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「ほらパスパス!!」
「土門さん!!」
壁山にマークされている影野に土門がパスを要求し、その後を追いかけてくるマックスをどんどん追い放していく。昨日とは打って変わって調子良さそうじゃないか。昨日はあれだけ暗かったのに。
そうそう、暗かったといえば春奈だ。昨日の帰り道、あんなことがあったから今日顔合わせるのがとてつもなく気まずかったが……
『こんにちは
放課後に入り、部活が始まる前に会ったのだが、やたらと上機嫌だった。その後も避けられたりするなんてことはなかったので俺の杞憂だったのかもしれない。だとしても昨日の俺の発言は思い出しただけで赤面ものだが。まあ何はともあれ、春奈も土門も調子を取り戻してくれたようで何よりだ。
「加賀美!」
「おう! 行くぞ守ッ!!」
土門からのパスを受け取り、守が待ち構えるゴールへと突っ込んでいく。喰らえ、俺の研究の成果!!
「おわッ!? 凄いぜ柊弥、前よりもまた質が上がってるじゃないか!」
「そうだな……その目の下の隈が原因か?」
「はは……まあな」
放ったシュートは守のキャッチごとゴールへ突き刺さった。後ろから豪炎寺に指摘された通り、俺は今日かなりの徹夜をしている。春奈を送って家に帰り、飯風呂を済ませたあとずっと映像やらなんやらで研究していたのだ。そのおかげで気付いた時には時計の針は"3"を指していた。さすがにまずいと思って寝たが、まあ当然のように睡眠が足りず、授業中にもうたた寝してしまった。
「まあ、これで俺達のシュートも完成に近づくはずだ」
「そうだな」
「……ん? 冬海先生じゃないか、珍しい」
守の視線を追ったその先には、腕を組みながら俺達の練習を眺めている冬海先生の姿があった。あの人が練習を見に来るなんてこと、今まで数えるくらいしかなかった。決勝戦の直前だからということだろうか? しかもその後ろから夏未もやってきた。試合以外で雷門サッカー部が全員集合している珍しい状況だ。
やってくるや否や、夏未は冬海先生に話しかける。すると間もなく、冬海先生の焦ったような、驚いたような声が俺達の耳に入ってくる。何でも、夏未が遠征用のバスを冬海先生に動かして欲しいとか。その要望に対して冬海先生は、異常なほどに取り乱している。まずいことが起こった時のそれだ。
何かと理由をつけて拒否しようとしているが、夏未は徹底的に逃げ道を塞ぐ返答でその逃げを許さなかった。
「冬海先生!」
「は、はいぃ!」
とうとう押し負けたようだ。重い足取りで車庫へと向かっていく冬海先生。そして夏未に着いてくるように言われた俺達がその背中を追う。
いざバスに乗り込んでからも、冬海先生の抵抗は続く。何故ここまで断ろうとしているんだ? 夏未の言う通り、私有地である校内なら大型免許がなくとも問題はないし、少し動かして停車させるだけなら俺達でも出来そうなことだ。であるのにも関わらずこの拒否の仕方。何か俺達の想像の及ばない事情でもあるのか?
「土門? 顔色悪いぞ」
「え、ああ。なんでもないんだ」
ふと横を見ると、土門が顔を青くしていた。先程とはまるで違う。怪我をしたような素振りも見せていないし、具合が悪いわけでもなさそうだ。とりあえず、本人が大丈夫と言っているので放っておく。何かあった時のため横にいておこう。
「あれおかしいですね、バッテリーが……」
「ふざけないでください!!」
夏未が一喝。それに怯んだ冬海先生はとうとうエンジンをつけた。が、一向にバスは進み始めない。それにしても、夏未は何故冬海先生を追い詰めるような真似を? 何の考えもなしにこんなことするやつではないはず。
「で、出来ませんッ!!」
「どうしてです?」
「どうしてもです!!」
動かせと促す夏未に、とうとうハッキリと拒否の意を示した冬海先生。すると夏未は、懐から1枚の手紙を取り出した。その手紙にはこれから起ころうとしていた恐ろしい犯罪の内容……冬海先生によるバスへの細工について記されているらしい。
段々話が見えてきた。バスへの細工と、バスの発進の拒否……ブレーキオイルを抜いて、いざ俺達がバスで移動している最中に、事故に合わせようといったところか。ここで自分がバスを動かせば、自分で事故を起こすことになる。それが理由だろう。しかし、何故こんなことを?
