一応無事ですが親戚周りが大変なことになってまして。多分来週からは大丈夫かな…多分。
「やった、勝ったぞぉぉぉぉ!!」
「これで、これで本当に終わりッスよね!?」
「おい壁山、何泣いてんだよ!!」
俺の目の前にはゴールに押し込んだボール。鳴り響いたホイッスルに触発されたように、皆の歓声が後ろから押し寄せる。それと同時に俺はジェネシスのゴールの中に仰向けに倒れ込んだ。もう身体が動かない、何なら気を失いそうだ。
けど、そんなことより──
(勝った、勝った……!これでエイリア学園との戦いも終わりだ……!!)
ここまで本当に長かった。フットボールフロンティアで優勝したあの日からジェミニストームとの戦いが始まって、イプシロン、ダイヤモンドダスト、カオス。そしてジェネシス。
「……加賀美君」
「……なんだ?ヒロト」
騒ぎ立てている皆を他所に横たわっていると、最後のゴールで押し退けたヒロトから話しかけられる。心做しか、その表情は穏やかだ。
「これが、仲間の力なんだね」
「……ああ、分かってくれたんだな」
すると、ヒロトが俺に腕を差しのべてくる。俺はその手を取って立ち上がる。体重が乗った瞬間脚がガクッとなったが、握る手に力を込めてヒロトが支えてくれる。そしてそのまま肩に手を回し、皆のところまで連れて行ってくれた。
「柊弥!大丈夫か?」
「ああ。ちょっと疲れただけだ」
皆のところまで辿り着いて、俺はヒロトの支えから離れて一人で立つ。また転びそうになったが何とか耐える。
「……ヒロト」
「父さん!」
「お前達を苦しめてすまなかった……私は、あのエイリア石に取り憑かれていた」
「お父さん……」
「瞳子、お前とお前のチームが気付かせてくれた。ジェネシス計画そのものが間違っていたんだ……」
ちょうどそのタイミングで吉良が俺達の前に姿を現した。その顔には後悔の念が宿っている。どういうことか、俺達とジェネシスの試合を見て完全に心変わりしたらしい。元々コイツの中にも葛藤や何やらがあったのか……俺には分からないけどな。
「……ふざけるなッ」
何か寒気に似た感覚が俺に突き刺さった。第六感にも似たそれに従って視線を移すと、そこではウルビダが怒りに満ちた目で吉良を睨み付けていた。
「これ程愛し、尽くしてきた私達を……よりにもよって貴方が否定するなァ!!」
「ッ!よせェ!!」
そしてその足元にはサッカーボール。アイツが何をしようとしたのか、嫌でも分かってしまう。触発されるように声を上げたがアイツは冷静さを完全に欠いている。俺達ならまだしも、吉良はそれなりの歳だ。そんなヤツにウルビダレベルのシュートを撃ち込めば間違いなく怪我する。
ボールがあればそれでシュートを止めることも出来たかもしれない。けどまずボールがない。身体で止めようにも、消耗しきった今の身体じゃそれすらも怪しい。
「ぐッ……!!」
その時だった。ボールと吉良の間に素早く割り込んだヤツがいた。そいつは……さっきまで俺の隣にいた。
「大丈夫か!ヒロト!!」
「うぐ……」
「なぜだ、なぜ止めたんだ……"ヒロト"!!そいつは私達の存在を否定したんだぞ!?信じて戦ってきた、私達の存在を!!私達は全てを賭けて戦ってきた……ただ強くなるために!!なのにそれが間違っていた!?そんなことが許されるのか!!」
「"玲名"……確かに、お前の言う通りかもしれない。お前の気持ちも分かる。でも……それでも!!」
その場に蹲るヒロトに守が駆け寄る。一方ウルビダはというと、吉良への怒りをブチ撒けている。敬称を使わず、ソイツと呼び捨てるほどの強すぎる怒り。コイツらの計画が正しかったなんて言うつもりは無いが、ジェネシスの面々がその計画のために努力したのは変わらない事実なんだろう。エイリア石の力で強くなったならともかく、コイツらは自分自身の力を伸ばしたわけだからな。
その怒りに対してヒロトは肯定に近い言葉を返す。そして守に支えられながら立ち上がり、ウルビダの方に向き直った。
「この人は……俺の大事な父さんなんだッ!!」
「……!」
「勿論、本当の父さんじゃないことは分かってる……ヒロトって名前が、ずっと前に死んだ父さんの本当の息子だってことも」
