帝国戦から数日後の部活。俺達は前回の帝国戦の反省点を洗い出すためにミーティングをしている。
「反省点も何も、まず皆体力無さすぎ」
マックスが容赦なくそう言い放つと、ズーンという効果音が聞こえてきそうな程周りは顔を苦くする。苦笑いしながらも守は話を続ける。ホワイトボードに書き出したのは4-3-3のフォーメーション。俗に言うスリートップだ。
目金がフォワードじゃないのかなどと文句を垂れるが、俺と染岡で事足りているから仕方ない。フォワード関連からか、宍戸がある疑問を投げかける。
「あの……この前の豪炎寺さん、誘えないんですか?」
「そうだよねえ、あの2点のうち1点は豪炎寺君のシュートだったからねえ」
「今の俺達ではあんな風にはなれないっスよ……」
次々に豪炎寺の加入を求める声が上がる。気持ちは分からんでもないな……だってアイツのシュート凄かったし。あんなの間近で見たら誰だって忘れられない。とは言ってもないものねだりをしても仕方ないわけで。それを訴えるかのように染岡が立ち上がった。
「あんなのは邪道だ……俺が本当のサッカーを見せてやる!」
「そ、染岡さん?」
「豪炎寺はもうやらないんだろ? 円堂含めお前らは豪炎寺に頼りすぎだ! 点数を取ったのは豪炎寺だけか? 加賀美もだろ! じゃあ豪炎寺1人に拘る必要なんてどこにある!」
もっともだ。『豪炎寺がいれば』皆そんな考えに囚われすぎている。俺だって1点取ったし、染岡だって同じフォワードだ。自分を差し置いていないヤツを宛にされたら誰だって不機嫌にもなる。……とはいえ、少々染岡は焦りすぎなような気もする。
「皆、お客さんよ! ……何かあったの?」
「ああ、ちょっとな」
部室の外から秋が顔を出す。どうやら誰かを連れてきたようで、部室に漂う険悪な雰囲気に対して少し焦るような表情を浮かべたが、そのまま来客を部室に通す。
「……臭いわ」
「第一声がそれ?」
「なんでこんなヤツ連れてきたんだよ……」
雷門 夏未お嬢様である。雷門中理事長の娘であり、理事長から学校の経営を任されているというとんでもない同級生だ。娘とはいえ中学生に学校の経営任せるって、どうなってるんだろうな。
入室早々に部室特有の汗臭さに発した一言に思わずツッコミを入れてしまった。染岡なんて見るからに追い返したそうだ。
「次の試合校を決めてあげたわよ」
「本当か!」
どういう風の吹き回しだか。話によると前の練習試合で俺達に廃部を持ちかけたのはお嬢様らしい。それが今度は進んで次の練習試合を組んでくれたと。なんか裏がありそうだな……
「それで、どこの学校なんだ? お嬢様」
「お、お嬢様……? まあいいわ、次の相手は
「また廃部かよ……」
「ただし、次勝てば……フットボールフロンティアの参加を認めてあげるわ」
その言葉に部室が沸いた。フットボールフロンティア……全国中学サッカーの頂点を決める大会だ。その大会への出場を学校が認めてくれると、そういうわけか。ただし負ければ廃部、出る出ない以前の話になる。
「浮かれてる場合かよ、俺達は次の試合に負ければ出場出来ないんだぞ」
「染岡の言う通りだ。だが……勝てばなんの問題もないんだ、そうだろ? 皆」
「よーし! 早速みんなで練習だ!!」
「……と、言いたいが俺はここで失礼するよ」
「あ、そうか……脚、大丈夫か?」
皆が河川敷に向かって練習しようと盛り上がる中、俺1人はそれに乗っかれなかった。なぜなら、先日の帝国戦で脚を痛めてしまったのだ。まあ、あんなにダメージを負った状態で大立ち回りしたんだ、身体からしたらたまったものではないんだろうな。
というわけで俺は練習に参加できない。今日はこのまま帰宅し、明日は病院だ。皆を見送り、1人悲しく帰路に着いた。悲しい。
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翌日、俺は診察のために稲妻総合病院へとやってきた。この町で1番規模がでかい病院だ。先生曰く、目を見張るほどの回復スピードらしく、練習参加が認められた。よく食べてよく寝たからな。負傷時は健全な療養こそ正義だ。
診察室を出て、早速ボールを蹴ろうと思い病院を出るつもりだったが、見覚えのある人影を見つけた。守と豪炎寺だ。病室の前で何を話しているんだ?
