「おい一之瀬、これ見ろよ」
「ん?⋯ああ、あっちも動き出したんだね」
遥か上空。2人の少年が1冊の雑誌に載っていたとある写真を見て思いを馳せていた。そこに載っていたのはFFIに出場する日本代表チームの写真。上には"結成、イナズマジャパン!"という見出しが大きく書かれている。
「楽しみだな、アイツらと戦うの」
「そうだね。きっと皆もっともっと強くなってくるはずさ⋯お、見えたよ」
写真の中の仲間達と戦う日を夢見る少年達⋯一之瀬と土門は、飛行機の窓から見えてきた景色に懐かしさを噛み締める。そう、そこは彼らにとっての新たな挑戦の場。
「⋯円堂、加賀美。次はライバルだね」
フィールドの魔術師、一之瀬 一哉は不敵に笑う。彼が命の炎を燃やしながら旧友達と戦いを繰り広げるのは⋯そう遠くない未来の話。
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「おはよう」
「おはようございます!柊弥先輩」
眠い瞼を擦りながら食堂に入ると、テーブルのセッティングをしていた春奈が出迎えてくれる。
「今日から合宿開始ですね!」
「だな。大変だと思うけどサポートよろしくな」
「勿論です!木野先輩と冬花さんと一緒に頑張ります!!」
どうしてこんなことになっているかというと、日本代表としての方針が理由だ。雷門中内に作られたこの合宿所にてアジア予選中は寝泊まりしながら練習することになっている。
アジア予選、というのが日本含む八カ国によって繰り広げられるトーナメントだ。そこから本戦に出場出来るのは一カ国のみ。アジア予選といっても、出場する国が少ないからかオセアニアからオーストラリアが参戦してるけどな。他はカタール、サウジアラビア、中国、ウズベキスタン、タイ、そして⋯韓国。俺の直感だけど、多分アイツはここにいる。じゃなきゃ、昨日の選考試合にアイツがいなかったことに納得いかないからな。
「はい加賀美くん、朝ごはん」
「ありがとう、いただきます」
「あーんしましょうか?」
「2人だけの時に頼もうかな」
合宿という体ではあるけど、事実上春奈とひとつ屋根の下ということになるな。なんて言葉に出したら、翌朝どっかの誰かによって外に放置されてそうだが。
「おはよー」
「おはようッス!」
続々と皆集まってくる。こうしてると、フットボールフロンティア決勝前のあの合宿や、エイリア学園と戦う日々で寝食を皆と共にしてたあの時を思い出す。あの時いたヤツがいなかったり、その逆もまた然りだけどな。
「⋯キャプテンが一番遅いらしいな」
「私、起こしてくる!」
程なくして約2名を除いて全員集合した。1人はそもそもここに泊まってないけど、もう1人は⋯お察しだ。これはアイツ専属の目覚まし係でも設けるか?となると、部屋が隣の俺が最有力か。
「おはよお⋯」
「だらしねえぞキャプテン、シャキッとせい」
「はい⋯」
朝食を食べ進めていると秋に背中を押されながら守がやってくる。完全に今起きたなこりゃ、目が開いてない。
「さて、練習開始は10:00からだったよな」
「ああ。12:30まで練習、昼休憩を挟んで14:00から17:00までやって終了だ」
「5時間半⋯いいな、代表合宿って感じでワクワクするよな」
「ふっ⋯お前がそんな可愛げのあることを言うとはな」
「馬鹿言え、俺は元々こんな感じだぞ」
「そうなのか?円堂」
「そうだな、1年生の頃なんかはずっとこんな感じだったぞ」
「1年生の頃の加賀美さんを知ってるのって⋯キャプテンと木野さん、染岡さんに半田さんくらいでやんスか?」
「だな。雷門イレブン創設メンバーだ」
あの頃も懐かしいな⋯部員が4人でろくに練習も出来なかったっけ。それが今こうして日本代表としてやっていこうってなってるんだから、何があるか分からないもんだな。未来から刺客が来ることもあるし。
「ご馳走様⋯洗い物して1回上戻るわ」
「洗い物なら私達がやりますよ」
「大丈夫大丈夫、全部任せっきりなのも良くないだろ」
「⋯加賀美くんは将来良い旦那さんになりそうですね」
「冬花さん、あげませんよ」
「え?」
「春奈、冬花が困惑してるからその辺で」