「本当の息子って……」
「……本当のことよ」
「でも、それでも構わなかった……父さんが、俺に本当のヒロトの姿を重ね合わせるだけでも!!」
ヒロトの言葉に段々と熱が篭もり始める。ウルビダに掛けた言葉も本心だろう。けど、今のこの言葉は本心であり本音。
「例え存在を否定されようと、父さんが俺達のことを必要しなくなったとしても……父さんは、たった一人の父さんなんだ」
「ヒロト、お前はそれほどまでに私のことを……」
「お父さん……」
「私は間違っていた。私にはもう、お前に父さん呼んでもらえる資格なんてない……」
そう言うと吉良はボールを拾い上げ、ある方向へ転がす。その方向というのは……ウルビダがいる方向だ。
「さあ撃て、ウルビダ!!」
「〜〜〜ッ!!」
これは吉良なりのケジメのつもりなんだろう。ウルビダが激情を露わにするほど、ヒロトがその己の身を盾にするほどに慕われていたにも関わらず、それを我欲の為に利用していたことに対する責任だ。
それに対するウルビダは……葛藤している。さっきの怒りは本物だ。けど、その根源となっている別の感情も存在してるんだろう。
「うわァァァァァァァァァァァッ!!」
その時、ウルビダが脚を振り上げた。それを見てヒロトや瞳子監督、守が制止の声を上げる。
「……出来ないッ」
しかし、その脚が振り抜かれることはなかった。ウルビダはそのままその場に膝を着く。
「出来るわけが無い……だって、貴方は……私にとっても大切な父さんなんだッ……!!」
そのまま感情が限界を迎えたウルビダは泣き崩れた。ウルビダに感化されるように、周囲のジェネシスのメンバーも泣き始めた。そしてそれを見た吉良も静かに涙を流した。肩を震わせながら……後悔を噛み締めるように。
「吉良さん、話してくれませんか。貴方が何故こんなことをしてしまったのか……この子ども達の為にも」
「……ええ、勿論です」
知らぬ間にスタジアム内にやってきていた鬼瓦さんが吉良の隣に立ち、そう語り掛ける。それに対して吉良は涙を拭い、全てを語り始めた。
十数年前、吉良にはヒロトという息子がいた。その子はサッカーが大好きで、いつもボールを追い掛けていたという。
やがてヒロトは海外にサッカー留学へ行ったのだが、それが悲劇の始まりだった。その留学先でヒロトは事件に巻き込まれて……亡くなった。しかも、その事件に政府重役の一人息子が関わっており、その事件は表沙汰にされることなく揉み消された。
愛する息子の急逝。そんなことがあって折れずにいられる親なんているはずがない。失意のどん底に落ちた吉良は、抜け殻のような日々を送っていた。
そんな時、それを見兼ねた瞳子監督が吉良にある提案をしたという。それが孤児園である"お日さま園"の設立だ。最初は残された一人娘である瞳子監督の頼みと思い始めたお日さま園の運営だったが、そこで自分を父と慕ってくれる子ども達に囲まれて次第に立ち直れたという。そしてそこで出会った、自分の息子と瓜二つの子。それがヒロトだという。
前向きになり始め、財閥の業績も回復し始めた。その時期に運命の歯車は回り出す。この富士山麓に落ちてきた隕石。紫色に怪しく光るその石には、人間の能力を引き上げる効力が吉良財閥の研究者によって明らかになった。その報告を受けた吉良の中に生まれたのは、とうの昔に捨てたはずの復讐の炎。この隕石……エイリア石を使えば息子を虐げた犯人、ひいては外国諸国に対する復讐ができる。
それからの吉良は俺達が知るとおりだ。エイリア石の力を基盤としたジェネシス計画。その計画のために目を付けたのが、お日さま園の子ども達だった。
「すまない……本当に私が愚かだった……すまないッ……!!」
吉良がその場に座り込み、悔恨の言葉を繰り返し口にする。そんな吉良にヒロトが歩み寄ろうとしたその時、地面が小刻みに揺れているのを感じた。地震か?いや、これは……さっき鬼瓦さん達がエイリア石を爆破した時みたいな──
「うわあッ!?」
「なんだ!?」
そんな縁起でもないことを考えた瞬間、天井が崩壊を始める。これは地震じゃない、誰かが爆弾を仕掛けやがった!!
