Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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第98話 ピッチの轟き

 響木監督の許可を得て俺はフィールドに立つ。目の前に立ち塞がるのは邪悪な笑みを浮かべた風丸、染岡。力の差は正直言って大きすぎる。とは言えそんなものは諦める理由にならない。俺の全存在をかけてアイツらを止める、目を覚まさせる。

 

 

「柊弥、本当に大丈夫か」

 

「誰に言ってんだよ修也。余裕に決まってんだろ」

 

「…そうか、無粋だったな」

 

 

 多分修也だけじゃなくて皆俺の事を心配してくれてると思う。だけど大丈夫だ。今までだってずっとそうしてきた。どんなに追い込まれても諦めない、雷門魂で戦ってきたんだ。この試合だってそうだ。アイツらにあの時を思い出させるためにも絶対に折れない。それこそが俺の役目。

 

 

「さあ始めようか…全力で叩き潰してやる、雷門イレブン!!」

 

 

 風丸がそう宣言した直後、後半開始のホイッスルが鳴り響く。染岡からボールを受け取って風丸が走り出す。その動き出しは読めていた。雷霆万鈞を発動して風丸の初動を迎え撃つ。ここでまずボールの支配権を奪わねえと速攻で潰される可能性が高い。

 このチームで一番スピードプレイが出来るのは俺。それに対してダークエンペラーズ側の最速は風丸。最速を最速で抑え込む単純な対策だ。けど俺のスピードは今の風丸の足元にも及ばない。

 

 

「お前に俺が抑えられるかな、加賀美!!」

 

「出来るかどうかじゃねェ!!やってやるよッ!!」

 

 

 雷霆万鈞で強化されるのは身体能力だけじゃない。眼や脳、神経系まで底上げされる。その比重を偏らせ、風丸の動きをキャッチして最適解をすぐ導き出す。単純なスピードで対抗出来ないなら、思考で風丸を上回るしかねえ。

 

 

「ははッ、凄いじゃないか加賀美!他のヤツらじゃ俺を抑えられなかったぞ!!」

 

(クソッ、こんなこと言ってるくせに弄びやがって!!)

 

 

 けどな風丸。自分の方が圧倒的、絶対に自分の方が強いっていうその考えがお前に付け入る隙になるんだよ。慢心からくる油断、フィールドで一番やっちゃいけねえことだ。

 筋肉の動き、目線、重心、気配。全てを読み取れ。風丸の行動に対する最適解をコンマ1秒で導き出せ。自分の武器全部使って、泥臭く喰らいつく…それが俺達の、雷門のサッカーだ!!

 

 

「ッ!!ここだァァァ!!」

 

「何ッ!?」

 

 

 俺が左への隙を見せた瞬間、風丸は加速でそっちに抜けるための溜めを作った。甘ぇよ風丸、それは俺が仕掛けた罠だ。スピードが武器の俺にお前もスピードをぶつけたかったよな。だからただ抜けるんじゃなくて、初速から全力を出してくると思った。そしてそれは一切の溜め無しで出来るもんじゃねえ。だから俺はそこを狙った。

 俺は左をガラ空きにしつつも重心を落としていつでも飛び出せるように待機していた。そして風丸が隙を見せたその瞬間、地面を抉る勢いの加速ですれ違いざまにボールを奪い取った。

 スピードが死ぬより早く、無理やり身体を反転して俺はボールを後ろに戻す。視線の先で鬼道がそれを受け取ったのを見て、そのまま地面に思いっきり接触する。その時の鈍い痛みで雷霆万鈞が解除される。

 

 

(ッ!?)

 

 

 その直後、激しい頭痛が襲い掛かる。成程な…お世辞にも万全とは言えない状態で目やら何やらを酷使した代償ってところか。考え無しに回しまくったら…多分、後戻り出来なくなるな。それは響木監督との約束とは違う、少し立ち回り方を改める必要があるな。

 嫌に痛む頭にムチを打って俺が送り出したパスの行く末を見守る。受け取った鬼道はすぐさまパスを回し、ダークエンペラーズの前衛を雷門側に引き寄せる。奪われるより早くパスを回し、ひたすらに相手を焦らしながらその時を待つ。

 

 

「塔子!」

 

