Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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過去一物騒なタイトル。鬼いちゃんが色々悩むようです。


第104話 加賀美柊弥抹殺計画

「柊弥先輩!お昼食べましょ!」

 

「ああ、今行く」

 

 

 とある昼休み。柊弥の教室までやってきた音無。その誘いに対して間髪入れずに頷きを返し、弁当を持って教室を出る柊弥。

 

 

「加賀美ってあの子と付き合ってんの?」

 

「らしいよ。確か1年生でサッカー部のマネージャーだって」

 

「聞いた話だと別のクラスの鬼道の妹なんだろ?」

 

「鬼道くん、どんな気持ちなんだろ……」

 

 

 そんな柊弥達を見ながらクラスメイト達はヒソヒソと噂話に勤しむ。その全貌を知っている豪炎寺や木野は静かに昼食を取り、詳しいことは何も知らない円堂は弁当の中身を忙しなく掻き込む。

 

 

「あ、加賀美くんと彼女さんだ」

 

「なあなあ鬼道、妹が同じ部活の友達と付き合ってるってどんな気持ちなんだ?」

 

「気になる気になる。気まずくない?」

 

「……」

 

 

 隣のクラスを2人が通り過ぎると、その中でも噂が走る。そしてその矛先は音無の兄である鬼道に向く。雷門に来てからサッカー部以外でも出来た友人、クラスメイトに囲まれて一斉に質問を投げ掛けられる鬼道。

 そんな鬼道は沈黙を保つ。ただただ口を噤む。しかしその胸中は決して穏やかなものではなかった。

 

 

(加賀美……春奈と付き合うのは千歩譲って構わん。しかし周囲の目というものを考えないのかヤツは!歳上である貴様の役目だろう……!)

 

 

 大事な妹と付き合っているということだけでなく、それで自分が周囲から様々な視線に晒される現実に鬼道は耐えかねていた。毎日のように囲まれ、毎日のように問われ、毎日のように胃痛に襲われる。そんな鬼道の我慢は既に限界を迎えていた。

 

 

(加賀美、貴様は必ずこの手で葬ってやろう)

 

 

 鬼道 有人は決意する。かの邪智暴虐の柊弥を除かねばならぬと。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「……それで、俺に相談したと」

 

「ああ。俺に力を貸してくれ、豪炎寺」

 

 

 部活終了後、鬼道は豪炎寺を雷々軒に誘っていた。響木が注文されたラーメンを作っている中、鬼道は神妙な顔で豪炎寺に胸の内を明かしていた。

 

 

「つまりだ。柊弥と音無のことで自分に何か言われるのに嫌気が差したと」

 

「春奈は良い。加賀美のことで言われることだ」

 

「いや、それって間接的に音無のことでもあるんじゃ……」

 

「春奈は良い」

 

「……そうか」

 

 

 鬼道の静かな圧に豪炎寺は折れた。

 

 

「それでだ。俺は加賀美を抹殺しようと思うんだが」

 

「すまん、よく聞こえなかった」

 

「加賀美を抹殺する」

 

「……俺は段々とお前が分からなくなってきたよ」

 

 

 急に自身の相棒であり鬼道にとってもチームメイト、友人である柊弥を抹殺するなどと言われても理解出来るはずがなかった。異常なのは間違いなく豪炎寺ではなく鬼道だ。

 

 

「この前法には触れないとか言ってたがなんだ、社会的に抹殺でもするのか?」

 

「そういう訳じゃない。こんなことにならんよう理論で追い詰める」

 

「お前に理詰めされたら確かに怖いが、それで折れる男じゃないだろう」

 

「出来るか出来ないかじゃない。やってみせる」

 

「……俺が何を言っても変わらんことは分かった」

 

「醤油と味噌、お待ち」

 

 

 豪炎寺が溜息をつくとちょうどラーメンが着丼する。黙々とラーメンを啜る二人が視界に入る位置に腰掛けた響木は新聞を取りだし、その会話に耳を傾け始めた。

 

 

「俺の考えを話して良いか、鬼道」

 

「ああ。むしろ聞かせてくれ」

 

「……俺は、柊弥の幸せを崩したくない。エイリア学園との戦いを耐え抜いて、ようやく掴んだ音無との幸せだ。上手く言葉に出来ないが……アイツにはそれを享受する資格があると思う」

 

「……なるほど」

 

「当然お前の苦労もあるだろう。しかし音無も幸せそうなんだ、ここは一つ我慢して見守ってやらないか?兄としてな」

 

「ふむ……」

 

「横からすまんな、俺も豪炎寺に賛成だ」

 

「響木監督」

 

 

