プロローグ
空は既に黒に染まっていた。
だが、この場所……このスタジアムだけは、静かな夜に似つかわしくない熱気に包まれていた。
轟くような歓声、鳴り響く拍手喝采が色とりどりの紙吹雪を舞い上げる。
そんな熱気の渦中にあったのは、青いユニフォームに身を包み、国を背負って戦い抜いた若い戦士達だった。
肩を組み喜びを分かち合う者もいれば、向けられたカメラに笑顔を向ける者も、感極まって涙を流す者もいた。
「なあ柊弥」
「ん? どうした守」
そんな彼らから少しだけ離れた場所で、1人だけ色の違うユニフォームを身につけ、額にはオレンジのバンダナを巻いた少年が、もう1人の少年に対して話し掛けた。
「あの頃はさ、こんなすっげーことになるなんて思ってなかったよな!」
「まあな。俺達、本当に世界一になったんだな」
「ああ!ここまで色んなことがあったよな」
「そうだな……本当に、色々なことがあった」
そう言って花火に明るく照らされた夜空を眺めた2人の腕の中には、黄金に煌めくトロフィーがそれぞれ抱えられていた。
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「ん……朝か……」
耳元で喧しく騒ぐ目覚まし時計と、動くことを拒否している身体を黙らせて起き上がる。
カーテンを開けると朝日が部屋中に差し込み、俺の身体を貫く。一気に身体が覚醒し、眠気が払拭される感覚を噛み締めながら部屋を出る。
「おはよう母さん」
「あら、今日は早いのね? 朝ごはん出来てるわよ」
「ありがとう、いただきます」
母さんが用意してくれた朝食を貪りながら、テレビのリモコンに手を伸ばす。適当にチャンネルを転々としていると、ある1つの番組に興味が惹かれた。それは毎日この時間に放送されるニュースの中でのとある特集だ。
『さあ本日のサッカー速報です! 本日の目玉は……こちら! 先日行われた、小学生サッカーの頂点を決める大会……小学生サッカー選手権大会です!!』
寝起きの頭に響くようなテンションでテレビに映るMCはその小学生サッカー選手権大会について解説していく。
とは言っても、俺にとっては知ってて当然のような情報ばかりだった。それもそのはず、俺は───
『このチームを優勝に導いた選手は間違いなくこの少年!! キャプテンでありエースストライカー、
──優勝チームのキャプテンなのである。
テレビに映る俺は面白いくらいに硬い表情で、片言でインタビューに答えていた。
これが全国のお茶の間に放送されたのだと思うと、恥ずかしさで外を歩きたくなくなる。
テレビから少し目線を逸らすと、テレビの中の俺が大事そうに抱えているものと同じトロフィーが飾られている。とは言っても、優勝トロフィーは監督に預け、家に持ち帰ってきたのはMVPとしてもらったトロフィーだけだが。
「ご馳走様」
「出かけるの?」
「うん、守と約束してるから」
「あらそう、気をつけていくのよ」
母さんと短いやり取りを済ませ、洗面所に向かう。
歯を磨いて顔を洗い、鏡に映るナイスガイにウインクをして……というのは冗談だ。
諸々を済ませて部屋に戻って、時間まで適当に雑誌を読み漁るとする。
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「柊弥ーッ!!」
「お、来たか」
1時間程経つと、外から元気しか感じさせない大声が俺の名前を呼んでいる。窓を開けて身を乗り出し、声の主に返事をする。
「おはよう守、今行く!」
「おう! おはよう!!」
お母さんにサッカーをやらせてもらえなくてぶらついてたら俺がサッカーしてるのを見て寄ってきたって言ってたな。
その後、守のお母さんを説得するために円堂家へ連れていかれたなんてこともあった。懐かしい。
「いってきます、母さん」
「いってらっしゃい、気をつけるのよ」
サッカーボール片手に扉を開けて家を飛び出す。
家の門の前で待ち構えていた守も、サッカーボールを抱えていた。トレンドマークのバンダナも相変わらずだ。
「テレビ見たぜ! すっげーガチガチだったな!」
「うっせ、いくぞ!」
「あっ、待てよー!」
開口一番で小馬鹿にされたので腹いせの如く不意打ちで駆け出した。
目指すはいつもの河川敷。後ろから聞こえる守の声には聞こえないふりだ。
「よし到着……おいおい守、何へばってるんだよ」
「お前速すぎるんだよ!! 少し手加減しろよな!!」
「聞こえなーい」
肩で息をしながらの守の抗議を一蹴する。
休日の河川敷ということもあり、辺りは俺達と同じくらいの子供や家族連れで賑わっている。
サッカーコートの片側がちょうど空いていたので、そこに滑り込もう。
「早速始めるか!」
「おう!」
守がグローブをはめ、ゴール前に移動する。対する俺は、ペナルティエリアの始点あたりに立つ。
さて、今日もやりますか。
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「ふう、だいぶやったな」
「もう12時近くかあ……母ちゃんに昼ごはんの時は帰ってこいって言われてるし、少し休憩したら1回帰ろうかな」
「おっけー、俺もそうする」
河川敷の斜面に寝転がり、空を仰ぐ。心地良いそよ風が火照った身体を撫でる。
僅かに身体が冷やされていく感触をよそに、俺達は何気ない会話を交わす。昨日の夜ご飯はなんだったとか、変な夢を見ただとか。
そんな中で、俺達の話題はあるものに収束する。
「とうとう明日だなあ……入学式」
「そうだな……やっと守と同じチームでサッカー出来るって思うと楽しみだ」
「俺もだ! サッカーすることは許してくれたけど、結局クラブに通うことは許してくれなかったからなあ……」
「まあ、月謝だってそんなに安くないから仕方ないさ。その分思いっきり中学で暴れてやろう」
守がキーパーで、俺がストライカー……うん、いい構図だ。
普通に考えれば先輩達がいるからレギュラー入りは出来ないかもしれないけど……それでも楽しみだ。
「いつの日かさ、フットボールフロンティアに出て優勝するんだ!」
「はは、大きく出たな?」
「俺達とこれから出会う仲間達ならできるさ! そう思わないか?」
「……いいや、思うね」
だろ、と言って笑う守。
中学サッカーの頂点を決める大会、フットボールフロンティアか……いいね、小学サッカーの次は中学サッカーの頂点だな。
この前の全国大会の決勝で当たったあいつも、どこかの機会でまた戦うことになるんだろうな……あんな強いやつ、目立たないはずがないし。
「さて、そろそろ帰るか!」
「そうだな、いい感じに身体も休まったし」
そう言って俺達は帰路に着く。明日は中学校の入学式、新しい出会いもあるんだろうな。
待ってろ、雷門中。
始めましたの方は初めまして、そうじゃない方はいつもお世話になっております。作者のあーくわんです。
あらすじに書きました通り、当作品は「雷鳴は光り轟く、仲間と共に」の再編版となります。
前作よりも更に面白い小説に出来るように頑張ります、よろしくお願い致します。
なお、前作はしばらくしたら非公開とさせていただきますのでよろしくお願い致します。