「ふっ、読めるぞ?そのパス」

 

「しまった!!」

 

 

 土門から塔子へのパス。それは風丸に読まれていた。どこからともなく現れた風丸は完璧なパスカットを見せる。

 

 

「どうした、攻めることも出来ないのか?」

 

「いかせるもんか!!」

 

 

 自陣に寄っている皆を一瞥すると同時、風丸はすぐさま加速…すると思ったが、それより早く守が正面を抑える。しかし風丸のスピードは別次元。守は完全に置き去りにされる。

 

 

「負けるかァ!!」

 

「なにッ?」

 

 

 が、守が意地を見せる。風丸の初動に対応したバックステップでその抜き去りを許さない。超至近距離での密着プレス。幾ら風丸が速くても動くこと自体を封じられればどうしようもない。

 

 

「絶対に通さない!!この試合、絶対に勝ってみせるッ…!!」

 

「ッ…邪魔だァァァァ!!」

 

 

 守が諦めず風丸の行く手を阻み続ける。それに段々と苛立ちを覚えたのか、風丸は守にシュートを打ち込むという凶行に打って出る。

 

 

「守!!」

 

「ぐッ…大丈夫だ」

 

「てめェ!!何すんだッ!!お前ら仲間だったんじゃねえのかよ!?ボールで吹っ飛ばして、何とも思わねぇのか!!」

 

「…」

 

「そんなにエイリア石が大事か!!」

 

「お前に何が分かるッ!!」

 

 

 綱海が風丸に掴みかかる勢いで迫る。ボールはまだ死んでいない、風丸はボールを奪われないように警戒しつつ綱海を睨み付ける。守は…大丈夫そうだ。鳩尾に入ったように見えたが、ギリギリのところで避けたみたいだ。

 綱海はボールを狙いながらも風丸に問い掛ける。捲し立てるように言葉を投げる綱海。それに対する風丸が見せたのは、守に向けたものと同じ激情。ファールの可能性も厭わずに肘打ちで綱海を弾き飛ばした。

 

 

「いや、僕達だからこそ分かる」

 

「なに?」

 

「俺、このチームが大好きだ!」

 

「そして、心からサッカーを愛する円堂が大好きだ!アンタ達と同じなんだ!!」

 

「キャプテン達と出会えたから、今の僕らがあるんだ!!」

 

 

 チームから去り、エイリア石の魅力に取り憑かれてしまった風丸。それに対し、色々な問題や葛藤があってもこのチームで戦い続けた吹雪達。その差を突きつけられた風丸は気圧されたように後ずさる。

 

 

「今だ!!」

 

パーフェクトタワー!!

 

「くッ…」

 

 

 風丸の動揺を綱海達は見逃さなかった。パーフェクトタワーの脅威を間近で感じ取った風丸はすぐさまバックステップで回避。ボールは綱海の支配下に。

 

 

「こっちだ!!」

 

 

 それを見た鬼道、修也はペナルティエリア付近で左右に展開。2人へのパスを封殺するために影野、少林がそれぞれ着く。

 

 

(来た、大チャンス。頼むぞ綱海、波のようなリズムの意味…お前なら分かるだろ。このチャンスを俺達の希望の一手に変えてみせろ!)

 

 

 それを見て走り出す。修也と鬼道だけじゃなくて吹雪、守も相手の動きを牽制している。そして雷門側にいるヤツらは綱海を警戒して誰も俺に注目していない。

 

 

「波が引いた…そういうことか!」

 

「綱海!!」

 

「おう!、ツナミブーストォ!!

 

 

 雷門側のど真ん中から放つ超ロングシュート。そうだ綱海、波のようなリズム…それは押して引いてを繰り返す動きの例え。波が引いた時、それが千載一遇のチャンスになる。そして綱海の手札、ツナミブーストはダークエンペラーズの誰にも割れていない。そこまで持ち込めれば間違いなく杉森までシュートが届く。

 影野は修也のマークに着いている。つまりさっきのやり取りで見せた連携技、デュアルスマッシュは使えない。となると杉森単体でのセービング。エイリア石の力で進化はしているだろうが、それはきっと元の杉森のスタイルをベースにした派生的な進化。それなら、きっと使う技はアレだ。

 

 

ダブルロケットォ!!

