Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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次の話で2.5章完結です!


第109話 三国親睦会、終幕

「ふん、ふふーん♪」

 

「上機嫌ね、音無さん」

 

 

 雷門中グラウンド。柊弥と風丸がスペインに赴いて不在の中でも雷門イレブンは変わらず活動していた。それどころか、更なる進化を遂げて帰ってくるであろう2人に負けまいとさらに熱が籠ってる。

 その傍らでマネージャー陣は忙しく動いていた。タオルやドリンクの準備、練習の補助などやることは山積みだ。そんな中、音無は普段よりも人一倍テンションが高かった。

 

 

「当然です!だって、あと数時間後には柊弥先輩が帰ってくるんですよ!」

 

「風丸くんのことも忘れないであげて?」

 

「勿論忘れてませんよ?ただそれ以上に、柊弥先輩が帰ってくるんです!」

 

「……あはは」

 

 

 夏未はツッコミを放棄した。

 

 

爆熱……ストォォォォォムッ!!

 

「負けるか!!正義の……鉄拳ッ!!

 

「キャプテンも豪炎寺さんも、凄い気合いだ……」

 

「そりゃそうだ。アイツらがもうそろそろ帰ってくるんだからな、負けてられないんだろ」

 

 

 歓喜に舞う音無とは違う形で柊弥達の帰りを待ちわびる者達もいた。それが特に顕著なのが、円堂と豪炎寺だ。

 

 

「ぐぐぐ……うわッ!」

 

「よしッ」

 

「凄まじい威力だな豪炎寺、そんなに加賀美達の成長が楽しみか?」

 

「勿論さ。2人共見違えて帰ってくるに違いない、俺も負けてられないからな」

 

「俺だって同じだぜ!2人に置いてかれないようにもっと強くなるんだ!」

 

 

 その勝負を制したのは豪炎寺だった。柊弥が世界で見たシュートと比較しても遜色ないほどに短期間での成長を遂げた豪炎寺は不敵に笑う。その笑みは仲間であり、ライバルでもある相棒の成長に期待してのもの。

 

 

「よーし、俺達も頑張るッスよ!加賀美さんと風丸さんを止めれるくらい強くなるッス!!」

 

『おー!!』

 

 

 そんな先輩達に触発されてか、壁山達1年生の気合いも十分。誰しもが2人の帰りを待ち侘びていた。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「よし、以上でこの合宿での練習を終わる!!皆、有意義なものに出来たか?」

 

「はい。様々な学びがありました」

 

「俺達もです。今回はご招待、ご指導ありがとうございました」

 

 

 ルーカス監督の声が響き、練習終了を知らせる。今日で6日目、明日には飛行機に乗って日本に帰ることになってる。この合宿では様々な学びを得ることが出来た。連携の真髄、より洗練された個人技、そしてトップのステージで戦うための思考力。

 

 

 だからこそ、俺は最後に試したい。

 

 

「すみません、少しだけ時間をくれませんか?」

 

「おう、どうしたカガミ?」

 

 

 俺は手を挙げながら前に出る。最後に一つ、これだけはやっておきたい。

 

 

「ヒデ、最後に戦ろうぜ」

 

「……ほう?」

 

 

 出し抜いただけだが、あの一瞬俺は確実にクラリオを上回った。けど、ヒデには最後の最後まで勝てなかった。それだけじゃない、新しい進化のきっかけを掴めたのもコイツのおかげだ。だからこそ、最後に勝ちたい。そして胸を張って日本に帰りたい。

 

 

「カガミ、俺も良いかな?最後にキミと思いっきり戦ってみたい!」

 

「フィディオ……ああいいぜ、やろう」

 

 

 ヒデの返事を待ってたらフィディオが割り込んできた。俺とヒデ、クラリオの違いに気付けたのはフィディオのおかげだ。そして、これまでの練習でお互いガチでやり合うことは無かった。確かに、俺もフィディオと全力でぶつかりたい。

 

 

「じゃあクラリオ、お前がカガミと組んだらどうだ?良い経験になるだろ」

 

「間違いないですね。ですが、私はこの試合見守ることにします。外からこそ得られる学びもありますので」

 

「そうか」

 

 

