Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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第15話 オタクの誇り?

 御影専農との試合の翌日。やはりあの試合の最後で豪炎寺は脚を痛めたようで、試合終了後すぐに病院にいくと、次の試合は出ないように言われてしまったらしい。所謂ドクターストップというやつだ。次の試合は決勝進出をかけた準決勝ということもあり、そんな大事な時に怪我で出場できないことを豪炎寺は負い目に感じているようだ。

 

 

「……すまん」

 

「気にするなって! 準決勝は俺達に任せとけって!」

 

「安心しろ。お前の分も俺と染岡で点を取ってやるからさ」

 

 

 俺と守の言葉に気を軽くしてくれたようで、安心したような笑みを浮かべながらこちらに背を向け、タクシーに乗り込んだ。そのタクシーの姿が見えなくなるまで手を振った後に、部室に戻って次の対戦校についての話を皆でする。

 

 

 まず片方は、俺達がフットボールフロンティア出場をかけて試合をした尾刈斗中だ。どうやら俺達に敗北した後、あの呪い……もとい、催眠術に頼ったサッカーから方向転換したらしく、猛特訓の末に純粋に強力なチームへと変貌を遂げたらしい。

 

 

 そしてもう片方は、秋葉名戸中(しゅうようめいと)。スポーツよりも学力に重きを置いた学校であり、それ故にフットボールフロンティア出場校の中では最弱の呼び声が高い学校らしい⋯……最弱の学校が準決勝まで上がってこれるものだろうか。何かありそうだ。

 

 

「な、何これ!?」

 

 

 これらの情報は全て音無さんが収集したものであり、それを読み上げていた秋が顔を赤くし素っ頓狂な声を上げる。どうした? と守が訊ねると、秋は続けてこう読み上げる。

 

 

「尾刈斗中との試合前日、メイド喫茶に入り浸っていた……ですって!」

 

「メイド喫茶ですと!?」

 

 

 その単語を聞いて一際強い反応を示した目金のことはスルーしよう。そんな連中がよく勝ち上がってきたと皆が口にする。今の話を聞く限り、俺も同じように思う。というより、そうとしか思えない。

 次に上がってくるのは尾刈斗中だ。前みたいに豪炎寺はいない。そんな声が次々と上がるが、そのざわめきを破るように部室の扉が勢いよく開かれる。

 

 

「た、大変です!」

 

「どうした!?」

 

「今ネットに準々決勝の結果がアップされたんですが……秋葉名戸が尾刈斗を破って準決勝に進出しました!!」

 

 

 再度ざわめきが広がる。一体何が起こっているんだ? お世辞にも強いとは言えなさそうな学校に、あの尾刈斗が負けるなんて。音無さんが嘘を言っているはずないが、どうにも信じ難い。

 

 

「どんなチームなんだ、秋葉名戸って」

 

「これは行ってみるしかないようですねえ……」

 

 

 目金が眼鏡をクイッと上げ、そう言いながら皆の前に出てくる。

 

 

「行くって、何処にだ?」

 

「当たり前でしょう……メイド喫茶です! あの尾刈斗中を破った秘密はきっとそのメイド喫茶にあるに違いません!」

 

 

 いや、そうはならんやろ的な目線が目金を貫く。が、目金は守に対して自分達は何も秋葉名戸のことを知らない、これは情報収集だと捲し立てる。

 筋が通っていなさそうで通っているその言い草に言いくるめられた守は、立ち上がってメイド喫茶へ行くぞと皆に宣言する。その横で目金は、勝利を確信した笑みを浮かべ、ガッツポーズを掲げていた。1発ビンタでもしといた方が良いだろうか。

 

 

 そしてそれに影響された皆も、それなら仕方ないといったノリで守と目金に着いていった。部室に残ったのはマネージャーの3人と俺だけとなってしまった。

 

 

「あら、加賀美君は行かないの?」

 

「いやまあ……うん。ちょっとやりたいことがあるしな。音無さん、ちょっといい?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

 音無さんにある映像データを要求する。しっかりと記録してあったようで、そのデータが入ったビデオカメラを手渡してくれた。

 

