Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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超次元な世界だから野暮ですが、当たり前のように日本語で会話するの本当に謎ですよね。
中学や高校で学ぶ英語は一体どういう立ち位置なんだ、オラわっかんねえぞ。


第106話 世界に轟く雷鳴

「ここがスペインか」

 

「当たり前だけど、日本とは雰囲気がまるで違うな」

 

 

 移動に掛かった時間、実に14時間越えだ。日本からスペインまでの直通便がないから乗り継ぎが必要だったし大変だったな。飛行機の中で睡眠をとって、空港からスペインまで交通機関を乗り継いでようやく到着。このご時世簡単に色々調べられたりするとはいえ、中々に疲れた。

 

 

「さて、ここまで来れば現地のガイドさんが迎えに来てくれてるはずだが…どの人だ?」

 

「おーい、おーい!!」

 

「ん、あの人じゃないか?」

 

 

 風丸が指さした方向に視線をやると、息を切らしながらこちらへ走ってくる女性が見えた。明らかに俺達に声を上げてるし、多分そうなんだろう。

 

 

「ふーッ、ふーッ…」

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「大丈夫…ごめんなさひぃ…」

 

「大丈夫じゃなさそうなんですけど…とりあえず水をどうぞ」

 

 

 遅刻なのか何なのか分からないが、多分俺達のために急いでくれたと考えて良いだろ。後で飲もうと思って買っておいた未開封の水をとりあえず渡す。

 

 

「ふー、やっと落ち着いた…いやごめんなさいね、思いっきり駅を間違えちゃって」

 

「大丈夫ですよ、丸一日放置されたとかじゃないので」

 

「とりあえず自己紹介しましょうか。私はバルセロナオーブのサポーター、ヴァレリアよ。よろしくね」

 

「雷門中副キャプテン、加賀美 柊弥です。よろしくお願いします」

 

「同じく雷門中の風丸 一郎太です」

 

「カガミにカゼマルね。それじゃあ早速バルセロナオーブの宿舎に…と言いたいところだけど、貴方達お腹減ってない?こっちではそろそろ昼ご飯の時間なんだけど」

 

「俺はそれなりに」

 

「俺もです」

 

「オッケー!この近くにスペインならではの露店が並ぶ通りがあるから、そこに行きましょうか!」

 

 

 そうして俺達はヴァレリアさんに連れられて駅を出発した。見慣れた日本とは全く違う街並みに思わず息を呑む。俺達の当たり前とは全く違う風景がここにはあるんだ。

 少し歩くと件の通りに到着した。食べ物の露店も多く並んでるが、フリーマーケットなども盛んみたいだ。日本ではそういうイベントじゃない限り見ることは無いから、これまた新鮮に感じる。

 

 

「さて、私は二人が戻ってくるまで待ってるから先に買ってきて良いわよ。お金はある?」

 

「はい、日本のサッカー協会に支給してもらったので大丈夫です」

 

 

 そうそう、必要経費とは別に何かと使うだろうからって現地での小遣いまでもらったんだよな。それプラス母さんがお土産代も兼ねて追加で持たせてくれたから、懐にはだいぶ余裕がある。多分こことお土産以外でそんなに使わないだろうしな。

 とりあえず俺と風丸は二人で色んな店を見て回る。とりあえず炭水化物が食いたいから…お、パエリアとか良いな。それにアヒージョなんかもある。軽く小腹を満たすだけのつもりだったけど、折角だし色々食べてみるか。

 

 

「加賀美、俺はあっちの店で買ってくる」

 

「分かった。さっきの席で集合だな」

 

 

 どうやら風丸も唆られるものを見つけたようで、互いに別の店に並んだ。と言っても、俺のところは先客がいないからすぐ注文出来たけどな。

 

 

「兄ちゃん、どっから来たんだい?」

 

「日本です。バルセロナオーブってチームに合同合宿に招待してもらって」

 