 

「クソッ、ダメか!!」

 

(いや、完璧だ綱海…!)

 

「なッ、いつの間に!?」

 

 

 杉森はダブルロケット…ロケットこぶしの派生技で綱海のシュートを防ぐ。綱海には悪いが、最初から止められるところまで想定して動いていた。そしてそれを止めるのに、杉森がパンチング技を使うこともだ。弾かれたボールは弧を描きながら俺の元へ。

 

 

「いかせないぞ加賀美!!」

 

「俺達のスピードはお前を越えた!!」

 

「スピードは、な!!」

 

 

 半田、マックス。多分お前らが追いついてくることも分かってたよ。このまま雷霆一閃に持ち込もうとしても初動を潰されるし、今の轟一閃じゃパワーが足りない。だからこそ、このシュートを選ぶ。

 

 

「はァァァァァァァァァッッッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

「近寄れない…!」

 

 

 ボールを踏み抜き、咆哮と共に雷を注ぎ込む。際限なくエネルギーが高まり続けるボールは一つの雷塊と化す。半田とマックスはその激しい放電に耐えきれず触れられない。こんな状態でこれを選ぶのは少し…いや、だいぶリスキーだ。けど妥協はしない。持ってけ五割、このチャンスは何が何でも掴み取るッ!!

 さあ受け取れ杉森!!お前にあの時の熱が残ってるなら、このシュートで戻って来やがれ!!

 

 

「ぶち抜け、ライトニングブラスター"V2"ッ!!

 

 

 両脚を叩き込むと、抑圧されまくった鬱憤を晴らすように雷が咆哮を上げる。全てを焼き尽くす轟雷が杉森の構えるゴールへと襲い掛かる。デュアルスマッシュを狙って影野がゴールに走るが、鬼道がその行く手を阻む。ツナミブーストを弾いて終わりだと思っていたんだろう、杉森は反応が遅れている。その状態からダブルロケットは無理だろ。どうする、杉森?

 

 

「ぐッ…シュートポケットォ!!

 

 

 杉森はシュートの勢いを削ぎ落とす領域を展開する。その領域とライトニングブラスターが触れた瞬間、激しい火花が散ると同時に周囲を衝撃波が襲う。凄まじい音と共に削られていく杉森の領域。

 前までのお前ならロケットこぶしを強化してダブルロケットに進化させるだけじゃなくて、シュートポケットもちゃんと磨いてただろうな。けどお前はそれをしなかった。一つの武器だけで満足してしまった、それがお前の敗因だ。

 

 

「ぐ、ォォォォォォオオオオオ!?」

 

「よしッ…」

 

 

 領域は完全に崩壊。全てをぶち抜いて俺のシュートがゴールに突き刺さる。分かってはいたが一気に持ってかれるな。とはいえ…取ったぞ1点。

 

 

「加賀美ぃ!ナイスゴールだ!!」

 

「悪いな綱海、お前を利用するような動きをして」

 

「んなこと気にすんな!!作戦を考えたのはお前、点を出したのもお前!そんなヤツが謝る必要ねぇって!」

 

「ありがとな」

 

 

 綱海が背中をバシバシ叩いてきた衝撃で一瞬意識が揺らぎかけたが何とか耐える。こうは言ってくれてるが、この作戦は綱海の完璧なタイミングでのシュートがなければ成立しなかった。

 さて、勝つためには最低でもあと3点。ここからどうやって差を縮めるか。

 

 

「…こんなこと、認めてたまるかッ」

 

「風丸…」

 

 

 ポジションに戻る中、怨嗟の籠った呟きが耳にはいる。視線を移すと、その先では風丸が鬼の形相で立っていた。その胸元では真・エイリア石が妖しく煌めいている。風丸だけじゃない、他の皆もだ。

 まさかこれは、研崎の言っていた真・エイリア石の共鳴?そういうことか…俺達に出し抜かれた屈辱、怒りが力を引き出して更にそれが共鳴し、互いに高め合う。さっきよりも強く、速くなるのか。厳しい戦いどころの話じゃないな。

 

 

 いや、そんなことはどうでもいい。アイツらがもっと強くなるって言うなら、俺達もこの試合の中でもっと強くなってやる。限界を極めて極限まで、いつも俺達がやってることだろ。