「まずい!!脱出だ!!」
「……!出口が!!」
響木監督がこの場からの脱出を指示するが、そのタイミングで出口が瓦礫で塞がれる。しかしその時、俺達が知らなかっまた別の出口からイナズマキャラバンが飛んできた。
「皆、乗るんだ!!」
「古株さん!!」
「急げ!!」
キャラバンのあちこちが傷だらけになっているのを見るに、相当な勢いで飛ばしてきてくれたらしい。皆は続々とキャラバンへ走っていく。俺も──
「……ッ!!」
キャラバンに乗り込むべく走ろうとしたその時、脚に力が入らずにそのまま前のめりに倒れてしまった。クソが……身体がろくに動かねえ。立ち上がるために腕で身体を起こして足に力を込める……が、再び膝が折れる。
皆はもうキャラバンの近くまで辿り着いている。このままじゃ皆の脱出が遅れて危険が及ぶ……そう思った、その時だった。誰かが俺の肩に腕を回して引っ張り上げてくれる。
「……ヒロト!」
「大丈夫。さあ行こう!」
俺はさっきのようにヒロトに支えられながらキャラバンの近くまで歩いて行った。キャラバンの入口では春奈が待っていた。
「柊弥先輩!!ヒロトさんも!!」
「悪い春奈、ありがとう……」
「よし、これで全員──!?」
春奈が俺の腕を掴んでキャラバンの中まで引き込み、最後にヒロトが全員乗り込んだことを確認した。しかし、乗り込んだのは全員ではなかった。ヒロトが周囲を見渡した時、その目は捉えてしまった。
「父さん!!」
「……」
吉良が立ち上がることすらせず、その場に座り込んでいるのを。
「父さん、逃げるんだ!!早くッ!!」
「……私はここでいい。ここでエイリア石の最後を見届ける。それがお前達に対するせめてもの償いだ」
「何馬鹿なこと言ってんだ!!そんなことしてヒロト達が喜ぶわけないだろ!?皆にはあんたが必要なんだッ!!」
その場に座り込む吉良を見たヒロトは走り出し、守もヒロトに着いていく。しかし一貫してその場から動かない吉良。それに対し、守が掴みかかる勢いで吉良を否定する。アイツの言う通りだ。吉良が死んだところで何の償いにもならない。むしろ、今以上にヒロト達を苦しめることになる。
そんな守の言葉が刺さったのか、吉良は立ち上がる。そしてヒロトに手を引かれながらキャラバンへと乗り込んだ。
「よし、これで全員だな!!」
「古株さん!!」
「おう!!」
とうとうキャラバンが走り出した。いつもの2倍くらいの人が乗っている以上、当然スピードは落ちる。けどそんな状態でも相当な勢いで古株さんはキャラバンを飛ばす。すぐ真後ろの方まで崩壊が迫るも、ようやく外の光が見えた。そして、遂に外に辿り着く。まさにそのタイミングでゲートも崩壊し、中に入ることは完全に出来なくなった。
俺達はキャラバンから降りて、エイリア学園の終わりを見届ける。爆炎を上げながら建物は崩壊する。
「……終わったんだな」
「ああ。これで全部、な」
それから俺達はその場で少し待機していた。鬼瓦さんが呼んだ応援が到着するまで特に話すことも無く、ただただ時間が流れるだけ。やがて警察が到着し、事後処理が始まった。
「鬼瓦刑事、ジェミニストームやイプシロンの子ども達の保護が完了しました」
「ああ、ご苦労」
吉良が言うには、ここと別の施設に他のチームのヤツらはいたらしい。レーゼやデザーム、バーンにガゼル。エイリア学園としての役目を終えた子ども達は下手に動けないよう半軟禁状態にあったとかなんとか。
「……さあ、行こうか」
「……はい」
