Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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試合描写こんなに難しかったっけ(血涙)


第120話 眠れる虎

「くッ……」

 

「ヒロト、大丈夫か?」

 

 

 辛そうなヒロトの元に駆け寄る。これは……スタミナ切れだな。ヒロトも前線で駆け回っていたからな。続行は無理だ、交代するしかない。

 

 

「すまないね加賀美くん、ありがとう……」

 

「気にするな、後は任せとけ」

 

「……大丈夫かい?」

 

 

 ヒロトに肩を貸してベンチまで向かっていると、唐突に心配の声を掛けられる。

 

 

「スタミナの話か?大丈夫だ、途中からセーブしてたからな」

 

「……そうじゃない。さっきの相手チームとのやり取り、キミが少し怒っているように感じたんだ」

 

「……まあな」

 

「キミと敵として戦った俺だから分かる。怒りはキミの力を引き出す爆薬だ。けどその抑えが効かなくなれば──」

 

「大丈夫だ」

 

 

 ヒロトの顔を覗き込むと、本気で心配してくれてる視線を俺に向けていた。こうやって気にかけてくれているのは、俺の危なかった時期を目の当たりにしていたからだろうな。

 

 

 けど、大丈夫だ。

 

 

「あの時みたいに自分を見失ったりしねえよ」

 

「……そうか、余計なお世話だったね」

 

「危なそうだったらベンチからひっぱたきにきてくれ」

 

「難しい注文だね」

 

 

 俺はヒロトを、土方が負傷した綱海をベンチへと送り届ける。交代で入ってくるのはMFとして立向居、DFとして飛鷹だ。

 

 

(さて……後半はあと20分弱)

 

 

 皆明らかに疲労が目立ってる。今フルで動けるのは交代で入ってきた2人と俺くらいか。下手すると一気に瓦解しかねない。慎重に動くべきか?逆に攻めに全振りすべきか?

 

 

「考えてる暇は……ないな」

 

 

 もう試合再開だ。とにかくやれることをやるしかない。

 

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

 

 ホイッスルが鳴り響き、直後修也からパスを受け取る。相当無茶をしなければ残り時間を常に全力で動くくらいは出来る。コイツらが対応出来ないくらいのスピードで盤面を掻き回して、皆が動きやすくする。鬼道なら生まれた綻びを的確に突いてくれるはず。

 

 

「ここは通行止めだ!」

 

「いかせねえ!」

 

 

 コイツらもさっきまではセーブしてたのか?明らかにスピードが上がってる。前半で確実に相手のスタミナを削って自分達はギアを上げる、これが全貌か。

 

 

「上等だ……」

 

「加賀美くん!」

 

「柊弥!」

 

『もらったァ!!』

 

 

 あの時を思い出せ。風丸と一緒にヒデ、フィディオと戦りあったあの時を。鍵は集中、視野、思考だ。自分の中からありとあらゆる無駄を削ぎ落とせ。このフィールドに立つ全員の動きを常に自分の中にインプットし続けるんだ。

 

 

(マジディとザックの同時プレス。けどザックが半歩速い、そこに生まれる隙間は……通れない、それなら)

 

 

「うおッ!?」

 

「速ッ」

 

 

 ヤツらとの距離を一瞬で詰める。コイツらは接触を恐れないが、どんなに強気でも見えないレベルのスピードで前に出られたらコンマ数秒止まる。そこで生まれる隙は自分の為に使わない。

 

 

「修也」

 

「ここか!」

 

 

 すぐさまバックパスで修也に戻す。パスを受けた瞬間、修也ならコイツらより奥に踏み込める。そうすれば必然的にラインは上がる。

 

 

「行かせ──なッ!?」

 

「行かせねえ、ってか?」

 

 

 修也に近かったのはザック。すぐに追いかけようとするが、俺はザックを軸にしたルーレットの要領で修也が抜ける左サイド、ザックにとって修也への最短ルートを潰す。ザックは加速が遅れ、逆に俺は勢いそのまま修也の横に並ぶ。

 

 

「柊弥、どう攻める?」

 

「俺が相手の盤面に穴を開ける。ただそこから一人で突破しきるまでは流石にキツい、軸で動くからその都度サポートを頼む」

 

「分かった、頼むぞ」

 

 

 寄越せと言うよりも早く修也からパスがくる。流石分かってやがる。

 

 

(さて、ここからどう攻め崩す?)