他愛もない話をしながら洗い物を済ませ、自分の部屋に戻る。ユニフォーム、シューズの準備はバッチリ。もういつでも練習始められるな。
「⋯あ、そういえば」
ふと思い出して荷物を漁る。確かここに入れたはず⋯あったあった。
「まさか残ってるなんてな」
引っ張り出したのは1つのノートだ。この合宿中にも勉強はしないと大会の後困るから色々持ってきたんだが、その準備中に懐かしいものを見つけてつい持ってきてしまった。
これは俺が小学生の頃に書いてたサッカーノートだ。試合の結果、練習日記、凄いと思った選手のことなんかが書いてある。今読み返してみると中々に面白い。
「ん?」
ペラペラと捲っていると、何やら拙い言葉で長々と書かれた文章と棒人間のイラストが載ってるページに辿り着いた。これは⋯そうだ、必殺技を考えてた時の殴り書きだ。懐かしいな、確か真ん中位に⋯見つけた、轟一閃のページだ。"ボールをふんでパワーをためる、かみなりがバチバチし初めたら思いっきりキックする"⋯か。初めてと始めての使い分けすらできてない時だな。
というか、今俺が編み出した必殺技ってだいたいここでイメージしてたものだな。轟一閃に雷光翔破、サンダーストーム。ライトニングブラスターは春奈のアイデアから産まれたし、雷霆一閃はエイリア学園と戦うために編み出したから別だな。
しかも、まだまだ書いてある。幼い時の発想力は凄いな⋯これからの参考になるかもしれないし、最後まで読んでみるか。
「お⋯面白そうなの書いてるな」
書かれてたのは2つ。"さい強のシュート。だれよりも強く、だれよりも早く点を取る。このシュートで世界一のサッカーせん手になる"⋯世界を目指そうって時にこれを見れたのは、何かの運命かな。そしてもう1つは"さい高の仲間と撃つ、さい強でさい高のシュート"。随分と子どもらしい発想だよな。
それにしても、世界一のサッカー選手か。しばらくそんな大層な夢を抱くことはなかった。日本一になるため、地球の命運を守るために必死だったからな。
でも、今だからこそ原点回帰しても良いのかもしれない。
「目指してみるか、世界一の選手」
そのためのチャンスが今目の前にあるんだ。目標は高い方がなんとやらってな。
ーーー
「全員揃ったな」
ノートを読み返して少し時間を潰してグラウンドに出ると、続々と皆集まってきて最後に監督とマネージャー陣がやってくる。全員集合⋯さて、監督から初めての指示だ。
「まず最初に言っておく。ハッキリ言って今のお前達では世界に通用しない」
「なッ」
皆から驚愕にも似た反応が返ってくる。確かに⋯世界の壁は高い。チームとしての完成度はクラリオ達バルセロナオーブの足元にも及ばないだろうな。それを見てきたからか、俺だけじゃなくて風丸も神妙な面持ちだ。個人のレベルなら確かに世界レベルに匹敵するヤツらもいるかもしれない。けど、サッカーは結局11人で戦うもの。チームとして強くならなきゃ勝てないんだ。
「なんだその反応は?まさか、自分たちが世界レベルだと自惚れていたわけではあるまいな。お前達のレベルなど、世界から見ればゴミ同然だ」
ゴミ⋯かは分からないが、だいたい間違ってない。そのための合宿だからな。
「特に吹雪、鬼道、豪炎寺、加賀美、円堂!私はお前達をレギュラーなどと思っていない。試合に出たければ死ぬ気でその座を勝ち取ってみせろ!」
「⋯はい!」
下手に甘やかされるより、こういう感じの方が気が引き締まる。元から自分が世界レベルで強いだなんて思ってない。コイツらと一緒にもっと強くなってみせる。そして世界一になってやる。
監督の一喝に皆気圧されてるがそのまま練習が始まる。正式なメンバーでの連携などを確認するために最初は模擬戦だ。全員で17人だから8-9で不揃いだが⋯仕方ないな。このチームには守、立向居とキーパーが2人いるから模擬戦もやりやすい。
「通さないぞ、鬼道!」
「⋯ふッ!!」
早速緑川と鬼道のマッチアップ。抜けたい方向を的確に抑える緑川に対して、鬼道が選んだのは揺さぶりからの強行突破。試合でもないのにこんなプレーする鬼道は初めて見たな。さっきの監督の言葉で火がついたか?