「へえ、バルセロナオーブとかい!あのチームは強いぞ、何せあのカタルーニャの巨神、クラリオがいるからな!」

 

「カタルーニャの巨神…」

 

「おうよ!スペイン最強の選手とも名高いヤツでな、もし少年サッカーの世界大会があったら真っ先に代表に選ばれるだろうって話だ!」

 

 

 カタルーニャの巨神…凄い仰々しい異名だな。この屋台のおじさんの熱意を見るにその実力も本物なんだろうな。

 

 

「あいよ、パエリアとアヒージョね!合宿頑張れよ!」

 

「ありがとうございます」

 

 

 気さくな人だったな。欧州ではアジア人差別がどうこうって話を聞いたことがあるから少しだけ警戒してたがそんなことはなかった。話をするにサッカーが好きみたいだし、どっかの誰かさんが言ってたサッカー好きに悪いヤツはいないってことなのかもな。

 

 

「ヴァレリアさん、お待たせしました」

 

「あら、案外早かったわね?」

 

「屋台の人と話をしてたんですが、並ばずにいけたので」

 

「そう!じゃあ私も何か買ってきて良いかしら?さっき走ったから実はお腹ペコペコなのよ…」

 

「大丈夫ですよ、待ってます」

 

 

 先に買ってきたものを食べていることにする。…うん、美味い。本場で食べるとやっぱり日本で食べるものより美味く感じる。5分くらいすると風丸、ヴァレリアさんも戻って来た。さっきの話でふとバルセロナオーブのことが気になったので訊ねてみる。

 

 

「ヴァレリアさんはバルセロナオーブのサポーターなんですよね?」

 

「ええ!もう長いことね」

 

「何の前情報もなしに来たのでよく分からないんですけど、どんなチームなんですか?」

 

「バルセロナオーブの強みはやっぱり圧倒的なフィジカルね。けどそのプレイングは決して力押しじゃなくて、芸術じみた戦術と技術を誇っているの」

 

「芸術…」

 

「個人技を重視しているのだけれど、連携もしっかりしているわ。キャプテンのクラリオのカリスマ性が個性派揃いのチームを纏めてる感じね」

 

「個性派を纏める、ある意味円堂みたいなものだな」

 

「確かに」

 

「貴方達のチームのことも聞いてみたいわ。確か、ユースチームじゃなくて学校の部活なのよね?」

 

 

 食事をしながらヴァレリアさんから色々教えてもらう。やはりフィジカルか…日本、ひいてはアジア人と比較するとこっちの人達の方が筋肉が付きやすいって話を鬼道から聞いたことがある。そのフィジカルから繰り出される個人技、それが組み合わさる連携。全てにおいて隙が無いってことか。

 …と、考えていたらヴァレリアさんからこっちの話も聞きたいと頼まれた。別に隠す理由もないし、勿論話すことにする。

 

 

「今言ったんですけど、個性派が纏まっているっていう点では同じですね」

 

「お前も大概個性派だからな」

 

「あらそうなの?カガミは随分と大人びて見えるけど」

 

「サッカーに関わってくると個性派も個性派なんですよ。サッカーバカも良いところです」

 

「褒めんなよ」

 

「褒め…てるうちに入るかもしれないな」

 

「バルセロナオーブと比べたらフィジカルは確かに弱いと思います。けど俺達の武器はフィジカルでも個人技でもない…諦めない心です」

 

「諦めない心?」

 

「はい。どれだけ力の差がある相手でも、試合が終わるまで絶対に諦めず戦う。俺達いつもその心で勝ってきたんです」

 

「へえ…何かカッコイイわ。ジャパニーズブシドーってやつかしら?」

 

「それに近いもの、かもしれませんね」

 

 

 そんな話をしながら食事は進む。集合時間には余裕を持ってるし、何よりバルセロナオーブの合宿場はここから近いらしいので結構ゆったりと過ごしていた。

 