事後処理も終了。となれば次は……吉良の連行だ。鬼瓦さんが声をかけると、頷いて吉良はパトカーまで大人しく連れていかれる。吉良のやろうとしたことは、平たく言えば国家転覆と戦争教唆。殺人よりも重い罪になるとか聞いたことがある。情状酌量の余地はあるのだろうか。世間的にはないのだろうが……さっきの話を聞いたらただ非難するだけは出来ない。とはいえやったことはやったこと。自死じゃなく、しっかりと罪を償って欲しい。
「お父さん!」
「……ありがとう、瞳子。お前のおかげで目が覚めた」
「父さん!!俺達、待ってるから!!父さんが帰ってくるのを、ずっと!!」
「ヒロト……」
最後に瞳子監督とジェネシスのヤツらを見渡し、パトカーに乗り込む。その後、鬼瓦さんはヒロト達にも声をかける。エイリア学園の子ども達は一度医療機関で身体検査を受けるらしい。エイリア石による悪影響などを懸念しての処置だそうだ。
「響木監督。皆のこと、お願いしてもいいですか?ヒロト達のそばにいたいんです」
「ああ。いってやれ」
移動用の車両に乗り込むジェネシスの面々。それを見た瞳子監督は、ヒロト達に着いていくことを決めた。
「……ありがとう、皆。ここまで来れたのも皆がいたからこそ。本当に……本当にありがとう」
その時、瞳子監督が俺達に頭を下げた。
「顔を上げてください、監督」
「こちらこそ、ありがとうございました。俺達がエイリア学園と戦えたのは監督が率いてくれたからこそです。なあ?皆」
「円堂君、加賀美君……」
これは嘘でもなんでもない、俺達全員の本心だ。時には瞳子監督の指示に疑問を持つことも、危険にさらされることも、自分を見失うこともあった。
けど、それでも。この戦いに勝つことが出来たのは瞳子監督のおかげだ。誰がなんと言おうとこの事実は変わらない。
「……ありがとう」
それだけ言うと、瞳子監督は振り向いて歩き出す。向かう先は、一人呆然として動けないヒロトの元。
「ヒロト、行くわよ」
「……姉さん」
ヒロトの隣に立った瞳子監督はヒロトの手を握る。そうして2人は歩き出す。車両に乗り込む直前、ヒロトがこちらに振り返る。
「加賀美君!!」
「どうした?」
「また、会えるかな?」
「……ああ。今度あったら、またサッカーやろうぜ」
「……うん!」
そしてヒロトと瞳子監督も乗り、車両は走り出した。警察も撤退を始め、その場にはとうとう俺達だけになった。
「……ん?」
段々と小さくなっていくヒロト達を見届けていると、不意に塔子の携帯が鳴った。
「どうしたんだ?」
「うん、パパが皆に感謝状を贈りたいんだって」
「総理大臣から感謝状なんて、凄いッス」
「いいや。お前達の活躍は十分に感謝状に値する。皆、よく頑張ったな!」
「響木監督……!」
「よーし!俺達も雷門中に帰ろう!!」
どうやら電話の相手は財前総理だったらしい。何と俺達に感謝状を贈るとのことらしい。総理大臣からの感謝状、事実上の国からの感謝状みたいなものだ。それだけのことをやり遂げた、ってことか。
そして俺達も俺達の帰るべき場所へ向かう。この戦いが終わったことを皆に報告しないとな。
「柊弥先輩、眠いんですか?」
「ああ、少しな……」
「着いたら起こすので寝てて大丈夫ですよ!」
キャラバンに乗り込み座席に座った瞬間、一気に眠気が襲ってきた。走ることが出来ないくらいの疲労困憊、正直今すぐにでも寝たい。そう思っていると、春奈が起こすから寝ても良いと言ってくれる。その言葉を聞いて瞼を閉じると、急速に意識が混濁し始める。俺は意識を手放し、そのまま闇に落ちた。
ーーー
「ありゃ、流石に無理させすぎたか……」