「風丸!」
「おう!」
「うわっ!」
緑川を突破した鬼道からパスを受け取ったのは風丸。そのまま目の前の栗松を突破し、一直線へとゴールへ向かう。だがその行く手を阻むのは綱海。
「へへっ、抜かせねえぞ⋯よっと!」
「うッ!?」
スピード任せにそのまま突っ切ろうとした風丸だったが、綱海の加速が風丸の予想を越える。そうか、風丸は綱海とあまりサッカーしたこと無かったな。海で鍛え上げられた規格外のフィジカル、分かってなきゃ対応は困難だ。
さて、人の動きを見てる場合じゃないな。俺もやることやらねば。
「綱海、こっちだ!」
「よっしゃ、任せたぞ加賀美!」
綱海からパスを受けるべく飛び出す。真っ直ぐに飛んできたボールは俺の足元に収まり、そのままゴールへと向かう。右に土方と修也が2枚、左に風丸が1枚⋯だけど左は裏に鬼道が控えてる。ここは敢えて右だな。
「止めんぞ豪炎寺!」
「ああ、行くぞ土方!」
「速ッ⋯」
「加賀美くん、こっちだ!」
土方、修也の寄せが速い。この速さで同時はキツい。そして吹雪がパスを通しやすい位置にいる⋯ここは大人しくパスだな。
「吹雪!」
完全にパスコースが潰される前にカーブを掛けつつ吹雪へパスを出す。一瞬ミスキックに見えるようなパスだが、強烈な回転が一気に軌道をねじ曲げる。
そこから更に吹雪がヒロトへパス。ヒロトの流星ブレード、守の正義の鉄拳がぶつかり合うが結果は引き分けといったところ。威力を殺しきれずともコースを逸らしたボールがポストにぶつかり、得点にはならない。
ポストに弾かれて飛んでいくボールが向かう先は飛鷹。向かってくるボールに対して振りかぶった脚を振り抜く⋯が、見事に透かした。この前の選考試合の立ち回りから謎だったが⋯もしかして飛鷹って初心者なのか?ボールに当てるっていう基礎的なことから出来てないように思える。試合中に動かないのも、どう動いたら良いか分からなかったからと考えれば納得が行く。となると、何故選ばれたのかが謎になってくる。
「くッ⋯」
そして透かされたボールを確保したのは風丸だったが、運が悪かった。それを同時に狙いに来てたのは俺側の栗松、ヒロト、緑川。3人に囲まれた風丸は流石に顔を顰める。
「風丸!土方にパスだ!」
「おう!」
「よし、任せろ!」
「させませんよ⋯!」
すぐさま鬼道が打開策を示す。風丸から最もパスを出しやすい位置にいる土方の存在を伝えることで、その窮地を切り抜けさせた。だが、音もなくそこに走り込んでいたのは虎丸。土方がワントラップ挟んだ隙を突いてボールを見事に奪い去る。
そのまま走り込む虎丸。シュートを撃つように思われたが⋯結局選んだのはパス。フリーの緑川に向かってボールを送り出した。
「よし、撃つ!」
「させないッスよ!ザ・ウォール"改"!」
「ナイスブロックだ壁山!!」
そのままダイレクトでシュートを放つ緑川。コースに割り込んだ壁山がザ・ウォールによってシュートを止めた。
「ストップだ!!」
「ん?」
良い感じに皆が機能し始めた、そのタイミングで監督から待ったが掛かる。
「壁山!どうしてもっと前に出ない?突っ立ってるだけがディフェンスか!」
「えっ⋯」
「それから風丸、何故土方にパスを出した?」
「何故って⋯」
「鬼道が指示を出したからか?お前は鬼道の指示がないとプレー出来ないのか?」
「⋯」
「加賀美、お前もだ!吹雪にパスを出した理由を言ってみろ!」