 

 

「染岡!!」

 

「おう、速攻で潰す…!」

 

 

 試合再開、殺意すら感じさせる風丸と染岡はすぐさまスタートを切る。

 

 

「速すぎる!!」

 

「嘘だろ、まだ余力が!?」

 

 

 そのスピードに誰も反応出来ない。

 

 

「行かせねえよ」

 

 

 俺以外は。

 

 

「テメェ、加賀美!!」

 

「何故だ、何故俺達に追い付けるッ!?」

 

「何でだろうな、あの頃のお前らなら分かったんじゃねえのか?」

 

 

 サッカーの女神様が俺に力を貸してくれてるのか、不思議と力が湧いてきやがる。真・エイリア石が何だ、共鳴がなんだ。俺達は信念でその上をいってやる。そして──

 

 

「お前らの目、覚まさせてやるよォォ!!」

 

「チィッ、風丸ッ!!」

 

「甘ェッ!!もらったァァァ!!」

 

「はッ!?」

 

 

 焦った染岡は風丸にパスを出す。だがそれは読めてる。風丸に届くより早く、そのパスを奪い取る。

 

 

「修也!吹雪!前に出ろッ!!」

 

「おう!!」

 

「うん!!」

 

「あなたはここで止めますよ、加賀美さん!!」

 

「今回は止めてやるよ!!」

 

「お前にも闇を教えてやる!!」

 

 

 俺はそのまま前に出る。すると宍戸、半田、シャドウが一気に俺に襲いかかる。それがどうした、こんなところで止まってやるか。集中力を引き上げろ。動きも、思考も、何もかも全部加速させろ。出し惜しみはしねえ。

 

 

「詰め方が甘い…そんなんじゃ俺は止まれねぇぞ!!」

 

「なッ、速すぎる…」

 

 

 宍戸と半田が同時にサイドから突っ込んで来たのを跳んで躱す。空中では無防備、そう思ったんだろう。シャドウが勢いを付けて俺と同じ高さまでやってくる。けど空中にいるってだけでボールを奪われるような鍛え方はしてねえ。跳んだまま両脚でボールを挟み、体幹をフル活用して無理やり身を捻る。その勢いで生まれた推進力でシャドウの空中タックルを回避。着地してすぐさま加速。3人を置き去りにする。

 

 

「いかせるか、スピニングカット!!

 

 

 その目と鼻の先に青い衝撃波の壁があった。回り込む時間はない、最短距離でぶち抜いてやる。

 

 

「はッ!?お前、真正面から!!」

 

 

 全身を焼かれながら俺はそのド真ん中に突っ込む。越えた先では驚愕していた西垣がすぐさま気を取り直してボールを奪いに来る。だが動き出しが遅すぎる。最速のマルセイユルーレットで西垣を置き去りにする。

 

 

「来い加賀美!!次は止めてやる…!!」

 

「決めるのは俺じゃねぇよ」

 

 

 ゴール前まで辿り着いた。そのまま撃って来ると思ったんだろう、杉森は俺の動きを警戒している。それを逆手にとるようにバックパスを出すとその顔は驚愕で歪む。

 

 

「柊弥が作ったこのチャンス!!」

 

「絶対に無駄にはしない!!」

 

 

 後ろから修也と吹雪の声が聞こえる。俺の意図、完璧に汲み取ってくれたらしい。

 

 

「杉森、今のお前に俺は止められねえよ」

 

「何…!?」

 

「お前は確かに強くなった。けど、最後の最後で真・エイリア石なんかに頼っちまった。それが正しいと思い込んでるうちは俺は…俺達は止められねえ」

 

「いくよ豪炎寺くん!!」

 

「ああ!!吹雪!!」

 

クロスファイアッ!!