 監督がクラリオに提案するが、クラリオはそれをやんわりと拒否する。正直否定してくれて助かった。勿論クラリオと組むのも面白そうだけど、それ以上に俺はアイツと組みたい。最後の最後、お互いの成長をぶつけ合いたいんだ。

 

 

「風丸!来い!」

 

「そう言ってくれると思ってたぜ、任せろ!」

 

 

 そう、風丸だ。俺が誘って一緒にここに来たんだ、その成果を確かめたいし、俺も進化した自分を風丸に見せてやりたい。何より、日本の尖兵として2人でコイツらに勝ちたい。

 

 

「じゃあ決まりだな。早速準備を」

 

「その試合、少し待った!」

 

 

 俺と風丸vsヒデ、フィディオ。日本とイタリアの真剣勝負が始まる……と思ったその瞬間、それは遮られる。

 

 

「……轟さん?」

 

「何やら面白いことになっているじゃないか」

 

 

 声の方向に目を向けると、そこにいたのは轟さんと……なんだ?記者?

 

 

「こんにちは。WSOの広報部です」

 

「WSO……世界サッカー協会?」

 

 

 フィディオがボソッと呟く。世界サッカー協会の広報部……とやらが何でここに?マイクにカメラに、まるでこれから取材でもしようかという並びだ。

 

 

「合宿の最後にそれぞれインタビューをと思ったが、日本とイタリアの選手による勝負とは……これは世界のサッカーファンに届けねばなるまい!」

 

「世界に?」

 

「実はこの合宿で特集を組む話が進んでおりまして……少年達へのサプライズにするから黙っておけと轟さんが」

 

 

 サプライズ……には確かになったな、実際驚いた。最初にそんな特集がどうのこうのなんて話は聞いていなかったからな。

 

 

「君達の勝負、特集の中に組み込もう!この合宿がどれだけ価値のある時間だったかを何より証明するものになる!」

 

「何か、凄い話になってきたな……」

 

 

 ヒデ達との勝負は俺が望んだことだから良いが、それを急に世界へ放送する!と言われると少し尻込みしてしまう。いや、前もって言われてるとかならまだしも、全くの初耳だからな。

 

 

 ……いや、違うか。世界と戦えるプレイヤーになる、ってことはつまり遅かれ早かれ世界の注目を浴びる選手にならなきゃいけないんだ。そんなヤツが試合の様子が全世界に放送されるくらいでビビってどうする?

 

 

「俺は構わない。お前らは?」

 

「俺も。望むところさ」

 

「俺達も同じ意見だ。なあフィディオ?」

 

「はい!何の問題もありません!」

 

「決まったな。ではこちらの準備が整うまで少し時間をくれ」

 

 

 全員満場一致でその話を受け入れることになった。撮影側の準備に少し時間が掛かるようで、その間それぞれ準備時間になる。今のうちに風丸と打ち合わせをしておくか。

 

 

「風丸。アイツらの最大の武器が何か分かるか?」

 

「圧倒的な視野の広さと、正確無比な読みだな?この一週間で痛いほど味わったよ」

 

「その通り。その分野において、現時点で俺達は劣ってると言わざるをえない。影響されて磨き始めたが、まだ俺も完璧じゃないからな」

 

 

 残念ながら事実だ。徐々に意識しながら盤面を広く捉えつつ色んなパターンを予測出来るようになってきた。けどまだアイツら2人には勝ててない。勿論この試合の中でアイツらにあって今の俺にまだ足りてないものを探すが、それは二の次で良い。ゾーンを引き出せればまた話が変わってくるかもしれないからな。

 

 

「だから……俺達の最大の武器、スピードを活かして対抗するぞ」

 

「スピードを活かす……なるほど、読んでも追い付けないほどのスピードでぶち抜くってことか」

 

「そうだ。とはいえそれでもアイツらは読んでくる可能性がある。そこで……秘策だ」

 

 

 風丸にさっき思いついた秘策、もとい最終手段を耳打ちする。

 

 

「なるほどな……確かに、それならアイツらを出し抜けるかもしれないな」

 

「ああ。ただこれは一発限りの大博打だ。だから使うのはここぞの大一番だ」

 

「分かった。何にせよ俺達の強みを最大限に活かさないとだな」

 

「そういうこと」

 

「準備完了だ!いつでもいいぞ!」

 

 