監督がダメ出ししたのは壁山と風丸、そして俺にだった。2人には言葉をぶつけるだけだったが、俺には問いを投げ掛けてきた。これは⋯答えるべきだよな。
「目の前の土方と修也を躱すのが難しいと判断したからです」
「なら何故1人だけの風丸の方に抜けなかった?鬼道との衝突を避けるためか?お前はスペインとイタリアのサッカーを見て何を学んできたんだ?」
「⋯」
⋯最もだ。ボールを前まで運ぶことを重視した結果、鬼道との読み合いの発生を避けてスピードで突破できる道を選んで結局突破できずパスを出してた。吹雪は俺に声を出してたからその後警戒されてヒロトへパスした、それなら吹雪を撒き餌に俺が風丸、鬼道を続けて突破した方が確率は高かったのかもしれない。
「⋯すみません!改めます!」
「⋯練習再開だ!」
ここまでハッキリとダメ出しされたのは初めてだ。今まではやんわりと否定されるか、否定ではなく助言として出されるかだったからな。だけどこれで折れる俺じゃねえ。高圧的な言葉だろうがなんだろうが関係ねえ、全部自分の糧にしてやる。
そこからはただひたすらにボールを追いかけた。熱が入った皆に埋もれないよう、必死になって。無我夢中で打ち込んでいたら⋯既に空は夕焼けに染まっていた。
「だはぁ⋯終わったあ⋯」
「お疲れさん」
時刻は17時、初日の練習が終わったわけだが⋯皆ぐったりしてる。だいぶハードだったからな、かく言う俺も結構キてる。あの後も監督からのダメ出しは続き、全員何かしら言われたような気がする。シンプルにこなしたメニューがキツかったこともあって皆心身ともに疲れてるな。
「円堂くん、加賀美くん。あの監督のこと⋯どう思った?」
「どうって⋯そりゃあ確かにちょっと変わってるけど、良い監督じゃないか!思ったことをはっきり言ってくれるし」
「俺も同じ。結構理解が難しい指摘をしてくるけど、それを噛み砕くのも特訓の一環じゃないか?」
「キャプテン、加賀美さん⋯」
「何にせよまだまだこれから。しっかり休んで、また明日だ」
今日の練習についてお互いに意見交換をしてると、夕飯の準備が整った。疲れた身体に染み渡る、最高の食事だ。そしてその後は皆と話しつつ湯に浸かって、やることがなくなったら明日に備えて寝る。今までとは少し違う変わったルーティーンだけど、代表合宿って感じがして楽しいな。
「なあ加賀美」
「どうした、風丸」
食事を終えて風呂に入ってると、同じタイミングで来た風丸が話しかけてくる。
「監督のあの指示⋯どういう意味なのか自分で理解しきれなくてな。お前の知恵を借りたい」
「ああ⋯何故パスした、鬼道の指示待ちだけかってアレか」
「それだ。これまで俺達は鬼道っていう司令塔を信じて動いてきた。実際アイツの指示は的確だし、信頼出来る。だから今回もそれに従ったら⋯あの指摘だ」
「指示された、自分の判断って違いはあるが⋯多分俺とお前が受けた指摘はほぼ同じような感じだろうな。持ち込む能力があるのにわざわざ最後にパスを選んだ、そこじゃないか?」
「なるほど⋯でも、実際パスは通ったから悪いことじゃないと思うんだ」
「まあな。だから俺は思ったんだ、監督は俺達に主体性を磨かせたいんじゃないかって」
「主体性?」
「受け身じゃなく自分から、受動的ではなく能動的に⋯全員がそう出来て初めて鬼道の指示が真価を発揮するってことじゃないかな」
一流ほど自分で考えて動くって言うからな。壁山とかに立ってるだけがディフェンスじゃないと言ったのも多分そこに繋がる。鬼道に言ってた何でも指示をすれば良いものじゃないってのもかな。