 

「さて、そろそろ行きましょうか」

 

「そうですね。バルセロナオーブ…楽しみです」

 

「イタリアから来る2人もどんな凄いヤツらなのか…」

 

 

 俺達は席を立って合宿場へと向かう。バルセロナオーブ、クラリオ。一体どんな凄いヤツらなんだ。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「あの人は…今はスペインに行ってるのね」

 

 

 暗い路地裏。少女が独り呟く。

 

 

「…なるほど、オーガも動き始めたか。それなら時空の修正力に弾かれてエルドラドは干渉出来ない。心配ではあるけど…あの人達も正史通り動くから大丈夫」

 

 

 彼女はただ目を瞑ってそこに座っているだけ。それなのにも関わらず、何かが見えているように独り言を話しているのは…彼女の持つ特殊な力が理由。

 

 

「エルドラドの干渉を受けたあの人の歴史は、既に大きく動き始めている。それこそ…私が覗くことも予想も出来ないくらい」

 

 

 彼女は"観測者"。その力で"過去"を覗き見る。しかし、彼女の一番知りたいモノは見えてこない。彼女の力も超えた、大きな何かに阻まれて。

 

 

「見つけたわよ」

 

「…メイア」

 

 

 突如として背後から掛かった声。それに驚いて僅かに身体が跳ねた少女はすぐさま声の方向に振り返る。そこに居たのは彼女にとっての大親友。

 

 

「貴女がフェーダを裏切ったって聞いて驚いたわよ。何かの間違いでしょって」

 

「…残念ながら本当よ。私はもうついていけない」

 

「どうして?今まで上手くやってきたじゃない…一緒に色々考えて、やっと大人達を追い詰めて。あともう少しで私達が目指した世界がやってくるのよ?」

 

「それじゃダメ。力で抑え込むのにはいつか限界が来るわ。それに…そんなの間違ってる」

 

「間違ってるのは貴女よ!フェーダの中心だったのに、急に皆を裏切って!!そんなの誰も納得するはずないじゃないっ!!」

 

 

 路地裏での押し問答。先に冷静さを失ったのはメイアと呼ばれた少女だった。

 

 

「貴女がいなくなったら計画はどうなるの!?理想を信じて結束してきた組織はどうなるの!?」

 

「計画も組織も、全部私が終わらせる…それが、私の責任だから」

 

「何で、分かってくれないのよっ…」

 

 

 依然として意見を曲げない彼女に対し、メイアは肩を震わせる。互いに譲れないものがあるからこその衝突。

 

 

「お願いだから、戻ってきてよ…」

 

 

 やがて、メイアの双眸から涙が溢れ落ちる。その涙に宿るのは…大親友と分かり合えないこと。大親友が離れていくこと。様々なことへの悲しみ。

 

 

「…それでも、それでも私はッ」

 

 

 しかし悲しきかな。その涙が更に彼女の決意をさらに押し固める。

 

 

「──待ってッ!!行かないで、ステラッ!!」

 

(ごめん、ごめんねメイア…!)

 

 

 彼女は走る。決意が揺らがぬように、振り返らないように。

 

 

(私の計画が上手くいけば、何の後ろめたさもなく皆でいられるはずだから…!)

 

 

 彼女は走る。暗い藍色の髪を揺らしながら、その場から逃げるように。

 

 

「ステラぁ…なんで、なんで行っちゃうのよ…」

 

「メイア!ここにいたのかい」

 

 

 一人路地裏に取り残されたメイア。そこにやってきたのは、彼女の想い人であるギリスだった。

 

 

「ギリス、私…ステラを止められなかった」

 

「…諦めちゃダメだ。また話せば、ステラも考えを改めてくれる」

 

「あのバカは1回言ったら聞かねえ。お前らもよく分かってんだろ」

 

 

 悲しみにくれるメイアとそれを慰めるギリス。その二人しかいなかった空間にまた新たな顔ぶれがやってくる。

 

