Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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誤字修正、多くの感想ありがとうございます!
誤字に関しては何回も見返してるんですが、何故か見落としてしまう…いつも助かっております。


第97話 立ち上がる者達

 吹雪と染岡のマッチアップによってボールがラインを割り、スローインから試合再開。風丸達はさっきみたいに自陣側で皆を待ち構える。木暮がボールを投げ入れると、それを綱海が受け取って前線まで運んでいく。

 

 

「よし、豪炎寺!!」

 

「おう!!」

 

 

 ある程度まで進んだところでボールは修也に渡った。ダークエンペラーズ側に到達すれば当然修也へと牙が向くが、修也はそう簡単に止まる男じゃない。圧倒的スピードで圧殺されかけるも、相手の動きを見切ってギリギリのところで吹雪にパスを通す。吹雪も同様にボールを奪われる一歩手前のところでその危険をやり過ごした。そんな限界値で繋がれる連携でダークエンペラーズの陣地を突き進む。

 

 

「行かせるか!!スピニングカットォ!!

 

「なッ!?」

 

「何てパワーだ……!!」

 

 

 しかしそれは許されない。右脚に青いエネルギーを纏わせながら飛び出したのは西垣。その右脚を振るうと斬撃のようにエネルギー波が修也と吹雪の手前に着弾し地面を割く。そしてその裂け目からまるで爆発したかのようにそのエネルギーが噴き出す。2人は凄まじい勢いで弾き飛ばされ、ボールは西垣の支配下に。

 

 

「雷門のエースも、俺の敵じゃない!!」

 

「西垣……!」

 

 

 隣の一之瀬がそんな西垣に向かって何とも言えない表情を向ける。それもそうだ、一之瀬と西垣。それに土門と秋は旧知の仲。久々に会った親友がこんな変貌してるんだ、辛くないはずがない。

 

 

「西垣!こっちだ!」

 

「おう!!」

 

「させるか……!」

 

「ふッ……この程度で俺を止められると思ったか、鬼道?」

 

 

 雷門のダブルエースからボールを奪取した西垣にパスを要求したのは風丸。緩やかなループパスが風丸に向かって放たれるも、鬼道が風丸の自由を奪う。しかし、今の風丸の動きを止めるには相当のマークじゃないと難しい。スピードで鬼道を振りほどき跳躍、空高くで西垣からのパスを受け取った風丸は不敵な笑みを浮かべながら鬼道を見下ろす。

 

 

「シャドウ!!」

 

 

 空中で体勢を変えた風丸はまるでシュートのようなパスを地面と平行に送る。それが向かう先は立向居が待ち構えるゴール。そしてそのパス以上のスピードで地上を駆けるのはシャドウ。シャドウは闇の炎を纏いながら上空へと飛び上がる。そのシュートフォームは俺が何度も見た、修也のファイアトルネードと酷似していた。けどその炎の勢いは……修也の爆熱ストームに匹敵。いや、それ以上。

 

 

ダークトルネード!!闇に飲まれてしまえ!!」

 

「闇なんてここにはねえ!!」

 

「決めさせるもんか!!」

 

 

 風丸のパスからダイレクトでのダークトルネード。あまりの速さに立向居はムゲン・ザ・ハンドの構えに入る余裕が無い。それを理解していた綱海、木暮は立向居を助けるべくその間に割り込んだ。

 だが、爆熱ストームと同等以上のシュートに対して無策で突っ込むのは悪手。2人で肉壁となってもその威力を削りきることは出来ない。そのまま押し込まれる2人を立向居は全力で受け止めに行く。ダークトルネードの勢いはある程度衰えているものの、必殺技無しでは受け止めきれない。そこに2人分の重さが加われば単純な膂力では抵抗など不可能。

 

 

「ぐ……あッ!!」

 

 

 立向居は意地で耐えようとした。だがやはり難しかった。木暮、綱海、立向居は纏めてダークトルネードに押し込まれる。

 

 

「まさか、3人纏めて吹っ飛ばすなんて……」

 

「あのシュート、前は完成すらしていなかったのに凄い威力……」

 

「加賀美、あのシュートは」

 

「……ああ。俺や修也、吹雪に匹敵する」

 

 

 ベンチから第三者として見てるからこそ分かる、あのシュートの脅威。夏未が言うように少し前までは完成していなかったようなシュートがここまでの威力を得ているのなら、アイツの……染岡のシュートがどれだけ強くなっているのか想像に難くない。