富士山麓を出発して数十分。付近の河川敷にてイナズマキャラバンのエンジンに異変が起こる。エイリア学園の崩壊から逃れるために普段絶対にやらないほどに無理をさせた以上、こうなるのは必然だった。
古株がエンジンメンテナンスをするまでの間、各々が思い思いに過ごす。土手でサッカーをする者、キャラバンの中で休む者、古株を手伝う者などそれぞれだ。
そんな中、柊弥は一人だけ深い眠りについていた。自力で動けなくなるほどの消耗、無理をさせたエンジンが悲鳴を上げるようにこれも必然だったのかもしれない。
隣に座っていた音無はしばらく柊弥のことをじーっと眺めていた。特に何をするわけでもなく、その横顔をただ見ているだけ。
「あー疲れた!」
「キャプテン!しーっ」
「あ、ごめんごめん……柊弥はまだ起きないか?」
「はい、このとおりグッスリです」
「ははっ。そりゃあれだけ頑張ったもんなあ」
そうしていると、円堂がキャラバンの中へ戻ってきた。外でサッカーを終え、中にタオルを取りに来たようだ。柊弥が寝ていることを失念していた円堂は声を発しながら入ってくるが、その隣の番人がそれを許さない。
幸いにして目覚めなかった柊弥を一瞥すると、円堂は反対側の座席に腰を下ろしてドリンクを流し込む。
「そういえばキャプテンって、柊弥先輩とは小学生の頃からの付き合いなんですよね?」
「ん?ああ、そうだぞ」
「先輩の小さい時の話、良かったら聞かせてくれませんか?」
「そうだなー……今はあんな大人っぽくなったけど、昔は相当わんぱくだったんだぜ?」
「先輩が?想像出来ないですね……」
「ほんとほんと!2人で遊ぶ時に誘いに来るのも柊弥だったし……あ、とっておきの話があるんだけど……話したら怒るかな?」
「話してください」
「お、おう……豪炎寺と鬼道には話したことあるんだけどさ。昔俺が一人でサッカーやってた時、近所の悪ガキ3人組にからかわれたんだ。サッカーやる友達もいないのかーって」
思い出したように音無が円堂と柊弥の関係について言及すると、そこから昔の柊弥の話へと発展する。そうして話し出したのは、かつて木戸川清修の武方三兄弟と一悶着あった際の帰り道に円堂が暴露した柊弥の少年時代。
「あの時は俺も小さかったからさ、泣きながら喧嘩してたんだ。そしたらそこに通りかかった柊弥が凄くて」
「ど、どんな風にですか?」
「まず通りがかりでその中の一人の顔にサッカーボール撃ち込んで、掴みかかってきたもう一人はそのまま突き飛ばした。そして最後の一人には胸倉掴んで、多分国語の授業でしか出てこないような罵倒の言葉で延々と攻撃してたんだ」
「そ、それはもはやわんぱくってレベルの話ではないんじゃないですかね?」
「かもな!今じゃ絶対にやらな……いや、やるかも」
「確かに……」
「仲間とか友達とかのこと考えると止まらないからなあ、柊弥」
「何か面白そうな話をしているな」
かつての柊弥について2人が話していると、その中にもう一人来客があった。
「お兄ちゃん!」
「昔の加賀美についての話か?それなら俺もとっておきのがあるぞ」
「え?鬼道って昔の柊弥のこと知ってたのか?」
「ああ。ジュニアサッカーの関係でな」
「あ、そういえば帝国との練習試合の前そんなこと言ってた気がするな」
そう、鬼道は数少ない昔の柊弥を知る一人である。円堂のような友人関係ではなく、違うチームのライバルとしての仲ではあったが。
「あれはクラブチームの大会で初めて加賀美と出会った時のことだった。時期的には春奈と離れ離れになってすぐくらいか……」
「ってことは、3か4年生くらい?」
