさか挟み撃ちしようとするわけ!?」
『現在、陸奥率いる第3艦隊及び第4護衛隊群が急行中!』
「了解。急に攻勢をかけてきたか…」
「この日になんでかけてくるのかしら…!艦載機、敵空母を潰しちゃって!!」
瑞鶴も負けぬように攻勢を仕掛ける。
だが飛行機は瑞鶴戦闘機の烈風を目に求めずに逃げるようになっている。
更に空母ヲ級シリーズを守るのはツ級シリーズやその上レ級までいる。
空母を絶対に攻撃させないという強い意志が感じ取れた。
「ああもう!これじゃ…!」
瑞鶴が慌てるのも無理はなかった。