「一体なんのためにこんなこと!」
「あなた達を決勝戦に参加させると困る方がいるのですよ……」
「帝国の学園長か! 帝国のためなら、生徒がどうなっても良いというのか!?」
豪炎寺が強い口調で冬海に問い詰める。帝国の総帥か、確かにフットボールフロンティアの連覇記録を伸ばすためには、試合の以前に対戦相手を消してしまった方が都合が良い。まさか、これまでの帝国の歴史の裏には全てそんな思惑が……?
「君達は知らないんだ、あの方がどれだけ恐ろしいか……」
「ああ、知りたくもない!」
「貴方のような教師は学校を去りなさい! これは理事長の言葉と思ってもらって結構よ!」
夏未による実施的な解雇処分が言い渡される。それを聞いて、冬海は悪態をつきながらこちらに背を向け去っていく……と思われたが、ふと立ち止まってこちらに振り返る。
「しかし、この雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけとは思わないことです……ねえ、
「なっ!?」
「そんな……!」
そう言って冬海はどこかへ行ってしまう。最後に残していった爆弾により、皆の視線が土門へと向けられ、更に土門は顔色が悪くなる。これが理由か。そして皆から次々に非難の声が浴びせられる。
だが待てよ? もしかしたら、冬海の行動を手紙で密告したのは土門なんじゃないか? 事前にそれを把握し、露呈させることができる人間は同じ帝国絡みの土門しかいないように思える。
「皆少し落ち着け! 夏未、その手紙を見せてくれないか」
「ええ、いいわよ」
皆の注目を集め、夏未から密告の手紙を受け取り目を通す。……やはり、間違いない。
「実際に見てみて確信した。これは土門の筆跡だ。冬海の悪事を教えて俺達を守ろうとしてくれたのは土門、お前なんじゃないのか?」
「……ああ、その手紙は俺が出したものだ。けどそれと同時に、俺が帝国のスパイだったのも本当だ……」
土門は俯きながらそう告白する。土門が今自分で言った通り、帝国のスパイであったことは否定できない事実なんだろう。だがそれがどうしたというのだろう。
「でも、お前は最後に俺達を選んでくれた。俺達のことを本当の仲間と思ってくれたからじゃないのか?」
「それは……」
「皆はどう思う? 本当に心が帝国にあるなら、このまま黙っておけば目的は達成出来たはずだ。それなのにも関わらず土門は、俺達を選んでくれたんだ!」
「そうだ! 俺達はこれまで一緒に練習してきた仲間じゃないか! 信じようぜ、土門を!!」
俺の言葉に守がそう続けると、皆は顔を見合わせ、しばらく何かを考えた後に口々に土門に対して許しと感謝の言葉を投げかける。土門は少し戸惑った素振りを見せた後に、笑顔で皆の手を取った。
「加賀美! ……ありがとうな」
「良いってことよ」
大したことはしていない、ただ仲間を受け入れただけだ。そこに感謝なんて必要ないだろう。守の呼び掛けでそのまま練習に戻ることになった、が。
「ちょっといいですか!」
「どうした? 目金」
珍しく目金が大きな声を上げて注目を集めた。何やら厚い資料をパラパラと捲ったと思ったら、こう続けた。
「このフットボールフロンティア規約書によると……監督不在のチームは出場出来ないそうですよ」
「ええ!? 夏未、お前知ってたのかよ」
「と、当然です! だから早く新監督を見つけなさい!」
無茶ぶりである。確かにあのまま冬海を監督にしたままじゃ決勝なんて戦えなかっただろうが……せめて代わりを見つけてから行動を起こして欲しかったかもしれない。だが、わーわー騒いでいても何も解決しないからな、とりあえず皆で作戦会議だ。
「運動部の先生から誰か引っ張ってくるのは?」
「自分の部活があるんじゃないかな」
「誰でも良いって訳にはいかないっスよねえ……」
「どれだけ影が薄くても、監督がいることで俺達は試合に出られていた……ククッ」
解決策は一向に出てこない。壁山が言った通り、誰でも良いと思って適当に選ぶと、冬海みたいな地雷を引き当てるかもしれない。かといって誰かいい心当たりがある訳でもない。
「そうだ、雷雷軒の親父さんはどうだ?」
「響木さんか。確かに守のお祖父さんを知っていたということは、サッカーに関わっていたはず」
「よし! 明日行ってみよう!」
というわけで、全員で雷雷軒に殴り込むことになった。