 

 

 ゴールまであと8人、今の突破劇で明らかに俺への警戒が跳ね上がってる。それならやることは簡単、それを逆手に取ればいい。

 

 

「セイド!メッサー!突っ込まないで様子を見ろ!」

 

「分かってる!」

 

「良いのかよ、それで」

 

 

 前に出て抑えに来ない、つまり加速するまでの空間が十二分にある。様子見して俺のトップスピードを止められるモンなら──

 

 

「止めてみろ、"真"雷光翔破ッ!!

 

 

 加速、もっと加速、さらに加速。その末に一つの壁を打ち破る。音を置き去りにするスピードで悠長に構えているヤツらを全員ぶち抜く。

 

 

「はッ──」

 

「見えない……だと!?」

 

「怯むな、止めろ!!」

 

 

 この2人を抜けば左サイドの延長線上にいるムサ、ジャメルとかち合う。ここを抜き去ればもうシュートレンジ……このまま点差を離して皆に余裕を持たせる。

 

 

「好きにはさせんッ!!」

 

「上等ォッ!!」

 

 

 ムサが大柄な身体を打ち付けてくる。備えていれば接触の瞬間は耐えられる、けど身体の強さじゃコイツには劣る。そのまま力勝負を続ければ押し負けるのは間違いなく俺だ。つまり真正面から受け止めるのは愚策、力で劣るなら技で流せ。

 

 

「ここだッ!!」

 

「バカなッ……受け流された!?」

 

 

 身体に角度を付けて受ける。大きな力を受けた身体はそのまま回転するが、それが欲しかった。回転の勢いで左手でムサの肩に触れ、それを支点にして身体を捻って更なる回転と一緒に跳躍、流れるままに手に入れた高さは視野における大きなアドバンテージ。その一瞬で皆がどこにいるのかを認識し、パスコースを導き出す。今この場におけるベストは──

 

 

「吹雪!」

 

「任せて!!」

 

 

 ハイスピードで前線を駆け抜けてきた吹雪が目で俺を呼んでいる。落下に身を委ねたまま弾丸パスを吹雪に向かって放つ。敵の注意が俺に集中している今、吹雪を止められるヤツはいない。そのまま吹雪はペナルティコースまで侵入する。

 

 

「決める……ウルフレジェンドォッ!!はァァァァァァッ!!

 

 

 吹雪の咆哮がフィールドに響き渡る。一度止められたリベンジだと言わんばかりに大気が揺れる……が、キーパーは不敵な笑みを浮かべて向き直る。

 

 

ストームライダー!!

 

 

 キーパーはさっきの俺みたいに身体を捻り、凄まじい勢いで回転し始める。その回転はやがて砂塵を巻き込み始め、巨大な竜巻となる。その竜巻はまるで意志を持っているかのようにシュートを飲み込み、狼の牙を打ち砕く。竜巻が霧散する頃にはボールはキーパーの手の中だ。

 

 

(キーパーも爪を隠してやがったな)

 

「そんな……うっ……」

 

「吹雪!!」

 

 

 今のウルフレジェンドは前半に撃ったそれより明らかに強力だった。まるで自分の中に残ってるエネルギーを殆ど注ぎ込んだような、そんなレベルの。ただそれがダメだった。シュートに注ぎ込んだ分が全てだった吹雪は燃料切れ、その場に倒れ伏す。クソッ、俺のスピードに反射して切り込んできてた時点で消耗を考慮するべきだった……!