 それにまだFWにコンバートした風丸にも隠し球がある気がする。風丸自身が撃つシュートか、協力して撃つシュートかは分からない。けど間違いなく手札は残っているだろうな。

 

 

 まだ1点、試合時間も残っている……と言いたいけど、流れを握られたのは厳しい。点を取られたからこちら側のキックオフから試合再開。だが早々にボールは奪われる。皆はダークエンペラーズ側のスピードに追いつくので精一杯、それとは真逆に風丸達のパフォーマンスは一切下がらない。

 そんな厳しい状況でも皆は食らいつく。間一髪のところで相手のパスに割り込む形で何とか攻め切られることは阻止している。しかしそれでも徐々に、徐々に劣勢へと追い込まれていく。

 

 

「風丸!!」

 

「何度やっても同じだ!!疾風ダッシュ!!

 

 

 ボールは風丸に渡り、再び守とのマッチアップ。しかしさっきと同じように超スピードで風丸は守を抜き去る。少しずつだけど風丸の動きが見えてきた。さっきは輪郭を捉えるのでギリギリだった。今なら動き出しから終わりまで何とか目で追える。実際目の当たりにしたらまた違うとは思うけど、目が慣れてきたってことか。

 風丸は守を一瞬で突破すると、すぐさま盤面の把握。ほんの一瞬でフィールドの状況をキャッチして動き出す。あればDFの中枢として動いていた頃の風丸の立ち回り方だ。前線に立つ者としてその眼の使い方を応用してきたのか。

 

 

「いけ、染岡!!」

 

「させない……!」

 

「吹雪!」

 

 

 そんな風丸が次の攻め手として選んだのは染岡。針に糸を通すような正確なパスが塔子と土門の間を抜けると、その先で染岡は待ち構えている。完全フリーの状態でパスを受け取った染岡は一気に加速する。そのままシュートかと思われたがそうは問屋が卸さない。染岡の動きを警戒していた吹雪が全速力で前線から下がって来ている。

 

 

「止められるもんなら止めてみろッ!!ワイバーンクラッシュ!!

 

 

 しかしそれを意に介さない染岡はボールを蹴り上げる。すると地面を砕いて蒼の翼竜が姿を現す。翼竜は咆哮を上げるとボールと共に急降下、エネルギーに満ちたボールが染岡の足元へ着地する。

 

 

「染岡くんッ!!」

 

「てめェ、また俺の邪魔を……!」

 

 

 後は撃ち出すだけというところでそれは阻まれる。染岡が蹴り込んだその瞬間、吹雪が逆から蹴り込んでシュートを阻止する。間に合ったとはいえ素の染岡のパワーは吹雪よりも上、無理やりに押し込まれる可能性が高い……と思っていたが、吹雪は染岡に拮抗してみせる。

 邪魔をされた染岡は怒りの籠った目で吹雪を睨みつける。だが吹雪は真っ直ぐに染岡の目を見ていた。

 

 

「染岡くん!!僕と一緒に風になろうって言ってたじゃないか!!忘れちゃったの!?」

 

「だから……覚えてねえって言ってんだろォッ!!」

 

「うッ──!?」

 

 

 吹雪の脚には言葉に釣られるように力が入る。しかし、そんなものは関係ない、どうでもいいと言いきるかのように染岡の胸元からは黒い光が溢れ出し、爆裂する。

 染岡に力負けしないことに集中していた吹雪は当然回避が出来ず吹き飛ばされ、ワイバーンクラッシュは放たれる。本来蒼いエネルギーを纏っているはずのそれには、まるで不純物のような黒いオーラが混じっている。しかしその力は本物なんだろう、ベンチの俺のところにまで圧が伝わってくる。

 

 

「今度こそ止める!!ムゲン・ザ・ハンド(G4)ッ!!