 最終手段について共有し終わると、ちょうどそのタイミングで轟さんからGOサインが出る。それを聞いて俺達は立ち上がり、戦場へと脚を踏み入れる。

 

 

「なあ加賀美、せっかくだ。3点先取でどうだ?」

 

「いいぜ。すぐ終わったら勿体ない」

 

 

 センターサークルにやってくると、ヒデから思わぬ提案が飛んでくる。初日のあの勝負は1点先取ですぐ終わったが、今回は3点先取でやろうとのことだ。こちらとしても願ったり叶ったりだな、その方が長く戦り合える。

 

 

「コートの準備も完了した。半コートで構わないんだな?」

 

「ああ、それで良い」

 

「では……」

 

 

 キックオフの先攻後攻は決めない。前みたいに真ん中にボールを置いて、合図で同時に取りに行く。

 

 

「それでは……はじめ!!」

 

 

 そしてとうとうクラリオから開始の合図が出される。その瞬間俺は加速、誰よりも早くボールを奪いに行く。対してあっちは……

 

 

「なるほど、そう来たか」

 

 

 ヒデ、フィディオどちらもラインを下げた。最初の奪い合いには参加せず、カウンターを狙う作戦で来たか。アイツらとしても俺達のスピードは脅威なんだろう、そこでの勝負を避ける狙いだな。それならそれでいい、受け身に回ったならこっちから攻めるのみ。

 

 

「風丸!着いてこい!」

 

「おう!!」

 

「来るぞフィディオ!!」

 

「はい!!」

 

 

 俺は風丸と同時に走る。中央突破……は少し面倒くさそうだ。敢えて外側に大きく回って、ギリギリを攻める!

 

 

「いかせないよ、カガミ!」

 

「止めてみろよ、フィディオ!!」

 

 

 しかしそこでフィディオに追い付かれる。外から攻めることを読んでたか……いや、単純にフィディオも速いんだ。俺達の方がスピードプレイに慣れているだけであって、単純なスピードなら俺達に匹敵してくるくらいはあるってことか。多分それはヒデも一緒……まだコイツらは底を見せてないからな。

 

 

(けどそれは、俺も一緒だッ!!)

 

「鋭角ドリブルか!!」

 

 

 今までコイツらに見せたのは、ハイスピードやテクニックを活かしやすい直線のドリブル。そしてここに来るまでの緩やかな曲線をなぞるようなドリブル。だからこの場で新しい手札を切る。角度を付けての鋭角ドリブルだ。切り返しの度にフェイントを織り交ぜることで対応の難易度を跳ね上げる。

 

 

(穴が出来た、ここだ!!)

 

 

 フィディオの体勢がほんの一瞬崩れた。けどこの差し合いにおいて、その一瞬は命取りだ。瞬時に加速してフィディオを抜き去る。すぐにヒデがカバーのためにこっちに走ってくるがもう遅い。

 

 

雷霆翔破

 

 

 すぐさま雷霆万鈞と雷光翔破を同時発動。身体の内側から燃やされてるような熱を感じつつも地面を踏み抜いて超加速を得る。正真正銘、俺のトップスピードだ。ここまで一度も見てこなかったこの加速はキツいだろ!

 

 

「なんて速さだ……!」

 

 

 ヒデのそんな呟きを置き去りに俺は更に加速する。ヒデとも距離が空けば当然俺の邪魔をするヤツはいない。そのまま躊躇なく脚を振り抜いて、ゴールネットを揺らす。

 

 

「まずは1点」

 

「ナイス加賀美!!」

 

 

 これも初見殺しみたいなモンだ。多分同じ雷霆翔破を使っても次はポジショニングとかで対応される。というか、これの燃費の悪さがバレててもおかしくない。散々鍛えてきたけど、これの燃費の悪さだけはまだ解消できてない。カオス、ジェネシスとの試合でも1回しか使えてないし、練習中でも無理だった。使いたくてもその後のリスクを考えたら使えない、ってところだ。

 でもこれで良い。ヒデとフィディオの良いところを潰して勝つには、俺達の良いところを活かした初見殺しの連続が一番確実だ。

 

 

「次は……どうする?」

 

「そうだな……俺とお前のアレで一気にぶち抜こう。まずはボールを確保しないことには始まらないけどな」

 

 

 得点された側がキックオフするのは本来の試合準拠だ。だからまずはアイツらからボールを奪わなきゃならない。それがどれだけ大変なことは……語るまでもないだろ。

 