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「皆諦めるなって!! 監督になってくれる人はきっといるから!!」
事の顛末を説明しよう。あれから俺達は雷雷軒に行き、響木さんに監督になってくれと頼んだ。だがそれを響木さんは仕事の邪魔だ、と一蹴。あの手この手で説得を試みる守に対し、注文をしないのなら出ていけと告げる響木さん。それに対して守はラーメンを注文するが、財布を部室に置いていたことに気づく。堪忍袋の緒が切れた響木さんに全員追い出され、仕方なく河川敷へやって来て練習している訳だ。
が、決勝戦を前にして監督が不在となってしまい、このままでは不戦敗になることに憂いを抱いた皆は、イマイチ練習に身が入っていないようだ。まあ無理もないか……
しかしどうしたものか、他に監督をやってくれそうな人の候補なんてアテがない。このままでは本当に戦うことすら出来ないだろう。
「……あれ、鬼道さん?」
ふと土門がそう口にする。指を指した方向を見ると、そこには私服の鬼道がいて、こちらを見下ろしていた。唐突の来訪に皆が戸惑う。俺達の偵察か、それとも不戦敗寸前の俺らを笑いに来たのか、と鬼道に対して皆敵意剥き出しだ。
鬼道が土手の方を顎で指す。来いということだろうか? なんの用かは知らないが、俺と守で対応することにしよう。
「豪炎寺、風丸。少し練習の指示を頼んでいいか?」
「ああ」
2人に皆を任せ、俺と守は鬼道の方へと向かう。久しぶりに見る鬼道は、ゴーグル越しでも分かるほどに何やら深刻そうな表情をしていた。
「よう鬼道、どうした?」
「冬海のことを謝りたかった。それに土門のことも」
「ああその事か……もういいんだ」
下で練習している土門に視線を落とす。それを見て少し笑った鬼道が続けて口を開く。
「羨ましいよ、お前達が」
「……どういうことだ?」
「帝国が頂点に君臨し続けていたのは総帥の策略に過ぎない……俺達の実力ではない」
自嘲気味にそう言った鬼道を即座に守が否定する。帝国イレブンの凄さは自分の身体が、心がよく知っている。だから自分達を否定するなと鬼道を励ます守。
「その通りだ。あの日戦ったお前達は、とてつもなく強かった。それは紛れもないお前達の実力だよ」
「加賀美……」
「決勝で俺達と戦うチームのキャプテンが、そんな悲観的になるなよ。倒しがいがないだろ?」
軽く挑発するように鬼道に発破をかけると、たちまち鬼道の顔から暗さは消え、前に見たような強気な笑みが浮かぶ。
「そうか……お前達との試合、楽しみにしている」
「おう! 俺達もだ」
「絶対負けないからな」
そう言い残して鬼道は去っていった。今のやり取りで確信した、やはり鬼道は悪いヤツじゃない。俺が思っていた通り、サッカーに対して熱い情熱を抱いた俺達みたいなサッカーバカだ。そんなヤツと最高の舞台で戦うためにも──
「──監督、見つけないとな」
「だな!」
守とそう顔を見合わせ、練習している皆の元へと戻って行った。
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「もしもし。え? 河川敷に来いって? 随分急だな……ああ、分かったよ」
あれから何日か経ったある日、部活が休みのオフの日に唐突に守に呼び出された。一体何の用だ? 幸い、河川敷からそう遠くない場所にいるしとりあえず行ってみるとしよう。
「おーい柊弥! こっちこっち!」
「何なんだよ急に……ってあれ、響木さん?」
「加賀美ってのはお前のことか……」
そこには、ユニフォームに着替えた守と、この前に見た時の変わらない姿の響木さんがいた。まるでこれからサッカーでもするのかという雰囲気だ。
「今から俺とおじさんで3本PKをする! 俺が全部止めれば第1段階クリアで、その次に柊弥がおじさんと同じように勝負して、全部決めれば監督になってくれるってさ!」
「この小僧が勝手に決めたことだがな」
「はは……うちの守がすみません」
俺の知らないところで守は1人で頑張っていたようだ。 とにかく、俺達が勝負に勝てれば監督を引き受けてくれることは約束してくれるようだ。2人の勝負を見届けながら俺は準備をしよう。
「よし、来いッ!!」
まずは1本目。やはりサッカー経験者みたいだ。重く鋭いシュートが放たれたが、守はそれをしっかりと防いでみせる。それにしても、いくらサッカーをしていたといってもかなりと年齢のはず……それなのにも関わらず、あの威力だ。