「そうだな。あの時から既に有望株として名を馳せていた加賀美に興味があってな、試合前に会いに行ったんだ。そしたらコイツ、なんて言ったと思う?」
眠りこける柊弥を指差し、鬼道は珍しく含み無し純度100%の笑みを浮かべる。
「なんて言ったの?」
「外国の人ですか、だそうだ」
「ぶッ」
「おそらくこの髪型を見て言ったんだろうな」
本人達が知るよしは無いが、実際鬼道の見立て通りだった。人生初のドレッドヘアーとの邂逅。当時純粋だった柊弥にとってはあまりに衝撃的だった。揶揄いや冗談などではなく、本心から出た疑問だったのだ。
「あの柊弥先輩がそんなボケにしか聞こえないことを言ってたなんて……ふふっ」
「でも、アイツたまに素でボケるよな?」
「そうなのか?少なくとも俺が雷門に来てからは見たことはないな」
「いやほら、この前の泊まり込みの時銭湯でさ」
「銭湯……ああ、俺のゴーグルのことか」
「え?どういう話?」
「俺達皆で風呂に入ってた時、柊弥が鬼道にお前ってゴーグル外すんだなって言ってたんだよ」
「……何か、全部お兄ちゃんに集中してない?」
「確かに」
「……何故だろうな」
ここで明かされた柊弥の2つのボケエピソードは、どちらも鬼道に対するものだった。それが本人の意図なのか違うのか、それは柊弥のみぞ知ること。
「何の話をしてるんだ?」
「昔の柊弥についての話だよ」
その時、豪炎寺もその場にやってきた。柊弥について語るこの場において、互いに相棒と認識しているこの男の存在は欠かせないだろう。
「そういえば、豪炎寺先輩はキャプテンやお兄ちゃんよりも出会ったのは遅いのに1番信頼されてますよね?」
「確かにな。幼なじみである円堂を差し置いて相棒とまで呼ばれている」
「昔柊弥言ってたな、一緒に走ってくれる相棒が欲しいって」
「一緒に走ってくれる相棒……それはキャプテンじゃダメだったんですかね?」
「ほら、今はリベロだけど俺はじいちゃんに憧れてキーパーだったからさ。試合中に同じストライカーとして並んでくれるヤツが欲しかったんじゃないかな」
「確かに。小学生の頃のチームも確か加賀美のワントップだったからな」
「そんな柊弥先輩が出会ったのが豪炎寺先輩、ってことですね!」
「そういうことだな」
音無の言葉を肯定すると、豪炎寺も席に着いて柊弥について話し出す。
「柊弥と初めて話したのは鉄塔広場でだったな。俺が雷門に転校してきてすぐ、ちょうど帝国との練習試合でメンバー探しをしてた時か」
「懐かしいなー、あの時は何回豪炎寺を勧誘しにいったことか」
「断っても断ってもな。そして練習試合の終盤、ボロボロになった柊弥の代わりに俺が出た」
「あの時はお前を引きずり出すことが目的だったからな……影山の下にいた時期とはいえ、申し訳ないことをした」
「終わったことだ」
「そして紆余曲折を経て、帝国との決勝戦……2人のファイアトルネードDDは痺れましたね」
「実はあの時初めて成功したんだ。練習ではイマイチ波長が合わなくてな」
「何回も練習してたもんな。あのシュートがあったから今のお前達があるようなもんだよな」
「ああ。あれは俺達の絆の象徴のようなものだな」
「豪炎寺先輩が戻ってきたイプシロン改との試合も、最後はファイアトルネードDDでしたね」
「そうだな。エイリア学園の脅迫でチームから抜けた時も、またあの技を撃つために頑張れた。俺のことをずっと信じてくれたコイツに報いるために」
豪炎寺は柊弥との歴史を語る。時間にすれば1年にも満たないほどだが、それでもその歴史は濃いものだ。