「そういうことか⋯それが世界と戦う、ってことなのか」
「多分な。少なくともあの時戦ったアイツらならそれが出来る。チームとして俺達はまだまだ弱い」
「⋯よし、明日からまた頑張るか。ありがとうな加賀美」
「貸し一つだな」
「マジか」
チームとして弱い、それ以上に俺個人もまだまだ貧弱。皆に負けないためにも明日から気合い入れ直さなきゃな。
ーーー
「よーし繋いでくぞ!鬼道!」
「風丸!」
「よし⋯!」
合宿二日目。昨日と同じように模擬戦形式が始まる。昨日のこともあってか動きが硬いヤツもいるが、逆に気合いが入ってるヤツもいる。特に風丸。
「へッ!」
「なッ!?」
だがそんな風丸を背後から不動のスライディングが襲う。アイツ⋯わざと後ろから仕掛けたな?危険極まりないプレーだが⋯あれが実際の試合なら、流れを再度自分達側に引き戻す有用なプレーにもなりうるな。とはいえこれはチーム内での練習に過ぎないし、試合ではファールを貰う可能性も高い。褒められたプレーでは無い。
「不動!お前わざと──」
「ナイスチャージだ、不動!」
「え?」
皆の視線が一気に監督へ向く。これは完全に疑念の目だな。皆には多分悪質なプレーとしか映ってない。それを監督が肯定してしまえば⋯どうなるかは想像に難くない。
「風丸、立てるか?」
「ああ⋯油断した、まさか後ろからとは」
「試合でも有り得ることだ。警戒して損は無い」
「そうだな、気をつけよう」
風丸に手を貸して立ち上がらせる。本人は今のプレーを気にしていないようだ。実際戦術としてラフプレーがあるくらいだからな。けど、今の流れで皆不動によりつこうとしなくなった。相手は勿論、味方までも。無理もないけど⋯それじゃ練習にならないんじゃないか。
「加賀美さん!」
「ナイスパス」
まあ良い、俺は俺のやることをやるだけだ。虎丸からのパスを受け取って一瞬フィールド全体を見渡す。誰がどこにいるのか、何を狙ってるのか⋯あらゆる情報を思考回路にインプットする。この視野を使った時の脳の疲労は半端ないけど、この練習中にどんどん使えばもっと上手く扱えるようになるだろう。だから出し惜しみはしない。
「行かせないぞ、柊弥」
「挟むぞ、豪炎寺!」
「加賀美くん!こっち!」
「加賀美!空いてるぞ!」
目の前には修也と風丸。サイドからはヒロトが走り込んできていて、パスを通せる位置に緑川もいる。考えろ、今この場面で一番ベストな行動を──
「速いッ⋯!」
「加賀美、全力だな⋯!?」
「加賀美くん!?」
「パスを出さずに、自分で運ぶつもりか!?」
修也と風丸の距離は少し空いてる。手前の修也に時間をかけなければ風丸のカバーも間に合わない。修也は昨日土方と同じような状況で俺を追い詰めてパスを出されたことを覚えているのか、僅かに緑川へのパスコースを潰す動き方をしている。それなら不意打ちも兼ねて正面突破の方が良い。
一瞬の溜めからの加速で修也をぶち抜いて、すぐさま風丸と対面。だがまず俺と同じ土俵に登らせる前に抜く。修也を突破する時に得た加速のまま風丸との距離を潰して、行動を起こさせる前に鋭角ドリブルで抜き去る。
「任せろ!」
「見えてんぜ」
そして土方、修也と風丸を壁にして最後に自分が止めるつもりで動いてるだろ。そのポジショニングなら俺もそうする。だからこそ最初からそのつもりで動く。今日は自分一人で持ち込むと思い込ませて温めておいた、とっておきのパスだ。
「なッ、テメ──」
(さあどうする、不動?)