 

 

 怒り狂う翼竜を止めるべく、立向居が究極奥義で迎え撃つ。しかし、強大な力を秘めたワイバーンにとってそんなものは些細な障害でしかなかった。黄金の手を全て食い破ると、次に敵意が向くのは当然目の前の守護神。その鋭い牙で立向居を捉えると、そのままゴールへと押し込む。

 

 

「よっしゃァ!!これが俺の力だァ!!」

 

「立向居!!」

 

 

 ……今のシュート、とんでもないパワーだった。シャドウのシュートを修也と同等以上って評価したが、染岡のワイバーンクラッシュはそれをも越えてきた。あのムゲン・ザ・ハンドを正攻法で突破しているという時点でジェネシスの最強シュート、スペースペンギンよりも強力というのが確定。リミッター解除したヒロト達の連携シュートすら超える威力を一人で引き出す……ここまでか、真・エイリア石。

 そしてこんなシュートを何回も撃ち込まれたら立向居が持たない。何とかしてシュートを撃たせないように立ち回ることが出来れば何とか……と言いたいがそれが難しい。

 

 

「まだまだ!!」

 

 

 しかもアイツらのパフォーマンスは衰えるどころか、むしろ鋭くなる一方だ。それを裏付けるかのように真・エイリア石は黒い光を漏らす。心做しかさっきよりも光が強くなっている気がする。一体どういう原理だ?時間が経つにつれてそうなっているようにも思える。

 もしそう仮定すると……まさか、単純に能力を引き上げるだけじゃなくて時間経過で更に強くなるってことか?それが本当ならかなりマズイ。現時点ですら追い付くのが精一杯なレベルなのにも関わらずここからまだ強く、速くなるなら……正直、分が悪いどころの話じゃない。

 

 

「ククク……何か気付いたようですねえ?加賀美くん」

 

「……話しかけんな」

 

「そう邪険にしなくても良いじゃないですか。折角ですし貴方の疑問にお答えしますよ?」

 

「……」

 

「お察しの通り、真・エイリア石は時間が経てば経つほどその出力が引き上がるのです。しかし、無条件にという訳ではありません。その鍵となるのは……使用者の強い闘争心」

 

 

 そう考え込んでいると、こっちの様子を伺ってやがったのか研崎が汚い笑みを張りつけながら話しかけてくる。不愉快すぎて言葉も交わしたくないから適当にあしらうつもりだったが、余程上機嫌なのか勝手にベラベラと話し出す。

 

 

「それだけではありません。闘争心を注がれた真・エイリア石は互いに共鳴し、高め合うのですよ。その進化に……終わりなどないのですッ!!」

 

「そ、そんな……それなら、戦い続ける限り無限に強くなるっていうの!?」

 

「今よりも、まだ強く……?」

 

「その通ォり!!私が作り出したこのハイソルジャー達に限界は存在しなァい!!あの時加賀美 柊弥が見せた凄まじい力にもいずれ匹敵するッ!!」

 

「そんなの……どうすれば」

 

「まだ分からないのですかァ!?勝負を受けた時点で貴方達に勝ち目などないのですよ!!エイリア学園最後のチームを倒した雷門イレブンを倒し、ダークエンペラーズの価値は最上のものとなるッ!!全て、私の思惑通りだァァァ!!」

 

 

 研崎は自分で自分を抱きしめ、奇声を上げながら狂ったように笑う。

 

 

「さァ見ろ!!ダークエンペラーズが雷門イレブンをまた一歩追い詰める姿をォォ!!」

 

 

 研崎の汚い声に煽られるように視線をフィールドに戻すと、そこにはその場に倒れ込む守と風丸の姿があった。恐らく、風丸が守からボールを奪い去ったんだろう。守は倒れてこそいるものの怪我は無さそうだ。

 そんなことを考えていると風丸はその姿を黒い閃光に変える。研崎の言う通り試合の中でさらに進化しているんだろう、さっきよりもまた速くなっている。そこまでのスピードとなればもはや誰も止められない。雷門のディフェンスラインを一瞬で通過してゴール前へと辿り着く。

 

 

「加賀美!!俺はもうお前より遥かに強いってことを見せてやるッ!!」

 

「ッ!?あの構えはッ!!」

 

 

 風丸は声高らかに俺に宣言したと同時、フィールドの皆だけじゃなくベンチも驚愕に支配される。風丸がゴール前で取った構えは……俺が1番よく知る、あのシュートの構えだった。

 地面が割れるほどの勢いでボールを踏み抜くと、凄まじい回転と共にボールは夥しいほどの黒い雷と風を纏う。突如現れた暴風雷はフィールドを超え、俺達がいるベンチまで激しく殴りつける。その深淵の闇の中で何かが煌めいたその瞬間、風丸は音を置き去りにするほどの蹴りをその中心に叩き込んだ。

 

 

「貫け、"絶"轟一閃ッ!!