 

 

「吹雪、大丈夫か!」

 

「ごめん加賀美くん……折角のチャンスを」

 

「バカ言うな、あのシュートチャンスはお前が走り込んでくれなきゃ作れなかった……絶対に無駄にしない、ありがとう」

 

「ふッ、やはりそろそろ限界だろう」

 

 

 俺達を嘲笑うような声がまた聞こえてくる。案の定そこにはデザートライオンのヤツらが集まっていた。

 

 

「最後に勝つのは極限まで鍛え上げられたフィジカルを持つ俺達さ」

 

「お前達の得意なチームプレーで俺達の攻撃をどこまで凌げるかな?」

 

「何だと……!」

 

 

 守がカイル達の言葉に怒りを滲ませる。皆も度重なる挑発に徐々に怒りのボルテージが上がっている。

 

 

(こういう時こそ冷静にならねえとな)

 

 

 怒って勝てる相手なら苦労はしない。悔しいがコイツらの戦略にまんまと嵌められた。吹雪もアウトになると、これで4人目の交代。もう交代出来るのは1人な上に、まだ立ってる皆も決して余裕はない。体力に余裕も無くなれば、精神に余裕も無くなってくる。ここで挑発に乗れば更にヤツらの思うつぼだ。

 

 

「皆相手にするな。プレーで見せてやるぞ」

 

「……ああ、そうだな」

 

「吹雪、ベンチに戻るぞ」

 

「うん……ありがとう」

 

 

 守と一緒に吹雪をベンチへ連れていく。

 

 

「加賀美」

 

「はい」

 

「分かってると思うが今こちらに余力は残されていない。お前がゲームの主導権を握れ」

 

「はい、全力でいきます」

 

 

 吹雪をベンチに連れて行ってその戻り際、監督から声を掛けられる。主導権を握れ……さっきみたいに相手を掻き回して、皆に繋ぐ。そういうことだな。とはいえ同じ失敗をする訳にはいかない。皆の余力を見誤って潰れさせるなんてことは絶対に避ける。

 

 

「さーて、そろそろ俺の出番かね」

 

「交代だ、虎丸」

 

「なにッ!?」

 

 

 監督が交代枠に選んだのは虎丸。そういえば、まだ不動は試合に出てないな……コイツの能力は本物。虎丸が劣るって言いたいわけじゃないけど、どういう意図なんだろう。

 

 

「考えても仕方ないか」

 

 

 さて、相手のゴールキックから試合再開だ。俺がやるべきことは……前線の支配。ボールを奪って繋ぎ、点を奪う。

 

 

「スライ!」

 

「ここだ!」

 

「バカな!?」

 

 

 キーパーからカイル、カイルからスライへのパスワーク。その流れを虎丸が早速断ち切る。虎丸は勢いそのままに相手のDF陣を突破し、一瞬でゴール前まで辿り着く。スピードもある、テクニックも優秀……なるほど、今は個人で前線を突破できる虎丸の投入がベストだったってことか。

 

 

「そのまま撃て!!虎丸!!」

 

「……!」

 

「なッ!?」

 

 

 絶好のチャンス。シュートを狙うには十分すぎる余裕があった。しかし虎丸は身を翻しバックパスを選択した。マジか……決め切れる確信が無かったのか?確かに練習中でも虎丸がゴールを決めてるところは見たことないが、そこでのバックパスは──

 

 

「もらった!」

 

「……マズいな」

 

 

 ──相手にパスするようなものだ。

 

 

「攻めろ!!」

 

「させねえよ……!!」

 

「バカな!?まだそんな余裕があるのか!?」

 

 

 ムサが大きなループパス。ただ、いち早く動き出せてたからギリ俺が反応出来る。相手が絶好のチャンスを棒に振ってくれるならすぐに攻撃に繋げたい。それなら確実に長めのパスを選ぶ、高めか低めかは見てから反応すれば抑えられる!

 

 

(右前方に2枚、正面に1枚、左前方に1枚、後ろに1枚……クソッ、位置が悪い)

 

 

 正面を抜けばシュートに持ち込めるか?いや、抜くまでの時間でカバーが間に合う。それなら……少し時間を稼いでからのパス、これしかない。

 

 

「ここから先には行かせんぞ」

 

「止めてみろよ」

 

 

 正面にいるのはカイル。コイツ優秀だな、俺がパスを遮ったのを確認してすぐ抑えに来た。寄せが早い上に隙がない……サシで抜くのは難しいか。

 

 

(いや、日和ってる時間なんてねえだろ)

 

 

 一歩踏み出す。パワープレイで押し通る──

 

 

(と、見せかけて)

 

「修也ァ!!」

 

「くッ──」

 

「あっ」

 

 

 衝突の直前、左サイドにパスを出す。けど、俺はミスをした。追い付ける、見えてると思って送り出したボールは修也の半歩先を通過し、相手の足元に。

 

 

(クソッ、こんなところで!!)