 

 

 背中に凄まじいエネルギーを感じる。ジェネシスとの試合で見せたあのシュートが迫ってきてるんだろう。このままここに突っ立ってたら当然ぶつかる。

 

 

「知った口を…貴様には分からんだろう!!先を走る者に追い付けない悔しさが!!後ろを走る者の苦しみが!!」

 

「だから、逃げるのか?」

 

「逃げてなどいない!!この力で、我々は強くなったのだ!!」

 

「それが逃げだって言ってんだよ…この馬鹿野郎がッ!!」

 

 

 杉森との押し問答の最中に力を爆発させる。全身を包み込み、逆雷のように天に立ち上る雷のオーラ。全てを右脚に集約し、サイドに跳ぶ。ドンピシャのタイミングで横にシュートがやってくる。

 この分からず屋が、さっきのシュートでも目が覚めねえってなら…これでどうだよッ!!

 

 

"真"轟一閃ッ!!

 

 

 修也と吹雪が全力で放ったシュートにダメ押しと言わんばかりに俺の雷を加える。炎、氷、雷という性質の違うエネルギーが混ざり合い、殺し合うことなく互いに高め合う。お前らが真・エイリア石で共鳴するように、俺達も意地と信念で共鳴する!エイリア学園との戦いも、それより前の戦いも…そうやって俺達は勝ちを掴み取って来たんだ!!

 

 

ダブルロケットォ!!

 

「ぶち抜けェェェッ!!」

 

「馬鹿な、こんなことが…有り得るはずがァァァァァ!!」

 

 

 直後、2つの拳は完全に打ち砕かれる。悲鳴に近い雄叫びを上げながら杉森は両腕を突き出すが抵抗は無意味。一瞬でゴールに押し込まれる。

 

 

「何をしているお前達ィ!!私が与えてやった力はそんなものではなァい!!この私に、世界の神になるこの私に恥をかかせるきかァァァ!!」

 

「黙れ…自分では戦えないクズがッ!!」

 

「ク、クズ!?」

 

 

 狂ったように吠える研崎。そんな研崎に真っ先に苛立ちをぶつけたのは…何と風丸だった。

 

 

「お前に言われなくとも、俺達が勝ってみせる…こうまでしてコイツらと戦うことを選んだんだ、他の誰でもない…俺達自身が負けることなど認められないッ!!」

 

「な、何だこの反応は…!?」

 

 

 その時、風丸の全身を赤黒い雷が包み込む。血走ったその目はまるで悪魔。見れば分かる…あれはヤバい。共鳴して高め合うとかって話じゃない。真・エイリア石が風丸の負の感情をそのままパワーに変え、他でもない風丸自身がそれを増幅させている。それに影響されるように他のヤツらの圧も段違いだ。

 試合再開後の作戦は決まった。風丸にボールを持たせ続ける訳にはいかない。キックオフの後すぐに奪い取って俺がボールキープしつつ更に点を狙う。もし今の風丸にシュートを撃たせたら…ろくな事にならないのは間違いない。

 

 

「修也、吹雪。試合が始まったらすぐに風丸を抑え込む。危険な役回りになるが…付き合ってくれるか」

 

「当然。お前を独りにはさせない」

 

「その通りだよ。僕達3人で止めよう」

 

 

 俺はそう2人に伝える。本当はコイツらを危険に晒さないために俺が何とかしたいが…多分無理だ。数の力で押し込まないと、ただ隙を晒すだけになる。

 

 

「着いてこい!!染岡、マックス!!」

 

「行かせねえよッ!!」

 

 

 予想通り、ホイッスルがなってすぐ風丸は突っ込んでくる。まずは俺が身体を張って時間を稼ぐ。そうすればすぐに修也と吹雪がカバーに来てくれる。修也が俺の逆から風丸にタックルを仕掛け、その正面を吹雪が抑えながらボールを狙う。

 

 

「邪魔だァァァァァァァァァァァ!!」

 

「な────」

 

 

 その時、さっき見せた雷が風丸の全身から溢れ出して大爆発を起こす。ほぼ密着していた俺達は避ける余裕もなく巻き込まれる。まるで炎に包まれているかのような熱と痛みが絶えずに襲い掛かってくる。何だこれッ…一瞬でも気を抜いたら意識が飛ぶッ…!!

 

 

「ッ、風丸を止めろォ!!」

 

「遅い!!"真"疾風ダッシュッ!!

 

 

 鬼道がそう叫び、一気に風丸を囲む。だが今の風丸は止まらない。雷の軌跡を残しながら包囲網をぶち抜く。風丸にしか警戒が向いていないことを逆手に取り、染岡とマックスは既にゴール前。当の風丸も全てを突破してゴール前に辿り着く。キックオフからそこに至るまで、ほんの数十秒。規格外すぎる。これが、風丸がこの試合に掛ける想いか…!