「よ、2人共」
「柊弥、脚はどうだって?」
「もう今日から動いていいってさ。2人はここで何を?」
「えーと、その……」
「……2人共、中に入ってくれ」
豪炎寺に病室の中へと誘われる。病室の壁には、"豪炎寺 夕香"の文字。……豪炎寺の親族か。中に入ると、幼い少女がベッドに横たわっていた。意識はない。
「妹の夕香だ。もうずっと眠り続けている……」
「妹さん、か」
「ああ。夕香は去年のフットボールフロンティア決勝の日からずっとこうなんだ」
木戸川と帝国の試合か。もしかして、豪炎寺がその試合に顔を出さなかったのは妹さんが関係しているのか?そんな疑問は口にすることなく、豪炎寺の話を聞き続ける。
夕香ちゃんは豪炎寺が試合に出ることを心の底から楽しみにしていたそうだ。そして、スタジアムへと向かう最中……交通事故にあった。意識不明の重体。依然として意識は戻らない。
「俺がサッカーをしていたせいで夕香はこんな目にあった。俺のせいで夕香が苦しんでいるのに、俺はサッカーを続けることなんてできない……って思っていたんだけどな。あの時、自然に身体が動いていたんだ」
あの時、というのは帝国との練習試合だろう。俺がベンチに下がる時、自ら代わりを買って出てきてくれたあの時。豪炎寺はそれ以降口を噤んだ。話は終わりだろう。
「……何も知らないでしつこくして、ゴメンな。このこと誰にも言わないよ……それじゃ」
そう言って守は病室を出ていった。守が考えていた以上に重い事情だったんだろう。心の底から申し訳なさそうな顔をしていた。
「なあ豪炎寺、知った口を聞くかもしれないけどさ……妹さんはお前に何を1番望んでいるんだろうな」
「夕香が、俺に……?」
「ああ。サッカーをしているお前が大好きだった妹さんが、今のお前を見たらどう思うだろう。もしかしたら自分のせいでお兄ちゃんが……なんて、今のお前と同じようなことを考えるかもな」
「……」
「サッカーをやれ、とは言わない。お前がやりたいようにやればいい。ただ……少し俺が言ったことを考えてみた方が、お前にとっても、妹さんにとっても良い方向に傾くんじゃないかな。……じゃ、また学校で」
そう豪炎寺に諭して病室を出る。サッカーをやらない、と言ったアイツの表情は、何処か苦しそうにも感じた。それはサッカーのせいで、自分のせいで妹さんを傷つけたからか? それもあるかもしれないが、俺には本当は大好きなことを我慢しているからのようにも見えた。
選ぶのはアイツ自身。ここからは俺が首を突っ込むことじゃない。
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「よう」
「加賀美君、もう脚はいいの?」
「ああ、休養の甲斐あってすっかり元通りさ」
久しぶりに部活に参加すべく、河川敷へとやってきた。ここ最近学校のグラウンド使えない率高いな……他の部が大会近いとかか? まあ河川敷で何か不便がある訳でもないから構わないが。荷物を置きにベンチに行き、秋と軽く話すとあることに気づく。……1人多い、マネージャーが。
「えーっと、音無さん? 何でここに?」
「今日からサッカー部のマネージャーやることにしたんです! よろしくお願いします!」
「と、言うわけなの」
「成程、これからよろしく」
よくよく考えてみると、秋1人じゃこの人数のマネージャーは重労働だろうし、このタイミングでのマネージャー入りはチームとしてもありがたいな。さて、ようやくサッカーが出来る……たかが数日と言われるかもしれないが、されど数日だ。帝国戦以降ボールを蹴りたくて仕方なかった俺からすればあまりに長い時間だった。
「おおおおおお!!」
他の皆より早く来たため、俺以外に誰もいないかと思っていたが、どうやら染岡がいたようだ。1人でひたすらにボールを蹴りまくっている。ボールには微弱ながらエネルギーが籠っており、必殺技の予兆を感じる。あともう少しといったところか。
「よう染岡、頑張ってるな」
「加賀美か……へへっ、お前が休んでる時からなんか掴めそうな気がしてたけど結局ダメだ……これじゃ、お前みたいなストライカーにはなれないな」
そう言う染岡の表情は暗かった。結構危ない状態だ、あれだけ溢れてた自信を失いかけてる。ここはひとつ背中を押してやるか……
「染岡、少し話そうぜ。あっちの坂にでも寝転がりながらさ」
「……でもよ」
「いいから。副キャプテン命令な」
半ば強引に染岡を引き連れ、河川敷の斜面に腰かける。途中で守達がやってきたが、先に練習しててくれと頼み、染岡と2人で話をする。