 

 

 蹴り込んで数秒後、遅れてやってきた轟音と共にシュートは放たれる。まるで全てを無に帰す天災のようなシュートだ。離れたベンチから見ている俺ですら一瞬で立向居の元まで到達したように見えた。ペナルティエリア分の距離しかない当の本人から見れば、空間を切り取って急に目の前に現れたように見えてもおかしくない。そして……そんな馬鹿げたシュートに反応出来るはずもない。

 立向居の真横をまるでミサイルのように通過したシュートは、激しくゴールネットにその身を擦り付ける。着弾点からは黒煙が上がり、ネットも真っ黒に焦げる。

 

 

「───え」

 

「な、何だよ今の……シュート、なのか?」

 

 

 得点を告げるホイッスルが鳴ってようやく皆は何が起こったかを理解する。風丸が轟一閃を使ったことはもちろん、何よりその圧倒的破壊力。反応すら出来ず見逃してしまったから良かったものの、仮に立向居が正面から受けていれば無事でいられた保証はない。

 もしあのシュートを止めるならどうすればいい?何重ものシュートブロックで威力を削った上で立向居のムゲン・ザ・ハンド?いや、それでも止められる確証はない。多分皆も同じことを考えている。

 それならそもそもシュートを撃たせない?それも現実的じゃない。高まり続ける風丸のスピードを誰が抑え込めるんだ?仲間を信じていないような考え方で嫌になるが、多分皆じゃ追い付けない。ジェネシスのリミッター解除にも張り合うことが出来た皆でも、だ。

 

 

「ホイッスル……!」

 

「3点ビハインドで前半終了……厳しいわね」

 

 

 皆が唖然とする中、得点に続いてもう一度ホイッスルがなる。前半終了だ。

 

 

「どうする?どう攻めても止められるぞ」

 

「俺達の癖やスタイルが完全にバレている。その上あの身体能力だ……正攻法で勝つのはかなり難しい」

 

 

 ベンチに戻ってきた皆は後半に向けて前半を振り返るが、あまり良い空気ではない。完全に風丸達に圧倒されてしまっている。俺の懸念と同じものを鬼道も感じていたようで、その分析が更に皆を追い詰めてしまう。

 点差は3点。こっちはまだ得点出来ていない。世宇子との試合の時も同じ点差で後半を迎えたが、今回は完全劣勢のままだ。その上状況を打破する手がかりも見えてこない。正直、かなり追い込まれてる。

 

 

「一体どうすれば……」

 

 

 皆はそのまま黙りこくってしまう。そんな状況で俺に出来るのはただ黙って見てるだけなのか?消耗を理由にベンチに退いて、大人しくしている……それが今の俺。それが俺の目指す選手像か?それがこのチームの副キャプテンの在るべき姿か?

 ジェネシスとの試合の後で疲れてるのは皆だって同じなんだ。皆ギリギリの瀬戸際で戦ってる。そして風丸達はこのままじゃ何が正しいのかを勘違いしたままだ。それを止める義務が俺には、俺達にはある。仲間として……友達として。

 

 

 もう一度聞くぞ、加賀美 柊弥。お前は……こんなところで止まってていいのか?

 

 

 

 

 いいや違う。そんなはずがない、それで良いはずがない──

 

 

 

 

「響木監督」

 

「何だ、加賀美」

 

「お願いします……俺を試合に出してくださいッ!!」

 

「柊弥!?」

 

 

 恥も外聞もない。俺は響木監督に土下座で頼み込む。そんな俺を見下ろす響木監督の視線は厳しいものだが、関係ない。

 

 

「試合が始まる前に響木監督が言っていたことは十分承知の上です!!けど、俺はここで黙って見てるだけなんて出来ませんッ!!俺はこのチームの副キャプテンで、皆の……アイツらの仲間でありたいッ!!」

 

「お前が一番分かっているはずだぞ、加賀美。もし無理をすれば……お前は一生サッカーが出来なくなるかもしれない」

 

「それでも構わないッ!!ここで戦うことが出来なかったら、俺は自分を一生許せない!!」

 

「柊弥先輩……」

 

「どんな状況だろうと、全力を尽くして戦う……その信念を貫くためなら、俺は命だって惜しくねェッ!!」

 

 

 それが、俺の選んだ道だ。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

(……こんな時、貴方ならどうしますか、大介さん)

 

 