 

 

 常に100%合わせてもらえる、その考えが甘かった!あれだけ皆は余裕が無いって自分で理解してたはずなのに、何でこの局面で抜け落ちた……!

 

 

(皆に合わせてもらうんじゃない、俺が合わせる……!)

 

「攻めるぞ!」

 

 

 さっき俺が止めたロングパスを通され、相手に攻撃を許す。クソッ、さっさとカバーに回らねえと……!

 

 

「皆!マークだ!!」

 

「お、追いつけないッス!!」

 

「止める……ここだァ!」

 

 

 相手の怒涛の勢いに為す術なく攻め込まれる。DF陣もやっぱ消耗が激しい、出遅れれば相手には追い付けない。だがここで立向居が活きる。交代で投入された立向居は皆より余裕がある、だからまだ追い付けた。スライディングでボールを弾き、危機を救う。

 

 

「もらった!」

 

「風丸!こっちだ!」

 

 

 こぼれ球を風丸が確保し、セイドを突破してパスを繋ぐ。そのボールを受け取ってそのまま前線へと駆け上がる。それに続いて修也、鬼道、虎丸もラインを上げるが……修也と鬼道はマズイな、ここでのダッシュは効いてくる。

 それなら左サイドを駆け上がって、コーナーまで敵を惹きつける。極力皆にマークがいく可能性を削った上で……そこだ!

 

 

「鬼道!」

 

「ああ!」

 

「させるな!奪え!」

 

 

 一番スペースが空いてる鬼道に向かってパスを送る……が、少し出遅れた。相手のDFが鬼道を押し退けて前に出る。

 

 

「ここだ!」

 

「虎丸……!?」

 

 

 その時だった。何とそのDFをも押し退けて虎丸がパスをカットする。最高のタイミングだ、キーパーも反応が遅れてる。空いてるコースに押し出してやればそれで十分──

 

 

「……豪炎寺さんッ!」

 

「え」

 

「……ッ!!」

 

 

 そこもパス……?虎丸ならあのコースも見えてたはず。これは……修也が言ってたことが段々分かってきた。露骨にシュートを避けている。やる気がなければあそこでパスカットするなんて選択肢は出てこない、シュートだけに消極的だ。

 

 

「……爆熱ストーム!!

 

ストームライダー!!

 

 

 あのタイミングでのパス、そして残されてる修也の体力じゃ十分な威力は出せない。ウルフレジェンドのように竜巻に威力を削り取られた。

 

 

「攻め上がれ皆!!」

 

「くッ、止めるしかねえ……!」

 

 

 修也が何か虎丸に話しかけているが、そんなのを気にしてる時間なんてない。カイルからのロングスローが相手の前線に届く。マズイ、攻めに移るスピードがまた上がってる。こうなってくるといよいよキツイぞ……!

 

 

「カイル!」

 

「喰らえ!ミラージュシュート!!

 

 

 皆が止めに掛かるが、そのスピードを捉えきれない。追い付けた立向居も相手の強気なプレーに弾き飛ばされる。そのまま前線に参加したカイルがシュートを放つ。

 

 

正義の鉄拳(G3)!!