 

「何を確認するんですか?」

 

「ああ……ちょっとね」

 

 

 ビデオカメラに映し出された映像を確認し、それが目的のものであると確かめる。

 

 

「ありがとう。ちょっと借りていい?」

 

「はい、全体で練習する時に返してもらえれば大丈夫です!」

 

 

 了承を得られたので、しばらく借りておくことにする。さて、皆が戻ってくるまで俺はやれることをやっておこう。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

「それで、どうだったんだ?」

 

「ああ、それが……」

 

 

 日が低くなってきたところで、偵察に行った守達が帰ってきた。得られた成果を訊ねると、何やら困ったような表情で報告してくる。結論から言うと、何も得られなかったらしい。正確には、何故尾刈斗中を倒せたのかという理由がだ。行ったメイド喫茶でどうやら秋葉名戸の選手と接触出来たらしく、彼らと交流することが出来たと言う。

 

 

 どうやら、噂に違わぬマニアックな軍団だったようだ。メイド喫茶がある建物の下にいた彼らは、それぞれがそれぞれの趣味に熱中しており、サッカーに対する興味や熱意は毛ほども感じられなかったとか。俗に言う"オタク"と言うやつだ。

 そんなわけで、それを目の当たりにした皆は次の試合に対して楽観的になってしまったそうだ。実際に、俺と守が話している横で練習している皆は、何処と無く気が抜けているような気がする。

 

 

「……勝てると思うか?」

 

「勝てるか勝たないかなんて、もちろん勝つに決まってるさ! ……けど、今まで戦ってきたヤツらみたいな凄さは、正直感じなかったかな……」

 

 

 守でさえここまで言うとは、余程なんだろう。とはいえ、怪我で出られない豪炎寺に対してあんな啖呵を切った手前、当日は負けましたなんて言ったら合わせる顔がないな。どうにかして皆に気を引き締め直させなければ……

 

 

 そうだ、豪炎寺で思い出した。

 

 

「少し受けてくれよ、守」

 

「お、おう? いいぞ」

 

 

 守にシュートを受けてもらうよう頼み、コートに降り立つ。守はグローブを装着し、気合を入れるように両脚を平手打ちする。

 

 

「よし、来い!!」

「いくぞ──」

 

 

 守の準備完了を確認し、走り出す。そして、俺はあるシュートをゴールに向かって放つ。それを見た守は、驚きのあまりノータッチでゴールを許し、しばらく呆けた様な表情を浮かべる。

 

 

「す、すげえ……いつの間に!?」

 

「ちょっと、な」

 

 

 守はまさかそんなシュートが飛んでくるとは思っていなかったらしく、俺の肩を揺さぶりながら問いかけてくる。脳がかき乱される前に守の腕を振り払う。

 

 

「次の試合に向けてか?」

 

「いや……帝国戦で必要になるかもしれないらしい」

 

「らしい……? まあいいや! 帝国戦を迎えるためにも練習しないとな!」

 

 

 そう言って守は皆の方に走っていき、全体でやるぞと声を掛ける。そうだよな、まずは準決勝を勝ち残らなければ元も子もない。対戦相手に対する不安要素は拭えないままだが、そんなことはこれから腐るほどあるだろう。いちいち気にしていても何ともならないし、今はとにかく練習に力を入れるべきだろう。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「……これを、着ろと?」

 

「我が校における試合では、マネージャーは全員メイド服着用という決まりになっております!!」

 

 

 何がかんだで、秋葉名戸との試合の日がやってきた。あれから気が緩まないよう皆に声を掛けつつ練習に打ち込んできたが、やはり楽勝ムードは払拭出来なかった。正直不安なところではあるけど……まあ、ここまで来たらやるしかないというのが現実か。

 

 

 試合会場の秋葉名戸中に到着し、準備をしているとメイド服に身を包んだあちら側のマネージャーが、こちらのマネージャー陣にメイド服の着用を求めてやってきた。学校での決まりとはいえ、法的な強制力がある訳ではないので露骨に嫌そうな顔をしている夏未みたいな反応になるのが当たり前のはずなのだが、何故か音無さんと秋はノリノリで身に付けた。そして結局夏未も勢いに負けてメイド服に着替えた。