 

「通行止めだ、ヒデ」

 

「おっと」

 

 

 俺はヒデ、風丸はフィディオにそれぞれ着く。さて、さっきはオフェンス側だったが……ディフェンス側でどうコイツを止める?コイツがテクニックで俺達より明らかに格上なのは分かってる。単純なフィジカルだったら俺が勝てるが、テクニックと圧倒的な読みでそれを覆してくるはず。じゃあどうやってそれを越える?その答えは一つ、この盤面をヒデよりも高精度で読み切るしかない。

 

 

「とりあえずそのボールくれよ」

 

「お断りだな」

 

 

 ボールを奪うために脚を伸ばすと、すぐさま後ろに転がして遠ざけられる。それならとすぐさま右に飛んで回り込むようにしてボールを奪おうとするが、ボールに届く直前で腕をねじ込まれて動きを止められる。やっぱりボールタッチとかハンドワークとか、細かいテクニックがずば抜けてるな……

 

 

「……なッ」

 

「少し気付くのが遅かったな」

 

「任せてください、キャプテン!!」

 

「ぐッ、止まらない……!」

 

 

 その時やっと気が付いた。ヒデの脚元には既にボールがなかった。そのボールが進む先にフィディオがいる。当然風丸がマークに着いてたが、フィディオのパワーが予想を超えていた。風丸にマークされながらも押し進み、ボールを確保した瞬間に急加速。堪らず風丸は弾かれ、自由になったフィディオがそのままゴールへ向かう。ボールがネットを揺らしたのは時間の問題だった。

 

 

「悪い風丸、完全にヒデに弄ばれた……」

 

「いや、俺もフィディオのパワーを侮ってた。けど次は大丈夫だ、あれだけのパワーがある前提で動けば対応出来る」

 

 

 頼もしい限り。だが、俺がヒデに読み勝てないことには多分何も始まらない。さっきの読み合いは完全に負けてた。フィディオが風丸を押し退けることを想定した上で、ボールがあるとしか思えない動きで俺をその場に縛り付けてた。あの時の重心はどこも違和感を感じなかった……フェイントが上手いとか、そういうレベルの話じゃない。

 

 

「次は俺達からだ。一気にスピードで押し潰すぞ」

 

「分かった」

 

 

 再度キックオフ。風丸からボールを受け取って俺達は同時に加速する。アイツらに対応されるよりも早く、ゴール前まで辿り着く。

 

 

「流石に速いが」

 

「そう来ることは読めてる!!」

 

「はッ!?」

 

 

 連携パターンを途中から読んでくるとかじゃなくて最初からこの連携で来ることを読み切ってやがった!?初動からドンピシャで俺達の嫌なところを抑えられた……!

 

 

「流石だな、フィディオッ!!」

 

「悪く思わないでくれよ!!」

 

 

 フィジカルは高く見積っても互角。それなら正面衝突からの……

 

 

雷霆万鈞!!

 

 

 力の上乗せでぶち破る、これしかねえ!!

 

 

「パワーが上がった……けど、負けないッ!!」

 

「チィッ……!」

 

 

 俺は一切手を抜いてない。むしろ文字通り全力だ。それなのにコイツ、意地で張り合ってきやがる……

 

 

「よくやったフィディオ」

 

「はいッ!」

 

「なッ、ヒデ!?」

 

 

 思わず目の前の光景を疑った。フィディオを何とか突破するために四苦八苦しているところにヒデまで来やがった。風丸は──

 

 

「余所見厳禁だ」

 

「しまッ──」

 

 

 完全にやらかした。風丸がどうなってるのか気になって、この人数不利の状況でコンマ1秒といえど隙を見せちまった。それにヒデが気付かないはずがない。すぐさまボールを奪われ、置き去りにされる。

 

 

「クソッ……雷光翔破ッ!!