 

「チッ……!」

 

 

 しかし、そこには守がいる。正義の鉄拳はカイルのシュートを弾き飛ばした。が、そのボールはラインを割ってしまった。相手のコーナーキックから再開……まだ危機は去ってない。残り時間はもう少し、ここさえ凌ぎ切れば……勝てる。

 

 

「守りきるぞ!!」

 

「おう!!」

 

「……ふッ」

 

「何!?」

 

 

 カイルが選んだのはショートパス。ゴール付近に狙ってくると皆が前のめりになってたからこそマズい、ぶっ刺さる。

 

 

「らぁぁぁぁッ!!」

 

 

 セイドが加速し、そのままの勢いでシュートを放つ。直線的なシュート……いや、これは──

 

 

「止める……」

 

「へッ、甘えよ!」

 

「ッ!!回転が──」

 

「はあああッ!!」

 

「ここだろ、お前らの狙いはッ!!」

 

「は!?何でいんだよッ!?」

 

 

 守はそのシュートを止めるべく構えるが、抑え込む直前でボールが上に逸れる。そこに飛び込んできたザックがヘディングで押し込むが、それは俺が読んでる。そのヘディングがゴールラインを割る前に弾きとばす。

 

 

「土方!壁山!確保しろ!!」

 

「おう……!」

 

「は、はいッス!!」

 

「遅せえええ!!」

 

「あッ──」

 

 

 マイボールにすべく2人が走る……が、その間からマジディが飛び込んでくる。乱雑に撃たれたシュートだったが、それはしっかりと枠内に撃ち込まれていた。それを止める手立ては……体勢を崩した俺と守にはない。

 

 

『ゴォォォル!!なんとデザートライオン追い付いたァァァ!!何と後半ロスタイムという土壇場で同点だァァァ!!』

 

「クソッ!!」

 

 

 畜生……!弾いたボールをちゃんと誰かの足元に送れてさえいれば……!いや、そもそもあそこのショートパスを予見して動くべきだった、皆が前のめりになってるところを突いてくるって想定出来たはずだ!

 

 

「豪炎寺さん!」

 

「……」

 

 

 キックオフ。もう時間が無い。虎丸が修也にボールを渡してすぐ全員攻め上がる。このまま延長戦に縺れこめば100%スタミナ差で負ける。絶対にこのロスタイムでもう1点取る、取れなければ負けだ!

 

 

「修也ァ!!出せッ!!」

 

「おおッ!!」

 

 

 温存なんてしてられねえ、ここで全部注ぎ込む!!

 

 

雷霆万鈞……雷霆翔破ッ!!

 

「コイツ、まだこんなスピード出せるのか!?」

 

 

 正真正銘、100%を越えた120%の俺の極限だ……足を止めたその時が終わりだと思え!

 

 

「止めろ!コイツを自由にしなければ我々の勝ちだ!!」

 

「おう!!」

 

「こんなモンで止まるかァァァ!!」

 

 

 スプリント、フェイント、ドリブル。持てる全部を最大限使って相手の密集地帯を抜ける。シュートに持ち込むなら必殺技を使う余裕はない、フィジカルとテクニックで突破してみせる!

 

 

「全員で止めろッ!!」

 

「チィッ……!!」

 

 

 クソが、コイツらまだバリエーションを残してやがった……!オーストラリアのボックスロックみたいな包囲網、しかもその外側まで抑えてやがる。流石に単騎での突破は無理──

 

 

「柊弥!!こっちだ!!」

 

「最高だお前……受け取れェ!!」

 

 

 オーストラリアほどの精度ではなかったからこそ生まれた僅かな隙間。修也がその隙間を見出し、俺とのパスコースを作り出す。一瞬の迷いもなくそこにパスを通すと、修也の足元にボールは収まる。

 

 

「豪炎寺!」

 

「鬼道!頼むぞ!」

 

 

 更に鬼道がサイドから走り込み、自由に動ける位置でボールを支配下に置く。それが合図となって全員ゴール前に走り込む。

 

 

「諦めの悪いヤツらだ……そのボールを渡せ!」

 

「渡すものか……!虎丸!」

 

 

 カイルが鬼道の進路を塞ぐ。今の鬼道にカイルを突破するほどの余裕は残ってない……だからこそ鬼道は信じた。最後の最後で虎丸に託した。

 

 

「決めろ虎丸!!」

 

「撃てェ!!」

 

「〜〜ッ、豪炎寺さんッ」

 

 

 だが、虎丸は逃げた。確実に狙える撃てるチャンスを捨てて、左後方に追随する修也へとパスを出した。

 

 

「ッ、はぁッ!!」

 

「うッ!?」

 

 