「ほう、やるな」
「まずは1本目、止めたぜ!」
続けざまに2本目。先程よりも明らかに強力なシュートが空気を切り裂きながらゴールへと襲い掛かる。それに対して守は熱血パンチを叩き込み、真っ直ぐに弾き返してみせる。
「これは……熱血パンチ」
「どうだ、2本目!」
「調子に乗るなよ、次の1本を止められなかった時点でこの話は無しだ」
そして最後の3本目。前の2本とは比べ物にならないシュートだ。あまりの圧力に守が顔をしかめている。だが、守なら止める。必ずだ。
「ゴッドハンド!! 」
正真正銘守の全力が響木さんの全力を真っ向から迎え撃つ。黄金の神の手はシュートの威力を完全に殺しきり、守の手の中にボールは収まっていた。3本目も守が止めた、第1段階クリアだ。
次は俺が響木さんに撃ち込む番。しかし、響木さんが経験者なのは分かったが、本当に本気で撃ち込んでもいいものだろうか。仮にキーパーをやっていたとかなら分かるんだが……
「おじさんはあのイナズマイレブンのキーパーだ! 全力でいけよ!!」
「……成程、なら胸を借りるつもりでいかせてもらう」
そういうことか。それなら遠慮はいらなさそうだな。軽く身体を動かし、ゴールの前の響木さんに視線を向ける。凄まじい圧力……これがあの伝説のイナズマイレブンのキーパーを務めていた男か、武者震いが止まらないぜ。
「よし、見せてみろ」
「いきますよ……!」
響木さんの準備が終わったのを確認して、少し距離を確保してボールを地に降ろす。軽くドリブルしながら上がっていき、ある程度の所まで近付いたら全力でボールを蹴る。やや右上を狙ったそのシュートは、響木さんに触れられることなくゴールネットを揺らした。1本目。
「中々やるじゃないか」
ボールをこちらに投げ渡してくる響木さん。そのスローの威力もとんでもないもので、受け止めた脚が少し痺れる。次は助走をつけることなく、その場で高くボールを蹴り上げる。落下してくるボールに対し、タイミングを見計らいボレーシュートを叩き込む。
ゴールポストギリギリを狙ったつもりだったが、響木さんはそれにしっかりと飛び付いてくる。が、指を掠めただけで止めるには至らなかった。2本目。
「良いシュートだ……だが次俺が止めたら、分かってるな?」
「はい、勿論です」
「よし、全力で来いッ!!」
響木さんの纏う雰囲気が変わった。この2本は全然本気ではなかったようだ。間近にいるわけでもないのにその圧が俺の肌を叩いてくる。流石伝説のチームのキーパー。だからといって、ここで俺が負ける訳にはいかない。響木さんは全力で来いと言った。ならそれに答えるのがプレイヤーとしての礼儀というもの。
「轟一閃"改"!! 」
雷が迸る。練習を重ね、前よりもまたパワーもスピードも上がった一撃が閃く。轟音と共にゴールへと向かっていくシュート。さあ、これに対してどう出る?
「ゴッドハンド!! 」
見慣れた動作で手を掲げると、黄金の巨大な手が顕現する。驚いたな、響木さんもゴッドハンドを使えるなんて。そしてゴッドハンドを俺のシュートに対して突き出した。神の手と閃撃がぶつかり合い火花を散らす。徐々に響木さんをゴールへと押し込んでいき、そして──
「ぐッ!!」
「やったあ!! ナイスシュート柊弥!!」
神の手を砕いて響木さんごとボールはゴールネットを揺らした。急いで響木さんに俺と守は駆け寄っていき、手を差し伸べる。立ち上がった響木さんは豪快に笑い、俺達の背中を力強く叩いた。
「ハッハッハ!!! コイツぁ良い。大介さんがピッチに戻ってきて、雷がゴールを貫くと来た!! お前達なら新たなイナズマイレブンになれるかもな」
「てことは!」
「お前達の監督、俺が引き受けてやる!」
守とハイタッチを交わす。新監督、勧誘成功だ。
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「というわけで、このチームの監督を引き受けてくれた響木監督だ」
「響木 正剛だ、よろしく頼む。決勝戦はもう間近、お前ら全員鍛えてやる! 良いな!?」
「「「おう!!!」」」
翌日、響木さん……響木監督を改めた皆に紹介する。昨日まで欠けていた熱意が皆の瞳に戻っているのが分かる。これなら決勝戦も戦えるな。待ってろ帝国、リベンジの時はすぐ近くだ。
次回、いよいよ帝国戦開始