 

 

 秋葉名戸の生徒が3人を囲んで写真を撮りまくっている。夏未はこれまでに見たことがないような今にも死にそうな顔で項垂れている。人ってあんな顔が出来るものなんだな。

 心の中で南無三……と唱えていると、音無さんがこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「加賀美先輩、どうですか? 私のメイド服!」

 

「……可愛いと思うよ。秋と夏未も」

 

 

 褒めたつもりでそう言ったのだが、音無さんは何かに気づいたようなリアクションをしたと思ったら、少し不機嫌そうな顔になってしまった。何か言ってはいけないことを言ってしまったのか……? いやそんなハズは……

 

 

「……加賀美先輩って、木野先輩と夏未先輩のことは名前呼びなのに私だけ苗字でさん付けですよね」

 

「そ、そうだけど……それがどうかした?」

 

「なんか私だけ距離感じちゃうなー、私だけ違うと何だか寂しいなー……」

 

 

 そう言ってこちらに背を向けてしまう。……これはあれなのか、2人と同じように名前呼びかつ呼び捨てにしろということなのか。分からん……分からんぞ……

 

 

「……春奈」

 

「はい、なんでしょう!」

 

 

 試しにそう呼んでみると、纏っていた負のオーラが一気に180度方向転換し、ハイパー高機嫌な笑顔で進行方向も180度転換された。俺のとった行動は正解だったようだ。まずい、なんか恥ずかしくなってきた。女子の呼び方を急に変えただけなのに、ここまでむず痒くなるなんて。

 

 

「なんでもない」

 

「ふふっ、そうですか」

 

 

 多分今の俺の顔は人には見せられないほど赤面しているだろう。俺の誇りと尊厳を保つべく、音無さん……じゃなくて春奈に背を向けて控え室に向かった。俺の背後で3人が何か話しているのが聞こえたが、残念ながら内容までは聞き取れなかった。人の会話を盗み聞きするなんてことするつもりないから構わないが。

 

 

「さて、今日のポジションを確認するぞ! ……柊弥、どうかしたか?」

 

「何でもない、気にするな」

 

「そっか。今日の豪炎寺の代わりだけど……」

 

「僕に任せてください!」

 

 

 そう言って目金が手を挙げ立ち上がる。練習でも試合でもいつも引っ込みがちな目金だが、今日は雰囲気がまるで違う。戦いに赴く戦士のそれだ。最初出場予定だった土門と、豪炎寺本人の推薦もあって目金が出ることに決定した。もう1人の控えは、少し負傷を引きずっているマックスだ。

 

 

「よーし皆、勝って決勝いくぞ!」

 

 

 円陣を組み、気合いを入れ直してグラウンドへと赴く。そこには既に秋葉名戸の選手たちが集合していた。1人1人観察してみるが、守達が言っていた通り確かに今まで戦ってきたヤツらのような"圧"が感じられない。だが、彼らは実際にこの準決勝の場へと登り詰めてきた。当然のことだが、油断は禁物だ。

 

 

『さあフットボールフロンティア準決勝!! 試合開始です!!』

 

 

 俺達のキックオフからスタート。染岡にボールを任せ、2人で攻め上がる。目金も後ろから追いかけてくる。

 

 

「ここは通さないぞ!! 魔王め!!」

 

「あぁん!?」

 

「貰った!!」

 

 

 早速1点をもぎ取るつもりだったが、染岡がよく分からないテンションに調子をかき乱され、ボールを奪われてしまった。確かに染岡は強面だが、魔王というよりはヤのつく者……という冗談は心の片隅に閉まっておこう。

 

 

 さて、秋葉名戸のプレーだが……あまりにやる気が感じられない。空想の中のロールプレイングをしているようなヤツもいれば、飛行機の真似をしながらドリブルするヤツもいる。どんなテンションでプレーしようが構わないが、1番気になるのはボール回しだ。