 

「フィディオ!」

 

「させるか!!」

 

「そう来ると思ったよ、風丸」

 

「はッ……!?」

 

 

 このままじゃまた点を取られる。最悪のシナリオを回避するために雷を従えながらただ走る。スピードはやはり俺の方が上、ヒデを間近まで捉えたが、そのタイミングでヒデがパスを出す。そのパスに途中で風丸が割って入る。けど、急にボールが有り得ない角度で上昇、跳んだ風丸を越えて更に高くまで跳ね上がる。

 

 

「ここだ!!」

 

 

 そしてそのボールが上昇しきった位置にフィディオも跳んでいた。曲がりながら空中に急上昇するパス、それを把握して完璧に合わせるダイレクトシュート。

 

 

「……コイツら、マジかよ」

 

 

 こんな馬鹿げた連携を見せられたら乾いた笑いも出てくる。互いが互いのベストを理解してないと、こんなの──

 

 

「……ベスト?」

 

 

 ベストな連携を読み切れず、得点された。それが今の俺達だ。そしてそのベストな連携っていうのは、お互いのベストが交差してようやく産まれる超高精度な連携。それぞれにベスト……最高が存在してるんだ。それは俺と風丸にも存在するもので、その場面ごとに自分にとっての最高は変わる。相手と対峙してる時には、最高のオフェンスとディフェンスがそれぞれ存在して、さらに数的有利不利や場所、その時の個人の能力によって無限個の最高に分岐する。

 無限の分岐、多分それがこの前一瞬だけ訪れた情報の渋滞。そこからどの最高が最も最高か……言葉として意味はおかしいが、それを選ぶことがあの時ヒデが言ってたことの真髄なんじゃないか?

 

 

 あの時俺はこれを"自分が一番阻止したいこと"として定義した。けど違う、それを"相手にとって最高の行動"って再定義すれば……多分、読める。そこから逆算して、相手の妥協案とかそこら辺まで読める。

 

 

「……来た」

 

 

 理論は完成した。後はこのプログラムを俺というコンピュータに実行させれば良い……けど、スペックが足りない。ならどうする?スペックの上乗せ、強化……ゾーンだ。

 

 

 思考の海に沈め、あらゆる最高を予測しろ。その先に……俺達の勝ちがある。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「加賀美、どうする?」

 

「……俺がヒデを出し抜く。その一瞬を見逃さず、合流してきてくれ」

 

「ヒデを?出来るのか?」

 

「出来る」

 

 

 点数は1-2。次失点したら負けかつ、相手は連続得点という絶体絶命の状況。そんな中で風丸は焦りを感じていた。最初の一点、あれはほぼ柊弥によるものだと考えている。実際には風丸がヒデに着かれていたからこそ出来たプレイなのだが、本人はそれを知る由はない。

 そして次の2点、柊弥と風丸は完全に手玉に取られていた。それらの焦りからか、柊弥の言葉に疑問を返してしまう風丸だったが、そこで柊弥の様子が何やら違うことに気が付いた。纏う雰囲気、目付きが明らかに鋭くなっている。まるで、敵として柊弥と対峙した時のような……

 

 

「……分かった。お前を信じるぜ、加賀美!」

 

「ああ。勝つのは俺達だ」

 

 

 そんな柊弥を風丸は信じた。柊弥の強さを誰よりも間近で見たのだから。

 

 

「……行くぞッ!!」

 

(加賀美の何かが変わった……やはり油断出来ないな)

 

 

 風丸からボールを受け取った柊弥は一気に加速、一直線にゴールへと向かう。だがそれが簡単に許されるはずもない。ヒデがすぐさま柊弥の正面を抑える。

 

 

(ヒデのテクニックは飛び抜けてる。けどそれを含めても、オフェンスでは俺に分がある……だからこそ敢えて攻めない)

 

 

 ジリジリと向き合う2人。先程までだったら柊弥が先手を打っていたが、今回は一切自分から動こうとしない。ヒデの一挙手一投足を注意深く観察している。

 

 

(成程……焦らしか)

 

(これで自分のペースを崩されるお前じゃないだろうけどな)

 

 

 それでも柊弥は待つ。状況が動くその瞬間をひたすらに待つ。

 

 

(……来る)

 

 

 柊弥には確信があった。柊弥とヒデのこの領域に必ず異分子が飛び込んで来ると。

 

 

「キャプテン!!挟みます!!」

 

「──待てフィディオ!!今はマズイ!!」

 

「待ってたぜフィディオ……この状況を打破するために、人数有利の状況を作りに来るよな」

 

 

 ヒデは無限のパターンの中から柊弥の狙いを予想出来ている。しかし、フィディオはそうでは無かった。直後柊弥はサイドステップでフィディオに接近。

 

 

「なッ」

 

「悪いな」

 

 

 フィディオと重なった瞬間、柊弥はハンドワークでフィディオを抑えながら入れ違うように回転。そしてその次の動きは……フィディオを盾にしてヒデからの視線を切っていた。

 

 

(見てるぜ、加賀美!!ここだろ!!)