 豪炎寺はあくまで中立の立場で話しながらも、どちらかといえば柊弥の肩を持つ。自身の離脱などで散々苦労してきた相棒の幸せを願うのは、本人にとっては当然のことなのかもしれない。

 しかしそれで簡単に頷けるのなら鬼道はまずこんな相談をしないだろう。飲み込みかねていた鬼道を見てか、その会話を見守っていた響木が口を挟む。

 

 

「加賀美の音無に対する気持ちは本物だろう。老体の俺でも分かる。だからこそ見守ってやったらどうだ?もしそっちに現を抜かして副キャプテンとして疎かになるようならガツンと言ってやれ。音無の兄でありチームの司令塔のお前にはその資格くらいあるだろうさ」

 

「アイツが本気である以上、見守るのが吉。ということですか」

 

「ああ」

 

「俺もそう思う。無いとは思うが、アイツがそんなことをするようならお前が言わずとも俺が言うさ」

 

「……」

 

 

 響木と豪炎寺による説得。しかし鬼道はまだ頷きかねていた。そこにあるのは本当に自分に迷惑が掛かっているからという理由なのか、はたまた別の理由があるのか。本人ですら理解していなかった。

 

 

(もう少し、色んなヤツから話を聞いてみよう)

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「成程ね。加賀美くんと音無さんが交際してから自分に被害が出始めた、と」

 

「それでどうするべきか迷ってて私達に相談した、ってことで良いのかな?」

 

「ああ。女性陣としての意見を聞かせてほしい」

 

 

 翌日、鬼道はプライベートで夏未と木野を呼び出していた。理由は鬼道が自分で言ったように、女性としての意見を参考にするため。

 

 

「……何故俺まで?」

 

「乗り掛かった船だろう」

 

「……まあ、いいが」

 

 

 豪炎寺も続投されているようだ。

 

 

「確かに、この頃人目も憚らず二人でいることが増えたわね」

 

「お昼休みなんてほぼ毎日二人だものね」

 

「それで二人のことについて色々質問責めにあったりして鬼道が限界を迎え、柊弥の抹殺を企てているというのが事の顛末だ」

 

「そういうことだ」

 

「そんな物騒な……鬼道くんらしくないわね」

 

「まあ、気持ちは分かるかも……自分の妹と友達が付き合い始めて、それに巻き込まれる形になったらちょっとね」

 

 

 夏未と木野は考え込む。どうすれば双方の顔を立てられるのか、ちょうど良い落とし所は無いものかと。

 

 

「まず聞きたいのだけれど、鬼道くんは二人を別れさせたいの?」

 

「それは違う。春奈が悲しむ」

 

「即答ね……じゃあ要するに、自分に被害が来ないように出来れば良い、と」

 

「ああ」

 

「……まず断言するわ。それは無理よ」

 

 

 先に口火を切ったのは夏未だった。曖昧な回答をせず、バッサリと相手の要望を切り捨てる。理事長の娘である夏未だからこそやってのける、容赦のない取捨選択だ。

 

 

「まず、先の事件もあって加賀美くんは全校から注目されている状態よ。その上、表立って交際し始めたとなれば……思春期の観衆がどう感じるかは明らかでしょう?」

 

「……ああ」

 

「だからその魔の手から逃れたいのなら、二人を遠ざける以外にないわよ」

 

「夏未さん、そんな殺生な……」

 

「安心してちょうだい。当然そんなこと私は推奨しないし、認めもしないわ。音無さんがどれだけ加賀美くんを思ってきたのか良く知っているのだから」

 

「……そうだね、安心した」

 

 

 夏未は鬼道に容赦なく現実を突きつけるも、やはり豪炎寺や響木と同じく柊弥と音無の仲を肯定する立場だった。隣で慌てふためいていた木野はそれを聞いて胸を撫で下ろし、自身も口を開く。

 

 

「多分ね、二人は今舞い上がっている状態なんだと思う。エイリア学園の事件の前からずっと加賀美くんのことを思っていた音無さん、そして色々乗り越えてようやく音無さんに向き合えた加賀美くん。加賀美くんが音無さんのことを好きなんだろうなってのも分かりきってたしね」

 

「木野さんの言う通りね。さっき二人を別れさせるしかないって言ったけど、あくまでそれは今どうにかしたいならという前提よ。しばらくすれば二人も落ち着く……かは分からないけど、少なくとも周囲が鬼道くんを囲むことは無くなる、あるいは少なくなるんじゃないかしら」

 

「……今は耐えろ、そういうことか」

 

「そうね。それが音無さんの兄である貴方の役目なんじゃなくて?」

 