 

「ジーク…貴方は辛くないの?だってステラは貴方の…」

 

「別に。バカに構ってる暇なんざねえんだよ…俺らには時間がねえ、そうだろ」

 

「…確かにジークの言うことも一理あるよ、メイア」

 

「そうだけど…そうだけど…!」

 

 

 突如その場に現れたジークと呼ばれる少年は半ば辛辣でも彼らにとって全うな言葉を残し、路地裏の向こうをじっと見つめていた。その場からいなくなった誰かを視線で追いかけるように。

 

 

「…バカ姉貴が」

 

 

 苛立ちを誤魔化すようにグシャグシャにしたその髪は…ステラと同じ暗い藍色だった。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「ここが、バルセロナオーブの宿舎」

 

「ええ。立派でしょう?」

 

 

 …凄いな。ユースとはいえ、中学生のチームでここまでの規模の施設。相当大規模なのか?

 

 

「じゃあ早速中に入るわよ」

 

 

 見た目通り中も凄い。お日さま園に行った時みたいな感じだ。部屋が多すぎるし何より廊下がめちゃくちゃ長い。こっちの方が断然規模はデカいんだけどな。

 

 

「食堂、浴場、トレーニング室。色々並んでる廊下を抜けて…お待ちかね、ここがバルセロナオーブのグラウンドよ」

 

「室内にグラウンド…凄いな」

 

「帝国みたいな感じか」

 

「さ、中でバルセロナオーブのメンバーが待ってるわ。行きましょうか」

 

 

 ヴァレリアさんが扉を開ける。すると眼前に広がっているのは至って普通のグラウンド。そして、その中央で俺達を待ち構えているのが…

 

 

(…バルセロナオーブ)

 

「よく来たな、日本からの客人よ」

 

 

 一人の男が前に出て口を開く。コイツだけオーラが違う⋯そうか、コイツがカタルーニャの巨神、クラリオか。

 

 

「私はクラリオ・オーヴァン。貴方達の名前を聞かせてくれ」

 

「加賀美 柊弥だ。今回はよろしく頼む」

 

「風丸 一郎太。よろしく」

 

「じゃ、私はこの辺で」

 

「ここまでありがとうございました、ヴァレリアさん」

 

 

 クラリオと自己紹介を済ませると、そのタイミングでヴァレリアさんが踵を返す。ほんの数時間とはいえ物凄く助かった。上から頼まれただけに過ぎないんだろうけど、それでもだ。

 

 

「さて、イタリアのヤツらが来るまで暇だし…日本人の実力を確かめてやるか」

 

「…ベルガモ、勝手な行動は慎め」

 

「良いじゃねえかクラリオ。俺もコイツらの実力が気になるしな」

 

「お前もか、ルーサー」

 

 

 ここから何をするのか、と考えてたらクラリオではない別のヤツらが話し出す。その視線はどことなく不愉快なものを感じさせる。

 

 

(…成程、舐められてるな)

 

 

 さっきアジア人差別は思ってたよりも無いのかとか考えてたが、サッカーの話になれば別らしい。まあ良いさ、ある程度想定はしてたことだ。

 

 

「…加賀美、俺にやらせてくれないか?」

 

「風丸」

 

「現時点で俺がどれだけ世界に通用するのかを確かめてみたいんだ」

 

 

 お望み通り受けてたってやる。そんな言葉を返そうとした時、風丸に遮られた。驚いて風丸の顔を見ると、その眼は闘争心でギラついている。随分とやる気みたいだ。

 

 

「いいぜ、俺が相手してやる。お前はもう一人の方な、ルーサー」

 

「おう」

 

「はあ…まあ良い。すまないがカガミにカゼマル、そういうことで構わないだろうか」

 

「ああ、こっちとしても望むところだ」

 

 

 どうやらコイツらと違ってクラリオは常識人らしい。この二人の行動を見て頭を抱えている。

 