 何と秋葉名戸は、最初に染岡からボールを奪って以降、延々とパス回しを続けて一向に攻めてこないのだ。ボールを奪おうしても、やたらとパスが正確で奪い取れない。まるで勝負を避けているかのような立ち回りだ。

 

 

「クッソ、アイツらふざけやがって……!」

 

「落ち着け染岡、怒っても何も変わらないさ」

 

 

 憤慨する染岡を宥める。最初に屈辱的なボールの奪われ方をしているし、染岡は特に苛立ってそうだ。

 

 

 何度もボールを奪おうと試みるが、やはり全て避けられる。パスコースを潰したと思ったら、また別のコースを繋げられるし、例のノリでこちらのマークを振り払ってくる。俺は見て見ぬふりをしているからいいが、問題は他の皆だ。

 

 

 試合前からの気の緩み、そしてこのプレーが相まって、本来なら絶対抜かれないであろう場面も相手の突破を許している。こんな理由で上手くパスカットが出来ず、相手はひたすら逃げのサッカー。こちらは攻めるわけでもなく守るわけでもない、本当に準決勝なのかを疑いたくなるような状況だ。

 

 

『ここで前半終了のホイッスル!! 0-0のまま後半を迎えます!!』

 

「……マジかよ」

 

 

 思わずそう呟く。文字通り何もしないまま前半が終わってしまった。釈然としないな……

 

 

「まるで攻めてこないですね……この僕にも予想外でしたよ」

 

「お前、アイツらのサッカー理解出来たんじゃないのかよ?」

 

 

 前半の有様を皆嘆いている。ボールが取れない、ノリについていけない。そんな声が次々と出てくる。これには守も上手く声をかけられないようだ。

 

 

「得体がしれない……」

 

「……お前もな」

 

 

 尾刈斗の時といい、影野のツッコミってなんでこんなに自分に返ってくるような物ばかりなのだろうか。面白いからそれはそれでいいが。このハーフタイム中にも、ヤツらはゲーム機片手に勤しんでいる。監督はスイカを貪っている。案の定理解できない。だが、ここまであんな態度でも後半は更に警戒を強めるべきだ。 春奈のデータ曰く、ヤツらが点を決めているのは後半から。つまり、ここまでの試合でも今と同じような状況である可能性が非常に高いということになる。

 

 

 なら、後半のどこかで勝負をしかけてくるはず。そこに付け込めばさえすれば……逆にこちらから点数を取れるはずだ。

 

 

「とにかく、後半は何としてもボールを奪ってこちらから攻めるぞ、いいな!?」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

 そう声をかけてコート内に戻っていく。さて、ヤツらはどう動く……? 

 

 

「よし、行くぞ!!」

 

「何!?」

 

 

 開始のホイッスルが鳴った瞬間、ヤツらは一気に攻め上がってきた。どこかのタイミングでとは思っていたが、開始直後か! 

 

 

 不覚にも反応が遅れてしまい、ヤツらの進撃を許してしまう。後ろに控えている皆がボールを奪いにかかるも、ボールをスイカと入れ替える必殺技やらなんやらでどんどん攻め込まれてしまう。こうしてはいられない、俺も後ろに下がって何とかしなければ。

 

 

「行けえい! ヒーローキック!!」

 

「おうりゃああああ!! ど根性バットォ!! 

 

 

 ボールを受け取った9番は、何と10番の脚を掴んで野球のバットのように持ち上げる。そして軽く蹴りあげたボールに対し、10番をフルスイング。勢いを得たボールはゴールへと進んでいく。

 

 

「なッ……!?」

 

 

 あまりの光景に守は反応が遅れる。ゴッドハンドはもちろん、熱血パンチも、通常のキャッチすら間に合わない。が、ボールがゴールラインを越えるギリギリのところで、滑り込ませるように脚を伸ばして何とか阻止できた。威力自体は大したことないのが救いだった。

 

 

「柊弥、悪い!」

 

「気にするな……次は頼むぞ」

 

 

 ようやくボールに触れた。反撃開始といこう。

 

 

「いかせないぞ!」

 

 

 攻め上がってきた勢いのまま、大人数が俺の周りに群がってくる。前半と同じようなテンションでこちらに飛びかかってくるが、俺はそれには惑わされない。抜け穴だらけなマークを一瞬で振り払い、そのままゴールを目指す。パスは正確でもブロックはそうでもないようだ。

 

 

「加賀美、そのまま決めろ!」

 

「いくぞ! 五・里・霧・中!! 