俺が選んだのは誰にも近寄られず完全フリーな不動。土方に正面を抑えられる前にシュートと同じくらいの勢いでパスを出す。見る余裕がある不動ならこれくらい取れるだろうからな。
そしてそのパスを受け取った不動はどう動く?チャンスと踏んで自分で撃ちにいくか、それとも──
「⋯チッ、気に食わねえ」
「お前ならそうするよな」
不動の性格上絶対に俺に戻してくるだろうな。俺に借りを作りたくないだろうし、利用されるのを一番嫌うタイプだからな。しかも予想通り、意趣返しのキラーパスだ。超好都合。そのままダイレクトで踏み抜いて、一瞬で脚を振り抜く。
「"極"轟一閃」
「ぐッ、熱血──」
一番繰り出すまでの予備動作が少ない熱血パンチで守が飛び込んだが遅い。俺の轟一閃が遥かに早くゴールへと突き刺さる。
「加賀美」
「はい」
「悪くない」
「ありがとうございます」
一番点に繋げられる可能性が高い動き、昨日やるべきもそういう動きだったんだ。だからこそそれをみすみす逃した俺にあの言葉を投げた。そういうことでしょう、久遠監督。
俺のシュートが火付け役になったのか、皆昨日みたいな熱を取り戻す。どんどん動きが良くなっていくが⋯逆に悪い方に作用してるヤツもいる。
「おい緑川!さっきから何一人でやってんだよ」
「⋯ふん」
「お、おい!」
「よさないか綱海」
緑川だ。あれは焦ってるな⋯多分どうするのが正解なのか見えてない。俺がパスを出さずに動いていたのを見て模倣しているのか、或いは⋯どちらにせよ危ない状態だな。後で少し話しかけてみよう。
「今日の練習はここまで⋯加賀美、来い」
「⋯?はい」
そして二日目の練習も終了。早速緑川に声を掛けようと思ったが唐突に久遠監督から呼ばれる。
「お前、昨日誰かにアドバイスをしたか?」
「はい、風丸には」
「⋯今後誰かに求められた際は答えを言うな。そして自分からアドバイスすることは禁止する」
「⋯理由を伺っても?」
「お前なら分かる」
それだけ言って監督はどこかへ行ってしまう。アドバイス禁止⋯今やろうとしてた緑川の話を聞くことも出来なくなるな。どういう考えで動いてたのか聞いて、どうするのが良いか伝えるつもりだったから。理由は俺なら分かる⋯どういう意味だ?とにかく監督の指示だ。従わないわけにはいかないよな。
「加賀美、どうした?」
「アドバイス禁止って言われてな⋯聞かれても答えは言うなって」
「⋯益々あの監督が分からなくなってきたな」
鼻っ柱を折られたようでボーッとしてると鬼道に話し掛けられる。声色的に鬼道は監督をしっかりと疑ってるみたいだ。不動のこともある、尚更だろう。
「とにかく従うしかない。もし本当にダメそうなら⋯その時は俺達が声を上げれば良い」
「⋯そうだな」
ーーー
「久遠監督がサッカー部を潰した?」
「はい、間違いありません」
三日目。練習終了後に春奈が皆を集めて衝撃的なことを言い放つ。久遠監督がとある学校のサッカー部を潰したというのだ。寝耳に水すぎて誰も呑み込めていない。
「春奈、詳しく話してくれるか?」
「はい、勿論です」
春奈、そして目金曰く、久遠監督が潰したというのは桜崎中。その年のフットボールフロンティアではあらゆる試合を大量得点差で勝ち進んでいた強豪校らしい。本戦でも大活躍の桜崎中は見事決勝戦まで駒を進め、初の優勝を⋯という時にその事件は起きた。久遠監督が問題を起こし桜崎中は試合を棄権。しかも久遠監督は呪われた監督だとか、妙な噂話まであるらしい。