 

 

「いくぞォ!!」

 

 

 ゴール前で風丸達はボールを蹴り上げる。打ち上げられたボールを心臓として顕現したのは、黒と赤の炎に彩られた禍々しい不死鳥。一目見れば分かる、強力なシュートなんて言葉じゃ表現しきれないレベルの、圧倒的暴力。

 

 

ダークフェニックス!!

 

「立向居ッ!!」

 

 

 逃げろ。そう言いたかった。本来ならキーパーである立向居がシュートから逃げることなんて許されない。俺の頭に一瞬過った最悪の光景がその言葉を連想させたんだ。けど、最終的にその言葉を絞り出すことは出来なかった。全身の痛みと、そんな葛藤が言葉を塞き止めた。

 

 

「絶対負けるかッ、ムゲン・ザ・ハンドォォ!!(G4)

 

 

 視線の先で立向居は数多の神の手を従え、血に染まった不死鳥と対峙する。しかし、その手のどれもが触れた瞬間に燃やし尽くされる。それでも最後に立向居は自分自身の手でシュートを抑えにかかる。

 

 

「ガハァァァァッ!!」

 

「ッ、立向居ィィィィィィィィ!!」

 

 

 得点を告げるホイッスルがなったと同時、俺は悲鳴を上げる身体を無理やり起こしてゴールに走る。

 

 

「大丈夫か!!」

 

「は、はい…」

 

「ッおい!!手を見せてみろ!!」

 

 

 何か嫌な予感がした。直感に従って立向居のグローブを剥がすと、そこには明らかに限界を迎えた掌があった。こんな状態じゃもうシュートは受けられねえ…もしこれ以上無理をさせれば、サッカーが出来なくなるどころじゃない。日常生活で手が使えなくなる可能性すらある!

 

 

「立向居…!その手!」

 

「…守。交代だ」

 

「…ああ!!ポジションチェンジだ!!」

 

 

 これしか無かった。もう立向居は守れない。そうなれば、守に出張ってもらうしかない。守はベンチに戻ると、キーパーのユニフォームに着替えグローブを身に付ける。立向居も手の応急処置を受け、フィールドプレイヤーとしてのユニフォームに着替えた。

 

 

「加賀美、お前は大丈夫なのか」

 

「ああ。まだ終われねえ」

 

「そうか…しかし、あの風丸の規格外の力。どう止めるかの策が俺には思い付かん」

 

「お前でもか…」

 

 

 それを見守っていると、鬼道が話し掛けてくる。俺の無事、風丸の対処と話が移るが、鬼道が手立てを思いつかないほどの状況なんて初めてだ。それだけ今の風丸は別格。正直、単に束になってかかったところで抑え込める気がしない。

 

 

「打つ手無し…か」

 

 

 まさに絶望的状況ってヤツだな。その上アイツらはまだ強くなるって言うんだから、小言の一つも言いたくなる。けどそれで状況が変わるなら誰も苦労はしねえよな。

 諦めんな、気合い入れろ。下向いてる暇があったら前向け。試合時間はまだ残ってんだろ。

 

 

「絶対に連れ戻してやる…」

 

 

 再び試合再開。修也が後ろにボールを戻し、俺が受け取る。前に出ればすぐに風丸とぶつかることになる。その前に最低限体勢を整えるってことか。

 

 

「甘い!!備える時間なんて与えないぞッ!!」

 

「ッ!!雷霆万鈞ッ!!

 

 

 が、次の瞬間には既に風丸か目の前に迫ってきていた。俺はすぐさま雷霆万鈞を発動して迎え撃つ…と言っても、正面衝突は絶対に勝てない。強化した身体で思いっきりサイドに跳ぶ。けど風丸は一切の遅れもなくそれに合わせてくる。それならと後ろに跳んでも間合いは直ぐに詰められる。こうしている間にも他のヤツらがパスコースを潰すように動いている。こうなったら、俺が風丸を突破するしかない。

 

 

「良いぜ、正面からやってやるよッ!!」

 

 

 風丸のサイドに抜けるように動くと、当然それを潰すためにぶつかってくる。まるでトラックと接触したみたいな衝撃に襲われるが折れる訳にはいかねぇ、意地でも耐える!