 

 

 ゴール前の3人は、一斉に砂埃を巻き上げ始めた。五里霧中というその言葉の意味の通り、ゴールの方向を隠すための必殺技か。だが甘い。視界が封じられたところで、ここまでサッカーをやってきた経験でゴールの場所なんて分からないわけが無い! 

 

 

轟一閃"改"! 

 

 

 砂煙に包まれながらも、ゴールがあるべき方向に向かって一閃。細かい砂が目に入ってくるも、技の発動になんら問題はない。雷鳴が轟いた後、雷がゴールへと向かっていき、先制点をもぎ取る……はずだった。

 

 

「……何?」

 

 

 砂煙が晴れた先には、ゴールの後ろを転がるボールの姿が。外した……? そんな馬鹿な、確かにゴールの真ん中を狙ったはずだ。あの場所にあるということは、シュートはゴールを大きく超えていったということ。つまり、キーパーがボールを上方向に弾く必要がある。だが、お世辞にもあのキーパーに轟一閃を止められるとは思えない。疑問は晴れないまま。

 

 

 その後も俺が、染岡が、少林や半田が何度もシュートを撃つ。だが、あの砂煙に包まれたシュートはどれも同じようにゴールから外れてしまう。

 徐々に焦りが募る。相手が点数を取っているわけでもないが、こちらも点数を取れていない。このまま決定点を得ることが出来なければ何がどうなるか分からない。そのためにもここで1本決めておかなきゃならない。

 

 

 考えろ。何故シュートが軒並み外れていく? あの砂煙がシュートのコースをずらしている? いや違う。そんな威力ならあの砂煙に包まれた俺達も、相手も動くことすらままならないはず

 じゃあ答えは? 一向にそれは浮かんでこない。

 

 

「加賀美!!」

 

「……やるしかない!」

 

 

 とにかく、シュートチャンスがあるならひたすらに撃っていくしかない。ライトニングブラスターを使うか……? いや、もしここで外したらこの先がキツい。あの技はやはり消耗が大きすぎる。

 

 

轟──

 

「シュートを撃ってはいけません!!」

 

 

 目金? その声につられ、一瞬シュートを躊躇うとその隙にボールをライン外へ弾き出されてしまう。そして砂煙が晴れる。中から姿を現したのは……何故かゴールポストを押している秋葉名戸の選手達と、それを阻止している目金の姿。そうか、シュートが入らなかったのは──

 

 

「ゴールをずらしていたのか!」

 

「シュートが入らなかった原因はこれか!」

 

 

 そういうことだったのか。傍から見たら反則だろうが……確か大会ルールにゴールをずらしてはいけないなんて記載はなかった。そこに漬け込んだって訳か……

 

 

「これが君達の勝ち方ですか!?」

 

「僕達は……絶対に優勝しなければならないんでね!」

 

 

 その卑怯なやり方に怒る目金に対し、相手は悪びれた様子もなく開き直る。その一言に顔を歪めると、目金はこちらへと戻ってくる。

 

 

「加賀美君、僕に任せてはもらえませんか?」

 

「分かった、頼むぞ!」

 

 

 相手のやり口を見抜いた目金がこう言うんだ、賭けてみる価値はある。スローインはこちらから。ボールを投げる半田に目金に回すよう指示すると、二つ返事で了解してくれる。

 

 

 そしてスローイン。頼んだ通りに半田は目金にボールを出した。手口が暴かれた秋葉名戸は、何としてでもボールを奪い取らんと目金に襲いかかる。が、目金は自分に向かってくる者に対し、"オタク"としての誇りを説き、メンタルを砕きながら前線へ上がってくる。