「自分に迷惑がかかっている以上難しいとは思うけど、ようやく結ばれた二人を引き裂くようなことはしたくないよね」

 

 

 木野の言葉に夏未も同調し、鬼道はさらに考え込む。隣にいる豪炎寺もついでに頷いており、これで今まで鬼道が意見を聞いてきた人間は全員柊弥達側の意見だということになる。

 ここまで話を聞いてきて、鬼道は自分の考えに疑問を持ち始めた。自分がしようとしていることは本当に正しいのか。そして本当に自分が迷惑だからという理由でそれをやろうとしていたのか。様々な葛藤に板挟みにされていた。

 

 

「……難しいものだな」

 

「貴方の立場なら尚更、ね」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 三人と別れ、鬼道は一人河川敷に来ていた。夕日に照らされる川を一人眺め、自分の中の気持ちと戦っている。

 

 

(俺はどうしたいんだろうな。勿論、春奈が幸せなことが一番だ。加賀美も良いヤツだ、幸せになる資格がある。そんな二人の仲を俺の我儘ともいえる理由で停滞させるようなことがあって良いのだろうか……いや、良いはずがないな。それが分かっているなら何故俺は迷っている?)

 

 

 何度も何度も自分に問い掛けるが、その答えは浮かんでこない。

 

 

「あれ、鬼道?」

 

「……加賀美」

 

「珍しいな、お前がここにいるの」

 

 

 そんな時、鬼道が一番聞きたくもあり聞きたくもない声が聞こえてきた。声の方向に顔を上げると、渦中の人である柊弥がそこにいた。

 

 

「隣、座るぞ」

 

「ああ」

 

 

 柊弥は鬼道の隣に腰を下ろす。

 

 

「……俺、ずっとお前と話したかったんだ」

 

「俺と?」

 

「ああ。春奈のことでな」

 

 

 鬼道は少し驚きを見せる。理由は二つ。柊弥がなぜか自分と話をしたがっていたということ。もう一つは、原因の一つである音無のことで話があるということ。

 

 

「影野から聞いたんだ。お前が俺と春奈のことでクラスメイトから色々聞かれてて大変そうだった。同じクラスだもんな」

 

「影野が……」

 

「多分、凄い迷惑になってると思う。俺と春奈が一緒にいるとそういう声は絶対に聞こえてくるし、春奈の兄であることが知られているお前にその矛先が向いているんじゃないかって、薄々察してもいた」

 

「……まあな」

 

「だから……ごめん。俺のせいで迷惑かけて」

 

 

 柊弥から唐突に飛び出したのは謝罪の言葉だった。座りながら話しているものの、しっかりと頭も下げたうえでの謝罪。そこに誠意の気持ちしかないことは鬼道でなくても分かるだろう。

 

 

「けど……俺は今の春奈との過ごし方を変えるつもりはない。いや、変えたくない」

 

「……というと?」

 

「俺は春奈のことが好き……いや、大好きだ。どうしようもないくらいに。俺のことを考えてくれてるとこ、明るいとこ、可愛いとこ、全部好きで仕方ない。だからこそ自分の気持ちに嘘はつきたくないんだ」

 

「……!」

 

 

 その時、鬼道は理解した。何故自分がここまで柊弥と音無のことで考えていたのか。

 

 

(そうか、俺は加賀美が本気で春奈のことを愛しているかを知りたかったんだ)

 

 

 音無が鬼道にとって大事な妹であることは言うまでもなく当然。そんな妹に対して柊弥がどんな感情を向けているのか、鬼道は今までそれを聞いたことがなかったのだ。自分の妹に対し、本当に真正面から向き合っているかの確証がない。だからこそ、自分に掛かる迷惑……ひいては、二人の関係に思うところがあった。

 

 

「顔を上げろ、加賀美」

 

 

 柊弥に謝罪を止めるように促す鬼道。その顔にもう暗い影はなかった。

 

 

「これからも春奈のことをよろしく頼むぞ」

 

「……ああ、当然だ。義兄さん」

 

「義兄さんは止めろ」

 

「ダメか?」

 

「ダメだ」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「ただいま」

 

 

 河川敷で鬼道と話し、そのまま帰ってきた。あそこで鬼道と会えたのは僥倖だったな。ずっと話す機会を設けたかったのに話しかけるタイミングが掴めなかったからな。練習終わったあとは春奈と一緒に帰るのを優先してたし、昼休みも春奈と一緒にいた。練習中は皆から引っ張りだこでそんな余裕はなかった。休日はお日さま園に行ったりアフロディと会ったりで空いていなかった。

 何はともあれ、これでスッキリした。この頃はそれを考えることが多かったから肩の荷がおりた気分だ。

 