 

 

「その程度のパワーで押し勝てるほど俺は弱くないぞ、加賀美!!」

 

「負け、るかァァァァァァ!!」

 

 

 何度も何度も風丸とぶつかり合う。当然のように終始俺が劣勢だ。

 

 

「気合いじゃどうにもならないんだよ、加賀美ィィ!!」

 

「クソ、がァッ!!」

 

 

 とうとう耐えきれなくなって風丸に弾き飛ばされる。そうなれば当然、ダークエンペラーズ側の猛攻が始まる。

 

 

トリプルブーストッ!!

 

「土門!!」

 

「ああ!!」

 

 

 栗松、宍戸、風丸が一列の状態からそれぞれ撃ち込むシュート。後ろまで下がっていた鬼道と土門は左右から同時に蹴り込んでシュートの威力を削ろうと試みるが、一瞬で弾かれる。

 

 

「まだだ!!行くぞ立向居!!」

 

「はい!!」

 

 

 続いたのは綱海と立向居。その身を呈してボールにぶつかった綱海の背中を立向居は支える。少しの間耐えたが鬼道達と同じように吹き飛ばされる。

 

 

「後は任せろ!!正義の鉄拳(G2)!!

 

 

 威力はだいぶ削られた。最後に守が正義の鉄拳で迎え撃てばシュートの威力は削り切れる。けどそれだけじゃアイツらの猛攻は終わらない。弾いた先でボールを確保した塔子からボールを奪い取り、再び攻めてくる。

 

 

ワイバーンクラッシュ!!

 

レボリューションV!!

 

トリプルブーストォ!!

 

 

 何度も、何度もシュートを放つ。

 

 

パーフェクトタワー!!

 

ボルケイノカット!!

 

サンダーストーム"V2"ッ!!

 

クロスファイアッ!!

 

 

 それを俺達は何度も、何度も止める。本来前に出ている俺や修也、吹雪を含めて全員で守る。完全なる劣勢だ、少しでも守りを甘くすれば間違いなく一気に押し込まれる。だからこそ全員で守らなきゃならねえ。

 そうなれば当然、俺達の消耗は跳ね上がる。良くない流れだ。どうにかしてこの流れを絶って攻めに転じねえと…

 

 

「遊びは終わりだ…!」

 

「風丸ッ!」

 

 

 風丸にボールが渡った。染岡とマックスはいない…ということは、またアレが来る!!

 

 

「この一発で終わらせてやるッッッ!!」

 

「ッ、全員で守るぞ!!」

 

 

 そう咆哮を上げると、再び全身から赤黒の雷を迸らせる。マズイ、さっき一度見た時とは比較にならない威力で飛んでくる。それを感じとったのは俺だけじゃない、皆だ。

 

 

「止められるものなら、止めてみろォォォオオオオ!!」

 

 

 凄まじい勢いで雷が炸裂する。馬鹿げた圧だ、一人で撃つはずなのにダークフェニックスよりも超える威力を秘めていることがひと目で分かる。だからこそ全員で威力を削らねえと、さっきの立向居みたいに守が負傷しちまう。

 

 

「喰らえェ!!"絶"轟一閃ッ!!

 

 

 一瞬遅れて轟音が俺達の耳を劈く。それと同時、とんでもない密度で圧縮されたエネルギーを秘めたシュートが解き放たれる。

 

 

パーフェクトタワーッ!!

 

ボルケイノカットォッ!!

 

ザ・ウォール"改"ィ!!

 

「壁山を支えるんだ!!」

 

「はい!!」

 

 

 ありとあらゆる手段を持ってシュートを削る。しかしそのどれもが一瞬で打ち砕かれ、皆は吹き飛ばされる。残っているのは…俺と修也、吹雪。そして最後の砦、守だ。

 

 

「絶対止める…いくぞォ!!」

 

クロスファイアァァァ!!

 

"真"轟一閃ッッッ!!