 

「センターサークルの真ん中にボールを置いて、合図と共にゴールを狙い始める。それで良いだろ?」

 

「構わない」

 

「同じく」

 

 

 対決形式はシンプルな1on1。ボールを奪い合いながら相手のゴールに先に決めた方が勝ちだ。単純明快で分かりやすくて良い。

 

 

「よし風丸、見せてやれ」

 

「ああ、任せろ!」

 

 

 風丸はユニフォームに着替えて勝負の場へ向かう。俺はそれをバルセロナオーブのメンバーに混じってコートの外から観戦する。

 

 

「それでは…はじめ!!」

 

 

 誰か分からないが、バルセロナオーブのヤツが開始の宣言を出す。それと同時、風丸と…確かベルガモ。二人はセンターサークル内のボールに向かって走り出す。

 

 

「ハッハァ!お先に!」

 

「くッ、速い…!」

 

 

 先にボールを手中に収めたのはベルガモ。確保するやいなや、風丸をルーレットで一瞬で抜き去る。風丸が出し抜かれる程のスピード、それに身体捌きに一切の無駄がない。態度こそ最悪だけど、プレーの質はやっぱり本物だ。

 

 

「負けるかァ!」

 

「へぇ、スピードは大したモンじゃねえか」

 

 

 しかし風丸も負けてない。すぐさま加速し、先を走るベルガモに追い付いてみせる。そのまま二人はぶつかり合いながら進む。

 凄いな、あれ程のスピードで衝突しても一切ヤツの体幹はブレてない。体格的にはそこまで俺達と変わらないように見えるけど、目では見えない部分まで相当鍛えられてる。

 

 

「ほらほらどうした!?もうゴールの近くまで来ちまったぞ!?」

 

「ぐッ!?」

 

 

 対する風丸は押され気味だ。自分からぶつかりにいってるが、相手の方が身体が強いせいで当たり負けしている。スピードこそこの数ヶ月で見違えるほどに伸びた。けどフィジカルまでは仕上げきれなかったのが裏目に出たか。重りを着けながら動き回ったおかげである程度は鍛えられてるけど、それでもヤツには届かない。

 

 

「まだだ…まだだァ!」

 

「なっ、マジかよ」

 

 

 しかし、そこで風丸が意地を見せた。フィジカル勝負じゃ勝てないと踏んだのか仕掛けるのを止め、凄まじい加速でベルガモの正面に躍り出た。風丸の強みはスピードだ。とは言えスピードと言っても幾つかに分類される。初速、トップスピード、加速度。その中で風丸が最も秀でているのが加速度だ。分かりやすく言えば、スプリント中からトップスピードに至るまで普通のヤツが踏む段階を二、三個飛ばしているような感じか。それまでが風丸のトップスピードだと錯覚しているヤツにはそのギアチェンジがぶっ刺さる。

 

 

「もらったァ!!」

 

「バカなッ…!?」

 

 

 急に正面を取られたことに焦ったベルガモは一瞬萎縮する。その隙を風丸は見逃さない。すぐさま切り返して足元のボールを刈り取り、そのまま加速。

 

 

「…ほう」

 

「どうだ、ウチの韋駄天は」

 

「消えたと錯覚するほどの凄まじい加速だった。その一点に限れば恐らく既に世界級だろう」

 

「そうだろうそうだろう」

 

 

 隣で声を漏らしたクラリオに訊ねると、高評価が返ってくる。やったな風丸、お前のスピードなら世界に通じる。それが今証明──

 

 

「まだその一点、だがな」

 

「…何?」

 

「見てみろ」

 

 

 クラリオが静かに指差す。その方向に視線をやると…何と、大きく突き放されたはずのベルガモが既に風丸の横に並んでいた。

 

 

「スピードの最大値、トップスピードはベルガモにも及んでいない。彼のトップスピードに至るまでは評価に値するが、反対側のゴールへ向かうようなロングランではまだまだと言ったところだ」