「なあ染岡、焦ってもいいことなんかないぞ?」
「……だろうな。けどよ、アイツらは豪炎寺に頼りすぎなんだ。じゃぁ俺が豪炎寺みたいに強くなれば──」
「お前は豪炎寺にはなれない」
染岡の言葉を遮る。染岡は面食らったような表情を浮かべているが、それに構わず言葉を繋げる。
「確かに皆は豪炎寺に頼りすぎている節がある。けどお前は、豪炎寺に固執しすぎな節がある。どういうことか分かるか?」
「……」
「豪炎寺の背中に囚われすぎだってことだ。アイツのシュートは凄いよ。俺のシュートよりパワーもスピードもある。けどな、俺は俺だ。アイツを目指すのは構わない、けどアイツ以外じゃアイツになれないんだよ」
染岡は何かに気づいたように大きく目を見開いた。
「豪炎寺は豪炎寺、お前はお前だ。お前自身のやり方で強くなればいい。違うか?」
「……そうだ、その通りだ! 俺は俺だ、俺だけのシュートで豪炎寺を超えるストライカーになってみせる!」
染岡が起き上がって拳を握り、ニヤリと笑ってみせた。吹っ切れたようだな。もうこれで思い詰める心配はないはず。よし、染岡の悩みも吹っ切れたことだし、久々の──
「練習するぞ、染岡!」
「おう!!」
そう言って俺と染岡は、我先にと駆け出した。皆は既にアップを終え、実戦を想定したミニゲームに入っていた。俺らもそれに混ざる。ボールを受け取り、感触を確かめつつ守りが固められたゴールへと向かっていく。よし、そこまで身体がは鈍っていないな。
「行かせないぞ、加賀美!」
「止めてみろ!」
目の前に風丸が立ちはだかる。激しく左右に揺さぶってみるが、風丸はしっかりとそれに対応してくる。俺が練習出来ていない間もしっかりとレベルアップしてるみたいだ。だが!
「何!?」
ヒールでボールを後ろに蹴り、バックステップで一瞬でボールをキープしつつ風丸と距離をとる。そのまま大きく右に駆け、左サイドの染岡にロングパスを出す。これには風丸も反応しきれない。
そしてボールを受け取った染岡は、思い切りボールを蹴り込む。先程見た時と同じように、青いエネルギーが僅かにボールから溢れているが、必殺技と呼べるまでには至っていない。
「染岡! もっと直感的に撃ち込んでみろ!」
「おう!!」
染岡は何度もボールを受け取り、何度もシュートする。数を重ねれば重ねるほど、シュートの威力は増していく。あと少し、もう少しだな。必殺技は、何回もイメージトレーニングを重ねた上で実際に身体を動かして完成するもの。今の染岡なら、ひたすら撃って撃って撃ちまくれば完成させられるはず。
そのまま数時間が経った。もう100本は撃ったのではないか、といったところだな……染岡は息を切らし、汗を滝のように流しながらもシュートを止めない。今日は無理かもしれない……そう思った時だった。
「おおおおおお!!!」
「今のは……!?」
「……すげえ、すげえよ染岡!!」
今までのシュートとは明らかに違う、もっと強力な1本がゴールネットを揺らした。急なことに、守は一切反応できていなかった。エネルギーはドラゴンの形を作り、そのシュートは青い軌跡を描きながら真っ直ぐに突き進んだ。本当にやってみせた……染岡の必殺シュートの完成だ。
「これが……これが俺のシュートだ!!」
「やったな染岡!」
「おう!」
染岡と拳を突き合わせる。皆は染岡を囲み、シュートに名前をつけようと盛り上がる。輪の中から少し離れ、辺りを見渡すとある人物の接近に気付いた。
「豪炎寺」
一瞬で皆は静まり返り、俺と同じ方を向く。一斉に視線を向けられても一切動じない豪炎寺。俺達のすぐ近くまでやって来て、こっちを見ると、こう口を開いた。
「加賀美、円堂……俺、やるよ」
「えっ……入ってくれるのか? サッカー部に」
「ああ、昨日お前と話をしてからよく考えたんだ。そして決めた……俺は、サッカーをやるよ」
その返答にまた盛り上がる。ただ1人、染岡を除いて。染岡は豪炎寺の前まで歩いていく。
「……お前には負けねえからな!」
「ふっ……望むところだ」
「おいおい、俺も忘れるなよ?」
染岡が豪炎寺に対して啖呵を切り、豪炎寺はそれに対し好戦的な態度で返した。このままだと俺のストライカーとしての居場所が無くなりそうだから焦って割り込んでやった。俺に豪炎寺に染岡、雷門のスリートップの完成だな。
「よし! 豪炎寺を混ぜて練習しようぜ!!」
「「「おう!!」」」
アニメ1話分の内容を小説1話に押し込みました。
次は尾刈斗戦ですね。