 響木が初めて柊弥と出会ったのは、まだ雷門中サッカー部が部として成立していないような時だった。円堂に連れられた柊弥が、響木の経営する雷々軒にやってきた、それが初対面。当時サッカーから離れていた響木にとって、サッカーの話をする2人はどこか眩しいものがあった。

 それから紆余曲折を経て雷門中サッカー部の監督となった響木。監督として見る柊弥は"サッカーに誠実"の一言だった。帝国戦では一悶着あったものの、常に全力でサッカーと向き合う。円堂がかつての師である円堂 大介を思い出させるなら、柊弥はその大介の元でサッカーをしていた若き頃の自分達を思い出させる存在だった。

 

 

 何より響木の印象に残っていたのは、フットボールフロンティア全国大会の決勝、世宇子中との試合での柊弥だ。神のアクアで強化された世宇子中に容赦なく痛めつけられ、0-4という絶望的状況。選手を守るために審判に試合放棄の旨を伝えようとした、その時だった。

 

 

『楽しくなってきた』

 

 

 柊弥が満身創痍で立ち上がり、一人で世宇子中と対峙する。響木はベンチから止めるつもりだった。もう止めろ、よく頑張ったと。しかしその言葉はすぐさまかき消されることになる。柊弥が見せた異能の力によって。直後、柊弥は一人で状況をひっくり返した。アフロディ達の妨害をものともせず、圧倒的な力でワンゴールをもぎ取って前半を終えた。先のジェネシスとの試合でもそうだった。

 

 

 努力を惜しまず、どんな絶望的な状況でも先陣切って突破口を切り開く。誰よりもサッカーを愛し、サッカーと向き合う男。それが響木から見た加賀美 柊弥という男だった。

 そんな男は今、自分に頭を下げて試合に出してくれと懇願している。本人の意思を汲むべきなのか、監督して選手を守る責任を果たすべきなのか。響木にはどちらが正しい選択なのか分からなくなっていた。

 

 

『響木、サッカープレイヤーにとって何が一番大事か分かるか?』

 

『一番大事なこと……何ですか?』

 

『諦めないことだ。どんなに強い相手でも諦めず、立ち向かう。努力し続けた者だけが、わずか一握りの本物のプレイヤーになれるんだ』

 

 

 その時響木の胸に去来したのは在りし日の師の言葉。そして、その言葉を誰よりも体現しているのが柊弥である。それを理解した響木は地面に膝を着き、頭を下げる柊弥を起こす。

 

 

「それがお前の意思なら……行ってこい、加賀美!!」

 

「響木監督……!」

 

「ただし!!もし危険だと思ったら直ぐに下げる!それが条件だ」

 

「……はい!!ありがとうございます!!」

 

(全く、何て嬉しそうな顔をする)

 

 

 響木は柊弥に賭けることを選んだ。この状況を変え、大切なものを見失った風丸達を連れ戻す灯火となってくれると信じて。

 響木の言葉を受けた柊弥はすぐさま試合の準備に移る。ジャージを脱いで現れたのは15番を背負ったその背中。まだ若い中学生にして、誰よりも大きく、分厚い背中。

 

 

「加賀美、ベンチから見たお前の見解を教えてくれ」

 

「皆も分かってる通り、風丸達は俺達の動きを全て読んできている。だからこそ、それを利用しよう」

 

「というと?」

 

「鍵は綱海だ。綱海のことは誰も分からないだろ?攻守どちらもこなせるそのフィジカルを活かして攻めるんだ。そのために必要なのは波のようなリズム。鬼道、頼むぞ」

 

「波のようなリズム……難しい要求をしてくれる」

 

「波が引いた時がチャンスってワケだな。よっしゃ、任せとけ!!」

 

 

 柊弥が作戦を伝え終えると、雷門イレブンは次々フィールドへと戻っていく。いつものように最前線に構える柊弥に対し、同じくポジションに着いた風丸が声を掛けてくる。

 

 

「ようやくお出ましか。そう来なくちゃ面白くない」

 

「風丸。お前達は絶対に俺達が止めてやる」

 

「ふッ、やれるものならやってみろ」

 

 

 そうして時計の針は再び動き出す。この悲しき戦いに勝つのは雷門イレブンか、ダークエンペラーズか。その答えを知る者は……誰もいない。




柊弥参戦。この試合はここからもっと苛烈になっていきます。ダークエンペラーズもまだまだ切り札が残っている様子、さてどうなることやら…

第98話 ピッチの轟き。詳しい日時はお出し出来ませんが近日公開予定です。
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