「だから俺もコイツを信じてる。どんなことがあっても俺達は相棒なんだって」
「俺も、柊弥がいるから頑張れるんだ。柊弥がいたから俺はサッカーをもっと好きになれた!」
「普段ならこんな小っ恥ずかしいことは言わんが……俺もだ。世宇子に負けた時、コイツが雷門に誘ってくれたから今の俺がある」
「わ、私もですよ!?ずっと先輩の背中追いかけてるんですから!!」
「……春奈。少し加賀美に近いんじゃないか」
「鬼道、もう諦めたらどうだ」
「お前も兄なら分かるだろう、豪炎寺」
「音無、2人は何の話をしてるんだ?」
「ふふっ、キャプテンには早い話かもしれませんね」
4人は寝ている柊弥を他所に話に花を咲かせる。しかし、盛り上がるあまり誰も気付いていなかった。
(……起きてんだけどな。恥ずかしさと気まずさでタイミング逃しちまった)
話の中心である張本人が起きていることに。柊弥は終わることなく繰り広げられる自分の話に心の中で赤面しつつ、再び眠りに落ちた。
ーーー
「柊弥先輩、起きてください」
「ん……着いたか」
春奈達が話している横で頑張って狸寝入りしていたらまた寝てたみたいだ。窓の外を見るとやたらと霧が立ち込めているが、雷門中だよな?今日の朝も霧が凄かったが、昼過ぎの今でもまだ霧なのか。
「……何か嫌な予感がする」
「嫌な予感、ですか?」
「ああ。何の根拠もないけどな」
本当に何の理由も根拠もない。寝起きで感覚がおかしくなってるだけなのか分からないが、背筋がヒヤリとするような、そんな感覚だ。
「とりあえず降りようぜ!」
「だな」
守がそう言うと、皆も次々キャラバンから降りていく。降りて気付いたが……暗いな。おどろおどろしいというかなんというか、ただならない何かを感じる。
「……誰かいる」
「え?」
キャラバンを降りてグラウンドに足を踏み入れたところで俺は気付いた。霧の向こうから誰かが歩いてくる。顔は見えないが段々と近付いてくる。
「お前は……」
「研崎!」
「お待ちしておりましたよ、雷門イレブンの皆様」
「何でお前がここにいる」
「まだ皆様には最後の戦いが残っています。その相手を連れてきたのですよ」
「最後の戦い?エイリア学園のチームはもう残ってないはずだが?」
「ええ、その通り。最後のチームであるザ・ジェネシスは皆様に敗れてしまいましたからね」
霧の向こうから姿を現したのは研崎。吉良の側近だったか。エイリア学園の本拠地に乗り込んだ時、俺達を吉良の元まで案内した男だ。
それにしても……最後の戦い、その相手?ヒロト達を倒して吉良が捕まって、エイリア学園との戦いはもう終わったと思ってたんだけどな……コイツが何を企んでるのか分からないが、その気ならやるしかない。
「さあ、挨拶してきなさい」
「……」
研崎がそういうと、その後ろから複数の影が前に出てくる。黒のローブに身を包んでいて、その顔は覗けない。そしてその中の一人が俺と守のところまで歩いてくると、さっき感じてた嫌な予感がより大きくなって背筋に走る。何だ、俺は一体何をこんなに怖がっているんだ?
そしてその男が俺達の目の前がフードを外して俺達の前に顔を晒す。俺と守はその顔を見て言葉を失う。だってそこにいたのは……そっち側に立つはずがないヤツだったんだから。
「……久しぶりだな円堂、加賀美」
「なッ……!?」
「何でお前がここにいるんだ……風丸!!」
エイリア学園との戦いが終わったぞ!これからはまた楽しいサッカーだ!!→か、風丸…なんで…
最悪の再会。やはりエイリア編の脚本人の心がなさすぎる。そこが良いんですけどね。