 しかし、修也はそのパスを虎丸に戻した。いや、戻したって言うには語弊がある、あれはほぼシュートだ。虎丸の肩に修也のボールが突き刺さり、そのままラインを割る。

 

 

(……堪忍袋の緒が切れたか)

 

「さっきから何だ!お前のプレーは!」

 

「うッ……」

 

「試合時間は残っていないんだ、お前のベストなプレーをしろ!!」

 

「ッ、これが俺のベストです!俺のアシストで皆で点を取る!!そうすれば俺が皆の活躍を奪うこともない!!皆で楽しくサッカーが出来るんです!!」

 

「ふざけるなッ!!」

 

 

 その虎丸の言葉を聞いた瞬間、修也が激昂した。

 

 

「そんなサッカーは本当の楽しさじゃない!見ろ!ここにいるのは日本中から集められた最強のプレイヤー達。そして敵は世界だ!!俺達は世界と戦い、勝つためにここにいるんだ!それを忘れるな!!」

 

「……!」

 

「そうだぞ虎丸、全員が全力でゴールを目指さなくちゃどんな試合にも勝てないぜ?もっと俺達チームメイトを信じろって!」

 

「チームメイトを……」

 

「そうだ!今の思いを全部サッカーにぶつけろ!俺達が全部受け止めてやる!」

 

 

 気付けば皆が虎丸の元にやってきていた。そして守が虎丸に手を伸ばし、立ち上がらせる。

 

 

「虎丸、ここにはお前のプレーを受け止められないヤワなヤツはいない」

 

「鬼道さん……」

 

「そうだぜ?お前、初めて会った時に俺達に憧れてるって言ってくれたよな。それなのに俺達のことを信じられないか?」

 

「加賀美さん……」

 

「行こうぜ、俺達と世界に。このチームにはお前が必要だ」

 

「……!」

 

 

 虎丸の表情に光が戻った。俺達の言葉は届いたみたいだな。

 

 

「やろうぜ、虎丸!」

 

「……良いんですか?俺、思いっきりやっちゃっても!」

 

「俺を驚かせてみろ、虎丸!」

 

「……はいッ!!」

 

 

 空気が変わった。時間はあと3分もないってところか……上等、それだけあれば十分だ!

 

 

『さあまもなく後半終了!!イナズマジャパン、この流れを止められるか!!』

 

「絶対止めるぞ!」

 

「……ウッス!!」

 

「飛鷹……!」

 

 

 アイツ、良い動きしやがる。駆け上がってくるザックにプレスを仕掛けると、さっきと勢いがまるで違う飛鷹との衝突を恐れてパスを出す。

 

 

「カイル!」

 

「通させるか!!」

 

 

 そのパスを風丸は狙っていた。最後の力を振り絞って超加速、ザックからカイルへのラインを遮って前線へパスを繋ぐ。そのパスを受け取ったのは──

 

 

「ナイス、風丸」

 

 

 俺だ。さて……正真正銘ラストプレーだ。この熱を止めるわけにはいかない、この試合を通じてこのチームはもっと強くなれる。俺も……もっと強くなりたい。そして世界に行きたい!

 

 

雷霆万鈞……行くぞお前ら!!勝つぞ!!

 

『おお!!』

 

「なんだコイツら……!もうスタミナは残ってないはず!」

 

 

 俺が加速したのを皮切りに、DF以外は全員前線に参加。ボールを奪いに来たヤツを躱してセンターラインを突破、皆は……よし、良いポジショニングだ。

 

 

「止める……!」

 

「鬼道!」

 

「分かってる!」

 

 

 無理して突っ込みはしない。すぐにカバーに来れる位置にいた鬼道ならワンツーを成立させられる。

 

 

「次は……修也!持ち込め!」

 

「ああ!任せろ!」

 

 

 修也にパス。立ち塞がるメッサーをタックルで突破してラインを上げ、そのまま俺にボールを戻す。そして俺の右サイドから駆け上がってくるのは──

 

 

「──行け、虎丸!」

 

「はい!!」

 

 

 修也から受けたパスをそのままダイレクトで虎丸に流す。虎丸はそのまま加速し、相手の密集地帯へと突っ込んでいく。3人、しかも本職のDFが固まっているそこを突破するのは至難の業だが、繊細なボールコントロールで虎丸はそこを突破する。