 

「来い!!風丸ッ!!」

 

「おおッ!!」

 

 

 直後、風丸が柊弥に寄る。フィディオは体勢の立て直しが間に合ってない。そんなフィディオに遮られている柊弥の動きを視認するためにヒデは反応がほんの一瞬だけ遅れた。

 

 

迅雷風烈ッ!!

 

「くッ、やられた──」

 

 

 柊弥は雷を、風丸は風を纏いながらそれぞれ超加速。そんな2人の正面にヒデは躍り出るが、超スピードでパスワークを繰り広げながら駆けるこの双翼を止めることはほぼ不可能。

 際限なくそのスピードを上げていく2人。その過程で互いの雷と風は混じり合い、更なる加速を産む。それを止められる者はもはや誰もいない。そしてその進撃がどのような形で締めくくられるのか、2人は本能で理解し合っていた。

 

 

『はァァァァッッッ!!』

 

 

 ゴール前、2人は全く同じタイミングでボールに脚を叩き付ける。ここまで彼らを導いた風雷は余すことなくボールに注ぎ込まれ。そのシュートはまるでテンペスト。地面を抉りながらゴールに襲い掛かる。

 

 

「しゃァッ!!」

 

「やったな……加賀美ッ!!」

 

「良く完璧に合わせてくれたな……最高だぜ、風丸!!」

 

 

 これで点数は2-2、次のワンプレーが泣いても笑っても最後となった。

 

 

「すみませんキャプテン、俺が焦ったばっかりに……」

 

「いいや、それを予見して対応出来なかった俺の責任でもある……いや、違うか。選択肢として予見してたけど、それを選択してくるとは思ってなかった」

 

 

 ヒデは気付いていた。明らかに柊弥が変わっていることに。先程までの柊弥だったら、間違いなくフィジカルで勝負に出ていた。しかし、今の一連のプレーはそれとは真逆。確実にヒデを出し抜けるタイミングが訪れるまで待ち、そのうえで見事点数を並べてみせた。フィディオが飛び出さなければまた話は違ったが、そんなものは後から幾らでも言えるのが現実だ。

 

 

(アイツは俺との拮抗状態におけるフィディオの行動を完全に読んでた。さっきまでだったら絶対に気付けていなかったはず……そして風丸も、そんな加賀美を信じて完璧なタイミングで合わせてきた)

 

「キャプテン?どうしたんです?」

 

「ん?何がだ?」

 

「いえ、1人で笑ってるので気になって」

 

「笑ってた……?」

 

 

 フィディオに声を掛けられ、初めてヒデは自覚する。無意識に口角が上がっていたことを。

 

 

「……そうだな。こんな面白い展開だ、ニヤつきたくもなるさ」

 

「確かに、俺も今までで一番楽しいです!」

 

「さあフィディオ、あと1点だ。イタリアの底力を見せてやろう」

 

「はい!キャプテン!」

 

 

 四人の戦士達は決着をつけるべく構える。どんな展開になろうと、このワンプレーが最後。双方の集中力は最高潮に達する。

 

 

「フィディオ、切り込め!!」

 

「はい!」

 

「いかせるかッ!」

 

 

 ヒデからのキックオフ。ボールを受け取ったフィディオはその声を合図に一気にギアを上げる。それを抑えにいったのは風丸。

 

 

(俺とカゼマルのパワー、スピードはほぼ互角!!テクニックで置き去りにするしかない!!)

 

 

 フィディオは重心を落としつつ風丸に突進。その間合いがゼロになったタイミングでボールを外に弾く。それにつられたように風丸は外側に視線を向けるが……

 

 

(掛かった!!)

 

 

 それはフィディオの狙い通り。すぐさまインサイドで内側に戻し逆側からの突破を目指す……が。

 

 

(来た!!)