 そのままゴールの近くまでやってくると、性懲りも無く五里霧中を繰り出す秋葉名戸。

 

 

「まだこんなことを続けるのですか!?」

 

「これがオタクの必殺技だ!!」

 

「君達にオタクとしての"誇り"はないのですか!! オタクとは1つの道を真摯に極めた者、君達のようなルールを破るような者達がオタクを名乗らないでください!」

 

 

 その一言でメンタルブレイクし、砂埃を撒き散らす脚を止めてしまう。キーパーは焦ってゴールの横に移動する。1人でゴールをずらすつもりなのだろう。

 

 

「染岡君、ドラゴンクラッシュです!」

 

「で、でもよ!」

 

「いいから!!」

 

 

 考えがある、と染岡を説得する目金。その勢いに負け、ドラゴンクラッシュを放つ染岡。

 

 

ゴールずらし!! 

 

 

 なんとキーパーはその肥えた身体をゴールに叩きつけ、本当に1人でゴールをずらしてしまった。このままではまたドラゴンクラッシュはゴールを外れてしまう。

 

 

 そう思ったその時だった。目金がドラゴンクラッシュの軌道上に飛び出し、顔面でそのコースを修正してみせた。目金の眼鏡は砕け、鼻から血が噴き出す。だが、目金が今まで見せたことのなかった"意地"は、俺達の誰にも奪えなかった1点をもぎ取って見せた。

 

 

『決まったァァァ!! 雷門中の目金が身体を張って染岡のドラゴンクラッシュに軌道を修正!! そのシュートが見事1点を奪ったァァァ!!!』

 

 

 そしてその瞬間、試合終了のホイッスルが高らかに響いた。得点板には1-0の文字。俺達は準決勝に勝ったのだ。つまり……

 

 

「決勝進出だ!!」

 

 

 守がそう叫ぶと、皆大盛り上がり。肩を組んで決勝進出を喜びあっている。

 

 

「立てるか?」

 

「え、ええ……メガネはクラッシュしましたがね」

 

「良い気合いだった⋯勝てたのはお前のおかげだ、目金」

 

「ふふ⋯僕も雷門イレブンの一員ですからね」

 

 

 目金に手を差し伸べ、立ち上がらせる。足元も覚束無い目金に肩を貸しながらベンチへ向かっていると、秋葉名戸の選手達が集まってくる。

 

 

「君は何故そんなボロボロになってまで……」

 

「ふふ、サッカーに全力になるというのも悪くないものですよ」

 

 

 その一言に感銘を受けたのか、これからは卑怯なことをせず、正々堂々サッカーに向き合うと宣言した秋葉名戸イレブン。これにて一件落着、めでたしめでたし……ということで良いのだろうか? 

 

 

「加賀美」

 

「おう豪炎寺。……目金には驚かされたな」

 

「ああ……何はともあれ、これで決勝だな」

 

「そうだな……楽しみだ」

 

 

 染岡とハイタッチを交わす。決勝までには豪炎寺の怪我も完治しているだろう。万全の体制で帝国にリベンジできる。とうとうここまで来たんだ。待ってろよ鬼道、帝国イレブン。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

「率いるチームを決勝戦まで進めるとは、流石だな冬海」

 

『も、申し訳ありません……』

 

 

 帝国学園総帥室。電話の向こうの冬海に遠回しな圧をかけるこの男は、帝国学園総帥であり、帝国サッカー部監督影山 零治(かげやま れいじ)

 

 

「雷門中をどんな手を使ってでも決勝戦に参加させるな。もし失敗すれば……分かっているな」

 

 

 そう言って影山は電話を切る。携帯を置き、机上に並べられたパソコンに目を落とす。そこには、円堂や柊弥達、雷門イレブンの姿が映し出されていた。

 

 

「ククッ、雷門中……これも奇妙な縁だな」

 

 

 影山は妖しく笑う。その笑みの裏に隠された闇を知るものは、誰一人いない。

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