 

「柊弥、何か手紙が届いてたわよ」

 

「手紙?」

 

「部屋の机に置いといた」

 

「分かった、見とく」

 

 

 台所の前を通ると母さんから声を掛けられた。何やら俺に届いてるらしい。手紙?送られる心当たりはないんだが……何はともあれ確認してみる他ない。

 

 

「これか」

 

 

 部屋に入ると机の上のわかりやすい位置に封筒が置いてあった。躊躇う理由もないのでさっさと封を切って中身を改める。

 

 

「……三国親睦会」

 

 

 そこに書いてある内容は、俺にとってあまりに魅力的すぎた。スペインの少年サッカー協会主催で行われる、日本、スペイン、イタリアによるサッカー合宿の誘いだった。中学サッカーはよく分からないけど、プロリーグじゃスペインもイタリアも有名なんてレベルじゃない。そんな国から、交流を兼ねた強化合宿の誘いなんて、最高すぎるだろ。

 

 

 今回この合宿を主導するのはスペインの少年リーグ優勝チーム、バルセロナオーブ。そこに日本とイタリアから2名ずつ中学生の選手を招集し、仲を深めつつ互いの技術向上のために練習に取り組む、だそうだ。

 この手紙を寄越したのは……日本少年サッカー協会か。もし興味があったら連絡しろとのことだ。

 

 

 それにしても、こんな国を超えた場に指名してもらえるなんてな。アフロディの件で色々考えてたから尚更魅力的だ。

 さて、それはそれとしてこの話を受けるなら一つやることがある。日本とイタリアからは2名ずつの参加。この手紙によると……俺以外のあともう1人は俺が指名して良いとのことだ。費用は全部持ってくれるから、金銭的な心配をする必要も無い。

 真っ先に思いついたのはやっぱり修也だな。世界のステージに俺達2人で殴り込むってのも悪くない。守も良い。誘ったら喜ぶだろうな。鬼道でも良いな、世界のサッカーを直に体験すればアイツの戦略はさらに磨かれる。ヒロトを誘うのもありか?でも今は何かと忙しいか……聞いてみないことには分からないけどな。

 

 

「さて、どうしたもんか……」

 

 

 これは少し考える必要があるな。サッカーが心から大好きで、尚且つ世界を体験して俺と互い高め合ってくれる。そんなヤツが良い。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「……ヒビキ提督、全員集まりました」

 

「うむ。よく集まってくれたな」

 

 

 ここは、柊弥が過ごす時代から80年後の世界。集まった11名の少年達を高い位置から見下ろすヒビキと呼ばれた男は、席を立ち上がる。

 

 

「お前達も知っての通り、我が国は弱体化している!戦いから逃げた軟弱者達が作り上げた享楽主義!このままでは世界有数の大国である我が国が他国に負けるのも時間の問題である!」

 

 

 ヒビキは力説する。自分達の国が今どんな状況に置かれているのか。それがどれだけ危険なことなのか。

 

 

「だからこそ、原因を取り除かねばならない!その原因とは……サッカー!」

 

 

 享楽主義の中で流行しているのがサッカーだ。この世界の子ども達は軒並みサッカーに夢中になっている。しかしそれをヒビキは良しとしない。サッカーのせいで本当の戦いを知らないまま子ども達が軟弱な大人になることを拒絶する。

 

 

「そのために……我々はある男からサッカーを消さねばならん!その男こそ全ての元凶……加賀美 柊弥である!!」

 

「……加賀美 柊弥ッ」

 

「お前達に命ずる……加賀美 柊弥にサッカーを捨てさせるのだ!!それが何より世界のためとなる!!場合によっては……その存在ごと消しても構わん!!」

 

 

 ヒビキは目の前の机が割れんばかりに拳を叩きつけ、声を荒らげる。

 

 

加賀美柊弥抹殺計画(オペレーション・サンダーブレイク)をここに発令するッ!!さあ行け、オーガよッ!!」

 

 

 世界に羽ばたこうとする柊弥。そんな柊弥に200年後と80年後から魔の手が忍び寄る。幾つもの時代、幾つもの思惑が交差し、どのような結末が訪れるのか……柊弥だけでなく、誰にも分からない。




導入からこのタイトルは鬼道の計画か、と思った方がいたかもしれませんがなんとガチの抹殺計画でした。
話が前後しているから分かりにくいですが、前の話でエルドラドが話していた自分達以外の時空の干渉というのはオーガによるものでした。感想欄で結構考察されてる方がいましたね。何で違う時代から同時に干渉出来ないのか、は次回で補完する予定です。
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