 

 

「この野郎!!」

 

「甘い!!」

 

 

 激しいチャージを躱す身体のしなやかさ、崩されても倒れないボディバランス。アレは鍛えようと思って鍛えられるようなものじゃない。あれが宇都宮虎丸の本気か。

 

 

「加賀美さん!!」

 

「任せろ!!」

 

 

 サイドに大きく振るようなパス、追い付くのは楽じゃないな。けど、やっとアイツが等身大の自分を出してきたんだ、応えなきゃ男じゃねえ!!

 

 

「ッし……そのまま決めろ、虎丸ッ!!」

 

「はいッ!!ずっと封印してきた俺の必殺シュート……決めてみせるッ!!」

 

 

 最後のDFを突破し俺のボールを受け取った虎丸。そのまま地面を踏み締めると、虎丸の背後に猛々しい虎が姿を現す。

 

 

タイガードライブッ!!

 

ストームライダー!!

 

 

 虎丸のシュートは竜巻に飲み込まれる……が、その勢いは止まらない。起こされた猛獣は、その牙を容赦なく突き立てる。

 

 

「なッ、何だこのシュートは──」

 

『決めたァァァ!!宇都宮、試合終了直前にデザートライオンを突き放す強烈ゴォォォル!!』

 

「はッ、最高じゃねえか……!」

 

 

 追加点と同時、試合終了のホイッスルが鳴り響く。3-2……俺達の勝ち、アジア予選決勝戦に進出決定だ。

 

 

「あれがお前の本気か、俺達に着いてくるにはまだまだ時間が掛かりそうだな?」

 

「でも俺、まだ本気出してませんからね……先輩!」

 

「言うじゃねえか」

 

「さあ!次の試合も勝ちますよ!アジア予選くらいで立ち止まってられませんからね!」

 

 

 ……何かキャラ変わってないか?そういう意味でも眠れる虎を呼び起こしてしまったってことか?

 

 

「良いじゃないか!俺は大歓迎だぜ?」

 

「でも、何でこんな凄いヤツがフットボールフロンティアに出てこなかったんスかね?」

 

「出られないんですよ、俺まだ小六ですから!」

 

「……マジ?」

 

「マジです」

 

 

 そういうことかよ。何かおかしいと思ったんだよ、ここまでの選手なら間違いなく大会で見るよなって。それにしても小学六年生、俺の二つ下でこの実力ってことか?末恐ろしいったらありゃしないな。

 

 

「小学生だったのか、お前……」

 

「だからって甘く見てたらエースの座はもらいますよ!いつか俺、豪炎寺さんを越えてみせますから!」

 

「へえ、俺のことは眼中にないってことか?言ってくれるな?」

 

「へへっ、もちろん加賀美さんも越えますから!」

 

 

 面白い、こうじゃなきゃ張り合いがないからな。俺達はチームメイトであり高め合うライバルだ、この向上心を見習おう。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 某所。

 

 

「おい、見たか?」

 

「勿論。やはりイナズマジャパンが決勝に来たね」

 

「ふッ、そうこなくては面白くない。その為に我々はここまで来たのだから」

 

 

 イナズマジャパンがカタールに勝利し、アジア予選の決勝に駒を進めた。その知らせを受けたある男達が集まっていた。

 

 

「進化した俺の紅蓮の炎で焼き尽くしてやるぜ」

 

「凍てつく闇の冷たさ……改めて教えてあげよう」

 

「キミと戦う日が楽しみだよ……加賀美くん」

 

 

 

 更に、とある場所では……

 

 

「よくここまでの特訓を耐えたわね」

 

「監督、ありがとうございました……!」

 

 

 水溜まりが出来るほどの汗を流したとある男がフラフラと立ち上がり、拳に力を込める。

 

 

「待っていろ加賀美 柊弥……貴様との決着を今度こそ付けてみせる!」

 

 

 因縁の対決が迫っていることを、彼はまだ知らない……




さてさて、順調に一番お出ししたかった話に近づいてきたぞ…
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