 

「オラ、どうしたよ日本人…自分のスピードなら負けないとでも思ったか?」

 

「なッ…」

 

「これが現実だ!!さっさとそのボール寄越せェ!」

 

「がッ!?」

 

 

 ベルガモはそのスピードのままショルダーチャージを仕掛ける。さっき受け身の状態ですら風丸に押し勝てていたんだ、自分から仕掛ければどうなるか…アイツには分かってたんだろう。それを受けた風丸は堪らず転倒。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

 そのままベルガモはシュートを放つ。位置はセンターサークル付近。かなりのロングシュートだが、必殺技でもないのにそのシュートは凄まじいスピードで真っ直ぐにゴールへと突き刺さる。アイツの本職はFWか?至近距離での必殺シュートなら相当な威力になりそうだ。

 

 

「…クソォォ!!」

 

「へっ、所詮この程度か」

 

 

 それを目の当たりにした風丸は拳をグラウンドに叩き付ける。そんな風丸にベルガモは侮蔑を込めて見下している。

 …気に食わねえな。俺がバカにされんのは全然構わねえが、仲間を…風丸をバカにされんのは心底腹が立つ。

 

 

「お前、まだ遊び足りねえだろ。俺とやれよ」

 

「あ?」

 

「おい待て。お前の相手は俺だ日本人」

 

「ああ、忘れてた。じゃあ二人纏めて掛かってこいよ」

 

「テメェ、俺達をナメてんのか!?」

 

 

 こういうのは柄じゃねえが、思いっきり相手を下に見た煽りを入れてやる。俺達を完全に見下してるような二人だ、ここまで焚き付けられたら逃げらんねえだろ。

 

 

「それとも何だ?散々下に見てる日本人ごときに、二人がかりで負けるのが怖えのか?それなら仕方ねえから一人ずつで相手してやる。ほら、さっさと準備しろよ」

 

「…上等だ!!吐いた唾飲むんじゃねえぞ!!」

 

「サッカー後進国が…スペインの恐ろしさ思い知らせてやるよ!!」

 

 

 作戦成功。扱いやすくて助かるな。

 

 

「構わねえな、クラリオ」

 

「…ああ、先に勝負を仕掛けたのはこちら側だ。何も言うまい」

 

「ありがとよ」

 

 

 この場で一番偉いのは、強いて言うならバルセロナオーブのキャプテンであるクラリオだろう。そいつから了承を得られてるなら何も後ろめたいものはねえ。思う存分、コイツらをぶっ潰せる。

 

 

「加賀美、お前…」

 

「見てろ風丸、お前の仇絶対取ってやる」

 

「…すまん、任せた」

 

「謝んな、お前は精一杯やった。足りない部分はまた鍛えれば良い」

 

 

 ジャージを脱いでフィールドに立つ。俺の目の前には怒り心頭のベルガモとルーサーの両名が立ちはだかる。

 

 

「おいお前、もし負けたら分かってんだろうな?」

 

「散々イキったんだ、これで負けたら素手でトイレ掃除でも何でもしてやる。ただお前ら…自分にもその言葉が返ってくること、忘れんなよ」

 

「はッ、泣かせてやるよ日本人」

 

「それでは…開始!」

 

 

 クラリオが開始の合図を出す。直後、ヤツらは凄まじい勢いで飛び出してくる。それに対して俺は…動かない。

 

 

「おいおいどうした!ビビっちまったか!?」

 

「ボーッとしてんなら轢いちまうぞ!!」

 

 

 そうすれば当然ボールを確保するのはアイツらだ。二人もいるんだ、別に俺をワンツーで躱すなりしてさっさとゴールを狙えば良いだけだ。片方はさっきここからシュートを決めてみせた訳だしな。