 

「ここだァッ!!」

 

「なにッ!?」

 

 

 そのフェイントを風丸は読んでいた。フィディオが揺さぶりをかけた方とは逆方向に加速した瞬間、風丸も地面が爆発したかのような加速でボールを奪い去る。最近になってフェイントを多用するようになり始めた柊弥と対面し続けた努力の賜物だ。

 

 

「そう来るよな」

 

「ヒデ!?」

 

 

 直後、風丸の目の前を何かが通過する。その正体は、フェイントを仕掛けるフィディオを突破する風丸を読んでいたヒデだった。

 

 

「お前もそう動くよな!」

 

「来るか、加賀美!!」

 

 

 そしてそのヒデを柊弥が抑える。フィディオと風丸の元へ向かったヒデを見て、やや遠回りになりつつもボールが最後に到達する地点へと寸分の狂いもなくやってきた。

 

 

「最終決戦だ……いくぞッ!!」

 

「望むところだッ!!」

 

 

 先手を切ったのは柊弥。凄まじい速さでヒデが確保しているボールに向かって脚を伸ばす。それに対してヒデが選んだのは逆サイドへのステップ。それに合わせて柊弥も地に着いてる方の片脚で跳ぶ。

 ヒデはそのままボールを後ろ気味に下げ、ヒールリフトで柊弥を越えるようにボールを弾く。しかし脚の動きとスペースの無さからそう来ると踏んでいた柊弥は、凄まじいスピードでバックステップ。ヒデとの間に空間を創り出しつつボールを視認する。

 

 

「奪う……」

 

「跳ばせないぞ……」

 

 

 柊弥は落ちてくるボールを空中で確保しようと重心を下げる。何をしてくるか読んでいたヒデはすぐさま柊弥に密着するようにブロックし、その目論見を止める。

 

 

「想定が甘えぞ、ヒデ」

 

(無理やり跳ぶかッ!!)

 

 

 しかし、鍛え抜かれた柊弥のフィジカルは並大抵のブロックでは止まらない。何と抑えられたまま跳躍、そのまま空中でヘディングを落とす。その先に風丸、フィディオが同時に走り込む。

 

 

(戻せ、風丸!)

 

(お前なら……ここで欲しがるだろ!!)

 

 

 互いに言葉は発していない。それでも風丸は理解していた、柊弥がどのタイミングで、どこにパスを欲しがるのか。事実、風丸が送り出した弾丸パスは柊弥の脚元にしっかりと収まった。

 

 

「止める……!」

 

「返してもらうぞ、そのボール!!」

 

 

 それと同時、ヒデとフィディオが柊弥の前に躍り出る。今の柊弥を止めるには数的有利を作り出さなければ不可能だと悟った2人の行動はあまりに早かった。

 機先を制したのはフィディオ。すぐさま風丸へのパスコースを潰しながらプレスを掛ける。それに対して柊弥が選択したのは受け流し。ルーレットの応用で受ける力を流し、フィディオと位置を入れ替える。

 次に動いたのはヒデ。2人による読み合いの連続は熾烈を極め、ボールを奪い奪われのループに陥る。

 

 

(クソッ、そろそろシンドいな……)

 

 

 柊弥はこの短時間の勝負を、限界突破した120%の力で戦い続けている。更に意図的か無意識か、ヒデとフィディオに読み勝つためにゾーンへの突入に成功していた。ゾーンの恩恵は凄まじい。しかし、それに見合った代償があるのも事実。常に無限に存在する盤面の分岐を予想するために思考回路は既にオーバーヒート、それを無理やり維持するために体力の多くが削られている。脳と身体、その2つを酷使するための燃料は既に尽きかけていた。

 

 

 しかし柊弥は折れない。とうに極限を迎えているというのに、執念が身体を支えていた。エイリア学園との戦いの時のように国の命運が賭かってるわけでも、フットボールフロンティアの時のように優勝という夢が賭かってるわけでもない。

 

 

(負けられねえ……俺の全存在を賭けてッ!!)

 

 

 それは勝ちへの執着。元々の柊弥の負けず嫌いという性格が妥協を許さない。

 

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

「まだまだッ!!」

 

(カガミもキャプテンも、凄まじい執念だ……今の俺じゃ、付け入る隙がどこにも見つからない!!)

 

 

 柊弥とヒデによる超高次元の読み合い。加えて先程の割り込みが柊弥に利用されたことがフィディオに介入を躊躇わせる。

 

 

(俺に出来るのはカゼマルを止めておくこと……あれ?)