「⋯円堂くん、どう見る?」
「⋯分からない。少なくとも今はイナズマジャパンを潰そうとしてるなんて考えられない」
「でも、早く何とかしないととんでもない事になるんじゃ⋯」
「気持ちは分かる。けどどうやって告発するんだ?」
「それは⋯そうだけど」
マズイな、皆監督を疑い始めてる。特に昨日のことがあった鬼道なんかは表情が険しい。
「とにかく、今はどうしようもない。何があっても大丈夫なように今日は身体を休めるぞ」
「⋯だな」
このまま皆で色々考えてたら多分良くない方向に進む。話を有耶無耶にするために声を上げ、解散する流れに誘導した。とはいえ俺も今の話を聞いて煮え切らない部分がある。夕飯まで時間もあるし、久しぶりに散歩でもしよう。
「うぉぉおおおおッ!!」
「⋯おお」
夕暮れの河川敷にやってきた。夕焼けに照らされる河川を眺めながら色々考えようと思ってたが、思わぬ先客がいた。
「染岡!」
「ん?おお、加賀美!」
染岡だ。雷門のユニフォームを着て一人でひたすら特訓してたらしい。尋常じゃない汗の量がそれを物語っている。
「特訓終わりかよ?」
「ああ、気分転換に散歩でもしようと思ってな」
「気分転換⋯何かあったのかよ」
「ちょっと色々とな」
染岡がこっちに走ってくる。まあ染岡になら話しても良いか、河川敷の坂に寝転がりながら久遠監督についてと今のチームの現状について話す。
「呪われた監督ねえ⋯そりゃあ皆疑うわな」
「確かに気になるとこはある。けど、俺にはどうも悪い人には見えないんだ。現に俺はあの指摘から気付きを得られた」
「難しいな。別にまだ問題が起こったわけじゃないけど、他のヤツらがもしものことを考えるのも分かっちまう」
「そうなんだよなあ⋯仮にも副キャプテンだし、守はこういうのは向いてない。だから俺が何かあった時はしっかりしないとなんだけどな」
「⋯加賀美、お前の悪いとこ出てるぞ」
「え?」
「必要以上に責任を抱え込むなってことだ。俺が真・帝国との試合で負傷した時も言ったろ?真面目すぎんだよって。まあ良いとこでもあるんだけどよ⋯お前も、俺もまだガキなんだ。難しいことは大人に任せても良いんじゃねえの?」
「⋯」
「おい、何だその顔」
「いや⋯あの時を思い出してな」
そうだ、染岡が入院するってなった時にも同じような言葉を掛けられたんだった。普段直情的な染岡に諭されると、いつもとのギャップに驚かされるというか何と言うか⋯な。
「ありがとな染岡、気が楽になったわ」
「おうよ。それじゃ⋯俺が代表に這い上がるための特訓、付き合えよ」
「代表に?」
「昨日知ったんだけどな、FFIには選手負傷とかに備えて代表の入れ替え制度があるんだ。だから今は選ばれなくても、いつかお前らに追いつくために頑張り始めたんだ」
「へえ⋯良いじゃねえか。勿論付き合うぜ」
「よし、じゃあ早速なんだけどよ⋯」
俺と染岡は同時に立ち上がる。まだ合宿開始から2日しか経ってないのに、染岡と練習するのが随分久しぶりに感じる。コイツの熱意は本物だ、俺もうかうかしてたら代表の座奪い取られちまうかもな。
そうならないためにも、変に考えすぎずボール追いかけるとするか。
久遠の指摘に一日で対応してきた化け物のお話でした。そこに着目するとアドバイス禁止の理由も見えてくるかもしれませんね。
書いてて思ったけどアメリカ組って黙って急にいなくなったんだっけかな⋯アメリカ戦前後見返そう。