 それなのにアイツらはそうしない。分かる、俺を真正面から潰したいよな?あれだけ煽られたんだ、ただボールを奪って先に点を入れるだけで気が済むはずがねえ。

 

 

 それで良い。それが俺の狙いなんだからな。

 

 

「なにボーッとしてんだ?」

 

「は、消え──」

 

 

 接触の瞬間、少しだけ左脚を前に出してサイドステップを踏む。勝手に引っかかったボールが俺と一緒に右に弾かれ、ヤツらの支配下から抜け出す。

 

 

「おいおいどうした?ビビっちまったか?」

 

「野郎ォ、本気で潰すッ!!」

 

「日本に帰れなくても知らねえからなッ!!」

 

 

 呆気にとられていたヤツらだったが、その顔を憤怒に歪めて俺に襲い掛かってくる。確かに凄えスピードだ、風丸が負けるのも無理はねえな。

 

 

(けど、そうだって分かってんなら対処法なんざ幾らでもあんだよ)

 

 

 俺はさっき風丸がやられたよりも高速のルーレットでベルガモをぶち抜く。すぐさま振り向こうとするベルガモだがそうはさせねえ。ハンドワークでヤツの背中を抑えて阻止。

 そうしてる間にルーサーがチャージを仕掛けてくるがそれは読んでる。それより早くボールに回転を掛けて送り出し、完全フリーの状態で敢えて前に出る。

 

 

「うッ!?」

 

「どうしたよ、接触がそんなに怖かったか?」

 

 

 体格が良いコイツからすれば、俺に力負けするはずがない。俺は衝突を避けてくる…くらいの想定だったろ。それなのに平然と前に出られたら確かにビビるよな、俺が演技すればファールになる可能性だってあるんだから。そのまま当たりにいっても良かった。けど一瞬萎縮したのを見てその必要はないと切り替え、煽りだけ置いてヌルりとすれ違う。

 

 

「どうした?その程度か?それでよくも潰すだのなんだのと言えたもんだ」

 

「この野郎ォ…!!」

 

「退けベルガモ…俺が潰すッ!!」

 

 

 さっきのやり取りが相当効いたのか、ルーサーが闘気を全開にする。何か仕掛けてくるな。

 

 

(肩に力が集中)

 

(重心が低い、溜めがある)

 

(コイツの武器は十中八九パワー)

 

 

 最近、視る力が鍛えられてんのか相手の些細な動きから行動を読めるようになってきてる。そのおかげで今コイツがやろうとしてる事が手に取るように分かる。

 

 

雷霆万鈞…来い、遊んでやるよ」

 

バッファローチャージッ!!吹き飛んどけクソがァ!!」

 

 

 溜めまくって生まれる超スピードを活かしたショルダーチャージ。避けなきゃ正面衝突は必至。けどそれがなんだ?むしろ望むところだ。

 

 

「オラァァッ!!」

 

 

 闘牛のようなオーラを纏いながらルーサーは俺に突進してくる。それに対して迎え撃つように俺も肩でそれを受け止めてやる。

 

 

「なッ…嘘だろ、ビクともしねぇ…!?」

 

「そんなモンか?パワー自慢」

 

「クソ…クソォォォ!!」

 

「暑苦しいんだよ…離れとけ牛野郎ッ!!」

 

「がッはァァッ!?」

 

 

 自分のパワーなら簡単にねじ伏せられるとでも思ってたんだろ。真正面から受け止めてやるとその顔が一気に歪む。自分のステージで押し勝ててないんだ、焦るよな、苦しいよな。

 

 

 だから容赦しねえ。全力でぶっ潰す。

 

 

「おい、次はテメェだスピード自慢。追い付いてみろ」

 

「ク、ソがァァァァァァ!!」

 

 

 そう焚き付けてゴールに向かって走り出すと、雄叫びを上げながらベルガモは後ろから迫ってくる…どころか、案外早く俺に並走してきた。

 

 