 

 

 その時、フィディオは気付いてしまう。

 

 

(何で、2人の元へ!?)

 

 

 風丸が一心不乱に柊弥とヒデの領域へ走り込んでいることに。

 

 

「お前は凄えよヒデ、最後の最後まで思考面で勝つことは出来なかった……」

 

「最後?まだ勝負は続いているぞ!」

 

「いいや、もう打ち止めだ……もう勝負を決めさせてもらうッ!!」

 

 

 突如、柊弥は跳ぶ……()()()()()()()()()()()。そんな行動の意図、当然読めるはずがない。だからこそこの行動が礎となる──

 

 

「持ってけ、風丸」

 

 

 ──揺るぎない勝ちへの。

 

 

「うおおォォォォ!!」

 

(加賀美の跳躍に合わせての風丸のスライディングイン……!?こっちに寄ってきていることは分かってたが、そんな繋ぎ方をしてくるとは!!)

 

 

 地面を削りながら風丸はボールに滑り込む。その後立ち上がるために無理な体勢で仕掛けたせいか、その脚には焼けるような痛みが走る。それでも風丸は走る。自分を信じた友人へ報いるために。

 

 

「通さない……絶対に止める!!」

 

「止まるかァァァァァ!!」

 

 

 風丸の全身に力が漲る。それはかつて、真・エイリア石によって引き出された風丸の奥底に眠っていた潜在能力。かつて柊弥がそうだったように、強い感情がそれを引き出す。

 

 

"真"疾風ダッシュ!!

 

「速ッ!?」

 

 

 フィディオの視界から風丸が消える。そのスピードはまるで、ダークエンペラーズのキャプテンとして雷門イレブンを戦慄させたあの神速。フィディオは抜き去り、ヒデも走ってはいるが距離がある。そこからトップギアに達した風丸に追い付くことは柊弥ですら不可能。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 風丸はボールを踏み抜く。直後ボールの内側から溢れるのは、紅黒ではなく蒼黒の雷。

 

 

"超"轟一閃ッ!!

 

 

 かつての"絶"望を"超"えて放つその一閃は全てを斬り開き、栄光へと手を掛ける。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「見送りありがとうな、お前ら」

 

「気にするな」

 

 

 俺達は今空港にいる。とうとう日本に帰る時間になったんだ。バルセロナ・オーブの面々に加え、ヒデとフィディオまで見送りに来てくれた。

 

 

「じゃあな加賀美、風丸。次会うときはリベンジさせてもらうよ」

 

「また戦える日を楽しみにしてるよ!」

 

 

 ヒデ、フィディオから声が掛かる。あの勝負は俺と風丸の勝利で幕を閉じた。ヒデ達の予想外を突くためのあの作戦がぶっ刺さったな。けど、風丸のあの覚醒は流石に俺も想定外だった。真・エイリア石を使ってた時の動きと比べても一切見劣りしなかったぞ?

 そして俺の視野と読み。あの瞬間に確実に掴めた。相手の最高からあらゆる分岐を予測する、新しい思考スタイル。これと俺のフィジカルが組み合わされば、まだまだもっと強くなれる。

 

 

「じゃあなお前ら。次はお前らのチームと試合してみてえな」

 

「そん時は絶対俺らが勝つ。首洗って待っとけよ」

 

 

 次にベルガモとルーサー。最初のあの態度からは考えられないくらいに親しくなったな。この一週間で色々教えたりもした。コイツらの連携も凄かったな……今度会う時は単騎で打ち破りたい。

 

 

「さらばだカガミにカゼマル……我が友よ」

 

 

 そしてクラリオ。コイツの真摯さには色々考えさせられた。勿論プレーも凄かった……最後の最後までフィジカルではコイツに一切勝てなかった。最後の戦いで仕上がった新しい武器でまたコイツと戦ってみたいな。

 

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

 

「ああ」

 

 

 俺と風丸は歩き出す。この1週間は本当にかけがえのないものになった。けど、もう帰らなきゃ行けない。大切な仲間の元へ。

 

 

「じゃあな!」

 

 

 だからサヨナラだ。次会う時を楽しみにして。




書きたいもの全部詰め込んだ…これでようやく世界編にいける。
まああと1話あるんですけど…
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