 

 

 修也と吹雪のクロスファイア。その上から俺が轟一閃を重ねる。何て威力だッ…受けて初めて実感した。触れた瞬間に全身が軋む。皆が削ってくれた後だってのに、俺の轟一閃の何倍、何十倍も強え!しかもこっちは修也と吹雪のクロスファイアと同時に撃ち込んでるんだ、それでもなお届かねえ、デカすぎる力の差。

 

 

「うォォォオオオオ!!」

 

「なッ」

 

「これで…終わりだァァァァァ!!」

 

 

 何とか俺達三人が耐えているところに、何と風丸が飛び出してくる。容赦なく俺達の反対側から更に蹴り込むと一瞬で崩壊。凄まじい痛みとともに全員纏めて吹き飛ばされる。

 

 

「ガハッ…!?」

 

「皆が頑張ったんだ、俺が必ず止める!!正義の鉄拳(G2)ッ!!

 

 

 何度も転がってズタボロにされながら、俺は事の顛末を見届ける。黄金の拳で迫る狂雷の一撃を迎え撃つ守。その表情は芳しいものじゃない。顔を苦痛に歪ませ、徐々に押し込まれていく。

 

 

「負け、るか──」

 

「守ッ!!」

 

 

 無情にも黄金の拳は打ち砕かれる…が。

 

 

「まだ、まだァァァァァ!!メガトンヘッドォォォッ!!

 

 

 守は諦めない。リベロとして特訓する中で身につけた正義の鉄拳の応用技で再び風丸と轟一閃とぶつかり合う。凄まじい衝撃波が砂塵を巻き上げて俺のところまで届いてくる。

 

 

「だアアアアァァァッ!!」

 

「守…!!」

 

 

 それは守の意地だった。いつ押し負けてもおかしくない、そんな状況で守は押し負けずに耐えきってみせた。弾かれたボールは俺の目の前に転がってくる。

 

 

「よし、皆!!反撃──」

 

 

 その時、俺は気付いてしまった。

 

 

「ぐッ…」

 

「うぅ…」

 

 

 皆が、もう立てないだろうということに。

 

 

「どうする加賀美、他のヤツらはもう限界だぞ。円堂も…な」

 

「はァッ、はァッ…!」

 

 

 守も膝を着いていて、もう立ち上がることすら厳しいことは明らかだった。修也や吹雪、鬼道達も限界だ。やっぱり、皆ジェネシスとの試合した時の疲労やダメージが抜けきってなかったんだ。その上、あれだけ身体を張って相手のシュートを止めてたんだ。皆立てなくなるまで追い込まれていてもおかしくない。

 皮肉なことに、前半はベンチに下がっていたおかげで今俺は立てている。俺が最初から戦えていれば、状況はまた違ったかもしれない。そして、真・エイリア石が産まれたのも俺の影響。つまるところ、この状況になっているのは全部俺の責任ってことだ。

 

 

 じゃあ、その責任は果たさなきゃならねえよな。

 

 

「馬鹿言うんじゃねえよ風丸。俺が今まで一回でも諦めたことがあったかよ」

 

「…そうだったな。世宇子中との試合でもそうだった。お前が一人で立ち上がって、そこから俺達は逆転出来た。だからこそ──」

 

 

 風丸は言葉を途中で切ると、今すぐにでも俺に飛びかかれるように構える。

 

 

「──全力でお前を叩き潰す。それが何より、俺が強くなったことの証明になる」

 

「やってみろよ風丸…何があっても俺は絶対に折れねえ。諦めないことの強さを思い出させてやる」

 

 

 俺一人でコイツら全員を相手する。世宇子中の時みたいに俺の中の力や化身が目覚めてくれる気配も無い。この状況を一言で表すなら間違いなく絶望的、だろうな。

 けど諦めるかよ。ここで諦めたら、今まで積み上げてきた大事なものが全部無くなっちまう。

 

 

「いくぞ、風丸ゥゥゥ!!」

 

「こい、加賀美ィィィ!!」

 

 

 だから諦めない。俺一人でも、この状況をひっくり返す。




風丸くん盛りすぎ問題。後悔はしていない。ここまで馬鹿みたいに強化されてる理由付けもしてあるので許してください…
次回でダークエンペラーズ戦は完結、その次の話で脅威の侵略者編完結予定です。長かった!!
第99話 サッカーやろうぜ 明日更新です。
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