「どうした?仕掛けてこいよ。それともさっきの衝突見てビビったか?」

 

「ほざけ、クソ野郎がァァッ!!」

 

「お前らの語彙はクソしかねえのか?」

 

 

 最後の一言で完全にブチギレたベルガモはトップスピードを維持したまま思いっきりぶつかってくる…が、俺は一切体勢を崩さない。幾らスピードが乗って走ってる状態でもさっきのルーサーのタックルよりまだ軽い。そんなんで俺に勝てると思ったら大間違いだ。

 

 

「弱えし遅せえ。先行ってんぞ」

 

「な、待てえええええッ!!」

 

 

 もう良いだろ。どれだけコイツが全力で当たってきてもビクともしないって分かったから置き去りにしてやる。叫びながら必死に着いてきてるみたいだが、声の距離はどんどん遠くなっていく。お前は散々風丸を侮辱したんだ、徹底的に折ってやるよ。

 

 

「パワーもスピードも俺が上…お前は何なら俺に勝てるんだ?」

 

「ほざけッ、ぶっ潰すッ!!」

 

「だから、潰せてねえだろって」

 

 

 その場で止まって振り返ると、ベルガモは一心不乱に俺へと襲い掛かる。俺しか見えていないように思えるが、ちゃんとボールは狙ってきてる。まあ、触れさせてすらやらねえけどな。ダブルタッチ、ルーレット、エラシコ、ヒールリフト。ありとあらゆる技術で弄ぶ。

 

 

「…どうやら、テクニックも俺の方が上みたいだ」

 

「が、ァァァアアアアアッ!!」

 

「冷静さも俺の方が上だな」

 

「俺を忘れてんじゃねえ…潰れとけェ!」

 

「視野もだったな」

 

 

 狂ったように突っ込んでくるベルガモに軽く肩で触れてやると、バランスを崩して顔面から倒れ込む。そのタイミングを見計らって俺の死角から追いついてきたルーサーがタックルを仕掛けてくる。見えてる上に気配でバレバレだ。

 

 

「もうそろそろへばってきたか?じゃあ…終わらせてやるよ」

 

 

 明らかにコイツらの動きからキレが無くなり始めてる。散々見せつけてやったし、そろそろ潮時らしい。ボールを踏み抜いて回転を掛けると、そのボールは空気を巻き込むほど回転しながら徐々に、徐々に浮き上がる。

 

 

「させるかァァ!!」

 

「撃たせねえよ、馬鹿野郎がッ!!」

 

「遅せぇよ」

 

 

 二人が立ち上がってそのボールを両サイドから奪いに来る。が、そのタイミングでボールは激しく放電。荒れ狂う雷に身を焼かれて立ち止まった二人は、その直後に訪れるエネルギーの大放出に耐えきれずまたも吹き飛ばされる。

 

 

「終わりだ。ライトニングブラスター"V3ッ!!"

 

 

 両脚を巨大な雷の塊に突き刺す。直後その内側に秘められた圧倒的なパワーが解き放たれる。空気、地面、雰囲気。あらゆるものを焼き焦がしながらその暴力は標的を喰い破るためだけに突き進む。それを邪魔するヤツ…いや、邪魔出来るヤツはいない。

 

 

「…そこまで!!」

 

「俺の勝ちだ」

 

 

 ゴールから上がる黒煙、そしてクラリオの声が全ての終わりを物語る。これがイナズマ魂…日本の力だ。その眼に焼き付けやがれ、サッカー先進国が。




【本日の被害者】ベルガモ ルーサー
【敗因】怒らせちゃダメなヤツを怒らせた

オリオンはリアルタイムで一周しかしてないので記憶が曖昧ですね…後から何かでオリオン見返してなんか違うな…ってなったらちょっと修正入れるかもしれもせん。
そしてどんどん増えていく未来の新キャラ達。風呂敷を広げすぎ感はありますがちゃんと完結させたいですね。
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